メドゥーサが逝く   作:VISP

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FGO編 特異点F その8

 翌日の朝、衛宮邸の面々は死屍累々ながらも何とか起き出した。

 アーチャーには切嗣の着流しが貸され、セイバーにはアーチャーが昨夜の内に取りに行かされた凛のお古を、そしてランサーは先日調達した私服姿と言う現代に即した格好となり、朝食を摂る事となった。

 途中、キッチンを占拠していた赤い執事と紫の料理の鉄人に驚いた桜の悲鳴が早朝の衛宮邸に木霊したが、ものの10分程で打ち解けたのは完全な余談だろう。

 更に食事途中で乱入してきて騒ぎまくる冬木の虎も口八丁で丸め込みつつ、朝食らしくシンプルながらも素晴らし過ぎる料理(ランクEX)で沈黙させて、関係者一同はそれぞれ感動を表しつつ朝食を完食した。

 

 「で、ランサーはあのバーサーカーと親しいの?」

 

 朝食も終わり、お茶を淹れた後は情報交換である。

 桜を朝練に送り出した後、関係者のみとなった衛宮邸の居間にて、詰問する様に凛がランサーに問うた。

 否、真実これは詰問なのだろう。

 英霊にとって、自身の真名を知られる事は自身の氏素性のみならずスペックまで完全に詳らかにされる事を意味する。

 明確な弱点を持った英霊にとっては、それは致命傷に等しくもあり、例え同盟相手と言えどおいそれと訊いて良い事ではない。

 だが、それを押してでもあの怪物を倒すためには情報が必要だった。

 

 「えぇ、まぁ。私の弟子の一人ですし、共に戦った戦友でもあります。」

 

 にこりと、何の衒いもなくランサーが言う。

 元より明確な弱点を持たない彼女にとって、真名を知られる事は痛くはない。

 

 「慎二?」

 「仕方ないな。言って良いぞ。」

 

 とは言え、通すべき筋はあるので、仮マスターへと声をかける。

 すると、彼にとっても想定通りであったらしく、あっさりと許可が下りる。

 

 「私の英霊としての名はヘカテーのシビュレ。女神としての名をメドゥーサ。怪物としてはゴルゴーン。形無き島に生まれた三女神の末妹です。」

 

 そして、紫の髪の乙女、その起源となった者です。

 そう告げるランサーに、凛が目の色を変える。

 多くの神話で従者と共にある彼女達は常に英雄や困難に挑む者達の傍にあり、彼らに知識・技・助言を与えてサポートし、時に共に戦場に立つ事すらあったと言う。

 つまり、窮地に陥った各神話の英雄達に助言や手助けできる程の知識と実力を持った存在であると言う事だ。

 

 「そしてあのバーサーカーはギリシャ神話最大の英雄。あらゆる難行を踏破し、遂には星座となって神々に列席された益荒男。英雄の中の英雄。ヘラクレスです。」

 「馬っっっっっっ鹿じゃないのッ!?」

 

 余りのビッグネームに凛はちゃぶ台をひっくり返す勢いで咆哮した。

 というか、余りの大声に士郎と慎二は鼓膜を揺さぶられて悶絶した。

 アーチャーとランサーは耳を塞いで無事、耐久値がこの場で最も高いセイバーは平然としながら茶菓子を味わっていた。

 

 「んな超弩級の大英霊呼んだらそりゃ強いわよ!しかも何!?バーサーカーなのに理性あるとかどういう事よ!ルール違反じゃないの綺礼ーー!!」

 

 余りの非常識と言うか絶望に、凛は興奮のまま立ち上がり、テーブルの上にはしたなくも足をズンを置いて喚き叫ぶ。

 きっと愉悦神父が見たら爆笑するだろう優雅さの欠片もない醜態を晒す凛に、慎二はしかし哀れみすら抱いた。

 完全な相性召喚で大英雄の師匠(しかもチート気味)を呼べた自分らは余り人の事をとやかく言えないが、相手がヘラクレスとかふざけんな!と言いたいのは一緒だ。

 なお、士郎は学校のマドンナの素の荒れ狂う姿に夢を砕かれていた。

 

 「まぁバーサーカーで呼んだせいで宝具は『十二の試練』しか持ってきていませんでしたし、以前あった時よりもステータスが低下していましたから、恐らく令呪を用いて理性を取り戻させたのでしょう。」

 「つまり、これ以上強くならないってことね!?」

 「いえ、まだ使ってない奥義もありましたから、あれより上はあります。」

 「どないせっちゅーんじゃぁァァァァぁァァァァ!?!」

 

 限界まで仰け反りながら頭を抱えて荒ぶる凛に対し、しかし止める術は無かった。

 だって、頭抱えてるのは全員同じなんだもん。

 

 「で、その『十二の試練』の効果は?」

 「12回の蘇生魔術の重ね掛けです。後、Bランク以下の攻撃の無効化及び一度死ぬとそれを突破した攻撃に対して耐性を獲得します。」

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッッ!!!!」

 

 そろそろ人間止めるんじゃね?と言う位に暴走を開始した凛を余所に、士郎は素人らしく素朴な質問をした。

 

 「じゃぁ、どうやれば勝てるんだ?」

 「セイバーの聖剣を直撃させる事、それしか活路はありません。」

 

 ランサー曰く、耐性の獲得は一度死なねば出来ないとの事。

 なので、セイバーの聖剣のような対城宝具ならば、耐性の獲得を許さぬ内に一撃で複数の命のストックを持っていく事が出来る。

 

 「現状、我々の宝具で確実に過半を持っていく事が出来るのはセイバーの聖剣のみです。」

 「ですが、私は現状魔力不足の上、あのヘラクレスは聖剣の一撃すら凌ぎ切りました。聖剣の最大出力は使えないし、簡単に直撃させられるとは思わないで頂きたい。」

 

 ランサーの言葉に、しかしセイバーは凛々しい表情で厳しい現実を突き付ける。

 ヘラクレス。

 大英雄の圧倒的なまでのステータスと天才的な技量は、昨夜に嫌となる程に見せつけられた。

 ……が、それを言うセイバーの頬には茶菓子の食べかすが付いていて、凛々しさどころか可愛らしさしか感じられなかったが。

 

 「えぇ。ですので、二人には正式にパスを結んでもらおうかと。」

 「パスって…えぇっと…。」

 

 そこまで言って、荒ぶっていた凛が正気に戻り、顔を赤くして沈黙した。

 まぁ素人と本職じゃない者がパスを結ぶ方法なんて古今東西一つしかないから仕方ないネ。

 

 「後で適当に注射器っぽいものでも作って、士郎の血液をセイバーに飲んでもらいましょう。後、回路はあるけど開き切っていないので、そちらは凛に開いてもらうとして……凛? どうかしましたか?」

 「ひゃい!?そそそうよね!体液交換って言ってもそれでも出来るわよね!」

 

 その遣り取りに頭を傾げ、疑問符を出すセイバー主従を余所に、慎二は猫を絶滅させる程に分厚い皮を被っている知り合いの在り得ない位初心な醜態に頭を痛めた。

 お前、そんなんじゃ将来逆ハニトラに引っかかるぞ、と。

 

 「ではそう言う事で。あぁ慎二も献血をお願いしますね。昨夜は流石に魔力を使い過ぎました。」

 「あぁ分かった。」

 

 基本的に霊地からの供給頼りとは言え、昨夜の魔力消費分を回復するには2日はかかるだろう。

 慎二の血液は僅かしか魔力へと変換できないが、その僅かを気にしなければならない程度には消耗していた。

 まぁ、桜を治療して魔力供給が始まれば、それこそ現状の倍以上の魔力供給に加え、偽臣の書に使っていない残り二画の令呪も使用可能となるので、今回限りとなるだろうが。

 

 「そう言えばランサー、あのバーサーカーの剣技を食らった時、確かに死んだと思ったんだけどどうやって避けたんだ?」

 「あれですか?別に避けた訳ではありませんよ。」

 

 士郎の不意の問い掛けに、ランサーはあっさりと答えた。

 

 「私はギリシャを始め、北欧にケルト、インドに中国と各神話へと関わりがありますからね。その分多くの引き出しがある訳です。あれはその内の一つです。」

 

 そして、ランサーは何処から出したのか眼鏡をかけて解説を始めた。

 

 「特に私が多用しているのは詠唱を簡単に破棄できる汎用性の高いルーン魔術。高速接近に離脱、緊急回避を可能とする体術と仙術の縮地。そしてコレです。」

 

 ぴん、とランサーがその美しい薄紫の髪の毛を一つ抜くと、ふぅ…とそれに息を吹きかけて飛ばす。

 すると、その髪の毛は瞬く間に膨らみ、メドゥーサ本人と瓜二つの姿となったのだ。

 

 「「これぞ花果山の主たる美猴王、斉天大聖孫悟空の習得した数多の仙術の一つである『身外身の術』。所謂分身の術です。」」

 「「「「「 」」」」」

 

 分身と本体合わせ、全く同じ口調と仕草で説明してみせるランサーに一同が唖然とする。

 日本人なら誰もが知る西遊記の大英雄たる石猿、孫悟空。

 彼の持つ数多の仙術の中でも特にチートとされる術に、一同は驚きを隠せなかった。

 

 「とは言え、私では使いこなせなくて更に変化させるとはいきませんし、割と衝撃にも弱いです。」

 「まぁそれでも十分便利ですし、魔力さえあれば数の不利を覆す事も出来ます。」

 「ただ問題は」

 「増えた分だけ魔力消費が倍化するんですよね。」

 

 当然とはいえ、全く同じ容姿の同一人物が左右交互に話す様は実にシュールだが、言っている事はかなり重要だ。

 まぁ軍勢連続召喚系の宝具よりは燃費は良いだろうが。

 そして、ポンと言う軽い音と共に、ランサーの分身は消えた。

 

 「と言う訳で、魔力さえあればこれで人海戦術を取ってヘラクレスを拘束しようかと。」

 「成程。これさえあれば私が聖剣を直撃させるだけの隙を作れる訳ですね。」

 

 納得した様にセイバーは頷く。

 そして内心で思うのだ。

 あぁ、こんな部下が生前にいてくれたらそれはそれは便利だったろうなぁ…と。

 だって一人なのに使い減りしない処か増える上に超優秀で人格も問題無しとかそりゃ伝承よろしく確保するために大勢に追われるわ。

 

 「さて、話す事はまだまだありますよ。」

 

 そう言って、ランサーの軌道修正に乗って、今後に向けた話し合いは進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 なお、殆ど沈黙していたアーチャーはお茶汲み係に専念していた。 

 

 

 




身外身の術C…仙術の一種。生前、蟠桃酒とツマミセットで孫悟空から習得した。
       自身の髪の毛を媒体に分身を作成する。
       本家は更に分身が仙術の使用や変身等も行うが、メドゥーサ本人はそこまでは出来ない。
       専ら自身の身代わりに使い、魔力に余裕のある場合は一人人海戦術を行う。
       一体増やす毎に魔力消費が倍化するため、使い処を限定する必要がある。

 FGO的効果:自身に回避状態(3回)を付与+攻撃力をUP(3T)

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