岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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大変お待たせしました。ようやく後編の完成。
今回でマスターの方が終了。そして向こう側の結果もこの話で判明します。




【聖杯問答マスター編 後編】

「恒久平和、だと? それはつまり、この世から争いを無くす、という意味かね?」

 

「そうだ」

 

「馬鹿な。確かに争いと言えば聞こえは悪いが、別の視点で見ればそれは『切磋琢磨』というお互いを高め合う為の物だ。相手よりも高みへという向上心と敵対心は人類繁栄の資本そのもの。それを否定するというのならそれは人類の発展の否定も同議だ。衛宮切嗣、貴様の願いは人類の破滅に他ならない」

 

「ああそうだ遠坂時臣。貴様の言う通りそれが人類の本質の一つだろう。だからこそ人間はいい加減に気付くべきなんだ。他者を蹴落とし、傷つけてしか進化できない愚かさと罪深さを。戦いに勝利など無く。双方に残されるのは奪われ失ったという絶望だけなのだと」

 

 そして切嗣は一度口を閉じて全員へと視線を向けてから言い放った。

 

「世界の改変、ヒトの魂の変革を、聖杯の奇跡を以って成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる」

 

「無理だ」

 

 決意の篭ったその切嗣の宣誓に対して、自分は無意識にそう返答していた。

 

「なんだと?」

 

「無理だよ衛宮切嗣。あんたじゃ……その願いは届かない。いいや、そもそもその願いは『誰にも』叶えられない類のものだ」

 

 そう。その手の願いは『叶わない』のではななく『叶えられない』のだ。

 

「人は悪意だけではなく善意でも争う矛盾した生物だ。だがそれは人間が長い年月を掛けて感情という心を発達させ、進化させて来たからに他ならない。故に人間が人という次元の存在のままでは争いの根絶は不可能だ……そんなこと、多くの戦場を見て来たあんたが一番よく分かっているはずだ」

 

 戦場での彼の有り方を知った時から、自分の中で衛宮切嗣という男はかつて共に戦った正義の味方、アーチャーである無銘と同じ理想や信念を抱いている人物だと思っていた。

 

 そう。思っていた、だ。

 アーチャーは最後まで『人の可能性を信じて』いた。だが、先程の切嗣の願いを聞いて理解してしまった。

 彼は……信じることを止めてしまったのだと。だから奇跡に頼り無理矢理人間の在り方を変える事にしたのだと。

 

「だからこその聖杯だ。聖杯の奇跡ならきっと――」

 

「いいや、無理だろうな」

 

 顔を顰めながら尚をも食い下がる切嗣の言葉を切り捨てたのは酒の入った杯を揺らすギルガメッシュだった。

 

「我が知る限り聖杯とは所詮『願いを叶えるシステム』を宿した道具でしかない。確かに単純にして明快な願いならば、聖杯はその願いを狂いなく叶えるだろう。しかしその願いが複雑で曖昧な物であれば、聖杯は不透明な部分を使用者の『価値観』を基にして補完して願いを行使する。雑種、貴様は先程白野の言葉を肯定している。つまり、貴様が争いの根絶を望めばこの世から善意と悪意の両方が消えるという事だ」

 

「つまり……善意と悪意の大本、感情が消されるって事?」

 

「まあ植物並みには残るだろう。貴様等に解り易く言うのなら、この雑種の世界は人間がただ生きて死ぬ為だけに存在する安定した世界と言うことだ。生きる者は世界のルールに従って生き、助からぬ者は捨てて行く。なんともつまらぬ世界よ」

 

 心底つまらなそうな顔でギルガメッシュが酒を煽る。そしてギルガメッシュの気持ちはまんま自分の気持ちでもあった。

 『終わりに向かう世界を生きた友人達』から色々学んだ身としては、そんな『可能性』も『進化』も無くなった停滞した世界は認められない。

 

「……なるほど。確かに、失う事を許容している僕には完全な形では不可能なのかもしれない。だが、それでもこの世界から争いを無くし、平和が成し遂げられるのなら、どんな形でも構わない」

 

 ギルガメッシュの説明を聞いた切嗣は顔を顰めながらも、己の願いを諦めないと断言する。衛宮切嗣の意志は固い。説得は不可能だろう。

 

 と言うか、一つ気になったことがある。

 

「なあ衛宮切嗣。あんたのその願い、あのアインツベルンの女性、アイリスフィールと言う名前だったか。彼女も口にしていたが、アインツベルンはあんたの願いを了承しているのか?」

 

 だってアインツベルンも聖杯を求めているはずだ。そう考えると彼の願いを優先させるのはおかしい。

 

「今のアインツベルンが求めているのは第三魔法をもう一度起こす事だけだ」

 

 第三魔法……ああ確か魂の物質化だっけ。月の聖杯戦争の時はサーヴァントがその魔法で構成されてたはず。というかムーンセルに在る物全てがその方法での物質化だからなぁ。

 というか、そもそも自分がその第三魔法で作られたんだけど……それに自分の情報の物質化もそれに該当するような……あ、これバレたらヤバイやつだ。黙っとこう。

 

 こっちの世界だと魔法ってだけで色々とヤバイのだ。せっかく色々頑張って協会から追われなくなったのにまた、しかも自分から逃亡生活に戻るのは勘弁である。

 

「なるほど。アインツベルンは既に当初の目的を失っていると見える。嘆かわしい事だ。本来はその第三魔法の儀式と聖杯を用いて根源へと到る為だと言うのに」

 

「……なあギルガメッシュ、今あの人語るに落ちたんじゃないか?」

 

 今時臣が言った言葉は『儀式と聖杯を用いるからサーヴァントの願いなんて叶えないよプギャー』という事である。つまりサーヴァントは儀式で必要なだけで終われば不要。となると令呪の意味も何となく理解できた。たぶん最後に自害させる為だ。

 

 自分のツッコミに対して優雅な仕草でお酒を呷っていた時臣はまるで一時停止したかのようにピタリと動きを止める。

 そして手に持った杯をテーブルに戻すと、ゆっくりと目蓋を閉じて顔を軽く上げそして……眉を顰めたままピクリとも動かなくなった。

 

「……凄いな時臣。我もその辺りをこの問答ではっきりさせたいと思っていたのだが、まさか自分から暴露するとは。どうやら我はお前の人間性を見くびっていたようだ。すまなかったな。とりあずもうお前に用は無いから黙っていろ。うっかりが移る」

 

 おう辛辣。そしてギルガメッシュ、その同情の眼差しには見覚えがあるんだが。それは自分をハサンと呼んで哀れんでいた時の顔じゃないか? と言うか遠坂という名の者には『うっかり属性』が標準装備なのか……まあいい、今は切嗣の方を優先しよう。

 

 ギルガメッシュの辛辣な言葉に苦悶の表情を深くさせる時臣を無視して切嗣の会話の内容を考える事にする。

 

 切嗣の説明を考えると、アイリスフィールは自発的に切嗣の願いを叶えようとしているって事か。だとしたらこの二人の関係性は?

 セイバーの正規のマスターが切嗣なのは接触した事で看破できた。つまり彼女は囮にさせた訳だが、なんでそれをアンツベルンは了承した? ホムンクルスだから死んでもいい、ということか? それとも殺されない理由が……あ。

 

「まさかあの女性、彼女が聖杯の器か!?」

 

「――」

 

 切嗣は答えないし表情も変えない。だが彼から放たれる雰囲気が変わった事で、自分の言った事が正しいのだと確信する。

 

 そんな、こんなの馬鹿げている!

 

 アイリスフィールの事を自分は知らない。だが彼女のあのランサーとのやり取りを見る限り、彼女には間違いなく人間と同じ心が存在している。それなのに、何故受け入れられる?

 

 自分が聖杯の器の事実に困惑していると、ランサーから念話が送られてくる。

 

『マスター、こちらは終わりました。結果は――』

 

『ランサー、その前に一つ訊きたい。そこにアイリスフィールはいるか?』

 

『ええ。その事で報告があります。アイリスフィール、彼女が今回の聖杯でありそして、切嗣の妻で娘も居るそうです』

 

 そこまで聞いた自分は気付けば念話を閉じて感情に任せて切嗣の胸倉を掴んでいた。

 

「お前は自分の奥さんを犠牲にするつもりか!」

 

「……ランサーからの念話で何か知ったか」

 

「ああ、アイリスフィールがお前の奥さんで、子供までいる事もな。ふざけるなよ衛宮切嗣! お前がやろうとしているのは自分の妻を犠牲にし、さらには自らの子供に笑顔の無い未来を与えようとしているんだぞ!」

 

 声を荒げずには居られない。怒らずには居られない。

 アイリスフィールの犠牲、それだけなら認められはしないが納得はしただろう。それほどまでに二人の覚悟は固いのだと、時臣の時と同じように思っただろう。

 

 だが、子供が居て、そしてその子供の未来すら奪うというのならば、もはや納得なんて出来るはずがない。

 

 お互いに無言でしばし睨み合うも、彼に変化は無い。

 

「……願いを替える気はないのか」

 

「……ない。僕はもう、その苦悩は通り過ぎた。僕は僕の大切なモノを全て捧げてでも……この道を進む」

 

「なら……あんたは自分の敵だ」

 

 掴んでいた服から手を放し、体勢がズレた桜ちゃんを抱え直して立ち上がる。

 

「……今晩で終わらせる。ギルガメッシュ、決戦の場所を決めよう」

 

「ふむ。ならば柳洞寺でいいだろう。綺礼曰く、あそこがもっとも聖杯降臨に適している。周囲の人間の撤去は時臣にでもさせる」

 

「お、王!?」

 

 ギルガメッシュの言葉にようやく我を取り戻した時臣だが、もうこっちは覚悟を決めている。悪いがあんたにはここで『落ちて』貰う。

 

「諦めろ遠坂時臣。ギルガメッシュに認められなかった時点であんたの戦いはもう終わっている」

 

「なん、だと」

 

 自分の言葉を聞いた時臣は僅かに驚きの表情を浮かべ、意図してかそれとも無意識か、視線が僅かに下がり、その手の令呪を一瞥した。

 

「令呪でどうにかするか? 無駄だよ。言峰綺礼の令呪の件を思い出せ。アレはギルガメッシュが新たに与えたものだ。つまり、ギルガメッシュの財には令呪がある。ならば『令呪を無効化』する財だって持っているかもと、何故考え付かない」

 

 自分の言葉に時臣が絶句する……本当に、哀れな魔術師だ。本気でこの英雄王を令呪ごときで縛り従えられるなんて思い上がっていたのか。

 

「仮に無効化する財はなくても解除する方法ならいくらでもあるだろうし、そもそもギルガメッシュレベルの英雄を自害させるなら令呪二画は必要だから使い切る前に殺されるだろう。そうだろうギルガメッシュ?」

 

「くくく、ああそうとも。流石は我を良く理解している。ああ時臣、安心していいぞ。お前が我の魔力タンクを最後まで勤めるというのなら、その勤めに免じて我を謀った不敬を許してやろう。もっとも、聖杯は渡せないがな。まあ命が助かったのだ。また次の戦争まで精々励むがいい。ハハハハハ!」

 

 時臣の絶望に染まった表情が相当お気に召したのか、ギルガメッシュが愉悦に歪んだなんともイイ笑顔を浮かべて大声で嗤う。

 そして時臣の方は腹部の辺りを押さえながら燃え尽きたように力無く項垂れる。もうこれでギルガメッシュに逆らう気力も無くなったろう。

 

「衛宮切嗣、お前はセイバーとアイリスフィールを連れて来ることだ」

 

 ランサーの念話からかなり経つが彼の令呪は消えていない。という事はライダーとセイバーの戦いはセイバーが勝ったと言うことだ。

 

「……僕が行く理由を聞いておこうか」

 

「分かっている筈だ。ここで提案を受けなければギルガメッシュと自分の陣営、つまりアーチャー、ランサー、アサシンの三体のサーヴァントを相手にする事になる。そして何よりお前の相手は自分じゃなく……アサシン」

 

「ここに」

 

 アサシンに声を掛けると彼女は自分の隣に姿を現す。そんな彼女に尋ねる。

 

「彼女がお前達マスターの相手だ。アサシン、仮にこの二人のマスターを同時に相手し、令呪を使わせず、更に生かしたまま五体満足で無力化するのにどれくらいかかる」

 

 『できるか?』とは聞かない。彼女の強さと能力を考えれば魔術師二人程度造作も無く無力化できるはずだからだ。むしろ単純に殺すだけなら一秒も掛からない気がする。

 

「一秒もいりません」

 

 こちらの問いに自信に満ちた声色で即答していくアサシン。本当に頼もしい。というかあの条件での無力化に一秒かからないのか、凄いな。

 

 そんな頼もしいアサシンの姿に、相対している二人は目に見えて焦り緊張してる。とりあえず威圧には成功したかな。

 

 主導権は渡さない。考えも纏まらせない。ギルガメッシュと意見が一致し、味方となっている内を推し進める。

 その一致している意見が、最後の戦いで自分がギルガメッシュの相手をするというものなのだとしても!

 

「悪いがもうあんた達を気遣う気持ちは一切無い。こっちも全力で聖杯を取りに行かせて貰う。何でも有りならギルガメッシュとこっちの陣営の方が有利だ。衛宮切嗣、この決戦での正面衝突こそが、あんたにとっても最後にして最大の勝機のはずだ」

 

 もっとも、ギルガメッシュが同意してくれているからこそ、こちらが用意した与えられた勝機な訳だが。

 それは切嗣も理解しているのだろう。こちらの思惑通りに進んでいる事が気に入らないのか、歯を噛み締めて悔しそうにこちらを睨みつけてくる。

 

 そんな彼の視線を無視して振り返り、襖を開けて廊下に出る。

 

「……自分の目的はこんな馬鹿げた戦争を二度と起きなくさせる事だった」

 

「だった、か。では白野、貴様にも何か願いが出来たと?」

 

 背後からギルガメッシュが興味深げな声色で尋てくる。

 

「さっき出来た。自分は聖杯を使ってこの二人の大切な者を生かし、二人には普通の人間としての人生を送って貰う。つまり魔術を使えなくさせる。回路の停止は無理だが破壊ならできるからな。まぁ人体にも影響は出るが、安心していい、治してやるさ」

 

「なに!?」

 

「力を失った以上、お前達が出来るのは普通の人間として一度は捨てた『父親』として『家族の為』に生きる事だけだ。そして父親として家族の笑顔に囲まれ、家族との幸福と愛情を感じながら――」

 

 そこで言葉を切って襖に手を掛けながら振り返り、改めて打倒すべき二人の敵を睨みつけながら宣告する。

 

「一生拭えぬ罪悪感と共に老衰しろ」

 




と言うわけでライダーさん敗北。詳細はサーヴァント編で。
そして白野が二人のマスターを完全に『敵』認定。因みに二人を生かす理由↓

アサシン「殺さないのですか?」
ハクノ(怒)「この二人は殺すより生かした方が苦しむから殺さない。理想を抱いて溺死なんて贅沢な死に方させるもんか」
アサシン(恐いわぁ。うちのマスター怒らせると恐いわぁ)

と言うわけで次回からサーヴァント編です。頑張りますよ!
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