メドゥーサが逝く   作:VISP

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FGO編 特異点F その4

 「くそ、此処もダメか!」

 

 怪しげなフードを被り、顔を隠した男が悪態を吐き出す。

 そこは冬木市内の小さな霊地の一つであり、外来の魔術師である男はこの場所を自身の魔術工房にしようとしていたのだが…

 

 「何処も先回りされていやがる!」

 

 この街に入って二日経つのに、彼は一つの霊地も抑える事が出来なかった。

 と言うのも、ランサーの仕掛けた罠が原因だった。

 神代でも屈指の魔術師が仕掛けた魔術的トラップ等、現代の魔術師の中でも特に秀でた訳ではない彼の腕では迂闊な手出しは死を意味したからだ。

 精々が些細な妨害程度しか出来ない程に、彼我の魔術師としての技量は隔絶していた。

 これといった才能もなく、時計塔に属する訳でもなく、狂気だけを抱えている野良魔術師の彼にとって、そろそろ霊地を確保しなければ、契約したサーヴァントに全力を発揮させるどころか現界を維持する事も難しい。

 

 「ぬぅ……。」

 

 契約した英霊、ライダーのダレイオス三世は難し気に唸り声を発する。

 アケメネス朝ペルシャの王だった彼にとって、軍事における補給がままならない事の危険は十二分に承知している。

 宝具に特化したライダーのクラスは、即ち燃費が悪い。

 その上、ダレイオス自身が元々燃費が良いとは言えないサーヴァントな事もあり、実質宝具を封じられた状態にあった。

 

 そして、そんな弱った敵勢力を見逃す程、ランサーは甘くなかった。

 

 「ッが!?」

 

 突如、ライダーの背中から心臓、即ち霊核を貫く様に、鮮血と共に槍の穂先が飛び出た。

 更に、その傷口はビキビキと音を立てて凍り付いていき、ライダーの動きを急速に鈍らせていく。

 ライダーとそのマスター、二人は突然の奇襲に反応する事すら出来なかった。

 

 「ぬ、ぐぅぅぅ!」

 「おっと。」

 

 だが、戦闘続行スキルにより、ライダーは背後の敵へと斧を一閃、反撃する。

 

 「ふむ、マスターは兎も角サーヴァントは中々でしたか。」

 

 改めて、奇襲した事は間違いではなかったと、ランサーは己の判断の正しさを確認した。

 体術と仙術の二つの縮地を併せた超高速移動術。

 それを用いて主従両者の完全な知覚外の距離から奇襲し、背後から霊核を即死効果を持つ槍で一突きしたのだ。

 これでもうライダーの脱落は確実となった。

 

 「では逃げますね。」

 「ま、待て!」

 

 そして、行きと同じく二重の縮地でアッと言う間に離脱していく。

 それは実に鮮やかな奇襲からの撤退だった。

 

 

 ……………

 

 

 (と言う訳で、昨夜はそんな感じです。)

 (お、おう…。)

 

 ランサー召喚から四日目。

 未だセイバーが召喚されていないのに、ライダーが脱落する事態が起きた。

 しかも方法がおもっくそ辻斬りで。

 

 (ま、通常攻撃なら令呪で何とかするのも有り得ましたが、私の槍は即死系。現代の魔術師ではどうにもなりません。)

 

 その言葉と共に、以前と同じく慎二の脳内にランサーのステータス、宝具情報が更新された。

 その名を『女神のお迎え』/ハルペー・オブ・メドゥーサ。

 冥府の神々の従属神とも言われるメドゥーサが大魔獣討伐のために冥府の水を用いて鍛えた槍。

 その効果はあらゆる分子運動の停止であり、結果として攻撃した対象を凍結させる。

 そのため、切られた相手は痛みを感じる事なく、急速に凍結し、死に至る。

 その際、魔力の動きすら阻害されるため、通常の治癒魔術による治療を阻害する上に切り付けただけでも相手に凍傷を付与する。

 しかも、ゴルゴーンに止めを刺した武器と言う事で、人外や魔性への特攻も付与されている。

 

 (お前…これえぐいな?)

 (まぁ元々大魔獣退治のために鍛えたものですから。)

 

 しれっと言うランサーに、ギリシャ神話も当然ながら知っている慎二は「あー」と唸って納得した。

 ギリシャ神話、それも彼女の参加したアルゴノーツと言えばコルキスへの大航海ともう一つ、あの大魔獣討伐作戦が最も有名だ。

 

 大魔獣ゴルゴーン。

 

 ギリシャ神話と言う多神教の世界において、一神教の如き力を持った主神ゼウスやその息子たる戦神アレスすら敗退させたと言う、テュポーンに並ぶ大魔獣。

 その発生原因に関しては全く同情できない自業自得だが…。

 

 (そりゃーあんな化け物討伐するなら、これ位は必要だろうな。)

 

 実際、シビュレが亡き後、この槍を用いてヘラクレスが止めを刺した事を考えると、実際に役に立った訳だ。

 

 (残りの偵察先はアサシン。そしてまだ召喚されてないセイバーとアーチャーか。)

 (それですが慎二。昨夜遠坂邸にてアーチャーの召喚を確認しました。)

 (はぁ?)

 

 ランサー曰く、使い魔で各御三家の様子は監視していたが、昨夜遠坂邸で高い魔力反応を感知し、召喚を確認したとの事。

 そして、召喚した英霊は何故か遠坂邸上空に召喚され、そのまま遠坂邸の二階へと墜落していったと言う。

 

 (………うっかり、かなぁ……?)

 

 遠坂家の血筋、或は魔術刻印にあると言う「ここぞと言う時にうっかりやらかす呪い」。

 それが今代の遠坂家当主にもしっかりと受け継がれている事が確認されたのだった。

 

 (桜は普段気が抜けてるけど、遠坂みたいな事は無いんだけどなぁ…。)

 

 これが間桐家の人体改造の結果とは言え、その一点だけは感謝すべきだろうか?

 

 (いや、無いな、うん。)

 

 桜への仕打ちを考え、その妄想を慎二は滅却した。

 

 (さて、後は面倒なアサシンですが……昨夜、街に魔術師が入りました。令呪は確認できていませんが、アサシンのマスターの可能性がありますので、こちらも一当てしておきます。)

 (任せる。こっちはいつも通りに目立たないで過ごすよ。)

 (えぇ、ではこれにて。)

 

 そして、スッとランサーの気配が遠ざかっていくのを感じた後、慎二は授業へと意識を戻した。

 

 

 ……………

 

 

 「あーあ、全く。何で僕が…。」

 「悪いな二人とも。オレの事を気にしなくても良かったのに…。」

 「いえ、先輩にはいつもお世話になってますから…。」

 

 その日の夕方、迂闊に後輩からの頼まれ事を受けてしまった衛宮に、それを見かねた間桐兄妹の二人を加え、僅か三人で弓道場の掃除をする事となった。

 掃除を始めたのは放課後になってすぐだったのに、終わる頃にはもうすっかり日が暮れて夜になっていた。

 チッと慎二は内心で舌打ちした。

 この時間帯になる前に衛宮と桜を帰らせたかったのに、随分と長引き過ぎた。

 長引き過ぎてしまった。

 

 「あれ…?」

 

 不意に、甲高い金属音が連続して3人の耳に届いた。

 この街の現状を知らない士郎はただ疑問を浮かべただけだが、事情を知る慎二と桜は何が起こっているのか気付き、校庭の方から漂う非日常の気配に顔色が変わる。

 慎二は弱い。

 弱いが、それは彼の優秀さを否定する材料にはならない。

 弱いなりに慎二は危険とそうでないものへの嗅覚が鋭い。

 だからこそ、現状が手遅れに近いと悟っていた。

 

 「? 何だ、グラウンドの方から…。」

 「ッ、バカ、止めろ!」

 「兄さん!」

 「桜は急いで帰れ!僕はあの馬鹿を止めるから!」

 

 そう言ってグラウンドの方へ向かう馬鹿を止めるべく、慎二は駆け出した。

 

 (ランサー!学校に来い!誰かおっぱじめやがった!)

 

 念話に短く了承の返事が返される。

 よし、これで3分以内に頼もしい味方が来てくれる。

 

 「何だよ…これ……。」

 

 そして、衛宮士郎は立ち尽くしていた。

 校庭で行われる時代錯誤な双剣と杖の戦い。

 英霊と言う、人類が行使可能な、しかし決して制御し切っている訳ではない、最大の兵器同士の衝突を目撃して。

 

 「誰ですか!?」

 

 しかも最悪な事に、杖を持った男(恐らくはキャスター)のマスターと思われるスーツ姿の女性がこちらに気付き、神秘の秘匿を実行しようとこちらに突貫してきた。

 

 「あぁクソ…逃げるぞ衛宮!」

 「ッ、分かった!」

 

 そして男子二人は全力で弓道場とは反対側の校舎へと駆け出した。

 弓道場ではあのスーツ女に桜が気づかれるかもしれない。

 だからこそ、逃げるのは校舎側しかなかった。

 

 「どうする慎二!ついこっち来ちゃったけど!」

 「凄い助っ人呼んだから三分持ち堪えろ!弓道場には行くなよ、桜が気づかれる!」

 「分かった!このままだと一網打尽だから二手に分かれるぞ!」

 「応!終わったら何か奢れよ馬鹿衛宮!」

 

 そう言い合って即座に別方向へと二手に分かれる。

 慎二は二階に、士郎は一階に。

 それを見たスーツの女性、バゼットは逃げられる可能性を低くするため、一階を選んだ士郎を追った。

 上階なら階下へ行くルートが限られていると判断したからだ。

 

 「はっ…はっ…はっ…!」

 

 士郎は走った。

 日頃から鍛えているから一般人としては随分と走れた事だろう。

 事実、彼の体力はこの高校に通う同年代に比べても上から数えた方が早い。

 しかし……

 

 「申し訳ありませんが、口封じさせて頂きます。」

 

 ゾブリと、士郎の胸板が鮮血で紅く染まった。

 相手は魔術協会の執行者、その中でも伝承保菌者にしてルーン魔術の使い手であるバゼット・フラガ・マクレミッツ。

 純粋な戦闘力ではこの時代の人類の中でもかなり上位に位置する女性だ。

 多少体力があるだけの学生など、彼女にとっては片手間の相手だ。

 それでも暗示での記憶操作ではなく、敢えて殺害を選んだのは、それが確実だしとても早いからだ。

 何せ彼女のサーヴァントは交戦中であり、敵に背を向ける訳にもいかなかった。

 そのため、折衷案として自分自身が追手となり、キャスターには相手側の足止めを頼んだのだ。

 

 「が……か……!」

 「ごめんなさい。」

 

 一方的に言うだけ言って、バゼットは士郎の背から手刀を引き抜いた。

 

 「さて、後はもう一人ですが…む。」

 

 不意にバゼットが顔を顰めた。

 相方のキャスターのクー・フーリンからそろそろ圧されてるから撤退するぞとの念話だった。

 

 「仕方ありません。後はあの遠坂の当主に任せましょう。」

 

 そう言って、バゼットは血の滴る右手袋を一振りして血を払い、その場を後にした。

 

 

 ……………

 

 

 「嘘。なんであんたが……」

 

 赤い少女の魔術師らしからぬ慈悲。

 

 

 「じゃあな坊主。もしかしたらお前が7人目だったのかもな。」

 

 青いドルイドの冷酷。

 

 

 「ふざけるな!オレは、こんな所で終わってたまるか!!」

 

 そして、魔術師見習いの少年の叫び。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「問おう。貴方が私のマスターか?」

 

 

 此処に運命の幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Fate Grand Order × メドゥーサが逝く 

 

 

 特異点F 炎上汚染都市冬木 開幕

 

 

 

 




この辺りまではFGO編とStay night編との共通部分となります。
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