メドゥーサが逝く   作:VISP

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FGO編 特異点F その14 加筆修正&後書き追加

 (あれが将来の人類悪(仮)と盾子ちゃんですか。)

 

 のっけから酷い独白で始まった。

 

 (まぁ兎も角、アサシンは退けて、現在はライダーと戦闘中ですか。)

 

 じっと気配遮断で身を隠しながら、その戦闘を観察する。

 やはり初陣だけあって、盾だけを持った風変りなデミ・サーヴァントの少女は動きが硬く、マスターとその上司である女性もこれといった支援が出来ていない。

 

 (魔力供給は辛うじて行っているようですが……これでは…。)

 

 ふと、魔力の変動を感知して周囲で一際高いビルへと視線を向ける。

 すると、やる気無さそうに戦闘中のマシュとライダーに向けて弓矢を番えるアーチャーの姿があった。

 

 「ていや。」

 「ぐはぁ!?」

 

 なので、瞬時に縮地で接近、気付かれる前に全力で蹴り飛ばしてやった。

 無論、スキルの怪力Bとルーン魔術での身体強化込みである。

 くの字に折れ曲がって吹っ飛んでいったが…まぁまだ死んではいないだろう。

 彼には士郎の成長のための当て馬になってもらいたいので、この辺で死なれると間に合わない可能性が高いし、是非死なないでいただきたい。

 

 「さて、助太刀しますか。」

 

 

 ……………

 

 

 『あのーそこで頑張ってるお嬢さんと右往左往中の魔術師二人。手助けは必要ですか?』

 

 その声が届いたのは、戦闘の最中だった。

 アサシンを撃退した後、移動していた所を戦車に乗ってやってきた巨漢のサーヴァントの襲撃を受けたのだ。

 当初こそ、その圧倒的な筋力を暴風の様に振り回して暴れ回るライダー?バーサーカー?相手でも、マシュは辛うじて持ち堪えていた。

 だが、街中にいるものよりも強い骸骨の軍勢を召喚しはじめると、その圧倒的な物量に押され始めた。

 

 「ッ、逃げて下さい二人共!私が時間を稼ぎますので…!」

 「ダメだ、マシュ!君も…!」

 

 頭ではマシュが言ってる事が正しいと分かっている。

 でも、彼女を見捨てる事なんて出来ない!

 藤丸立香はそう言って踏み止まろうとした所で、先程の声がかけられた。

 

 「■■■ッ!?」

 

 その声に真っ先に反応し、警戒態勢を取ったのはバーサーカーだ。

 流石に狂っているとは言え、一度自分を殺した相手を警戒する事は出来るらしい。

 

 「だ、誰が右往左往中の魔術師よ!?」

 『あ、手助けいらないみたいですから帰りますね。』

 

 そして、ヒステリーのままに叫んだオルガマリーの言葉に、声の主はあっさりと見放そうとした。

 内心で、どうせ此処で死んでも問題無いし、死んでから助けようかなーとか考えながら。

 

 「わーすいませんすいません手助けいります超いりますだから助けてくださーい!」

 『その言葉が聞きたかった。』

 

 が、幸いにもいなくなるより先に立香の要請が届き、声の主はあっさりと了承してくれた。

 

 「■、■■■■■■ーー!?」

 「な、北欧系の…ルーン魔術!?」

 

 瞬間、ライダー?の足元に複雑精緻な魔法陣が展開され、その動きを一瞬にして拘束した。

 こんなんでも優れた魔術師であるオルガマリーは一瞬で英霊を拘束できる程の強力な魔術を見て目を瞠る。

 

 「ではさようなら。」

 

 そして、瞬きをせぬ内に全てが終わっていた。

 一瞬紫色の何かが駆け抜けたと思った時、マシュと対峙していた巨漢の首がポン、と軽い音と共に跳んだ。

 次いで、その巨体の首から一瞬だけ鮮血が吹き出し、数秒後には先のアサシンと同様に黄金のエーテルへと解けていき、周辺にいた骸骨の軍勢も全てが消えていった。

 残ったのは破壊された街と正体不明の新たなサーヴァントだけ。

 

 「さて、全員無事ですか?」

 「あ、はい。ありがとうございます?」

 

 その人物は、美しかった。

 スラリとした長身、紫の長髪、特徴的な四角の瞳孔、女神が如き美貌。

 その全てが現代では考えられない程に整っており、神聖さすら感じられる。

 メリハリの利いた肢体を覆うゆったりとした服は……ギリシャ神話等で見られるものだ。

 雪の様な白の一枚布を肩当てで留めたキトン(内衣)の上に、黒い刺繍の入った灰色のヒマティオンを纏った姿は豪奢ではないのに女性的な美しさと中性的な凛々しさを感じさせる。

 そして、その右手に持った無骨な鉄色の長槍。

 薙刀の様な婉曲した穂先を持つその槍からは、何処か不吉な気配を感じる。

 その証拠に、マシュは未だ警戒を解かずに盾を構え、立香とオルガマリーを後ろに庇う位置を崩さない。

 

 「んー、貴方達は別の時代から来た、で合ってますか?」

 「ちょっと!質問するのはこっちよ!」

 

 あくまで話し合いの姿勢を崩さないランサーに、しかしオルガマリーが食って掛かる。

 この事態で完全に容量オーバーしているのは分かるが、しかし英霊にまで噛み付くのは自殺志願に過ぎた。

 

 「あぁ?」

 「ヒィ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 が、所詮はチキンと言われるオルガマリーでは、苛立ちを込めた英霊の威圧に耐えられる筈も無く、あっさりと謝罪を口にした。

 

 「えっと、危ない所を助けていただき、本当にありがとうございました。オレ達はカルデアって組織に所属する者で、別の時代からレイシフトでやってきました。オレは藤丸立香です。」

 「わ、私はマシュ・キリエライト、デミサーヴァントです!」

 「私はこの街の聖杯戦争で呼び出されたランサーのサーヴァント、英霊としての真名はヘカテーのシビュレです。」

 「へ、ヘカテーのシビュレですって!?」

 

 互いに自己紹介すると、立香の後ろで怯えていたオルガマリーが叫んだ。

 

 「わ、どうしたんです所長?」

 「先輩、ヘカテーのシビュレは魔術の歴史上とても重要な人物なんです。」

 

 そして、マシュは説明を始めた。

 

 

 ……… 

 

 

 曰く、ヘカテーのシビュレは西洋系一本だった現代の魔術の歴史を覆した人物だと言う。

 古代ギリシャの人物が何故そう言われるようになったのかと言うと、現代のグルジアの沿岸部に位置するカフカース(コーカサス)地方の古い地層より、ヘカテーのシビュレが遺したと思われるレシピの載った石板と青銅版が発掘されたのだ。

 神秘をたっぷり含んだソレは、発掘チームを指揮していた西洋魔術史科のロードが時計塔に持ち込んで解析に励んだ。

 そして、その内容が凄かった。

 調査の結果、通常の古代ギリシャ語で刻まれたメニューの他、魔術的な隠蔽が施された裏メニューが併記されていたのだ。

 が、この裏メニュー、時計塔に在籍する過半の魔術師では完全に再現できなかった。

 劣化再現だけでも魔術的素養の僅かながらの発育強化や一時的強化が確認されており、是が非でも再現したいと駆け回ったロードは発掘による資金不足に喘ぎながら、他のロード達にも嫌々協力を要請し、各々がこの課題に取り組んだ。

 その中には一応ゲテモノ扱いされている現代魔術科も含まれており、更に言えばその中に根源には興味無い東洋魔術(呪術)やアメリカ・アフリカ・中東等の呪術師の家系出身の生徒も多数いた。

 で、そういった東洋系の生徒達がふと気づいたのだ。

 

 「あれ、これ東洋思想の術式混じってね?」と。

 

 そこからは早かった。

 日本の神道、中華の仙術、ユーラシア各地の古い呪術に北欧のルーン魔術と、節操なくあちこちの神話や文明の術式が複雑怪奇に入り乱れた暗号だと判明したのだ。

 なら、その道の専門家達を集めて取り掛かろうとなったのだが……如何に時計塔のロード達と言えど、余所の文化形態の神秘には詳しくないし、また伝手も無い。

 なので、その伝手のある現代魔術科が方々を尋ね、何とか集めた専門家達によって謎に満ちたレシピは半年がかりで漸く解析されたのだ。

 無論、完全再現には材料や現代の魔術師の技量の問題で至れなかったものの、それでも凄まじい美味さと効能を発揮してくれた。

 何とこの再現料理、魔術回路の様な先天的な才能を伸ばすばかりか、魔術的には枯れた筈の血筋を復活させる事が出来たのだ。

 また、魔術とは関係なくとも何かしらの才能に目覚める場合もあり、大抵の怪我や病気の類も治してしまうと言う出鱈目具合だったのだ。

 この成果により、もっと他にレシピが無いかと多くの魔術師達による古代ギリシャの遺跡の発掘が盛んになった他、未だ世界に残る西洋系以外の神秘の再評価も始まる事となった。

 この一連の流れを作ったとして現代魔術科の名声が上がり、そのTOPである名講師の地位は更に不動のものとなった。

 

 なお、完全な余談だが、その名講師が料理を食べた結果、慢性的な胃炎やストレス性の眉間の皺が消えたらしい(弟子によってすぐ再発するが)。

 

 

 ………

 

 

 「と言う訳で、魔術師からすればとても有名なのよ。」

 

 と、オルガマリーが漸く興奮混じりの説明を終えた。

 

 「現代の人間にまでそう言われると、少々照れるものがありますねぇ。」

 

 が、そんな興奮もランサーにとっては意味がない。

 これでも料理の女神様、料理にその手の要素を持たせるのはお茶の子さいさい。

 それに、神代では大気中のエーテルによってその手の効果は何を食べても多少はあるので、特に胸を張る様な事でも無いと思ってるのだ。

 

 「とは言え、少々話し込み過ぎましたね。」

 

 ぐるりと周囲を見回すと、そこには大人しく話が終わるまで待っていた元冬木市民の皆様(現骸骨)が周囲をみっちりと包囲していた。

 

 「ヒィィ!?」

 「取り敢えず、包囲を突破します。案内をしますので、こちらの拠点に来て下さい。」

 

 よし、もう我慢しなくて良いな!とばかりに襲ってきた骸骨を、しかしランサーは脅威とは見ていない。

 だって、メディアの竜牙兵の方が怖いし、単に弱いし。

 

 「突破口を作りますので、走り抜けて下さい。」

 

 言って、その場から鮭飛びの術で上空に向けて跳躍、槍の投擲態勢へと移る。

 

 「『捩じ穿つ死翔の槍』!!」

 

 ゲイボルグ・フェイクと言う真名解放と共に、対軍投擲が放たれた。

 

 

 

 この一撃により骸骨達の一角が消飛び、その隙をマシュが突貫、ランサーの支援の下に全員無事に衛宮邸に辿り着く事となる。

 

 

 

 

 

 

 




現在判明してるランサーメドゥのスキル
・原初のルーン…北欧神話勢&スカサハから教わった。
・怪力B…自前。
・多重召喚…生前の逸話補正。
・身外身の術…闘将仙仏に習った。
・縮地(術&技)…同上。
・権能:料理…自前その2。
・魔眼A++…自前その3。
・戦闘続行…ランクはクラスによって変更。

判明してる宝具及び宝具相当のもの
・槍
・インド核
・劣化三段突き&燕返し
・城壁
・酒
・ゲイボルグ偽(投げ方)
・???
・???

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