因みに長過ぎたので分割しました。続きは少し早めに上げる予定。
街を歩き、高いビルを探す内に運良く一つ目の収束点を見つた。
新都にある建造中の建物で看板に『冬木市民会館建設予定地』と書かれていた。
せっかくなので転移術式を施してホームポイントの一つとして設定する。これでここに逃げ込む事も可能だ。
そこから改めて当初の予定通りに高い場所を探していると程よい高さの左右に並んだビルを見つける。
路地裏へと入って人が居ない事を確認してから身体強化して左右の壁を交互に蹴って一気に駆け上り、低い方のビルの屋上へと上がる。
着地してランサーを確認しようと振り返ったその時……ラムレイと一緒に宙に浮くランサーと目が合った。
「……ラムレイって飛べたの?」
「正確には駆けるですね。しかし一瞬なんの遊びかと思いましたよマスター」
「ヒヒン」
「いや、言ってよ!」
そんなやり取りをしながら屋上から見える範囲で更に高いビルへと向かう。もちろん今度は自分もラムレイに乗せて貰って空を駆ける。
女の子の後ろに乗って更に抱きつく形になっているのがなんとも情けない光景だが、ラムレイは緊急時以外はランサーの言うことしか聞かないらしいから仕方ない。胸の感触? フルプレートだから硬いとしか分からんよ。
なんとも残念な思いを感じながらまわりからの攻撃を警戒しつつ目標のビルに着地する。
「さて、ここから確認できればいいが――《Code:
ランサーに霊体化するように頼んでから、眼鏡をかけて遠見の魔術で視覚を強化して遠くまで一気に見渡せるようにする。
……むっ。
霊脈を探そうとした瞬間、海辺で強い魔力の塊を視認する。
あれはサーヴァントだろうな。にしても霊体化してないとは珍しい。
サーヴァントは実際の肉体を持っていてもそれ全て魔力によって作られたものだ。それ故魔術師からすれば一般人とサーヴァントは見分けやすい。
もっとも霊体化されると魔力がほとんど感じられなくなるから普通は霊体化するものなのだが。
眼鏡を外して視界を良好にしてから海辺の一点を集中して視る。
視界がどんどん近く明確になって浜辺で会話する二人の女性を見つける。
一人は髪の長い白髪で色白の白い服を着た女性、そしてもう一人は――っ!?
もう一人の相手を確認した自分はその相手の外見を見て言葉を失い、無言のままランサーへと振り返る。
「どうかしましたかマスター?」
伝えるべきか……伝えるべきだろうな。
「……ランサー、落ち着いて聞いて欲しい。まず最初に自分はランサーの過去を夢で見た」
そんな前置きを口にする自分に、ランサーはどうして今その話を、と言った表情をさせる。
「その夢で、自分は聖剣を持ったランサーを見た」
一度そこで言葉を切り――意を決して先程見た光景を告げる。
「その夢で見た容姿とまったく同じ君が……あそこにいる」
自分の言葉に――ランサーはその冷めた無表情を珍しく驚愕に歪ませた。
◇
「……アイリスフィール」
「ええ。近くに居るわね」
城の周辺しか知らないアイリスフィールを慮ったセイバーの提案で二人で冬木市の新都を見回り、最後に海を見るために夜の砂浜へとやって来た二人は、突然感じた気配に先程まで浮かべていた楽し気な笑みを消し、緊迫した表情へと変える。
「人気の無い場所に移動しましょう」
「そうね。あのコンテナが積まれている場所にしましょう。切嗣も私達のことは使い魔を通して視ているはずだから、きっと来てくれるわ」
二人は気配に注意を向けながら港の倉庫街へと向かう。その間も、何故かセイバーは気配とは別の感覚を感じていた。
倉庫街へと到着したアイリスフィールは人払いの結界を施し、それが終わると同時にセイバーは黒いスーツの上に魔力によって作り上げた戦闘用の青い衣服と白金の甲冑を纏って声を上げる。
「先程からこちらを見ている者よ! 貴殿に英雄としての誇りがあるのならば姿を見せよ!」
そのセイバー挑発に、一騎のサーヴァントが姿を現す。
霊体化から実体化するその様を見詰めながら――セイバーは驚き目を見開く。
「流石にこの距離では間違いようがありませんね」
「ヒヒーーン!!」
『見知った馬』と『見知った槍』、そして顔を兜で隠しながら告げられたその言葉とずっと感じていた自身を襲う『共鳴』に……セイバーは目の前の相手が何者であるのかを悟った。
「なるほど。どうやら貴女は『理想を貫き通した』ようだ」
「馬鹿な……こんな事が起こるのか……」
「セイバー?」
狼狽えるセイバーに心配したアイリスフィールが駆け寄ると同時に……黒い騎士は兜の部分の魔力を解除してその顔を晒す。
「初めましてアーサー王……もう一人の私」
「そんな……セイバーがもう一人? でもその姿は……」
「ああこれですか。私は聖剣ではなく聖槍を選んだ結果、不老不死では無くなったので身体が成長したのですよ」
ランサーの言葉にアイリスフィールは驚きはしたものの、同時に彼女の存在に納得と焦りを覚える。
(つまり今、目の前にいるのはセイバーのもう一つの可能性の結果と言うことね。それに槍と言うことはランサーのクラスで間違いない。それにしても複数のクラスを持つサーヴァントの場合、同時に呼ばれる可能性は確かにあるとはいえ、それが私達にぶつかるなんて)
「さて、相対する前に訊いておきましょう。そこの貴女、あなた達は何故聖杯を求めるのですか?」
アイリスフィールの焦りなど無視して、ランサーが槍の穂先をアイリスフィールへと向ける。
槍を向けられたアイリスフィールはどう答えたものか一瞬迷うも、相手が自分のサーヴァントのセイバーと同じ起源ならば、こちらの想いを汲んでくれるのではないかと考え、正直に答えた。
「私は、私の願いはこの世界から争いを無くすこと。つまり恒久平和よ。聖杯ならばそれが叶えられる。そしてセイバーの願いも」
「……なんですって?」
アイリスフィールの言葉に、ランサーは眉を吊り上げて今度はセイバーに穂先を向ける。
「セイバー、貴女にも望みが有ると言うのですか?」
セイバーは向けられた視線を受け止め、剣を構えて臨戦態勢を取ったまま答えた。
「ええ。私には叶えたい望みがある。その為に死の間際に聖杯を求めて世界と契約し、サーヴァントになったのです」
死の間際という言葉に一瞬だけランサーの眉がピクリと動いた事にアイリスフィールは気付いたが、ランサーはすぐに表情を元の無表情の物に戻して続きを問う。
「いったいその望みとは何です?」
「貴女が私なら分かるでしょう?」
「いいえ分かりません。私に叶えたい願いなど無い。だから私も貴女には問わなかった。しかし望みがあると言うのなら……些か興味がある。答えて貰いましょう」
ランサーの『望みが無い』という発言に驚くセイバーであったが、目の前の自身の異様な姿から辿った結末が違うのだろうと判断し、自身の望みを答えた。
「私の望み、それは祖国を救う事です」
「祖国を、救う?」
ランサーの呟きに、セイバーは力強く頷く。まるで、その選択こそが正しいと言うように。
「そうです。私は間違え、国を滅ぼした。故にやり直すのです。今度こそ、祖国を救うために」
セイバーは剣の柄から手を離し、そしてその手をランサーへと向ける。
「ランサー、いいえもう一人の私。貴女は私とは違う道を歩んだと見える。しかしその口振りを聞くに、貴女も国を救えなかったのでしょう? だからどうか私に力を貸して欲しい。私の生き方は間違い。そして貴女も間違えた。ならば『我々以外の生き方』をすれば、行動を起こせば、きっと国を救えるはずです」
セイバーはランサーが自らの要求に答えてくれると信じて疑わぬ笑みを浮かべる。
セイバーからすれば、確かにそう思っても仕方がない。何故なら始まりは同じ存在であり、そして自分を信じて疑わなかったからこそ、セイバーは『騎士王』として在れたのだから。
故にセイバーは目の前の自分のことも信じる。きっと自分に賛同してくれると。
「私が歩んだ歴史、そして貴女が歩んだ歴史を互いに知り、過ちを認識し、そしてどちらかが聖杯で過去へと戻るのです」
その言葉を締めとしてセイバーがさあ、と言って手を更に伸ばす。
――ランサーは……片手で顔を覆い、笑った。
「く……くく……はははははははは!!」
ランサーは手で顔を覆ったまま大声で笑い出す。笑われたセイバーは眉を吊り上げ怒りを露にして叫ぶ。
「何が可笑しいのです! 他ならぬ私なら、この私の望みが、思いが理解できるはずです!」
「―――――ふざけるな」
訴えるセイバーに対してランサーは先程までの笑みを完全に消し、どこまでも冷たく冷酷な表情をし、静かにしかしはっきりと殺気を込めて言い放った。
彼女のその表情に、その言葉に、その圧に、セイバーは身を竦ませ、アイリスフィールもまた怯えて数歩下がる。
「よくもまぁ腑抜けたものだ……死の間際に望んだ事がそんな事……しかも私の半生を過ちと貶すか。こんな腑抜けた王が理想を貫いた私の末路……我が事ながら、なんと愚かで幼稚か……」
ランサーはセイバーへ失望にも似た視線を向けると、まるでこれ以上語る事はないと言いうように再度兜を纏う。
「――剣を構えよアーサー王。貴様の愚かなその願い……この『アルトリア王』が引導を渡してくれる」
「っ! アイリスフィール下がって! どうやら本気のようです!」
セイバーはアイリスフィールに下がるように命じ、引いていた身体を戻して剣を構え直す。
「相手は腑抜けても『私』だ。最初から拘束を二つ外す。行くぞラムレイ――風よりも疾く駆けよ!」
「ブホォオオン!」
ランサーが槍を前に構えると、槍、ランサー、ラムレイが紫色の放電を放ちそして――ラムレイが地を蹴る。
「――っ!?」
セイバーは直感スキルによる感覚に従って、自らの足と聖剣の刀身からの魔力放出で横にスライドするように移動する。
瞬間、セイバーを突風が襲って吹き飛ばす。
「っぐ!? 回避してこれとは我が愛馬、そして聖剣に匹敵する聖槍は伊達ではありませんね」
なんとか体勢を整えて着地したセイバーであったが、すぐに直感が働き、その場を大きく跳び退き、コンテナの上に着地する。
セイバーが飛び退くと同時にその場を紫の雷光が駆け抜ける。
「流石にやりますね」
立ち止まるも紫電を纏ったままセイバーを見上げるランサーに対し、セイバーは険しい表情で睨み返す。
(あの突進は脅威です。速く重い。とてもではありませんが正面からぶつかっては勝ち目が無い)
セイバーは宝具の開放を考えるが、ここで実行するにはあまりにも被害が出すぎると判断し、開放するか迷う。
そんなセイバーの焦りを先に来て潜伏し、状況を見守っていた切嗣が忌々し気な表情で狙撃銃のスコープ越しに眺めていた。
(まさか、もう一人のアーサー王が現れるなんて。いったいどんな奇跡が起きたというんだ。しかも敵対するなんて)
聖杯が起こした嬉しくも無い奇跡を愚痴りながら、耳に付けた通信機越しに今回の協力者に話しかける。
「
『いいえ。ただ、貴方の予想通りの場所にアサシンを捉えました。やはり昨夜のはブラフでしたね』
舞弥と呼んだ女性の言葉に切嗣がスコープをコンテナ置き場が一望出来る場所へと向ける。
そこには髑髏の仮面をつけた全身黒いタイツと黒い毛皮の腰巻を身に着けた男性のサーヴァントが眼下で繰り広げられているセイバーとランサーの戦いを監視していた。
(これで三つの事が判った。一つは言峰綺礼のサーヴァントがアサシンであること。そしてアサシンには分身のような能力があること。そして教会の監督役である言峰璃正と遠坂時臣が繋がっているということ)
何故切嗣がこれらの事を断定できたのかと言えば、それは昨晩起きた事件が切っ掛けである。
昨晩、遠坂時臣の工房であり拠点である遠坂邸にアサシンが侵入し、その際に時臣のサーヴァントと思しき黄金の鎧のサーヴァントに倒されるという事件が起きた。
その様子を白野とランサーを除く各陣営は使い魔を通して見ており、特に舞弥は使い魔に機材を取り付け映像として記録し、それを日本に来てすぐの切嗣に見せていた。
そして映像を見た切嗣はその内容に違和感を覚えた。何故ならアサシンがあっけなく殺されているからである。
アサシンには気配遮断と言う攻撃の意思を持つまでその気配を消せるスキルがクラススキルとして与えられる。
もちろんランクの高さによって効果の強弱があるにしても、それを差し引いてもアサシンの発見から撃退までの時間があまりにも短かった。
更にその後の情報で言峰綺礼が教会に保護されたことも知っていた切嗣は遠坂と言峰は繋がっているのではと予想していた。
そこに来て先ほどの死んだはずのアサシンを発見したことで、切嗣の予想の確定とアサシンの能力が判明したと言うわけだ。
因みに、白野が使い魔を送らないのは彼の魔術が使い魔の使役に適さない為、情報入手よりも居場所を隠す事を優先したためである。補足すると、もしこの世界がネット社会なら逆に白野の情報収集能力は他の陣営を圧倒していただろう。良くも悪くもこの時代にそぐわないのが彼の魔術の特徴である。
(厄介な事だ。それにしても最終的に一組しか願いが叶えられないというのに、アサシンがよく了承したものだ。いや、その名の通り最後にはマスターを出し抜く気でいるのかもしれないな)
アサシンから視界を外した切嗣はランサーのマスターを探す為に場所を移動する。
「いたか?」
『いいえ何処にも。もしかしたらこのあたりには居ないのかもしれません』
「かもしれないな。だとしたらランサーのマスターは慎重で臆病な人間と言うことなるな」
切嗣は移動しながら舞弥と無線で連絡を取りつつ、新しいポジションで改めて眼下の戦闘へと視線を向ける。
眼下では先程から同じような展開が繰り広げられていた。
ランサーのチャージをセイバーが避け、セイバーはスキル『風王結界』によって風を操りその剣に纏わせた風を放出する技『
早々に出会う二人。原作同様にセイバーVSランサーなのに原作と違って戦いにおけるお互いの温度差が酷い(笑)
因みに、当初アニメの後半のノリでセイバーの望みを選定のやり直しにしちゃっていて、あとで確認したらこの頃はまだ『過去に戻って国を救う』だった事に気付いて修正した結果……セイバーが更に空気の読めない子になってしまった。
でも個人的にセイバーの性格を考えると、自分自身に出会ったら即戦闘よりも説得してきそうだから仕方ないね!