朝食を終え、丁寧に手順を守って淹れられた緑茶を啜りつつ、ランサーからの見解を聞き、一同は今現在判明している情報を纏めた。
1、冬木市全域のあらゆる殆どの生命体が焼却された
2、冬木市の外からも電波や光源等が確認できない事から、焼却は最低でも地方単位で広がっている。
最悪、世界中に広がっている可能性がある。
3、何故か撃破されたサーヴァントが復活し、劣化状態で活動している。
4、現在確認できている生き残った人間は衛宮邸でランサーの封印宝具の保護下にあった3名のみ。
5、街中に焼却された人間の残骸であるリビングスケルトンが徘徊している。
6、同盟状態だったアーチャー陣営及びセイバーの安否は不明。敵側に就いている可能性あり。
「うーん、取り合えず情報収集しつつ拠点に籠って戦力強化。及び敵戦力を漸減しての遅滞戦術ですかねぇ。」
情報を纏めた後、ランサーがそう告げた。
それに慎二が疑問を呈する。
「待て、それじゃジリ貧じゃないか?」
「そうも思いますけど、『どうすれば全員生き残れるのか』が分かりません。それにここまで事態が進行すると言う事は抑止力の介入が妨げられているか、或は抑止力そのものが敗北して死に体だと考えられます。」
「そんな状態じゃ勝ち目が無い。なら戦うだけ無駄だ。とっとと逃げよう。」
「えぇ。ですがそれで生き延びる事が出来るのか、そもそも何処に逃げれば良いのか、それすら不明です。」
そこまで言われると慎二は頭痛を堪える様に片手で顔を覆って沈黙した。
抑止力が敗北する様な、世界の、人類絶滅級の危機。
魔術以外は優秀だと自認している慎二ではあるが、はっきり言って手に負えないのが現状だ。
なお、士郎と桜は何かとんでもない事態が起きているのは分かるがちんぷんかんぷんと言った様子だ。
「ランサー、調子は?」
「霊基への負荷は回復済み。魔力量も桜と礼装からの供給に、この土地からのラインも繋げましたので、戦闘行動には支障ありません。但し、宝具の連続解放及び先日のEX級封印宝具に関しては無理です。」
「十分だな。こちらの拠点は特定されてるものと考えて、敵の方が戦力は上だ。直ぐにでも移動するしかない。」
一度倒したアサシンが復活したと言う事は、今後も復活する事が考えられる。
となると、以前倒したライダーも復活していると考えられるし、セイバーとアーチャーの安否処か敵側にいる事すら考えられる。
そして、そうなれば数に任せて攻め入られて終わりだ。
ランサー単騎では物量に抗し切れない。
なお、バーサーカーに関しては心配していない。
マスター殺しに徹すればワンチャンあるけど、例え殺されて劣化状態(所謂シャドウ・サーヴァント)になったとしても敵側には絶対に従わないと断言できる。
「では士郎、ちょっと尋ねたいのですが。」
「な、なんだ?」
「お隣の藤村邸に地下室とかあります?」
「へ?」
……………
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」
咆哮と共に、結界ごと衛宮邸の塀の一部が戦車(チャリオット)による蹂躙突撃により派手に吹っ飛ばされる。
初期に脱落したライダーのサーヴァント、ダレイオス三世だ。
その姿は劣化状態となった上、従わなかったために狂化を付与された事により、完全に狂戦士と化していた。
咆哮と共に戦車を走らせ、衛宮邸を蹂躙する姿には王としての名残は無く、最早魔獣と大差ない。
「■■■■■■■■■……。」
だが、広い衛宮邸の3割程を破壊し尽くしても、目標であるランサーの姿が確認できない。
ライダーを差し向けた者からすれば、てっきり迎撃に出るものと思っていたのだが……予想以上に対応が早い。
「■■■■■■――ッ!」
そして、堕ちたライダーはまたも塀を破壊しながら、何も見つからない衛宮邸から去って行った。
「ふむ、自身の不利を察知と同時に即行で潜伏か。やるものだな。」
それを、堕ちた錬鉄の英雄は中心市街にある高層ビルからその鷹の眼を以て眺めていた。
その手には偽・螺旋剣が番えられており、もしランサーが迎撃に現れた場合はライダーごとランサーを撃破するために待機していたのだ。
どうせ聖杯の魔力によって、撃破されたサーヴァントは劣化状態であっても復活させられ、セイバーの指揮下に置かれる。
なら、高々一騎位此処で使い潰しても惜しくはない。
(とは言え、失敗に終わってしまったのだがな。)
スッと視線を衛宮邸から、嘗ての我が家から逸らし、ランサーの追跡続行のためにアーチャーは移動を開始した。
……………
「行った様ですね。念のため、もう一時間程待機しましょう。」
衛宮邸の隣、藤村組の屋敷、その秘密の地下室にて。
黒光りする大量の銃火器と実用のための刀剣類が保管されたその場所で、衛宮邸の住人達は息を潜めていた。
先程の朝食での話し合いを終えて直ぐに藤村邸に入り、中のスケルトンを排除し、士郎の解析を生かして地下への隠し扉を探り当て、其処に隠れたのだ。
周囲はルーン魔術及び高度な結界により、この狭い地下室をほぼ完全に隠蔽しており、余程高い魔術スキルや千里眼スキルを持っていなければ看破できない程の出来だった。
なお、排除したスケルトンはランサーが即興で使い魔に仕立て上げ、衛宮邸の監視のための目となっていた。
最悪、桜か士郎の持つ令呪を使用して封印宝具を発動させる事も考えており、そうなれば狂化したダレイオスや理性の低下したアーチャーだけではなく、斥候として優秀なアサシンや極上の対魔力を持つセイバーですら気づけなかっただろう。
「衛宮、こんな時に何だけどやっぱり藤村の家って…。」
「まぁ藤村組って言う位ですし…。」
「怖いけど良い人なんだぞ?オレがちっちゃい頃は遊んでくれたし、堅気の衆には手を出さないし出させない。古き良きヤ〇ザ者さ。」
一方、衛宮邸在住の間桐さんちのご兄妹はお隣さんの家業に戦慄しつつ、時間が過ぎていくのを待つのだった。
なお一時間後、破壊された衛宮邸に頭を抱える事となる。
……………
衛宮邸の片づけをした後、再度結界を構築して隠蔽精度を向上させた後、ランサーは気配遮断を使用しながら市内を探索していた。
生き残り及び友軍の捜索、そして物資の確保のためだ。
現状、恐らくは生き残っているであろうバーサーカー及びキャスター。
この二騎と同盟を組めれば、何れ来るだろう決戦においてグンと勝率を上げる事が出来る。
そして、生者である士郎達は食事が必要だが、彼らが迂闊に拠点から出るのは望ましくないし、スケルトンが徘徊する市内に行くべきではない。
となると、必然的にランサーが単独で動いた方が良くなる。
(生鮮食品類の中でも肉は兎も角野菜は多少は持つでしょうが……この様子では燃え尽きているでしょうね。)
となると、狙い目は冷凍食品系の野菜及び長期保存可能な瓶詰や缶詰の類か。
調味料の類は余裕があるとは言え、本格的なサバイバルをするとなれば、発電機及び燃料の類も欲しい。
今現在はルーン魔術で代行できているが、己に万が一があった場合を考えれば、士郎達が生き延びるための手段は一つでも多い方が良い。
今日予定していた分はもう入手したので、後は以前行った霊地に赴き、あの大焼却によって焼き切れたラインを結びなおせれば本日のミッションは完遂だ。
「っと、流石にそう都合よく行きませんか。」
しかし、予定していた霊地の上に黒く染まった騎士王の姿を視認したランサーは気配遮断を解いた。
「貴公か。やはり生きていたな。」
「斯く言う貴女は随分と墜ちた様ですね。」
互いが互いに確信していた様に言い合う。
騎士王はその直感で、ランサーは原作知識で。
まぁ、ランサーからすれば、実は此処がFGO時空だった事に大変驚いているのだが。
(魔術王とかビーストとかどうしろと言うんですかね…(白目))
内心でそんな事を考えていると、セイバーがスラリと黒く汚染された聖剣を構えた。
「貴公は危険だ。此処で消させて頂こう。」
「まぁそうなりますよねー。」
周囲には何時の間にやってきたのか、薄いながらもアサシンの気配があり、遥か遠くからの視線が刺さり、更には遠方から破砕音が徐々に近づいてきている。
どうやら敵方のサーヴァント全員が揃い踏みになるのも時間の問題の様だった。
「では、強引に突破させて頂きます。」
「やってみるが良い。出来るものならな。」
轟、とセイバーの聖剣から魔力が十字状に吹き出し、暗黒の巨剣となる。
同時、ビルの一部を粉砕しながらライダーが遂に到着し、包囲網が完成する。
迂闊に空を跳べば、それこそ遠距離からこちらを狙うアーチャーに狙撃される事だろう。
端的に言って、窮地だった。
「待 っ た ッ!!」
だが、窮地に駆け付け、それをブチ破る者こそ英雄と言われる。
ならば、真の英雄がこの場に駆け付けられない道理はない。
ビル一つを圧し折り、ライダー目掛けて殴り倒した大英雄はそんな大声と共にランサーを庇う様に彼女の前に仁王立ちした。
「師よ、お退きを。」
「イリヤスフィールは?」
師匠からの問いに、しかしヘラクレスは無念そうに首を振る事で答えとした。
見れば、その鋼を超える剛体はあちこちが炭化しており、彼がどのようにしてあの大焼却に抗ったのかを理解させた。
もう十二の試練による命のストックは無いのだろう。
そして、そうまでして守ろうとした命を、彼は結局守る事が出来なかったのだ。
「ヘラクレスか。貴公相手に出し惜しみは出来んな。」
言って、セイバー・オルタがライダーを見つめる。
すると、砕かれた戦車を捨てたライダーの周囲から無数のスケルトンが湧き出し、隊列を組んでいく。
これぞライダーの宝具「不死の一万騎兵」、アタナトイ・テン・サウザンド。
アケメネス朝の最精鋭部隊である不死隊を召喚・使役するこの宝具により、ダレイオス三世は一万もの不死者の軍勢を使役する。
無論、相応に燃費が悪いのだが、聖杯のバックアップを受けている現在、その心配はない。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」
ライダーの咆哮と共に、不死者の軍勢がヘラクレスへと殺到していく。
対するヘラクレスは、それを冷めた目線で見た。
確かに脅威なのだろう、確かに悍ましいのだろう、確かに厄介なのだろう。
だが、それだけである。
「雄雄オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ただ斧剣を両手で持ち、全力で振り下ろす。
それだけで刃の直線状にあった千を超える不死者の軍勢が木っ端微塵となった。
それに狂化している筈のライダーも呆気に取られた。
まぁ当然の事である。
征服王に敗走し続けた分際で、そのご先祖であるヘラクレスに勝てる訳が無いのだ。
「後は任せます。」
同時、粉塵に紛れてスッとランサーの姿が消える。
霊体化ではなく、仙術としての縮地による超高速離脱。
これでセイバー・オルタ達は完全にランサーを見失ってしまった。
「さぁ我が魔力尽きるまで、存分に付き合ってもらうぞ。」
斧剣を構え、大英雄は不敵に笑う。
それにセイバー・オルタは表情を変えずに聖剣を握り直し、ライダーは更なる不死隊の召喚を行う。
そして、セイバーの危機に数km先からアーチャーが矢を番える。
アサシンは未だ動く気配はなく、ただ慎重に己の出番を待ち続ける。
周囲を4騎ものサーヴァントに包囲されると言う状況で、それでもなお、ヘラクレスは笑みを止めなかった。
「死ぬが良い、ヘラクレス。此処が貴公の死に場所だ。」
「ふん、それを決めるのは貴公ではない。あぁもっとも…」
セイバー・オルタの宣言に、しかし大英雄は鼻で笑う。
やりたくもない事をやらされている正規の英霊など、初めから眼中にもない。
しかし、何処か諦めている様は実に気に入らなかった。
「我が師に怯え、数だけを頼りにする様な輩では、私には勝てんぞ。」
ビシリと、セイバー・オルタの額に青筋が走る。
それは正と負どちらであってもプライドが高く、負けず嫌いの彼女にはこれ以上ない挑発だった。
「死ね。最早何も残さん。」
「吠えるな吼えるな。子犬の様だぞ?」
こうして、サーヴァント五騎による4対1と言う異例中の異例の戦闘が始まった。
話が進まない(白目)
くそ、イベントもしなくちゃいかんと言うのに…!