岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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と言うわけで原作の聖杯戦争一日目がスタートします。



【白野陣営、始動】

 夢の続きを見た。

 

 助けた少女と和解し必死に戦う少年。

 

 その道程で、少年はずっと探していた己の真実を知る。

 

『あなたは存在しない』

 

 少年はサーヴァントと同じオリジナルのデータを基に創られたコピーであった。

 

 少年は……現実には存在していなかったのだ。

 

 真実を知った少年。少年の戦う理由は既に無く。パートナーの英霊が、戦友の少女が言う。

 

『もう止めてもいいんだよ』

 

 少年を気遣う気持ちが溢れたその言葉。

 

 その言葉に――少年は気付く。

 

 そこには自らが培い勝ち得た者があった。

 

 だから少年は自らの死を認められない。少女の死を認められない。英雄を前に挫けられない。

 

 何故ならいつしかそれらこそが、少年の戦う理由の一つとなっていたのだから。

 

 少年は立ち上がる。そして進んだ果てに――少年はもう一人の最愛の戦友の少女を討ち、最強の少年王を討ち、全てを仕組んだ黒幕を打倒し、その身が消えるのを知りながら――聖杯戦争を終わらせ願望機を停止させた。

 

 そして次に少年が目覚めた時――そこには知らない男女の姿があった。

 

 

 

 

「…………なんだろうか。こう……いい所で話が終わる物語を見せられている気分だ」

 

 生きていた頃なら問答無用で『早く続きを書け』と物書きを呼び付けて命令しているところだ。

 

 まあそれはいい。それにしても、マスターとは中々に縁がある。まさか彼、ガウェインとも戦っていたとは。

 

 私のかつての部下のガウェイン卿。エクスカリバーの姉妹剣である太陽の聖剣ガラティーンの使い手。

 

 しかし私の知る彼とは随分と違っていましたね。

 

 私の知る彼はどちらかと言えば自己の主張を強く押し出す性格でしたが、相方である少年王には粛々と仕える騎士らしい騎士でした。それこそ少年王が間違っているにも関わらず指摘しないほどに。

 

 ……彼もまた死したことで何かを悟り得た。と言うことでしょう。

 

 今度暇な時にでもマスターに詳しく訊くとしましょう。それにしても、我がマスターの意外な正体が分かりました。

 

 空に浮かぶ月を眺め、先程の夢の光景を思い出す。

 

 岸波白野。私がマスターと呼ぶ青年は生前は元となった人物の人格データによって形成された仮初の存在でしかなかった。

 

 それは奇しくも今の我々サーヴァントとまったく同じ状態であった。何故ならサーヴァントも結局は『座』と呼ばれる場所に存在するオリジナルの情報を元に現世に現界されたクローンやコピーでしかないのだから。

 

 この事実については教えて貰っていなかった。いや、例え話されても信じはしなかっただろう。だから彼も話さなかったのかもしれない。

 

 だがそれはもはや些細な事だ。驚嘆し、感嘆し、賞賛すべきは彼の結果。

 

 彼は最後まで己のまま進み、望む中でも最良の結果を叶えたのだ。

 そして最後の光景から察するにマスターは今度こそ人間として生まれたと言うことだろう。

 

 ……だが結局第二の人生も戦いとは、我がマスターはそういう運命にあるのだろうか?

 

「ランサーそろそろって、起きてたか」

 

 マスターが黒いコートに黒いシャツ、そして黒いパンツと闇に紛れる為か、全身を黒服に身を包む。

 

「どうしたランサー?」

 

 私の異変に気付いたのか、マスターがこちらを気遣わし気な表情で見詰める。

 

「いえ、何でもありません。では行きましょうマスター。まずは何処へ?」

 

 私は立ち上がってラムレイに跨りながらマスターに指示を仰ぐ。マスターは懐から地図を広げた。

 

「まずは霊脈の収束点を見つけようと思う。聖杯ほどの物なら霊脈を利用しているのは間違いないからね」

 

 マスターが『空間の歪み』に手を突っ込み、そこから首から下げられるようなヒモがついた眼鏡を取り出してネックレスのように首にかける。

 

「やはり便利ですね。マスターのその、四次元ボックス、でしたっけ?」

 

「……いや、まぁ、言いたい事は分かるけど普通に自己の概念空間に収納しているだけだからね」

 

「ああサーヴァントが己の宝具や概念礼装を己の身の内に収納するのと同じ、でしたか。それにしては色々溜め込んでますよね」

 

「自分程度じゃそんなに沢山仕舞えないよ。必要な物だけであとは普通にサックに入れて運んでるし。さて、話が逸れたけど、この眼鏡は魔力を視覚化できる道具なんだ。まぁ、正直ずっと見てると気持ち悪いから要所要所で付けるだけだけどね。さて、とりあえずまずは下山だね。行こうか」

 

「ええ」

 

 マスターの横をラムレイに乗って歩く。夢でマスターの過去を見たせいか……どうしても気になる。

 

 果たしてマスターは、生まれ変わった挙句に戦うことになったこの第二の人生をどう思っているのか。

 

「……マスター、一つ尋ねたい事があります」

 

「ん、何?」

 

「マスターは……『今の』自分の人生をどう思っていますか?」

 

 こちらの言葉を聞いたマスターは意図に気付いたのか、しばらく考えてから答えた。

 

「まぁ、どちらかと言えば苦労や嫌な事の方が多かったけど……今、悪くはないって思えるから、きっと悪くないんじゃないかな」

 

 マスターはそこで一度言葉を区切ると真剣な表情で空を仰ぎながら答えた。

 

「なにより最終的にはこの道を進むと決めたのは自分だからね。どんな目にあっても自業自得なんだよ」

 

「後悔は無いと?」

 

「ああ無い」

 

 マスターは見上げていた視線を今度はこちらに向け、そして……優しく微笑んだ。

 

「そう言うランサーはどうなのさ――理想を捨てた事を後悔してる?」

 

 気遣わし気な表情をさせるマスターの表情と視線で理解する。マスターもまた、私の過去を見たのだと。

 

 私はしばらく考え、そして答えた。

 

「ありません。私もマスターと同じく自分の決断に、選んだ道に後悔はありません」

 

 ただ民に生きていて欲しかった。笑っていて欲しかった。

 

 その為に暴力、権力、果てには聖剣を手放し聖槍の威光に縋り。あらゆる力を使い、圧制を行い、自由を規制して国に秩序と平穏を築いた。

 

 自分で言うのもあれだが、私は間違いなく暴君だった。

 

 だが、そんな不器用な自分に付いて来てくれた部下がいたのだ。支持してくれた民が居たのだ。

 

 それを否定する事は、例え自分自身だとしても決して許さない。

 

 だから私もマスターと同じく胸を張って答えるのだ。

 

 己を通し続けたあの結末に、後悔は無いと。

 

 月が照らす中で、私とマスターはどちらからともなく笑みを浮かべる。

 

 またほんの少しだけ、私はマスターの事が好きになれた気がした。

 

 

 

 

 まさかランサーからあんな話題が出るなんて思わなかった。やはりムーンセルでの過去を見たのかもしれない。

 

 魔術回路というのはかなり深い部分で魂や精神と繋がっている。そんな回路とサーヴァントは繋がっている為、サーヴァントはマスターの、マスターはサーヴァントの『過去の主観』を夢として見る事があるらしい。

 

 もっとも、その過去は主観になっているので実際の出来事とは差異がある。だがそれは同時に本人がどんな想いでいたのかがはっきりと映し出されるという事でもある。

 

 目蓋を閉じれば先日見た光景が目に浮かぶ。

 

 今よりもまだ幼い身体と表情の『聖剣を持ったアーサー王』のランサー。

 

 相手の血でその身体を染めながらそれでも戦い続けた彼女。

 

 しかし彼女の顔に達成感は無い。

 

 戦いが終わる度に、彼女は己の背後を振り返る。

 そこに映るのは自分の理想を信じて付いてきた兵士達の屍の山。

 

 『――私は弱い』

 

 それが最初に見た彼女の過去の夢だった。

 

 そして今日、映し出されたのは彼女の治めるログレスの都の道中、王の帰還と勝利の凱旋を喜ぶ民の列。

 

 彼女はそれに『笑顔を貼り付け』やり過ごし、キャメロット城に付いたあと、彼女は一人城を抜け出し街へと舞い戻る。

 

 物陰から、先ほど自らが通った道を見詰めるランサー、そこに広がるのは……喜びの声など一切無い絶望だった。

 

 遺品を渡して回る兵に縋り付く者達。

 

 帰還途中は生きていたが治療が間に合わず死んでしまった兵に縋り泣く者達。

 

 その光景に、彼女は目を伏せるしかなかった。

 

『――私は弱い。こんな弱いままの私が王でいいのか?』

 

 己への不甲斐なさと不信感に耐えられなくなった彼女は――ひとり城の宝物へと向かう。

 

 民が望む理想の王で在る。

 高潔であり、誠実であり、献身であり、民を第一に考える。それが民が求める王の姿だ。

 だがどうだ? そのせいで結果的に私は戦場で多くの兵を死なせ、民を泣かせている。私が裁くのが遅いせいで狡猾な商人や貴族が民を苦しめている。

 

 彼女には願いがあった。

 

『民に生きていて欲しい。笑っていて欲しい。その為に自分はあの日、聖剣を抜いたのだから』

 

 彼女は険しい表情のまま宝物庫を開け放つ。

 

 そこには彼女が聖剣とは違う力を宿すもう一つの力が厳重に納められていた。

 

『私はこれ以上、民の涙を見たくない』

 

『例えその結果、私に向けられる感情が恐怖と畏怖だけだったとしても』

 

 そして彼女は『アーサー王』の象徴である剣を納め、ただの『アルトリア王』としての道を進む覚悟と共に槍を手にした。

 

 二度目の夢を見て確信する。彼女はやはり物語の様な騎士王のアーサー王ではなかったと。

 

 だがこのアルトリア王の選択を責められる者など居るはずがない。

 だって彼女は……ただ誰よりも優しかっただけなのだから。

 

 だからもしも彼女がその選択を後悔しているのだとしたら、自分が今抱いている思いを伝えようと思っていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 むしろ……先程のやりとりのお陰でより彼女を好きになれた。その事を考えれば自分の過去を見られるのも悪くは無い。

 

「マスター、そろそろ麓です」

 

「ああ。ランサーは霊体化してくれ。それじゃあさっそく聖杯を探すとしますか」

 

 ランサーに霊体化して貰い。眼鏡をかける。視界に大地から湯気のように湧き上がる霊脈の魔力、そして空気中に不規則に揺れるマナの魔力が、映し出される。

 

 さてと、とりあえず目の前の霊脈を辿りながら、高いビルでも探すかね。

 




白野の過去の夢が若干急ぎ足なのは残りの日数の関係。
原作でも一週間程で決着しちゃったからね。仕方ないね。
次回でようやくセイバーと邂逅、そして原作の開戦ですねしばしお待ちを。


【白野の能力・道具説明↓】

『概念空間』

別次元に物を収納する能力。その為決まった名称は無い。たぶん一番分かりやすいのは四次元ポケ○ト。
白野はサーヴァント同様に己の内に仕舞っている。
ギルガメッシュの収納スペースが地球の大地全てだとしたら白野はせいぜい1ルーム。射出も出来ない。
基本的に魔術関連の品やヤバげな違法品(銃等)はこっちに仕舞っている。(許可とったり魔術師に見つかると面倒なので)


『魔力探知眼鏡』

魔術師は人であれ建物であれ、それこそ土地であれ、魔力を感じる事が出来る。
そのためそれほど重要なアイテムではない。
活躍するとしたら今回のように『魔力の流れ』を見て特定の物や場所を追跡するときくらいである。

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