岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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と言うわけで聖杯問答への導入です。
先に出来上がりそうなマスター編から始める予定。



【それぞれ聖杯問答へ】

「と言うわけでどうだランサーよ。これから余とセイバーの元へと行かぬか?」

 

 早朝。まだ空が白んできたばかりの時間に巨漢のサーヴァント、イスカンダル王であるライダーが戦車に酒樽を乗せて好い笑顔で空から来訪した。

 もちろん急接近する魔力体に驚いたこちらは全員が戦闘態勢での出迎えだったのだが、ライダーはすぐに両手を軽く挙げて戦闘の意思は無いと宣言したかと思うと、挨拶もそこそこにランサーにそう提案してきた。

 

「……牛さん」

 

「牛さんだねぇ……ライダー、桜ちゃんが乗りたそうにしてるから乗せてあげてもいい?」

 

「おう。気をつけて乗るのだぞ」

 

 許しが出たので桜ちゃんを戦車の先で大人しくしている二頭の牛の片方に乗せる。若干『え? マジですか』みたいな感じで戸惑っているような目をしているが、主であるライダーの命を受けている為か特に威嚇とかはしてこなかった。

 

 高いところに昇って目をキラキラさせている桜ちゃんをアサシンに任せてライダーとランサーの傍に向かう。

 

「それでライダー、何故私が貴様と共にセイバーの元に向かわなければならない」

 

「それはこれから余とセイバーが雌雄を決するからよ。で、あるならば戦いの前に敵軍の王と語らうのも戦の華よ。そこでランサーよ。お主にもぜひその語らいに参加し、そして我等の戦いの証人となって欲しいのだ」

 

「罠ではないという保証はどこに?」

 

「まあ当然の心配よな。だが心配は無用。余のマスターは既に戦えぬ身よ。余が自由に動けるのは令呪で単独行動のスキルを得たから故だ。で、どうだ?」

 

 ランサーがこちらに視線を向けてくる。ライダーを見る限り嘘は言っていないと思う。

 つまり目の前のサーヴァントは純粋にランサーやセイバーと最後に話をしてみたいと思っただけなのかもしれない。

 

「まぁ確かにこれだけの英雄がいるなら話の一つや二つはしたくなるよね」

 

「おお。お主は分かっておるな。流石はキャスターを下しただけの事はある。それに見た所アサシンすら軍門に降すとは。うむ、お主どうだ? 余の戦士か魔術師とならんか?」

 

「あの征服王に求められるのは凄く光栄だけど、今は二人のマスターだから、お断りさせて頂きます」

 

 ライダーに向かって丁重に頭を下げて誘いを断わらせてもらう。

 

「むぅ。理由を尋ねてもいいか?」

 

「物凄い誉れなのは理解できるよ。でも今の自分はランサーとアサシンのマスターだ。二人の同意が無い以上、頷く訳には行かない」

 

 ライダーの目をしっかりと見据えてそう答えると、ライダーが豪快に笑いながらこちらの背中を叩いた。

 

「ハハハ! それもそうだな! だがマスターでなければ問題ないならこの戦争が終わった時に余が生きていれば今一度勧誘させて貰うとしようか!」

 

 流石は世界を征服しようとした人だ。簡単には諦めてはくれなかった。

 それどころか断ったのに何故か楽しそうに背中を叩いてくるんだけど、凄く痛いが我慢して苦笑を返しつつランサーへと視線を戻す。

 

「それでランサー、自分は君が行きたいならライダーの誘いに乗っても構わないよ」

 

「私は……」

 

 ランサーはしばらく黙ると兜を被ってラムレイに跨った。

 

「マスター、私は彼と共にセイバーの話を聞きに行こうと思います」

 

「ん、了解。《Code:単独行動(act independently)》。これで二十四時間はマスターから離れても問題なく行動できるはずだ」

 

 ランサーに単独行動のスキルを付加する。とライダーが『おお便利な魔術だな』と興味深げにこちらを見詰め、ランサーは強く頷いてみせた。

 

「感謝を。アサシン、二人を頼みます」

 

「お任せを」

 

 桜ちゃんが牛から落ちないように見守っていたアサシンがランサーの頼みに力強く頷いて答える。なんとも頼もしい。

 

「私が居ない間、あまり無茶をしないで下さいよ」

 

「大丈夫。今日は拠点を移動して寺を見に行くだけだから。何かあれば念話で教えてくれ。すぐに駆けつける」

 

「ええ。マスターも」

 

「では行くとするか!」

 

 お互いに別れを済ませ、桜ちゃんを牛から下ろすとランサーとライダーは空へと上がって走り去って行った。

 

「……まだ日が出てなくて助かったな」

 

 あと一時間もすれば空が明るくなり空飛ぶ馬と牛の姿がくっきりと見えてしまうところだ。

 

「マスター、我々はこれからどう致しましょう」

 

「とりあえず桜ちゃんの安全の為にも拠点の移動だ。場所はエーデルフェルトから聞いてある」

 

 と言うわけでランサーを見送った自分達はすぐに移動の準備を始め、一時間後には拠点としていた山を後にし、エーデルフェルトが指定した『双子館』の内の一つへと向かった。

 

 

 

 

 ランサーと別れた自分達はその足で双子館のある深山町へとやって来た訳だが。

 

「……」

 

 桜ちゃんが物凄くそわそわしている。

 

 まあ無理も無いか。双子館がある場所って、遠坂邸の近くだから似たような道を通るだろうし。

 

 何故こっちを指定したエーデルフェルト!

 

 と愚痴を心の中で零しながらどうしたものかと考える。出来れば家族に会いに行かせてあげたいが、戦争中に向こうがどうでるか分からない。

 

 というか、下手したら桜ちゃんの心の傷を広げる結果になりそうで恐いんだよなぁ。

 

 事前に得た情報では遠坂時臣は典型的な魔術師の思考をしていると思う。たぶん桜ちゃんを引き渡しても同じ事になるのは明白だ。

 

 間桐のやり方も、同情はしてくれても否定はしないかもしれないしなぁ。

 

「……ちょっと商店街にでも寄って御飯でも食べようか」

 

「……いいの?」

 

「ああ。朝ごはんも食べてないしね。桜ちゃんはどこに行きたい?」

 

「えっとね……」

 

 なんとなく、少しだけ嬉しそうにする桜ちゃんに顔を綻ばせる。霊体化しているアサシンが『尊い』とか言って癒されていた。

 

 

 

 

 悩む桜ちゃんと癒されているアサシンと一緒に深山町にある商店街『マウント深山』にやって来た。

 

 ああ、この雰囲気は良いよね。

 

 賑わい活気のある商店街の雰囲気を感じながら桜ちゃんに改めて声を掛ける。

 

「それで桜ちゃん、何処に行くか決めた?」

 

「うん。前に……みんなと行ったお店に行きたい」

 

「……そっか。それじゃあ案内してくれる」

 

「うん。こっち」

 

 桜ちゃんが積極的にこちらの手を引っ張られる形で案内して貰う。その姿がはしゃぐ子供の様でほんの少しだけ安堵し、笑顔で付いて行こうとしたその時――ちょうど目の前ファーストフード店から『写真で見た事がある人物を見付けた』

 

「衛宮、切嗣!」

 

「っ岸波白野!」

 

 互いに硬直する。当然だ。いくらなんでもこんな遭遇は予期していなかった。

 向こうも向こうで一瞬だけ目を見開くがすぐにその目を細めてこちらを警戒した視線を向けてくる。

 

 そんな、唯でさえ戸惑う状況の中で――

 

「ほう。貴様、面白い(かたち)をしているな」

 

 ――決して忘れることなど出来ない『声』が、背後から掛けられた。

 

 全身から冷や汗が溢れる。

 振り返らない。という選択肢は無い。そんな事をすれば『彼』は周りの被害など無視して殺しに来るだろう。

 

「ごめんね桜ちゃん」

 

『それとアサシンは決して姿を見せるな』

 

「え?」

 

『え?』

 

《Code:睡眠(sleep)

 

 楽しみにしていた桜ちゃんを眠らせ、彼女を抱き寄せてから振り返る。

 

 そこには見慣れた金ピカの鎧ではない襟元にファーがついた白いコートを着て髪を下ろした英雄王、ギルガメッシュが、玩具を見つけた子供の様な興味津々といった笑みを浮かべて立っていた。

 

 目と目が合う。それだけで、彼の英霊はその『千里眼』を持ってこちらの全てを『見透かした』だろう。

 

「――はは、ははは! 面白い。こんな事があるのか!」

 

 ほんの一瞬だけ驚いたギルガメッシュはすぐに声を出して笑う。 

 

「――英雄王、ギルガメッシュ」

 

「ああそうだな。お前は我を知っていて当然だろ。ふむ、なるほどなるほど。となると――おい綺礼、時臣!」

 

 ――っなんだと!?

 

「王、いったい急にっ――桜」

 

「貴様は岸波白野と衛宮切嗣」

 

「……馬鹿な。何故こんな所に!?」

 

 混沌(カオス)

 現状で残っており聖杯を手にする可能性が最も高いマスターが、偶然にも一同に会してしまう。

 

 いや待て、本当に偶然か。

 

「まさか……狙ったのかギルガメッシュ。この一瞬のタイミングを!」

 

 出来る。このサーヴァントにはそれを可能にする知能と能力がある事を自分は良く理解している。

 

「おいおい雑種、そんな訳が無かろう。我はただ綺礼がこの街を去る前に時臣同伴で共に昼でもと思い立っただけなのだ。いやはや、まさかこんな事になるとは偶然とは恐ろしいものよ」

 

 嘘だ。絶対に嘘だ。だってすっごいドヤ顔で笑ってるもん。絶対なんか予感か予見でもして『面白いことが起こりそうだから二人も連れて行ってみよう』的なノリで脅して連れて来たに違いない。

 

「……王。いったいこの状況、どういたす御つもりです」

 

 背後の深い赤色のスーツを着た顎鬚を蓄えた紳士がそうギルガメッシュに声を掛ける。

 たぶんあっちが遠坂時臣だろう。そしてもう一人の神父が言峰綺礼で間違いない。若いとは言えまんま生前会った顔だし、目が死んでいるし左の手首が無いし。

 

「ふむそうさな。これだけ因縁のある者達が集ったのだ。長い話となろう。どこかの店で腰を落ち着けるとするか」

 

『アサシン、なにかあれば桜ちゃんを連れて全力で逃げろ』

 

『それは!』

 

『自分なら大丈夫。そんな簡単に死なない。だが、桜ちゃんが殺されれば、自分達の『負け』だ』

 

『……はっ』

 

 アサシンに念話で桜ちゃんの事を頼みギルガメッシュの提案に頷き返す。

 

「分かった。付き合おう」

 

「そうかそうか。時臣どこか良い店を案内せい」

 

「王。流石にそれは……」

 

「何故貴様等に付き合わなければならない」

 

 遠坂時臣と衛宮切嗣がギルガメッシュの強制と言う名の提案を跳ね除けるって馬鹿野郎! そういうの一番嫌うんだぞこの人!

 

「――ほう。この我のせっかくの申し出を雑種ごときが蹴るか。その意味、理解しているのか?」

 

 瞬間――濃厚な死が全身を駆け抜けた。

 

 自分だけではなく遠坂時臣と衛宮切嗣、更には言峰綺礼までもが殺気に中てられ汗を流す。

 

「くっ。遠坂時臣と衛宮切嗣、分かっているはずだ。自分達に選択肢は無い。ここで死にたいのか」

 

 恐怖を押し殺しながら二人を説得する。二人は殺気に中てられ苦しそうにしながら、首を縦に振ってギルガメッシュの提案を呑んだ。

 

 それを見届けると同時にギルガメッシュは殺気を納めフンと鼻を不機嫌そうに鳴らした。

 

「初めからそう答えれば良いものを。では案内せよ。それとそこの雑種は時臣と共に我の前を歩け」

 

「……はい。我が王よ」

 

 時臣と綺礼が疲れた顔で胃の辺りを抑えながら先頭歩き始め、その後ろをギルガメッシュに命令された衛宮切嗣が、その後を少し離れて自分とギルガメッシュが並んで進む。

 

「さて岸波白野。道中、貴様の全てを語って貰おう。なにせその(うつわ)に数多の魂の欠片を宿し、その中にこの我の『欠片』すら有しているのだから。我が自ら雑種を『裁定』したいと思ったのは初めてだ。この期待、裏切ってくれるなよ」

 

 ああ、完全にロックオンされてしまった。もう逃げられない。こうなるだろうと思ったからギルガメッシュから出来るだけ隠れていたんだけどなぁ。

 

 どうやら運命は自分が考えていたよりも早く、この戦争を収束させたいらしい。

 




と言うわけでギルさまがマスター編の聖杯問答を仕切ります(笑)
ついにギルにロックオンされた白野。そしてギルの中での興味が完全に白野に移ったので、時臣への優先度が一気に下がりました。今後はもう言う事を聞いてくれません(愉悦)

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