結果はマスター編で判明している為に物凄く試行錯誤した。
「いったい貴様は何をしている」
迫る軍勢を前に聖剣を抜かぬセイバーの傍にランサーが降り立つ。
セイバーは一度ランサーへと視線を向け、次に己が握る今だ不可視のままの聖剣を見詰める。その視線には明確な戸惑いと迷いがあった。
「……ちっ。いいですかもう一人の私、一度しか言いませんからよく聞きなさい」
無言を貫くセイバーに舌打ちしたランサーは忌々し気に顔を顰めながらも、敵ではない者に向ける口調で己の胸の内を語る。
「私は貴女の願いが許せないだけで貴女の王道は間違っていないと思っています」
「ランサー?」
ランサーの言葉の意味が分からず戸惑うセイバーを無視してランサーは続ける。
「むしろよくもまぁ耐えられたと賞賛します。そして間違えないでください。あの王の誇りは『戦士と共にあること』でしょうが、貴女の誇りは――」
ランサーはそこで言葉を切ってその手に持った槍をアイリスフィールに向けた。
「――弱き者を外敵から守ること。だったはずです」
「セイバー……」
「アイリスフィール………すみませんでした」
セイバーが聖剣を両手で掴み、纏わせていた結界を解く。
次の瞬間風の衝撃が砂塵を巻き上げ黄金に輝く剣が、世界で最も有名な聖剣がその姿を現す。
「私が負ければ貴女の思いも無駄になる。それは認める訳にはいかない。いまだ迷いはある。だが元より私が聖剣を振るうのは『誰かのため』ならば何を躊躇う必要があったのか……ランサー」
「なんです?」
「感謝する」
「気にすることはありません。貴女は私の手で殺したい。それだけの事です」
そんな短いやり取りの中、セイバーの聖剣を見てライダーが笑い声を上げながら命令を下す。
「ははは! ようやくやる気になったが流石にその一撃はやばそうだ。故に止めさせて貰う! 投擲せよ!」
ライダーの命令に従い戦士達が持っていた槍を投擲する。
「アイリスフィール、辛いのは承知ですが『鞘』を返してもらえますか」
「ええ。いいわ」
アイリスフィールの身体から聖剣の鞘、アヴァロンが抜け落ち彼女がその場に崩れるように伏し、セイバーはその姿を沈痛な表情で一瞥した後、その鞘に聖剣を納めた。
次の瞬間、セイバーを中心に周囲を黄金の障壁が展開してその周囲の槍だけが全て弾かれる。
「なんと!?」
これにはさすがのライダーも驚き眼を見開く。
セイバーの聖剣を最強の矛とするなら、『聖剣の鞘』は最強の盾そのもの。
宝具の名は『
真名を開放すればあらゆる物理干渉、魔法、六次元までの次元干渉、それら全てを防ぐまさに『この世最強の守り』と言っても過言ではない性能を誇る。
『全て遠き理想郷』で迫る槍を弾き飛ばし、セイバーは聖剣を高らかに掲げ、その魔力を開放して行く。
その神々しく気高い姿はまさに古の騎士王のそれであり、傍に駆けつけたランサーに抱きかかえられたアイリスフィールは純粋に『綺麗』だと思い見惚れる。
「『
セイバーは聖剣を掲げ、身体を大きく捻り、そして振りかぶる。狙いは直進する軍勢の先頭であるライダー!
「――
放たれるは巨大な極光の奔流。それが一直線にライダーに迫る。
迫る聖剣の範囲が広い事に気付いたライダーがブケファラスを横に向け空へと上がるが完全に効果範囲から抜ける事が出来ないと悟り顔を強張らせる。
そのとき、ブケファラスがライダーへと一啼きする。
「――っ大義であった我が友ブケファラスよ!」
ライダーは即座に愛馬の意図を察し、ブケファラスを踏み台に全力で横に跳躍しながら剣を振り下ろす。
「『
ライダーの真下に戦車が現れ、ライダーはそのまま台に飛び乗り手綱を掴むと同意に宝具を開放する。
「『
蹂躙走行の加速によって、ライダーがギリギリ極光の光を避けると同時にブケファラスと王の軍勢が飲み込こまれる。
セイバーの『
真名を開放すれば己の魔力を光に変換し、それを集束して高速で放つ斬撃。というかその性質と威力、速度から完全にビームである。全力で魔力を溜めて振るえば、その威力は絶大であり、殆どのサーヴァントでは太刀打ちできない。
「むう。これは……」
なんとか逃げ切れたライダーであったが、空から己の軍を見て唸る。そこにはまるでモーゼが海を割ったかのような『まっすぐな道』が出来ていた。
何故ライダーがそんな顔をしたのか、その理由はすぐに判明する。突然イスカンダルの固有結界に皹が入り、そして……砕け散った。
「……これは?」
「……余の『王の軍勢』は余だけではなく盟友達で維持する世界。あれだけの被害が出てしまっては維持する事もままならん」
周りの景色が元のアインツベルン城に戻ると、ライダーは真剣な表情で固有結界が解けた理由を説明し、セイバーの前に降り立つ。
「まだ続けますか」
「応とも。余は征服王であるからして、死ぬ最後のその瞬間まで進む事を止めぬ。何より、余の凱旋を待っている者達も居る。故に、最後まで付き合って貰うぞセイバーよ!」
「……分かりました。アイリスフィール」
セイバーは鞘をランサーに抱えられたままのアイリスフィールの身体に戻すと、聖剣を開放したままライダーの前に対峙する。
「……アインツベルン、ここから少し離れます」
「……分かったわ」
聖剣の鞘を体内に納めたアイリスフィールを抱えたまま、ランサーはラムレイに跨る。
セイバーもライダーも互いの剣と騎馬の宝具を知り得ている。セイバーが考えるのは一瞬のチャージであの戦車を打倒できるかどうか。ライダーが考えるのはあの溜めの長い宝具を発動する前に倒せるかどうか。
((そのチャンスを掴んだ方が勝つ))
そして二人が空に上がると同時に、騎士と騎兵の最後の戦いが始まった。
「……ちょうどいい、アインツベルン。貴女に訪ねたいことがあった」
ランサーが眼下の戦闘を見守りながらアイリスフィールに話しかける。
「何かしら?」
「……貴女が今回の聖杯ですか?」
それはどこか確信を持ったような言葉だった。
ランサーには直感の上位スキルである『最果ての加護』がある。
直感を戦闘時のみとするなら最果ての加護は日常にまでその効果は及び『予感』を感じ取る。
その予感が、そして先程の不調が、ランサーをその答えに導いた。
「……ええそうよ。今回の聖杯は私。と言うよりも私の心臓ね」
アイリスフィールはどの道この戦いの決着が付けば自分自身は動くことすら出来なくなると悟り、先程のセイバーの一件もあってランサーに素直に答えた。
「私は、今回の戦いで死ぬ定め。だからこそ、私は愛する夫と娘の為にこの命を使うと決めたの」
「娘? 貴女には娘が居るのですか?」
アイリスフィールはしまったと内心思ったが、言ってしまったものはしょうがないと言葉を続ける。
「ええ。私と切嗣の娘。そして私達が失敗した後の聖杯の器……私は娘を聖杯になんてさせない。そして切嗣の願いが叶った世界で、せめてあの二人だけでも幸せになって欲しい。それが私が抱く本来の願いよ」
「無理ですよそんなの」
アイリスフィールの言葉にランサーは珍しく悲し気にその目を細め、ゆっくりと頭を振った。
「貴女の境遇には同情しましょう。子を守りたいという親の愛も理解しましょう。ですが断言します。衛宮切嗣が勝利した時点で、貴女の娘は唯一『平和な世界で笑わない』存在となるのです」
「な、なんでそんな事が分かるの」
「……私がもし聖杯の奇跡を知っている身で生き残って帰ってきた父に出会ったらこう言います。『どうしてお母様を選んでくれなかったの』と」
ランサーの言葉に、アイリスフィールは目を見開き、その脳裏に自らの死を嘆く娘の姿が過ぎる。
「貴女の娘が、世界の平和を願いましたか? 違うはずです。貴女の娘はただ、あなた達が傍にいて欲しいと願っていただけではないのですか?」
『二人とも早く帰ってきてね』
見送りの際に寂しそうに、見送る愛娘。彼女は言葉通り『二人』で帰ってくることを望んでいた。
それは叶わないと知っている。知っているからこそアイリスフィールはその言葉に曖昧な笑顔を浮かべることしか出来なかった。
「だって、仕方ないわよ。どうしたって私は死ぬ。だからこそ私と切嗣は……」
「聖杯が真に願望機なら、貴女一人の蘇生くらい可能でしょう。もう一度悲観せずに己が『生還した』ならばどういった未来が欲しいのかを考えてみては?」
「私……私は……」
ランサーの言葉にアイリスフィールは俯いてしまう。
その様子に、ランサーは己の甘さに溜息を吐く。
(まったく。マスターの甘さが移りましたかね……そして、どうやら決着がつくみたいですね)
「『遥かなる蹂躙制覇』!」
先に技を発動したのはライダー。距離とすれば数十メートル。しかしライダーの宝具ならば一瞬でセイバーをひき殺せる距離……だが、惜しむらくはその数十メートルが命取りだった。
「『約束された勝利の剣』!」
時間にすれば数秒にも満たない距離。しかし既に戦いながらエクスカリバーに魔力を送っていたセイバーは、全力ではなくともその数秒で剣を振り下ろす事に成功する。
眼下で放たれた光と雷の激突。凄まじい閃光と魔力の余波による衝撃からランサーは聖槍を振るってそれを防ぐ。
そして土埃の舞う中――立っていたのは身体に幾つもの傷を負い、魔力消費によって疲れたのか剣を支えに立つ騎士王と、その背後で戦車の左側と自らの左肩から左足の腿までを抉るように切り裂かれたライダーであった。
地面にはセイバーの近くから二本だった轍が一本になっていた。
「うむ、ままならんものよ。だがまぁ、先刻よりはましな目をしたお主に討たれのるならば、まぁ良しとしよう」
「征服王……貴方の考えを、私は認められません。ですが、貴方と貴方の家臣との関係は……とても羨ましく、そして素晴らしく思います。貴方と言う王を知れて良かった」
「がはは。そこまで言うのなら、願いを変える気にはなったのか?」
「……分かりません。ですが、きっとアレとの戦いで……何かを得られる気がします」
空に浮かぶランサーに視線を向けるセイバー。そんなセイバーを苦笑を浮かべて一瞥したライダーは己の体が消滅しかけている事に気付いてランサーへと声をかける。
「すまんがランサー! お主のマスターに願いが無いなら余のマスターの身体を治してやってくれ。ああ、生活に不自由しない程度で良かろう。あ奴は調子に乗りやすそうだったからな。不自由なくらいが丁度良い」
「マスターには伝えておきます。見事な決闘でした征服王イスカンダル。良き旅を」
「うむ。此度の遠征も心躍る物であった。では新たな戦場にいざや征かん『
傷付き消滅しかけたその身体でも、征服王は最後まで豪快に笑い、消えていった。
(決着、ですね。ライダーとはもう少し語らいたかったですが、致し方なし。マスターに報告するとしましょう)
『マスター、こちらは終わりました。結果は――』
『ランサー、その前に一つ訊きたい。そこにアイリスフィールはいるか?』
切羽詰ったような、どこか苛立ちを含んだような白野の念話に、ランサーは訝しく感じながらも問われたことに答える。
『ええ。その事で報告があります。アイリスフィール、彼女が今回の聖杯でありそして、切嗣の妻で娘も居るそうです』
『お前は自分の奥さんを犠牲にするつもりか!』
怒号のような叫びと供に念話が途切れる。
ランサーはその一言で現在自分のマスターが衛宮切嗣と接触していることを悟る。
「……どうやら私のマスターは現在、衛宮切嗣と共に居るようですね」
「何で……うっ」
ランサーが地面に降り立つと同時にアイリスフィールが呻き苦しみだす。
「アイリスフィール!?」
傍に降り立ったランサーの元に駆け寄るセイバーにアイリスフィールを預けたランサーが尋ねる。
「いったいどういうことです。そもそも何故彼女は苦しんでいる。聖杯の器である事と関係があるのですか?」
「……聖杯の魔力は元々はサーヴァントの魂を還元したものなのよ」
苦しげに説明するアイリスフィールに合点が言ったと頷くランサー。
「なるほど。あの征服王レベルの魂の格ともなればかなりの魔力でしょう……もはやその様子では聖剣の加護があっても自ら動く事もできないでしょう」
「……アイリスフィール」
「いいのよセイバー、元々分かっていたことなのだから。それよりランサー、さっきの言葉の意味は……」
『ランサー』
アイリスフィールが何かを尋ねようとしたその時、ランサーに白野からの念話が届き、ランサーが手でアイリスフィールを止める。
『どうしましたマスター』
そしてランサーは白野に起きた出来事を知り、その決意と覚悟、そして新たに抱いた願いを知り苦笑する。
(結局あなたは奇跡すらも誰かの為に使うのですね)
『了解しました。こちらの事情は後ほど』
『ああ後で合流しよう。そこからだと寺の場所は……』
念話を終えたランサーはラムレイに跨るとアイリスフィールとセイバーを見下ろしながら先程の白野の件を簡潔に伝えた。
「喜ぶといいアイリスフィール。どうやら我がマスターは貴女達家族を救うつもりらしい」
「なんですって?」
「どういう意味だランサー?」
「詳しくは戻って来たそちらのマスターにでも訊いて下さい。ただ確定しているのは、アーチャーを含めたマスター同士の話し合いの結果、今夜、聖杯戦争最後の決戦が行われると言うこと、そして……」
ランサーは振り返り破壊されつくした城の出口へと向かいながら伝えた。
「私のマスターが勝てば貴女は人間として生きられるということですアイリスフィール」
告げる事は終えたランサーは霊体化してその場を去り、残されたセイバーは彼女との戦いを思い、アイリスフィールは生き残れるかもしれないという考えても居なかった可能性に、何とも言えぬ感情を抱きながら意識を失った。
とりあえず最後までライダーをカッコ良く退場させる事だけを考えて戦闘シーンを書きましたが……どうだろう。
アニメだとセイバーの全力じゃない聖剣ぶっぱなら初動はライダーの戦車よりセイバーの方が早いと判断してこういう決着にしました。
そしてついにアイリスフィールは動けない状態に……というかあと一人死んだら聖杯化しちゃうのか……予定していたシーン的にヤバイか(泥的な意味で)