ちゃんと更新していくつもりですが、今後は繁忙期に入るので遅くなるかもです。
召喚とほぼ同時、キャスターは相性最悪である筈のセイバーを相手にして、杖による打撃と刺突だけで近接戦闘で持ち堪えてみせた。
「やべぇな、一旦退かせてもらうぜ。」
「逃がすとでも!」
僅か数合で彼我の戦力差を知ったキャスターは、即座に撤退を決断した。
槍を持ってきているなら兎も角、よりにもよってキャスターの霊基の自分では分が悪いと判断したのだ。
元より自分の役目は口封じであり、その必要がなくなったのなら、此処に用はない。
思いがけず7人目のセイバーと遭遇してしまったが、情報収集としてはこれはこれで悪くはない。
「アンサズ!」
となれば長居は無用とばかりに放たれるルーン魔術の炎。
壁の様に展開された炎は高い対魔力を持ったセイバーにとっては関係ないが、放っておけばマスターには間違いなく被害が及ぶ。
一太刀でその炎を蹴散らした時には、既にキャスターは離脱していた。
そしてその直後、入れ違いになる形で凛とアーチャー、慎二とランサーが到着し、塀の前で遭遇していた。
更にそこに庭から塀に飛び乗ったセイバーまで加わり、この場に三騎ものサーヴァントが集まってしまった。
「あー……これは、どうしましょうね?」
ばったりと顔を合わせた3組は、突如訪れた三竦みに硬直してしまった。
あんぐりと口を開けて驚きに固まる凛と慎二を余所に、三騎士達は各々の得物を携え、それぞれ相手の出方を伺った。
迂闊に動けば、残り2組の標的になる。
それを警戒し誰もが動きかねて、緊張に満ちた沈黙が広がった。
「ちょ、待ってくれ!」
永遠に続くかと思われていた緊張に、不意に横槍が入った。
赤毛の少年、衛宮士郎が門から出てきたのだ。
その服は盛大に血で汚れており、彼が受けた傷が間違いなく致命傷だった事が窺える。
「慎二も遠坂も、君も!何だってこんな事してるんだ!落ち着いて武器を下げてくれ!」
「ッ、マスター下がってください!この状況では貴方を守り切れるか…!」
「遠坂も慎二も敵じゃない!二人とも知ってる顔なんだ!良いから君こそ落ち着いてくれ!」
「っぷ」
先程一度死に、更に死にかけたばかりだと言うのに、必死に争いを止めようとする少年の姿に、凛は毒気を抜かれた様に噴き出した。
「あーあ、バカらしくなっちゃった。間桐君、一旦止めるって事で良いかしら?そっちのセイバーも、マスターの意向に逆らうつもり?」
「凛、正気か?」
「あら?アーチャー、貴方あっちの二騎を向こうに回して勝てる?」
「…………。」
むっすりと黙り込み、霊体化するアーチャー。
それを見てランサーも槍を消し、慎二に問う様に視線を向ける。
「…あーもう!分かった、分かったよ!ランサー、一旦停戦!衛宮に色々聞きたい事がある!」
「ふむふむ、友人への説明義務と参戦意思の確認ですか。人が出来てますね慎二。」
「五月ッ蠅い!余計な事言うな!」
ランサーの揶揄いの言葉に、図星を突かれた慎二が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
その姿に(これが若さですか…)と、この場で最も年長者らしい感想を抱き、戦闘態勢を解除した。
「えぇっと、セイバー。助けてくれてありがとう。でもさ、一旦話を聞きたいから、家に上がってくれないかな?」
「……分かりました。私としても三つ巴は避けたい。ですがマスター、後でしっかり話をさせて頂きます。」
一方、士郎は命の危機を助けてもらった恩義もあるが、いきなり現れた美少女の圧倒的剣幕にタジタジだった。
こうして、前代未聞の三騎士とそのマスターによる話し合いが行われるのだった。
……………
衛宮邸の居間、全員分のお茶とお茶菓子が出された後に、士郎は主に凛から聖杯戦争の概要を説明された。
「聖杯戦争、か……。」
話を聞いたのに未だ信じられないとばかりに、士郎は額に手を当てて呻いた。
「正直、慎二と遠坂が魔術師だって事も驚きだけど…。」
「こっちは衛宮が魔術知ってるって事の方が驚きだよ。」
苦虫を噛み潰した様な顔で慎二が返す。
まぁ、彼としては妹を任せようと思ってた相手がこんな面倒事が群れ成して襲い掛かってくる神秘の分野に関係しているとあって、マジでどうしようかと頭を痛めていた。
「ま、これで大体事情は飲み込めたわね。後は衛宮君がどうするかだけど…。」
「あ、それなら参加するぞ。」
おや、と凛が驚きに目を丸くするが、慎二は「あ(察し)」と何かを察知し、目が死んでいく。
「人が沢山いるこの街でそんな事をするなんて見過ごせない。とっとと終わらせるためにも、オレも参加する。」
きっぱりと、断固とした意思の強さを感じさせる声音で士郎は宣言した。
「出たよ、正義の味方ムーブ…。」
その様子に、慎二は諦観の内に壊死した目で色々と思い出す。
幼馴染と言って良い付き合いの長さから、こうなった士郎が絶ッッッッッッ対に意思を曲げないのを身に染みて分かっているのだ。
小学時代、捨てられた子猫をイジメる上級生をしばき倒し、里親が見つかるまで市内中を彷徨い歩いた時。
中学時代、上級生に桜がいじめられた時、慎二が証拠固めてPTAと市の教育委員会に凸する前に、いじめっ子達を逆にぼこぼこにした時。
高校時代、バイト先で起こった事故で先輩の女性を庇って弓道の試合に出られなかった時。
そうした誰かを助けるために動く時、この親友は絶対に己を曲げたりはしないのだと、慎二は身を以て知っていた。
「そ。なら今から貴方とは敵同士…って言いたい所だけど」
士郎の宣言に凛もまた一瞬だけ魔術師としての顔となったが、直ぐにそれを霧散させる。
「生憎と、今夜はもう暴れる気は無いの。最後に聖杯戦争の監督役の所まで案内してあげるから、明日からはお互いに敵同士だからね。」
「そっか。ありがとうな、慎二も遠坂も。オレ、二人共大好きだぞ。」
「んなっ!」
その明け透けな言葉に、耐性の無い凛は頬を染め、慣れてる慎二は「またかよ…」とでも言う様に壊死した目の濁り具合が深くなっていく。
「あー遠坂遠坂。こいつ割と天然ジゴロだから、あんまり真に受けるなよ。額面通りに受け取っとけ。」
「額面って……あーあーそう言う事ね。衛宮君…」
「何だ?」
「貴方何時か刺されるわよ。」
「何でさ?」
さっぱり分かっていない士郎に、凛と慎二が深々と溜息をつく。
「ねぇ間桐君。もしかして桜って…。」
「あいつ、意外と初心だし、衛宮はこういうの鈍くてさ…。」
「おぉ、もう……。」
慎二の言葉に妹の報われなさを悟ってしまい、凛は天を仰いで嘆いた。
ごめんなさいお父様、桜が知らない内に天然男に落とされてて、しかも相手は全然それに気づいてないみたいです。
姉としてどうしてあげれば良いのでしょうか?
それとも遠坂らしく不干渉の方が良いんでしょうか?
天国のお父様お母様、どうすれば良いかさっぱり分からない凛をお許しください。
「……取り敢えず、そろそろ移動しましょうか…。」
個人的な悩みを振り払う様に、凛はこの話し合いの終わりを告げた。
「粗茶だが。」
「あ、頂きます。」
「…………。」 無言で幸せそうに黙々と茶菓子を食べている
「…私のも貰い給え。」
「私のも良いですよ。」
「! ありがとうございます!」
(ワンちゃんみたいですね。)
(全然変わってないな…。)
一方、サーヴァント組は平和にお茶菓子を消費していた。
……………
時は進み、冬木教会からの帰り道。
ふと思い出した様に、慎二は話を切り出した。
「なぁ衛宮。お前と僕とで同盟組まないか?」
「同盟?別に良いけど…。」
「お前、少しは内容聞いてから返事しろよ…。」
親友の余りの人の良さに、慎二はもう何度目か分からない頭痛を感じた。
「他の連中全部片づけるまで同盟しようって話だ。特にあのキャスターはマスター共々手強いからな。」
「あー、あれはビックリしたな…。」
心臓を素手で抉ってくるとか、一般的魔術師には絶対出来ない様な事を平然としてくる輩がマスターとか、今次聖杯戦争では間違いなく優勝候補と言える。
例えイリヤとヘラクレスでも、戦術次第でどうにかしてしまえそうのが実に恐ろしい。
「あら、この場で話すって事は私も口を出して良いのかしら?」
「寧ろお前にこそ噛んでほしい話だよ。僕としちゃ常に狙撃を警戒するのは心臓に悪すぎる。」
「そうね。私も常に奇襲を警戒するのは健康に悪そうだもの。」
バチリ、と慎二と凛の間で火花が散る。
慎二としては校庭での戦いを見る限り、あの近接も行けるキャスターと互角にやり合えるアーチャーが本領である遠距離戦で弱いとは思えない。
そのため、暫くは自分と親友の身を守るためにも、凛と同盟或は不可侵条約を結んでおきたかった。
凛としても、先日使い魔で偶然監視していた霊地での戦いとも言えない見事な奇襲をされては対処は難しいと判断していた。
「じゃ、この場の三組で同盟でどうかしら?」
「良いね。期限はどうする?」
「あら、決める必要があるの?」
にっこりと、互いに良い笑顔で言い合う二人。
この同盟はどう考えても他の勢力全部を片付けた瞬間に破棄され、同時にゴングが鳴り響く類のものだった。
しかも、同盟中も自身の消耗に注意しなければ、下手すると後ろから刺される可能性すらあった。
「そっか。なら三組で同盟だな!これからよろしくな二人共。」
しかし、そんな負の空気など何のその。
士郎の朗らかな笑みでの言葉に、慎二と凛は一瞬顔を見合わせるも、同時に深々と溜息を吐いた。
「間桐君、苦労してるでしょ?」
「分かる?いっつも僕が尻拭いなんだよなぁ…。」
げんなりと告げる慎二に、凛が哀れみの視線を向ける。
あぁこいつこれからも沢山苦労するんだろうなぁ…という意味が込められたそれに、慎二は益々凹んだ。
「? どうしたんだ二人共?」
「何でもないわよ。じゃ、同盟締結って事で良いかしら?」
「あぁ、取り敢えず僕の携帯の番号教えておくから、何かあったら連絡してくれ。」
「あ、オレのも教えておくな。」
内心、学校一の美少女の番号ゲット!とwktkする士郎。
そんな親友の内心を察して呆れつつ、今後の動きを考える慎二。
そして、あれ?そう言えば私ってば携帯電話持ってないから家電の番号しか渡せない…と今更ながら思い出す機械音痴の凛。
各々の内心は兎も角として、一先ず此処に聖杯戦争の半数の主従が同盟を組むと言う他から見れば実に理不尽な事態が発生したのだった。
「ねぇ、お話は終わり?」
だがしかし、そんな和やかな同盟締結は静かに終わる事はなかった。
新旧住宅街の境界となる坂道の上に、ソレはいた。
「……………。」
無言で佇んでいるだけなのに伝わる威圧感。
威風堂々、質実剛健、剛力無双。
そんな言葉が当て嵌まる様に、その巨漢は三騎のサーヴァントを前にして、一切の怯えを見せずに主の号令を待っていた。
そして、何か致命的なものに気付いたかの様に、ランサーは口をあんぐりと開けていた。
(慎二、撤退を推奨します。)
(はぁ?こっちは三騎士だぞ。大物が相手だからって…。)
(いやあの、先日までなら余裕かませてたんですが、ちょっとヤバいかなって。)
念話での今までにないランサーからの警告に、慎二も流石に危機感が募る。
「遠坂、衛宮。適当に相手しつつ撤退するぞ。倒そうなんて思うな。」
「は?間桐君、それ本気?」
「分かった。でも逃がしてくれそうにないぞ。」
「ランサーがこっちが全滅するって言ってる。逃げに徹するんだ、良いな?」
だが、話が纏まる前に、バーサーカーのマスターが動いた。
「私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンって言えば分かるでしょう?」
「アインツベルン…!」
凛がその名に警戒を強める。
聖杯戦争を開催する御三家。
その中でも最も聖杯戦争のシステムに詳しく、また景品である小聖杯そのものを用意する千年以上続く魔術師の一族。
こと聖杯戦争に掛ける妄執と言う点では、間桐にも劣らないホムンクルス達。
「じゃぁ殺すね。バーサーカー、特にランサーは念入りにお願い。」
「承知した、主よ。我が武勇、確と見ているが良い。」
そして、狂戦士であるにも関わらず、理性ある最強の大英雄が骨太な笑みと共に斧剣を握り、構えを取る。
「うん!やっちゃえ、バーサーカー!」
「オオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオおおおおおおおおッ!!」
地を揺らす程の咆哮と共に、アスファルトを捲り上げる程の踏み込みで、嘗ての技と知性を取り戻したヘラクレスが突撃してきた。
ヘラクレス「師よ、我が技をご照覧あれ!」
メドゥーサ「帰れください(震え声)」