「聖剣の鞘を貸せ、だと」
キシナミの提案を聞いて訝しがる切嗣。当然だろう。これから戦うというのに自分側の武器の一つをよこせと言われて納得できる者は少ない。
「ああ。試したい事がある。成功すれば……アイリスフィールを聖杯化させずに済むはずだ」
「なんだと……」
キシナミの言葉にセイバー陣営の全員が困惑したような表情をさせる。
「そうだな。最初から説明しよう」
キシナミはそう言ってまずアイリスフィールが聖杯で救える可能性の低さを説明した。
「肉体が消滅しても魂と精神が残ればその魂を保存する事で存在を維持する事は可能だ。あとは肉体を魔力でなんとかすればいい。聖杯程の魔力なら容易いだろう。だが、聖杯化した時に彼女の魂が肉体と同じく消し飛んでしまえば意味が無い。そこで俺達はずっと『彼女を聖杯化させずに救う方法』を探していた。その時にランサーから伝えられたのが聖剣の鞘だった」
聖剣の鞘。アーサー王を不老不死至らしめていたまさに破格の宝具。
仮にその鞘を現代の者が手にしても十全には扱えないだろう。精々怪我や病気の治癒速度の上昇、呪詛への耐性がつく程度だろうと白野は説明する。
「しかし、その鞘の本来の所有者であるアーサー王本人なら、その鞘の効果を十全に扱えるのではないか、そう思い至った。その為に知りたい。聖剣の鞘で治癒、再生できる範囲を。もしも『摘出された箇所を元通りに再生できる』レベルのことが可能なら……」
「……アイリスフィールの聖杯の核である心臓を摘出しても、また新しい心臓が再生される可能が高い、と言うことですか……どうします?」
白野の説明の結論を口にしたセイバーが背後の二人を伺う。
不安そうにするアリスフィールが切嗣へ視線を向ける。
切嗣はしばらく考えてから口を開いた。
「幾つか質問する。まず、摘出が成功して、その聖杯の核は誰が所持する?」
「全ての宝物を管理するギルガメッシュこそが相応しいだろう。というか、彼以外には聖杯の核を維持できないと思う。心臓の停止=聖杯の核の停止では、聖杯を求めているそちらも同意できないだろうし、何よりその場合行き場を失った魔力が再生したアイリスフィールの心臓に移ってしまう可能性もある。だが全ての宝物を『最良の状態』で管理できるギルガメッシュなら、心臓の機能は停止しないはずだ」
「ほほう。つまりこの我に聖杯の決定権を委ねる。ということで良いのか白野?」
「そう、なるのかな? 普通にギルガメッシュは聖杯については中立の位置だし、俺達が負ければセイバーがそのあとギルガメッシュに挑む。つまり立場的にもギルガメッシュが勝者への褒美を持つのが一番相応しいんだよ」
「褒美、か。確かにこの我を倒した偉業に、褒美の一つくらいはくれてやってもいいか。良かろう一時だが我が宝物庫に貴様の心臓を捧げる栄誉をくれてやろう。さあ喜んでいいぞ人形よ!」
「え、ええっと、あ、ありがとうアーチャー?」
「うむ。この我も心臓その物を宝物に仕舞った事は無い。末代までこの英雄王の懐の深さと己の成した偉業を語り継ぐがいい。はーははは!」
困った表情をさせながらも素直な性格のアイリスフィールがきちんとお礼を述べる。アーチャーはそれに満足そうに頷いて見せて大声で笑う。
『実はお母さんね。昔英雄王の宝物庫に心臓を仕舞って貰った事があるのよ。どう凄いでしょ』
「~~っ」
はくのんが生還したアイルスフィールが娘にそんな感じにドヤ顔で誇らし気に語る未来の姿を想像して堪らず視線を逸らして口元を隠しながら笑いを堪える。確かにシュールな絵である。
「いや、笑っちゃダメだろ」
はくのんにツッコミを入れるキシナミは脱線した話を戻す為に改めて切嗣に『他に質問は?』と問いかける。
「聖杯の核の維持は理解した。では器はどうする? アイリと同等かそれ以上の器が無ければ聖杯は降臨できない」
切嗣の言葉にキシナミはごもっとも、と返答してから答えた。
「確かに聖杯の器となると適性が必要だろう。そして運が良い事に冬木の聖杯なら……俺達岸波白野なら、適性がある可能性が高い」
「どういう意味だ?」
切嗣の疑問に笑いを堪えていたはくのんが息を整えてから口を開く。
「……ふぅ、ごほん。私達は『第三魔法』で造られた存在ですからね。冬木の聖杯に第三魔法が関わっているなら、適性がある可能性は高いんですよ。あ、なぜ第三魔法で造られたのか? とかの質問に答える気も説明する気もありません。知りたければもっと私達と親しくなってくださいね」
『自分は第三魔法で出来ている』
その発言に既に見抜いているギルガメッシュと魔法と言う物が現代でどれだけ凄いかをあまり理解していないセイバーを除いた全員が驚き目を見開く。
特に魔術師の時臣やアンツベルンであるアイリスフィールはすぐに理由を尋ねようとしたが、はくのんに拒絶されてしまう。
「まあ実際貴方達には関係ない個人情報だ。こっちが勝てば聖杯の核を壊すなりなんなりで終わりだし、そっちが勝てば俺達は聖杯になっちゃうしね。さて、これで聖杯の器の問題も解決だ。他に質問は?」
「……最後だ。心臓の摘出、それが可能かどうかをどうやって調べるつもりだ? 先程試したいと言っていた以上、まさかいきなり本番というわけではないだろう?」
「もちろん。まずは聖剣の鞘がどこまでの治癒と再生が可能か調べなければ意味が無い。そして今までの提案はその聖剣の鞘の性能次第と言うことになる……ダメだった場合は聖杯の蘇生に賭けるしかない」
切嗣の最後の懸念にキシナミは真剣な表情で答える。
お互いにしばらく睨み合う様に視線を交わし合い……切嗣が先に視線を逸らしアイリスフィールへと向ける。
「アイリ、少しの間辛いが我慢して貰えるかい?」
「ええ、私なら大丈夫よ」
アイリスフィールが胸に手を当てるとそこから光り輝く鞘がゆっくりと彼女の身体から抜けて行く。その光景に白野達はランサーから聞いてはいたが多少の驚きを感じても居た。
白野やギルガメッシュノの空間への収納とは違い、聖剣の鞘は体内に埋め込み一体となる。言ってしまえば埋め込んだ相手を聖剣の鞘化するような物だ。
長期間その状態を維持すれば彼等の知る正義の味方同様にその起源は間違いなく変質してしまう。基本、神秘という物は生物にとっては毒なのである。
「うっ」
「アイリ……セイバー」
「はい」
その場に崩れ落ちるアイリスフィールを切嗣が支え、セイバーが鞘を受け取ってキシナミの元に向かう。
「どうぞ。それで、私はどうすれば?」
「ありがとうセイバー。ただその前に、この鞘の効果をランサーが使えるか試してもいいかな? 鞘に魔力を送る以上、サーヴァントの魔力だって消費するだろう? できれば、自分の陣営で補える事は自分達で補いたい。もしダメならその時はセイバーに頼むよ」
「分かりました」
キシナミの提案を受けれいたセイバーはその場から少し離れる。
鞘を受け取ったキシナミはそのまま鞘を身体に仕舞ってからランサー達の元に戻る。
「それじゃあ始めようか。まずは刺し傷あたりで試すか?」
「そうですね。えい」
戻って来て提案をしたキシナミに向かって頷いたはくのんが持っていた短刀でキシナミの脇腹を流れる動作で刺して引き抜く。
蹲るキシナミ、唖然とする周囲、そして刺したはくのんが短刀の血を拭ってから納め、いつもの鉄面皮で呟く。
「きゃー自分殺しー」
「棒読みにも程があろう。というか、アレはアレはで自傷行為になるのか?」
はくのんの発言を聞いたアーチャーがなんとも言えぬ表情でツッコミを入れる。
「こ、このやろう……というかランサー、早く、早く鞘に魔力を、普通に痛い」
「え、ええ。そうですね」
自分自身の行いに憤りを感じながらもランサーに早く治してと頼むキシナミに、ランサーも慌てて彼の身体に触れながら魔力を鞘に送る。
するとキシナミの刺し傷は一瞬で塞がり、魔力を流し続けているとしばらくして痛みも退いて行った。
立ち上がったキシナミははくのんへと視線を向ける。
「……何か言う事は?」
「すみません一度やってみたかったんです。それは同じ存在である貴方も知っているでしょ?」
「だからって本気でやる!? しかもなんのリアクションも相談も無しに!」
怒るキシナミに謝るはくのん。しかしその表情はあまり反省していない感じである。というか反省してないのは本人なのでキシナミも分かっている。
ここぞという所でボケようとするのは岸波白野の数少ない悪い個性の一つである。尚、時と場合によっては可愛い後輩や、赤や白の同僚、パートナーのサーヴァント達に手痛い反撃を貰うこともある。
「……まあいい。ランサーでも鞘の治癒や再生が可能なのは分かったし、次は欠損した場合の再生だ……もしもの場合は頼むぞ」
「了解です。アサシン、やってください。ランサーは魔力を送っておいて下さい」
「分かりました」
「……了解しました」
ランサーはキシナミの手を握り魔力を送る。そしてキシナミの正面に立ったアサシンは次の瞬間――気付けば白野達の背後に立っていた。
そしてその手には心臓が握られていた。
「「は?」」
ブチュ、という切断面から血が噴出す。それを見て目で終えなかったマスター達から唖然とし言葉にならない呟きが漏れると同時に、キシナミがその場に腰が抜けたかのように座り込む。
「――いってえええええええええ!?」
大声で叫ぶキシナミ、慌ててはくのんが治癒魔術を掛ける。
「大丈夫?」
「ぐっ。なるほどさっきもそうだったが……心臓は問題なく再生したけど、痛みまではすぐには消せないみたいだな。でも痛みなら俺達の魔術や鞘に魔力を送り続ければ緩和できるのも解った」
痛みがある程度退いたキシナミが振り返り、心臓を握ったアサシンの姿を捉えてなんとも言えない表情をさせながら、キシナミは自分の胸に手を当てる。
「……うん、うん。心臓は問題なく動いている。というか、本気で心臓無くなった事に気付かなかった。流石はアサシン」
「あの、褒めてくれるのはいいのですが、これをいい加減どうにかしませんか? 頼まれたとは言え自分のマスターの心臓を抉るとか、流石に罪悪感を感じているのですが……」
「そうですね。さっさと燃やしましょう。アサシン、それを地面に、では《Code:
アサシンが心臓を地面に置くとはくのんが躊躇いも無く燃やした。
「……なんか複雑なんだが」
もう一人の自分が自分の心臓を燃やすという光景に、キシナミが顔を顰めるが当然の処置ではあるためそれだけ呟くと気を取り直すべく頬を叩いて身体から聖剣の鞘を取り出してセイバーに返却する。
「とりあえず、これで心臓を抜いても問題無い事が実証された。アサシンの腕も確かだ……あとはそっちの覚悟次第だ」
「……ランサーのマスター、何故貴方はこのような無茶を? 死んでいたらどうするつもりだったのです?」
聖剣の鞘を返されたセイバーはそれを受け取りながらキシナミに訊ねる。
彼女の疑問ももっともだろう。今回の聖剣の鞘の実験には不確定要素の方が多かった。そして試すのならば他の人間でも良かった筈だ。例えば時臣とか。
しかし白野はそれをしなかった。あくまでも自分自身を実験台として、仮説を立証して見せた。その躊躇いの無さに、セイバー以外にも疑問に感じていた。
ただ一人、ギルガメッシュだけは気にした様子は無かった。
「……正直この状態なら俺か私、どちらか片方が生きていれば一人に戻った時に分割した分の寿命が減るのと死ぬほど痛い思いするだけだからというのもあるけど、まあ一番の理由は自分で試せることは自分で試す性分だから、かな」
「ですね。自分に出来る事は自分でやる。自分で出来ない事は他人に任せる。それでもダメなら未来に託す。それが私達です。今回は私達が傷付けば済む事でしたから私達だけで行っただけの事です」
「……主に痛い思いをしたのは俺だけどな」
「頑張れ男の子」
「男の俺より漢らしい人に励まされても……」
胸元で両手を握った姿で励ますはくのんに、げんなりと肩を落としながらツッコミを入れるキシナミ。その二人の姿を見て、セイバー苦笑を浮かべる。この人間はこういうタイプなのだと悟って。
「そうですか……お二人の気遣い、感謝します」
セイバーは鞘を持ち帰りそれをアイリスフィールの身体に戻し、その手を握る。
「アイリスフィール……どうしますか?」
「……切嗣、私は……あなた達と生きたい」
「……ああ。それが君の望みなら。僕は止めないよ」
切嗣がアリスフィールを支えるように立たせ、反対側にセイバーが立って彼女の身体にある鞘に魔力を送る。
「……いいわ」
覚悟を決めたアイリスフィールが力強く頷いてアサシンへと視線を向ける。
アサシンが一度伺いを立てるように傍にいるはくのんに視線を向け、はくのんが頷くのを合図に、その姿を消す。
気付けばアサシンはアイリスフィールの背後に立ち、心臓をアーチャーに向けて放り投げる。
受け取ったアーチャーは心臓を一瞥する。
未だ鼓動する結晶と一体となった肉塊を見てそこに膨大な魔力がある事を確認して頷き、そのまま宝物庫に仕舞う。
「あぐううぅぅ!?」
「アイリ!?」
「アイリスフィール!?」
キシナミと同じように痛みでその場に蹲るアイリスフィール。セイバーは魔力を送り続けなんとか痛みを退かせようとする。
「い、痛いわ。痛いの。でも……感じる。鼓動を、新しい心臓の音を……」
痛みで汗を流しながら、それでもアイリスフィールは切嗣とセイバーに笑顔を見せる。
「……条件はクリアしましたね」
「ああ。こちらの最低限の勝利条件は満たした」
そもそも白野側と他の陣営では求める結果の勝利条件が違う。
彼等の子供を悲しませないという結果を求める白野達からすれば、アイリスフィールが死んだ時点で『負け』なのだ。つまり今回のアイリスフィールの一件は彼等の求める結果に置いては『最低限クリアしなければならない条件』でもあった。
故にセイバー陣営を見詰める白野達の表情は以前険しいままであり、そんな二人に成り行きを見守っていたアーチャーが声をかける。
「茶番は終わりか?」
アーチャーは既に見抜いている。先程までの二人の漫才の様なやり取りが、不安に押し潰されそうな彼女へのせめてもの気遣だったのを。そしてそれが終わりを告げたのだと。
「ああ終わりだ。そしてここからは」
「私達の戦いです」
真剣な表情をさせた二人の白野とアーチャーの視線がぶつかる。
瞬間―アーチャーの周りの空間が歪み宝具が発射される。
キシナミが前に出て盾を構える。鏡が光り前面に紫色の円形の魔方陣のシールドが展開され、シールドに宝具がぶつかると同時に弾ける。
「遠距離、いや、投擲の類を防ぐスキルが付加されているのか」
考察しならもアーチャーの攻撃は続き、それをキシナミが防ぎ続ける。
「
その間にキシナミの後ろで守られているはくのんが詠唱を開始し、次の瞬間、世界が塗り換わってアーチャーと白野の二人を光が包む。
「ほう」
『王の財宝』による発射を止めてアーチャーは一変した世界を見渡す。
展開されたのはまさに贅を尽くした豪華絢爛な薔薇の舞う黄金の劇場。
「固有結界、と似て非なる世界のようだな。それに我の性能が少し下がっている。ふむ、これはこの結界の効果か?」
アーチャーは自分の手を見た後に二人に視線を巡らせる。
「その通りです。私達に固有結界を造る才は無い。故にネロの黄金劇場の舞台を『演者』として借り受ける」
はくのんが襷掛けしたベルトから剣を抜き、ベルトを投げ捨て剣に魔力を送りながら構える。大剣はそれに答えるようにその刀身を燃える様に発光させる。
「本来の持ち主なら幾らでも劇場の姿を変えて効果も変えられるんだけど、俺達にそれはできない。俺達が黄金劇場で使える効果は『敵役の性能を下げ、主役側の性能を上げる』という彼女が最も戦闘で好んだ基本効果だけだ」
キシナミが説明を行うと同時に盾に魔力を送る。
鏡に八重桜紋が浮かび上がり、盾の外周に刻まれた文字列が輝きを放つ。
左右に並び立つ二人の白野が、気迫に満ちた強い瞳を人類最古の英雄に向ける。その瞳には一切の曇りは無く阻む者を打倒する強い意志と燃えるような気迫が宿っていた。
アーチャーはほんの僅かに懸念していた『知り合いへの躊躇い』という甘さがその瞳に無い事を確認して合格だというように満足そうに頷き、そしてその赤い瞳を怪しく輝かせ、口に笑みを浮かべる。
「それでいい。死力を尽くして挑み、この我を愉しませろよ白野」
「ああもちろん。それが――」
「――私達と貴方との『
二人の白野が黄金の舞台を駆ける。
人が挑み英雄が受ける。神代の時代から続く勇ましくもありふれた舞踏が今ここに開演する。
今回の展開、一応聖剣の鞘や聖杯の核について原作確認し直したり設定調べたりして、出来るだけ設定から離れ過ぎない可能な範囲で納められたとは思うのだが……どうだろう、不安だ……。
そして私の中の原作や設定を見た事(特にエクステラ)での二人の白野の印象↓
はくのん
漢女力が高く誰にでも気遣いの出来る頼もしい女子。
その性格の為誰とでも仲良くなれる。しかしその性格のせいで同姓に惚れらやすい。
相手の手を取って引っ張って行く強さがある。
キシナミ
乙女力が高く誰にでも心遣いが出来る癒し系男子。
その性格の為誰とでも仲良くなれる。しかしその性格のせいで女子(特に一部の特定のタイプ)に惚れられる(喰われそうになる)率が高い。
相手の手を取って寄り添い支える強さがある。
とまあこんな感じな印象なので、転生先の性別に伴って感性を少しだけどちらかに寄せて書いてます。
基本二人に分かれたらはくのんがボケでキシナミがツッコミ担当です(笑)