今回のメインは後半のセイバー陣営です。
そして色々修正は後ほど。
「もっきゅもっきゅ」
「もぐもぐ」
目の前で横並びに座ってハンバーグとお子様ランチを咀嚼する二人を眺める。
片方は先度までと違った薄紅色のフリルの着いた桃色の上着に紺色のスカートに黒い靴を履いた桜ちゃん。
そしてその隣には黒を基調としたゴスロリファッションのランサー……いや、元々が美人で色白だからガチで西洋人形みたいで似合ってはいるのだけど……その体格だと凄い目立っていますよアルトリアさん!?
そして自分の横には黒のスーツを纏って眼鏡をかけたなんというか『どこかの企業の秘書の方ですか?』と言ってしまいたい程の出来る女オーラを放つアサシン。組んだ足がセクシー過ぎませんかねぇ?
そして自分は服装はそのままに……現在『私』の姿に女体化しております。あ、女体化といってもただの変化ですのであしからず。
だって合流してファミレスに行くって言ったらランサーが自分も絶対に行くって聞かなかったんだよ。だから女体化してアサシンと一緒に服を買いに行く事になったけど、流石に桜ちゃんと違って大人の女性の下着やら服やらを売っている店に男の姿で入る勇気は無かった。
因みにランサーのスリーサイズはアサシンが測った。『あ、私は見るだけで相手の身長とスリーサイズはある程度把握できます。触れれば確実に』と、ちょっと得意気に言っていたのは可愛かった。
ついでに桜ちゃんとアサシンの服も新調する事にした。桜ちゃんの服と下着はデパートで幾つか買ったんだけどせっかくだからね。
まあ今夜はどうせ『二人』で戦うから、今の内にこの外見にも慣れて貰う良い機会だったと思おう。
「マスター、今度はこのジャンボエビフライステーキセットです」
「残念ですが我が王。先程の注文で我が蔵の財が底をつきましてございます」
そう言って自分は空の財布を見せる。因みにデザートは全員注文済みであり、お金は伝票と一緒にアサシンに渡してある。というかランサーよ、貴女他の人が一皿注文したのに対して三皿注文しておきながらおかわりですか。
「馬鹿な……」
絶望と言った表情をさせるランサー。そんなにか……仕方ないなぁ。
「もう、自分の残ったステーキあげるから我慢して」
「……ランサーお姉ちゃん、桜のハンバーグもあげる」
「マスター、桜……では桜のは一口だけ頂きます」
そう言って桜ちゃんのハンバーグを一口食べたランサーは桜の頭を撫でつつ、空いている方の手で自分のステーキとライスを皿ごとかっさらって行った。そのうえで既に食べ終えているアサシンをチラチラと見ている。
「……残った珈琲でも奪うおつもりで?」
「む。確かに珈琲はいりませんね」
苦いの嫌いだものねランサー、そしてアサシンが妙に早食いだったのはこれを見越してのことか。なんと言うか流石です。
色々と要領の良いアサシンに感心しながら二皿目の山盛りのポッテトと水で腹を満たす。まぁ桜ちゃんもいつもより嬉しそうな感じだし、二人も現界して現世を満喫しているようだから別にいいか……まぁ監視はされてるけどね。
ここに来るまでに使い魔二体からの監視を受けている。まあ、双子館に着く前にアサシン達に対処して貰うつもりだ。
とりあえず話し合いは食事が終わったらかな。
「――と言うのが、向こうで起きた出来事の詳細ですマスター」
「そう。こっちはさっき教えた通り」
食事も終わった所で改めてお互いに起きた出来事の説明と確認を行う。にしても、やはりアーサー王は強いな。それに聖剣の鞘か……。
「聖剣の鞘は厄介ね」
「ええ。真名開放によるあの結界はまさに無敵です。私の槍ですら突破するのは不可能でしょう」
「しかし同一人物であるランサーにならば使用できるのでは?」
アサシンの言葉にランサーが顎に手を当て少し考えてから答えた。
「聖剣の鞘自体の効果、治癒と再生ならば可能でしょう。あれは『アルトリアの魔力』に反応しますから。しかし真名開放は、私の感ですが無理だと思います」
「治癒に再生……聖杯の器である心臓……ふむ……」
聖剣の鞘があれば聖杯が無くてもなんとかなるか……。
正直な話、聖杯でも肉体と魂が無くなった存在の完全蘇生が可能かと問われると怪しいと思っている。
アイリスフィールの話が本当なら彼女は最終的に聖杯その物になってしまうだろう。そうなると肉体は無くなってしまう。まぁ魂と精神が無事ならば魔力で肉体を作ればいいのだが、魂と精神が消えてしまうと『この世界のアイリスフィール』の蘇生は厳しい。
……全てはセイバー陣営とギルガメッシュ次第か。運が良ければアイリスフィールを戦闘前に助けられるかもしれない。
ただその場合、こっちが戦いに負けた時の新しい聖杯の器は……。
「……まあ今はギルガメッシュについてが先決ね」
とりあえずアイリスフィールについては現場についてからという事にして次の話題に移る。
「その事ですがマスター、本当にあの英雄王と戦うお積もりで?」
「ええ。というかそういう暗黙の誓いがあるからこそ、英雄王はこちらの発言に乗ってくれた訳だしね。それにセイバーの相手はランサーにして貰うしかない。そしてギルガメッシュの宝具とアサシンは致命的に相性が悪い。となると彼の力や能力、性格を理解している自分が相手をするのが一番勝算が高いのよ。人間だからサーヴァント相手よりも慢心してくれると思うし」
神様どうか! どうかエアだけは抜きませんように!
心の中で数少ない信仰している神々に最終決戦でギルガメッシュがエアを抜かない事を祈り願う。
ただでさえ突破すべき死線が多いのに更に増えたら堪ったもんじゃない。
まあ個人的には雑種相手にギルガメッシュがエアを抜く可能性は低いと見ている。よしんば抜いても防ぐだけでぶっぱまではしないと思う。
「アサシンは当初の予定通り他のマスターの相手をお願い。令呪は出来れば使わせないで、アレは一種のブースト装置だからね」
「了解ですマスター」
「よし。それじゃあ話し合いはこんなもんかな。双子館に帰って準備をしましょう」
「ところでマスター」
「ん?」
立ち上がった瞬間にランサーから声がかかり首を傾げる。
「その姿だと口調が若干変わるのは何故です?」
「どうも女性の姿だと性格が『女性より』に引っ張られちゃうんだよなぁ。まぁ分裂した時よりはマシだよ。分裂時は今と口調や一人称が全然違うから」
「「分裂?」」
首を傾げる三人に肩を竦めて見せながらデザートが来てから張っておいた人払いの結界を解いて会計を済ませてファミレスを後にする。
そして商店街を歩いている訳だがすごく目立つ。まぁ仕方ないだろう。服までは霊体化できないしなぁ。
「……お兄ちゃん、あっ、今はお姉ちゃん?」
「アハハ、まあそうね今はお姉ちゃんね。それで何かな桜ちゃん?」
手を繋いでいる桜ちゃんから声が掛かって振り返ると、桜ちゃんは口元に笑みを作ってこちらを見上げていた。
「ありがとう」
「どう致しまして」
お礼を述べる彼女にそう答えると、桜ちゃんは後ろを振り返りながら呟いた。
「……また、みんなでごはんを食べに行けるかな……」
『みんな』と言うのが誰を指しているのか、そんなのは考えるまでも無いだろう。
「ちょっと時間は掛かるかもしれないけど、桜ちゃんが諦めなければきっと叶うわよ。自分が保障するわ」
「……うん」
寂しそうにする彼女の頭を空いている手で軽く撫でてから改め歩き出す。とりあえず隙あらば遠坂時臣の魔術師としてのプライドは徹底的に折ってしまおう。そうすれば少しはこっちよりの考えになって良いパパにでもなるさ。
改めて今夜の決戦に対して強い決意を誓いながら、みんなでアジトへと帰宅した。
◆
白野が桜達と食事をしていたその時、アインツベルン城の一室では重苦しい空気で満たされていた。
「アイリ」
「お帰りなさい切嗣」
ベッドに横たわりながら帰ってきた切嗣に笑顔を浮かべるアイリスフィール。
切嗣の姿を見てセイバーはアイリスフィールの傍を離れて切嗣と入れ替わるように扉の傍の壁に立つ。
切嗣は部屋にあった椅子を引き寄せてアイリスフィールの傍に座り彼女の手を握る。
「身体の調子はどうだい?」
「セイバーが直接私に触れて聖剣の鞘に魔力を送ってくれればまだ動けるけど、それ以外ではもう自分一人では歩けそうもないわ」
「そうか……」
「……ねえ切嗣、私達は……間違っていないわよね?」
「……どうしてそんな事を聞くんだい?」
「ランサーに言われたの。私が死んだら、イリヤは幸せになれないって」
「……僕もね。似たような事を岸波白野に言われたよ」
二人はお互いに困った表情で見詰め合う。切嗣はあの場では弱みを見せないためにああ言ったが内心ではかなり揺れていた。
当然と言えば当然だろう。それほどまでに切嗣の中で妻と娘の存在は大きかった。否、大きくなり過ぎていた。かつて供に戦場を駆けていたパートナーの舞弥が内心で『優しくなってしまった』と心配するほどに。
「私は貴方の夢を応援すると、その為に死ぬと誓った。それは嘘偽りない気持ち。でも、イリヤが産まれた。あんなに嬉しい事は今まで無かった。イリヤと貴方と過ごした数年は私にとっての宝物だった。その宝物だけで良かった。未来の無い私にはそれだけで……なのに、なんで、どうして……今更『未来』なんて希望が現れるの……」
「アイリ……」
アイリスフィールが切嗣へ両手を伸ばし、切嗣がそれを受けて彼女の身体を起こして抱きしめる。お互いに抱き合いながら、アイリスフィールは泣く。
「恐い。恐いの。我慢していた。宝箱を閉じて見ない様にしたの。これしかないんだ。しょうがないんだって。なのに、希望が無理矢理宝箱を開けて私に晒すの。イリヤの過去の笑顔を。そしてイリヤの未来の涙を。ねえ切嗣、私はどうすればいいの? 分からない。知らない。こんな気持ち」
アイリスフィールの言葉を切嗣は強く抱きしめながらただただ黙って聞きながら『パンドラの箱』を思い出していた。
『決して開けてはいけない物』。アイリスフィールにとってそれは遥か昔に捨てた『三人で生きて行きたい』という願望。
しかし彼女は誰よりも切嗣と言う男を理解していた。
彼が平穏を、幸せを感じれば感じるほど『死にたくなる程の苦悩を感じる』という事を見抜いていた。
誰よりも傷付いてきた彼にこれ以上そんな想いをして欲しくない。それもまた彼女の偽り無き願いであった。
己の中の二つの願望と封じていた生存意欲がぶつかり合い、アイリスフィールの心を掻き乱していた。
だがそれは切嗣も同じであった。
切嗣とて自分の願いを叶えるには『また』家族を犠牲にするしかないと、ずっと自らに言い続けてきた。そうしなければ……彼は立つ事ができなかった。
しかし目の前に『自分達を救う』と宣言する存在が現れた。
切嗣自身の行いを怒り、彼の家族の為に聖杯を使うと言った一人の青年。
確かにそんな存在は彼にとっても『希望』であった。
しかし『希望』という存在が必ずしも歓迎されるとは限らない。
彼等にとっては正にその『希望』こそが自分たちの前に立ち塞がる『壁』に他ならなかった。
(アーチャーはああ言ったが、冬木の聖杯が必ずしも奴の言っていた聖杯の機能と同じとは限らない。だが、アイリの居ない世界で……イリヤは笑ってくれるのか?)
笑うだろう。と切嗣は考える。何故なら彼の考える世界が実現するなら不幸な人間などいないのだから。そう『創り変える』のだから。
だがそれは同時にイリヤスフィールという存在からアイリスフィールという存在を、その思い出を奪うと言う事でもある。
(何故、どうして……どうして今更僕達の前に現れたんだ!)
降って湧いた希望という理不尽な見えざる存在に、切嗣は怒りを覚えずには居られなかった。もっと早ければ掴んだのに。もっと遅ければ振り払えたのに。
そんな二人の痛ましい姿を見詰めていたセイバーは二人と同じように苦悩した表情で天上へと視線を移す。
(私は……間違っているのか?)
ランサーとライダーという自身とは違う王道を体現する王との邂逅と対話を経たセイバーは疑問を抱いていた。
もう一人の自分自身であるランサーは言った『間違いではなかった』という言葉、他の誰でもない自分自身に言われた言葉だからこそ、セイバーの心に響き渡った。
(では受け入れられるのか? あの誰も報われない結末を……)
セイバーは目蓋を閉じ苦悩を現すかのように眉を顰めながら思考し……溜息を一度吐き、大きく一度深呼吸する。
目蓋を開けたセイバーの眼には未だ迷いはあるが同時に力強いものに変化し、真剣は表情で二人の傍に近寄った。
「アイリスフィール、切嗣、話があります」
セイバーの言葉に二人が顔を上げる。
「正直に言います。私は、自らの望みが正しいのか分からなくなってしまいました」
「セイバー?」
セイバーの言葉に、アイリスフィールが涙を浮かべたまま困惑の表情を浮かべる。
「こんな気持ちではきっとランサー、もう一人の私には勝てない。故に次の決戦、私はライダーと戦った時同様に、私は私の望みの為ではなく私の理想に殉じて振るおうと思います」
「理想……」
セイバーの言葉に初めて切嗣は素で反応を見せる。
「私は二人がどんな答えに到ろうとも、この剣を二人の為に全力で振るう事を誓います。だから私や他の事は気にせず、残りの時間を二人で過ごし、考え、答えを導き出してください」
セイバーはそれだけを伝えると『外で待っています』と言って部屋を退室しよう背を向けてドアノブに手をかける。
そんなセイバーの後姿に、切嗣が声をかけた。
「セイバー……すまない」
それは切嗣からセイバーへの初めての感謝の言葉であった。セイバーは驚きを感じながらも、険しかった表情を穏やかなものに変えながら『いえ』と短く答えてから部屋を出て行った。
そして残された二人はそれまで別行動によって空いた時間を埋めるように過去を、未来を、想いを語り合った。
この作品での白野↓
一応一人称以外は原作の『電脳体』の岸波白野が基準の為、異性への感性が肉体に寄るだけで、それ以外の性格や考え方は男女共通。
喋り方は女性的か男性的かの違いのみ。
分裂時↓
キシナミ=一人称『俺』で砕けた口調。
はくのん=一人称『私』で丁寧口調。
分裂して男女が明確に分かれた場合はエクステラの肉体の彼等のようになります。
あと聖剣の鞘の設定はオリジナルです。アルトリアの魔力に反応するので同一人物ならOKという判断。
ただ真名は個人的に『理想郷』に到達できる可能性があるアルトリアにしか使えないという判断なので、使えるのはセイバーかセイバー・リリィだけ。エックス? 彼女は現代こそが理想郷でしょ?
そしてアイリの苦悩が切嗣に伝播する。
アイリの願いは原作の感じだと三人で生きることっぽいのでそれを直視したらこうなるかな~と。彼女もまだ生まれて9年ですしねぇ。