イリヤ救出回だ!
「……嘘」
魔術による雪と氷の結界に覆われたドイツにあるアインツベルン城。
かつてセイバーが召喚された礼拝堂に、一人の白いローブに白い髭の翁、アインツベルンの当主であるユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが祭壇の前で数名のホムンクルスを供にし、扉側には幼い幼女、アイリスフィールと切嗣の娘であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、信じられない言うような顔で呟いた。
「事実だ。第四次聖杯戦争で衛宮切嗣は敗北し、貴様と母を見捨てて逃げ出した」
半分は嘘である。
ユーブスタクハイトも聖杯戦争の詳細はまだ知らない。
しかし戦争終結の報が知らされてから約一週間が過ぎても切嗣からの連絡はない。
もっとも連絡があっても聖杯を手に入れられなかった時点でユーブスタクハイトは彼を裏切り者として処罰するつもりでいた。
そして現在、彼は目の前の少女を第五次聖杯戦争の聖杯の器とする為にその心を、希望を絶望で砕こうとしていた。
「嘘よ! だって、だって二人とも帰ってくるって言ったもん!」
イリヤスフィールが涙を流しながら首を振って否定する。
「お前がそう思うのならそう思うといい。しかし事実は変わらぬし、今後はお前にもアインツベルンの魔術師としての教育も始める。お前は間違いなく歴代で最高の聖杯の器となるだろう」
「ひっ!?」
聖杯の器という単語に、イリヤは嘗て見た悪夢を思い出して短い悲鳴を上げる。
幼い自分の体に入り込んでくる七つの塊。それが自分を内側から食い破る悪夢。
「いや、いやだ。助けてお母様、助けてキリツグ」
その場座り込んで泣きじゃくるイリヤスフィールに、身内とは思えぬほど冷めた表情のユーブスタクハイトが見下ろし、そして周りのホムンクルスに告げた。
「部屋に連れて行け」
無機質な表情で淡々と命令をこなすホムンクルス達。
「ううう、ああああ!」
伸ばされた手が、少女には悪魔の手に見え、大声で泣いた。
「子供相手に随分と酷いことをする」
ヒュン。という風切り音と供に……一本の白い湾曲した短刀がイリヤスフィールの前に刺さり、伸ばされていたホムンクルスの腕がズルリと落下する。
「……え?」
緑色の外套を脱ぎ捨てた赤い外套を羽織った男が、イリヤスフィールを護るようにその場に現れる。
「使え」
「え?」
白髪に褐色の肌をした男性が一つのクリスタルをイリヤスフィールに手渡す。
「《
会いたい人、その言葉だけでイリヤスフィールは躊躇い無く動いた。
「《
イリヤスフィールの身体が光り輝いてその場から消える。
「馬鹿な。転移の魔術礼装だと? いや、それより貴様、よくも聖杯の器を! アレは我等の最高傑作となるはずだったのに」
「器、アレ、か。なるほど。実際に自分で見るとの他人から聞かされるのとでは、随分と違うものだ。だがお陰で遠慮無く剣を振るえる」
赤い外套の青年が一言呟くとその手に新たな双剣が現れる。
「さて御老体。マスターの命令でもあるが、個人的な八つ当たりも含め、貴様を葬り去るが……別にアインツベルンその物を滅ぼしてしまっても構わんだろう?」
不適に笑った男の顔が気に入らなかったのか、珍しくユーブスタクハイトは顔を顰め、短く呟いた。
「殺せ」
飛び掛るホムンクルス達、そして逃げて援軍のホムンクル達を呼びに向かおうとするユーブスタクハイト。
しかし、彼は知る由もなかった。
目の前の男が英霊である事。
そして何より……その英霊の宝具が、結界の類だと言う事に。
「――
礼拝堂で赤い外套の英霊、アーチャーが戦っている頃、城ではホムンクルスを薙ぎ倒しながら城を破壊する二人のマスターと彼等に従う四人のサーヴァントの姿があった。
「「ヒャッハー略奪だ!!」」
「テンション高いな奏者達よ」
「まあね。というか実際問題今後の衛宮家の事情を考えるとお金とか取引に使える魔術書とか貰える物は貰っとかないとね」
「そうね。活動にはお金がかかる物だもの! それに今回は人間はいないから子ブタから遠慮無くやっていいって許可も出てるし、それにこいつらの血、とっても魔力の純度が高いの! ああ、最高だわ!!」
「にしてもギルガメッシュさん、こういう火事場泥棒なマネ、貴方はお嫌いでは? アーチャーさんも珍しく自ら先陣を切っていますし」
「贋作者は知らん。何、あの感情の芽生えた人形に思う所がある故、一度くらいなら手助けしてやらん事も無い、と思ったまでだ」
攻め込んでくる武装したホムンクルス達相手にその一団は決して劣る事無く蹂躙していく。
もっとも戦いは長くは続かず、当主が死んだ事で他のホムンクルス達はしばらくして活動を停止させた。
「きゃっ!?」
イリヤは突然感じた風にあおられてその場に倒れる。
そんな彼女はすぐに誰かに抱き起こされた。
「大丈夫かいイリヤ……」
「……キリツグ?」
「ああ、そうだよ」
目の前には会いたいと思っていたうちの一人、いじわるだけど大好きな父親が、自分を抱き上げて困ったような笑顔を浮かべていた。
「っ~~キリツグ!」
溜まらずイリヤスフィールは彼に抱きつき、しかしユーブスタクハイトの言葉を思い出して訊ねた。
「お母様は!? お爺様がキリツグは裏切り者だって。嘘だよね。お母様もいるだよね!?」
イリヤスフィールの言葉に、切嗣は表情を変えずに後ろへと振り返り、彼に抱かれて開いたイリヤスフィールも後ろを向く。
そこには城を出て行ったときと同じ服装の母であるアイリスフィールと黒いスーツを着たセイバーの姿があった。
「お母様!」
切嗣がイリヤスフィールを地面に下ろすと彼女は急いで大好きな母の下に向かって駆け出し、彼女の胸に飛び込む。
「お母様、お母様、お母様!」
「ああ、イリヤ、イリヤ!」
お互いに涙を流しながら抱き合う親子を見詰めながら、セイバーは周りを警戒する。
しばらくしてアインツベルン城の結界が砕かれ、城から煙がある。
「どうやら成功したみたいですね」
「……これで御三家にしてホムンクルス製造の権威でもあるアインツベルンもお仕舞いか」
セイバーの言葉に答えながら切嗣が胸元からタバコを出そうとして……それを仕舞った。
「それでセイバー、君は良かったのかい。受肉して?」
「ええ。ランサー、もう一人の私も受肉しましたし、彼女とはもう少し話をしたい。それに……少しだけこの世界を生きてみようと思います」
セイバーはあのあと白野達に受肉を頼んだ。
王ではなく、平和な世の中を一人の民として生きてみよう。そう思ったのだ。
「……流石にあの感動の再会に飛び込むのは空気が読めてないかしら? でも私も早く孫を抱っこしたい!」
「マダム、どうかご自重下さい」
彼等の傍の大型ワゴンの中で、アイリスフィールの色違いの黒い服装のユスティーツァの言葉に、舞弥がいつもの冷淡な声で注意した。
彼等の襲撃から数時間後、魔術協会が訪れると城の内部は殆ど燃え尽き荒らされて金品や魔術関連の品が一切無くなっていた。
しかしそれを行った魔術師の捜索は『大量のホムンクルスの研究資料等』が魔術協会に『無料で』寄付された事で早々に打ち切られた。
良くも悪くも魔術の世界は合理主義なのであった。
もっとも資料の量が多過ぎて第三魔法や聖杯に関する情報は一切なくなっている事に協会が気付いたのはもっと後の事であった。
と言う訳で最後の御三家であるアインツベルンが滅びました。
まぁうん、サーヴァント五体に加えてサーヴァントレベルの身体能力もったマスター二人に責められたらこうなる(笑)
因みに当初はイリヤを攫うだけだったけど、多分聖杯も奪われ更には聖杯戦争も台無しにしたんだからアインツベルンは追っ手を差し向けるだろうなぁと思い、なら滅ぼすか。という結論でこうなった。
タイトルで御三家崩壊と書いたけど遠坂は生き残ったな。やったぜトッキー!