「……と言うわけよ」
「つまり貴女が外にいるという事は……」
「ええ。白野は聖杯を掌握したあとに私、英霊アンリマユをユスティーツァと融合させて人間にした。だからまぁ今の私はアンリマユかと言われると微妙だからユスティーツァって呼んでくれると嬉しいわ」
そんなユスティーツァの話に、ついに我慢の現界を迎えた英雄がいた。
「待てい。なんだそのハチャメチャとワクワクが同時に襲ってきたような面白そうな話は! 白野の中の我! 今すぐ我とポジションをチェンジせよ! 貴様だけ特等席で視聴とかずるいではないか!」
アーチャーが堪らず聖杯に向かって叫ぶ。その表情は観たい映画が自分の地域では観れないと知って駄々をこねる子供の様な表情であった。
アーチャーの様子に一部の物が呆れたりしている中でランサーが声を掛ける。
「それで、どれくらい待てばマスターは?」
「それは分からないわ。ただ個人的にはそう掛からないと――!?」
ユスティーツァが途中で言葉を切って穴の方へと振り返る。
全員がそれに釣られて視線を穴の方へと向ける。
突如穴から巨大な神聖な力を帯びた光が迸る。
光はそのまま洞窟の天上を貫き空へを昇って行く。
まるで火山でも噴火したかのような勢いで放射された魔力によって大空洞が激しく揺れる。
しばらくして落ち着きを取り戻すと穴から放たれていた黒い光と嫌な気配は完全に消えさっていた。
「……これも貴様の想定どおりか雑種?」
「いや~想定外だけど、何がしたかったのかは、なんとなく分かるわ」
アーチャーの言葉にそうユスティーツァが答える。
誰もがその場を動かずに穴の方へと視線を向けて成り行きを見守る。
しばらくしてザ、ザ、という何かが穴を昇る音が聞こえ、その音は徐々に大きくなる。しかし途中でその音の違和感にサーヴァント達が気付く。
「音が……多い?」
響く足音は一つではなかった。
不測の事態。その場の全員が緊張した面持ちで穴から現れる者を待つ。
そして……黒い影が突如穴から飛び出し、彼等の前に着地した。
「俺の名は岸波白野! あだ名はキシナミ!」
「私の名は岸波白野! あだ名ははくのん!」
「自分の名は岸波白野! あだ名はザビ!」
長さの違いはあれど、白い髪に赤い目となり、取り込まれた時の服を着た白野と名乗った三人が、それぞれ三角形を形作るポーズを取りながら自己紹介をする。
「「三人合わせて不屈戦隊フランシスコ・ザァぐふおぉ!?」」
三人は最後まで名乗りを言い切る事はできなかった。
気付けば三人は見事に同じ形で地面に膝を付いて蹲っていた。
そんな三人の前にはいつの間に移動したのか拳を握ったランサー、アサシン、アーチャーの三名が立っていた。
セイバーは一部始終を見ていた。そして呟いた。
「おそろしく速い腹パン。私でなければ見逃していた」
洞窟になんとも言えない静寂が流れた。
「で? 何故あのようなおふざけを?」
「く、空気が緊迫していたので、良かれと思って」
正座し、こちらを見下ろすランサーに説明するのはザビと名乗ったランサー達がよく知る顔の白野。
そんな彼の左右にはセイバー達が見た事の無い十代後半あたりの顔立ちの男女、生前の姿の白野達が同じく正座していた。
「それで……これはどういうことです?」
「せ、説明するから立ってもいい?」
ザビが許可を求め、ランサーとアーチャーが頷くのを見てから三人は安堵の溜息を吐いて立ち上がる。
「さて、どこから説明するか……とりあず、今の自分の状態か。端的に言えばここに居る二人は自分を基にした岸波白野のコピーだ」
「オリジナルであるザビには受肉した二人や桜ちゃんの面倒等、色々と忙しいので、ならいっそ自分を増やそうという事になったんですよ。それで物質化制御で自分自身を複製した訳です。魔力だけは膨大にありましたからね。ただ姿が一緒だとややこしくなる為、生前の姿になった訳です。まぁ人型だと魔力は全然保有できませんでしたけど」
「でもお陰で圧縮した分の悪性の魔力を完全に浄化し切ったんだから良しとしよう」
「ああ、やっぱりさっきの光はそういう事なのね。因みにどれくらい魔力を消費したの?」
ユスティーツァが興味有りげに訊ねるとザビが答える。
「悪性の魔力は二割まで圧縮、それの浄化、まあ魔力が濃過ぎてただの浄化の炎が物理的なビームになったけど、それに自分達が保有した魔力以外の全てを消費した感じかな。あ、概念空間の面積が広がったから、知っている礼装とか宝具とか物質化制御で完全再現しちゃったり魔結晶とかエリクサーとか消費系魔道具の補充とかで大体数十万くらい無駄遣いしちゃったかな」
ザビが困った笑顔で笑う中でアイリスフィールが質問する。
「保有できた魔力量ってどれくらいなのかしら?」
「百万です。それが人型の肉体と魂の現界でした。それ以上は肉体と魂を物理的に大きくしないといけないので巨人化します。因みに聖杯には兆に届く魔力量がありましたね」
はくのんの言葉にアーチャーとランサー以外の全員が絶句する。
しかしその絶句はそれぞれ意味が違う。
アイリスフィールとアサシン、舞弥は純粋に百万と兆という数字の桁に驚き、そして切嗣と時臣とセイバーはそれほどの魔力を平然と捨てた事に。
「ば、馬鹿な。例え自身に保有できずとも魔力炉心として別に保管すればいいはずだ。悪性を滅ぼすのに必要な最適量、仮に聖杯の八割を消費しても一割残ればそれだけで一千億の魔力が残る。それだけあればどれだけの事ができるか、魔術を扱う貴様がわからないはずがない。それではお前は何の為に聖杯を取り込んだというのかね!」
時臣が白野の魔術を嗜む者としてありえない行動に、うろたえながら早口に訊ねる。
そして時臣の問いはそのまま切嗣とセイバーの疑問でもあった。
そんな時臣の問いに三人は顔を見合わせ、同時に首を傾げながら振り返って同じ言葉を唱えた。
「「いや、だっていらなかったし」」
「いら……なかった?」
「いやだって、今の身体だって十分サーヴァントとやりあえるくらいの身体能力と強度があるし寿命も下手したらかなりあるし……」
「聖杯の術式を取り込んでいますから大抵の魔術なら工程ぶっ飛ばして行使できますし、必要ならサーヴァントも呼べますし……」
「礼装とか消費魔道具とかも作れるだけ作ったからこのあとイリヤちゃん助けたり身体治したりも問題ないし……」
「「そもそも聖杯を掌握したのだって聖杯戦争を止める為だし。なら残った魔力で確実に悪性を消した方がいいでしょ?」」
時臣は『ありえない。』と小さく呟いてその場に膝を付く。
その傍でアーチャーが愉快気にクククと笑う。
「こういう人間もいる。よく覚えておくことだな時臣。それと貴様の娘は優秀だ。貴様はせいぜい術式の講師をするだけで生き方には口出しせずに好きに成長させるのが一族としても吉だ。貴様が呼ばなければこんな愉快な見世物も見れなかった故、この我からの最後の褒美だ。ありがたく受け取るがいい」
それだけ言うとアーチャーの身体が徐々に光の粒子となっていく。
「ギルガメッシュ……」
「我が道化よ。此度もよくぞ我を愉しませた。本来なら貴様の中の我に席を譲れと言いたいが、まぁ仕方が無い。せいぜい我に見放されぬよう、努、その在り方を損なうなよ」
アーチャーの真剣な表情放たれた言葉に、三人の白野は力強く頷いて答える。
それを満足そうに見届けたアーチャーはいつもの不適な笑みを浮かべ……消えていった。
ザビがセイバー達の方へと振り返りながら訊ねる。
「まだ戦う?」
その問いに、セイバーのマスターである切嗣が答えた。
「いや。僕達はもう戦わない」
切嗣の言葉にセイバーも頷く。
それを見届けたザビは開いた天上から覗く星空を見上げながら、感慨深げに呟いた。
「じゃあ、聖杯戦争はこれで終わりだ」
その日、冬木の土地で長年続き大勢の命を奪い続けた一つの戦争が、終結した。
と言う訳で次回からエピローグです。長くて二話、上手く纏められたら次回で最終回ですね。ようやく終わるぞ!
あとは補足ですね。
人型での保有可能魔力量を百万にしたのはFGOのボスのHPを参考。
そもそも原作の黒桜、ゲーティア、キアラも器なだけで炉心は別(聖杯、光体、ムーンセル)でしたからね。たぶんあれ全部を引き受けたらティアマトみたいな巨体になったと思う。
それと現在の白野の状態を詳しく言うと人間と言うよりホムンクルスや受肉したサーヴァントに近いです。本気だすとイリヤと同じく全身に魔術刻印が出ます。
膨大な魔力炉心を手放したのでギリ魔人化せずに済んだ感じです。