新しく令呪を奪いアサシンをサーヴァントにした所で拠点に戻ると同時にすぐにアサシンの精神の結合を開始する。
「ランサーは周りを警戒。最悪自分達を連れて逃げるくらいの覚悟をしておいてくれ。誰が襲いに来るか分からないからね」
「了解したマスター」
ランサーがラムレイに跨ったまま警戒してくれている間に、アサシンへと向き直る。
「さてまずアサシンに説明しよう。人格の結合に関しては令呪を命じる自分の『考え』が反映されると思う。その仮定で説明するけど、自分自身を認めるには記憶と経験が必要だと考えている」
「記憶と経験、ですか」
「うん。全ての記憶が一つになれば己の辿った足跡が分かるし、経験を共有できればたとえ自分の記憶ではなくても受け入れられるはずだ」
そもそも自分がそういう存在だ。
男としての岸波白野の記憶と経験。
女としての岸波白野の記憶と経験。
それが合わさっているのが自分だ。肉体の性別で若干性格や思考の方向性が変わるが、俺だろうが私だろうが
「なるほど。そういう考えなら確かに理解できます」
「さて、最後に確認するけど。アサシン、もしかしたら人格の結合をしたら君は君でなくなるかもしれないし消滅するかもしれない。それでも……いいかい?」
「覚悟は疾うに」
「……分かった。じゃあアサシン、令呪を使った後に精神を安定させるコードキャストを使うから右手を握っておいてくれ」
アサシンと手を繋ぎ、緊張を解す為に一度深呼吸してから、令呪を使う。
「ではアサシン、令呪をもって命じる。全ての人格の記憶と経験を共有し一つに結合せよ」
令呪を一つ失うと同時に目の前のアサシンが蹲る。すると何処からともなく黒い霧の様な塊がやって来てアサシンに吸収されて行く。
あれはもしかして監視に出していたハサン達か?
次々とやって来る黒い霧が全てアサシンに吸い込まれるとアサシン自身も黒い霧に包まれる。だがまだ右手の感触は残っている。
今現在のアサシンの人格は全てここにある。これならいけるか。
「さて……自分も出来る限り手助けしないとな」
感触の残る右手とアサシンとの回路を強く意識し、あるコードを唱える。
「
――意識が
次に立っていたのはノイズまみれの世界。そこに僅かに映るのは砂の地面に茜色の空。
「ぐっ!?」
――次に襲い掛かってきたのはアサシン達の情報。
アサシン達の歴史。
アサシン達の感情。
アサシン達の思想。
アサシン達の技術。
アサシン達の三位一体の構成。
彼等のあらゆる情報がこちらの状況なんてお構い無しに自分の中へと殺到し、こちらの精神と魂に容赦無い痛みと苦痛を与えてくる。
これが今アサシンを襲っているものか。
『万色悠滞』
かつて殺生院キアラが作り出した対象の電脳体に進入し、交信と感応から相手の魂と精神を自在に読み取るメンタルケアの為に作られたハッキングコード。
相手の全てを受け入れるこのコードキャストの恐ろしい所は意志の弱い者はその一体感による多幸感と安心感に飲まれて現実世界に戻らなくなってしまうほどであり、魂と精神を掌握されるということは電脳体を好きな姿形、更には性格まで書き換えられてしまうという事だ。
以前、自分はそれで彼女の姿をした別人が殺され消滅する姿を見て、彼女が死んだと錯覚させられた。
まぁ彼女についてはいいだろう。
なぜわざわざこのコードキャストを使ったのかといえば、相手の魂に入った方が、相手の精神状態を把握できるからだ。
体を動かし、両手を地面に付ける。
「《Code:五停心観術式》」
『五停心観術式』
自分はSGを抜き取る事にしか使っていなかたが、これも万色悠滞と同じで元々はメンタルケアの為のコードキャストだ。
乱れたアサシンの精神を少しでも安定させる。
『マス……ター…なぜ……私の……?』
よし、少しは安定したか。
ノイズが少しだけ収まり、アサシンがこちらの存在に気付いた。
「君の内側から君の精神を安定させる為さ」
襲い掛かる痛みに耐えながら脳をフル回転させてアサシンの『乱れた精神情報』を逐一特定して安定化させてゆく。
そして今も外で戦っているアサシンを少しでも支える為に彼女へ声を掛け続ける。
「大丈夫だアサシン。君の結合が上手く行くまで、ここで支えてみせる」
だから――。
「恐れず受け入れるんだ。自分自身を」
◆
辛そうに汗を流し、少し顔を歪めながらも、白野は笑い、言葉を掛け続ける。
アサシンはそんな彼に感謝の念を抱きながら、自分自身の事に集中する。
多くの記憶が未来から順に流れ込む。
多くの経験が未来から順に紡がれる。
そして――苦痛と苦悩の果てに、最古の記憶がアサシンの脳裏に蘇る。
――その時代に『■■』は生きていた。
■■が生まれ育った次代は酷い時代であり、■■はその世界を生き抜く為に『演じ』るようになる。
いつしかそれは『演技』を超えて『日常』となり、気付けば■■は呼吸をするように様々な人格を操る様になる。
時は流れ――■■は暗殺教団へと身を寄せていた。
そこでも■■の才は発揮される。
あらゆる人格を使いこなし、それに合ったあらゆる職種の技術を使いこなす。
■■はまさに『あらゆる事を器用にこなす天才』だった。
そして教団の長を決める催しで同僚である女性を降し、■■が新たな教祖――ハサン・サッバーハの称号を得る。
――ここからが■■の欠落の始まりであった。
教祖となった■■は常に『教祖』である自分という人格を維持し続けた。
――いつしか■■としての人格に戻ることは無く……■■はただのハサン・サッバーハとなっていた。
それは死の間際においても変わらない。
無様に死を晒すことを許されない立場の■■は、結局最期までハサンとして死んで行った。
■■。
それがアサシン達が捜し求めた最期のピース。精神と魂の奥底で、ずっと眠っていた原初の人格の記憶と経験。
(ヨウヤク――終ワル)
『80体』もの記憶と経験の結合。それによってもはや目も耳も、声すら出ず言語すらまともに思考出来ず、肉体の輪郭すら黒い霧になっていたアサシン。
そんな彼女が唯一感じるのは己の内側から送られてくる熱をおびた音のみ。
『大丈夫だよアサシン』
『もう少しだ。頑張ろう』
(ナンド――マスターノ――言葉ニ――救ワレタ――ダロウカ)
もはやアサシンと言う存在を繋ぎ止める唯一の楔はこの暖かく響く声のみ。だがそれだけでアサシンは前へと進む事が出来る。
(サア――最後ダ)
先程まで脳裏に流れていたアサシン達の原点――最古の『少女』の記憶が今、融合を果たす。
全ての記憶と経験、感情はここに集まり、それら全てが一本の大樹となって根付く。
『人格』を操っていたあの頃の『彼女』がそこに蘇り、不透明だった輪郭は明確となり次第に音が、光が、感触が戻ってくると同時に、彼女は一つの情景を幻視する。
懐かしい砂と岩の荒野に沈みかけた夕日とまるで境界線のように分かたれた茜色の空と星が煌く夜空。その中央に確かに彼等は居た。
八十人の『自分自身』。
仮面を脱ぎ捨てた彼等は微笑みながら彼女に一言告げる。
(――おかえり)
帰還を祝福するその言葉に、始まりの彼女は同じく仮面を外して笑って答える。
「――ただいま」
その言葉を最後にアサシンの視界を光が包んだ。
◆
「……ぐっはあ、はあ」
「大丈夫ですかマスター?」
目が覚める。全身汗だくな上に酷い頭痛がする。
「……ランサー、術式を展開してからどれくらい経った?」
「せいぜい数分程かと」
あの痛みが数分か。向こうではもっと過ぎているかと思ったが、やはり精神世界と現実では時間の進みが違うみたいだ。
問題はアサシンだ。ノイズと痛みが止んだから人格の結合は上手く行ったはずと判断して万色悠滞を解除したが。
「……ここは……ああ、戻って来たのですね」
傍で蹲っていたアサシンが顔を上げる。良かった。どうやら無事みたいだ。
「大丈夫かいアサシン?」
「マスター……ええ大丈夫です」
そう言って彼女は髑髏の仮面を外した……てっ、外していいのそれ!?
「は、外していい物なの?」
「流石に信頼できる相手の前でくらい素顔を晒したいと思ってもよろしいでしょう。それに……今は仮面をつけたくない気分なのです」
切れ長の目を細め、どこか物憂げに微笑んだ彼女はまるで初めて地上に降り立ったかのように深呼吸をした。
アサシンはそれをしばらく続けると、今度は真剣な表情でこちらへと振り返り、自分の右手を両手で掴む。
「マスター、感謝します。あなたのお陰で私は全てを取り戻せた。これから先、何があろうとも私は貴方を裏切らず、貴方の外敵となる者を排除することを誓いましょう。ただその、報酬と言うわけではないですが、できればたまにこうして手を握って頂けると嬉しい」
何故か恥ずかしそうに褐色の頬を少し赤らめながらそんな誓いと要求を口にするアサシン。
「ん? まあ手を握るくらい全然いいけ――ハッ殺気!?」
急に背後からのプレッシャーに振り返る。
そこには何故か不機嫌そうにこちらを絶対零度の視線で見下ろしているランサーの姿があった。
更には桜ちゃんに寄りかかられたラムレイが『やれやれ』といった感じに溜息を吐いて首を振って見せる。ど、どういうことだ!?
「アサシン。貴女はあくまでもサブ、私がマスターのメインサーヴァントである事を肝に銘じておきなさい」
「心得ていますよランサー。私はこれでも空気を読む事にかけては一流です。もっとも仕事した分の報酬はちゃんと頂きますので、あしらかず」
そう言ってアサシンが笑みを浮かべると、ランサーもまた口を吊り上げる。
あ、アカン。なんか知らんが止めないと。というか魔力だけではなく万色悠滞のせいでもう自分の精神力もボロボロなんです。このままでは気絶してしまう。
慌てて二人の間に割って入って無理矢理話題を移す。
「す、ストップストップ! とりあえずアサシンに確認なんだけど、人格の結合を行った結果、ステータスやスキルに変化があるなら教えてくれ」
アサシン個人としては今の状態が正常だが、サーヴァントとしては異常な状態だ。だからこそスキルや宝具については念入りに確認しておく必要がある
「……それもそうですね。マスターもお疲れでしょうし、すぐに済ませましょう。今の私のスキルですが、まず宝具の使用が不可能になりました。申し訳ありません。これからは多方面への同時監視は不可能でしょう」
「まあそれは想定していたかな。百貌のアサシンはあくまでさっきの状態が正常な訳だしね」
「ええ。ですがマスター、代わりに各人格が保有していた三十以上の全てのスキルを私個人で行使できますし、姿も変幻自在に変えることが出来ます」
「おお。それって普通に凄いんじゃないか」
単体でスキル三十越えとかこれもう何でも出来るんじゃないか?
と言うわけでアサシンのステータスを確認する。
ステータスの宝具の項目が『-』になっていて運が『A』、それ以外が『B』になっていた。確か最初に確認した時は軒並みステータスは低かった気がしたが。
とりあえずそのままステータスの下のスキルの項目を見た瞬間――物凄い数のスキル項目が並んでいた。
……ああ、まあこれ全部扱えるならそりゃステもBはあるよねと納得した。だって一人でほぼ全てのクラスのスキルを有しているんだもん。まさに万能タイプ。どんな状況でも完璧に仕事をこなして見せるって感じだ。宝具に依存していたスキルが無くなっていたがまあそれはいいだろう。
むしろ『変化』がEXで老若男女あらゆる職業に化けられるになっている。これもうスパイ活動させたら誰にも見つけられないんじゃないか?
「結合による身体の変調は?」
「特に無く良好です」
「そうか。じゃあとりあえず確認すべきは事はこのくらいかな。それじゃあ今日はもう寝よう。監視はどうするか」
「そんなのは私とアサシンでやっておきます。マスターはさっさと眠って回復に努めるべきでしょう。そんな状態では明日からの戦いに影響が出てしまう」
ランサーはそう忠告しながら自分の首根っこを掴んでラムレイにもたれ掛かって眠る桜ちゃんの隣に降ろすと寝袋を投げよこす。
「あ、ありがとう。それじゃあ先に寝るよ」
ランサーにお礼を伝えそのまま寝袋に入る。
ああ……布団じゃなくても布に包まれるだけで……睡魔が……。
三日目の事について考えようとしたが、すぐさま訪れた睡魔の誘惑に身体が屈する。どうやら体力も限界だったらしい。
結局そのまま三日目の朝までぐっすりと眠ってしまった。
タイトルで新って書いたけど内容的にはアサ子さんが忘れていた記憶を取り戻して真アサ子さんになった感じですね。
個人的設定としては生前のアサ子さんは元々主人格であり山の翁としての人格でもあった。
しかしサーヴァントとして機能する為に主人格は封印されて山の翁としての人格として限界(まとめ役)
そして白野に結合して貰ったお陰で主人格が封印されていた領域に到達し、記憶を完全に取り戻す。って感じですね。
百の貌のアサシンの主人格をアサ子さんにしたのは、同僚の狂信者が女性なのと、他作品でのメインがアサ子さんだったからですね。
まあ一番の理由は私がアサ子さんが好きだからですが!
最後の集合シーンは原作の全滅との対比として入れました。