メドゥーサが逝く   作:VISP

41 / 44
FGO編 幕間 その2

 「さ、色々とお話ししましょう。」

 

 にっこりと、源氏の大将は己の主を前に穏やかに微笑んだ。

 

 「色々……そうね、これから特異点修復があるんだし、事前に話し合うべきよね。」

 「違います。」

 「へ?」

 

 自室にて、紅茶とクッキーを乗せた机を挟んで己のサーヴァントと対談していたオルガマリーは唐突な否定に変な声をあげてしまった。

 

 「ここには既に私を始め、戦術にも戦略にも明るい英霊達が幾人も召喚されています。そちらの話し合いも大事ですが、先ずは我々が互いへの理解を深める事が大事でしょう。」

 「あぁ、そういう…。」

 

 頼光の言葉に、オルガマリーは納得した。

 紫髪の乙女二人に光の御子にアーサー王、そして源氏の大将。

 軍事に政治、魔術に芸術や医療と大体の分野をこなせる人材が既に揃っている。

 となれば、彼らの話を聞いてから詳細な方針を決めるのは決して悪いことではない。

 無論、最終決定権はオルガマリー、延いてはその指揮下のマスター達にある事が前提だ。

 現代の世界を救うのに死者である英霊の力を借りたとしても、最後は現代に生きる自分達が意思決定をしていかなければならない。

 決して先人達に全てを委ねてはならない事が、現代人の意地にして義務だとオルガマリーは考えていた。

 

 「えぇ。では改めまして、私は源頼光。今より千年程前の日本、平安時代にて都を騒がす多くの妖怪変化魑魅魍魎を屠った者です。」

 「私はオルガマリー・アムニスフィア。西洋魔術師の総本山たる時計塔の天文科のロードにして、アムニスフィア家の当主であり、ここ人理継続保障機関フィニス・カルデアの現所長です。」

 

 こうして、二人は初めて堂々と互いに名乗りあった。

 ただ名乗っただけ、だと言うのに、何故かオルガマリーはこれが神聖な儀式の様にも感じられた。

 今はもう、相手がバーサーカーだと抱いていた警戒心は何処かに消えてしまっていた。

 

 「私は人類史を修復し、滅ぼされてしまった世界を救済します。」

 「私は救いを求める子らに手を差し伸べ、迫る邪悪を打ち払います。」

 

 それは互いの目的であり、宣誓であった。

 それを目的に今ここにいて、二人は召喚に応じ、契約を結んだのだ。

 

 「子らって……。」

 「確かに聞こえましたよ。支えてくれる誰かを求める叫びが。」

 

 

 『遂に、遂に!私による、私のための、私だけのサーヴァントを召喚できるのね!私を信じて支えて守ってくれるサーヴァントを!』

 

 

 (あれかー!?)

 

 オルガマリーは今更ながら顔をボッと赤面させた。

 今思い出すと、なんて恥ずかしい事を口走ってしまったのだろう!

 

 「ですから、私にとっては貴女もまた大事な子ですよ。」

 

 穏やかに微笑みながら、頼光がオルガマリーに歩み寄る。

 それに相手がバーサーカーである事も忘れて、オルガマリーは頼光の浮かべる笑みに目を丸くした。

 それは、彼女が初めて見る「自分に向けられた」母性の宿った眼差しだった。

 思えば、母親は早くに亡くなり、父親の背ばかりを見てオルガマリーは育ってきた。

 だからこそ、父であるマリスビリーに褒めて、認めて、愛してほしかったからこそ、彼女は今まで勉強も魔術も礼儀作法も何もかにもを頑張ってきた。

 

 「よしよし……。」

 

 頼光の大きな胸の中に、オルガマリーは抱き締められた。

 その頭をまるで幼子にする様に、頼光は母代わりの様に……否、真実母として抱き締め、その頭を慈しみを込めて撫でていた。

 

 「頑張りましたね。今日まで本当に……。」

 

 その温かさに、その抱擁に、その母性に、その心にあった頑なさが解れ、今まで蓄積していた鬱憤が解けていくのがオルガマリーには分かった。

 

 「頑張ったの……。」

 「はい。」

 「お父様に褒めてもらいたくて、お父様に見てもらいたくて、」

 「はい。」

 「魔術も、科学も、マナーも、皆頑張ったの。」

 「はい。」

 「でも誰も褒めてくれないの。」

 「はい。」

 「皆私の足を引っ張って、陰口ばかりで、それが許せなくて。」

 「はい。」

 「いつも比べられてばかりで、お父様の弟子のキリシュタリアばかりが褒められて…」

 「はい。」

 「支えてくれてたレフも、裏切り者だったの。」

 「はい。」

 「私を褒めてくれる人も、認めてくれる人もいなかったの……!」

 「いますよ。少なくとも、母は貴女を認めています。」

 

 頼光は何時の間にか涙と鼻水を流して顔を汚していたオルガマリーを解放し、ゆっくりと視線を合わせた。

 

 「頑張りましたね、オルガマリー。よく出来ました。」

 

 そう言って、頼光は笑顔と共に改めてオルガマリーを、派閥の長でもカルデアの所長でも、況してやロードでもなく、ただ一人の寂しがり屋の女の子を正面から見つめ、認め、褒めた。

 

 「ううぅぅぅぅぅぅ……!おがああざあああああああああああああんっ!」 

 「はい、母は此処にいますよ。」

 

 泣きながら抱き着いてくる娘を、母は笑顔で抱き締めるのだった

 

 

 ……………

 

 

 「っは!今何処かで盛大な面白フラグが!?」

 「おまえはなにをいってるんだ。」

 

 一方、慎二に割り当てられた一室では、キャスターのメドゥーサと慎二が寛いでいた。

 

 「いえ、ちょっと観戦しそこねたなと。」

 「深くは突っ込まないでおくよ。」

 

 クピ、と慎二はカップに注がれた紅茶を味わう。

 間桐として、廃れたとは言え間違いなく貴種の家系に生まれた慎二は結構舌が肥えている。

 その彼をして、この紅茶は今まで味わった事のない極上品だと断言できた。

 

 「相変わらず、何処でこんなの仕入れてくるんだ。」

 「ユーラシア大陸内の食物なら大抵は自分で採ってきた後に自家栽培してますよ。特にこの茶葉はペルセポネ様も好んでいたものです。」

 

 その言葉に、慎二は噴いた。

 何気に女神御用達の紅茶とか、恐ろしい代物を飲んでいたと悟ったからだ。

 

 「おま……!そんなもんを人間の僕に飲ませるなよ!?」

 「ご安心を。あの方はギリシャの中でもまともですし、特選の中の特選品はまた別にありますから。」

 「それ、比較対象がクズよりマシって事じゃないだろうな…?」

 「まぁ怒られたとしても、精々大怨霊を仕向けられるだけですって。」

 「普通それ死ぬからな!」

 

 まぁギリシャだしね!

 

 「で、これからどうするんだ?」

 「オルガマリーの許可を取ってからになりますが、この施設の復旧及び改造ですね。」

 「復旧は分かるけど、改造もか?」

 「慎二、ここにヘラクレス級が攻め込んできたらどうなります?」

 「堕ちるな。」

 

 慎二は確信と共に断言した。

 如何に拠点側は防衛に有利だとしても、相手が城を拳一つで吹っ飛ばす規格外となれば、そんな利点など無いに等しい。

 

 「現状のカルデアでは外部からの襲撃に耐えられません。カルデアスからの磁場によって敵に探知されていませんし、人理焼却から守られていますが、さりとてそれに胡坐をかいていては何れ攻め落とされます。」

 

 尤もな話だった。

 そも、相手の拠点を叩くのは戦争での常識だ。

 況してやそれが相手側の戦略上最重要拠点となれば尚更だ。

 

 「分かった。明日にでも所長に許可を取る。他には?」

 「マスター達全員の訓練ですね。魔術と体力双方で。」

 

 まぁ何れ北米横断ツアー(基本徒歩)とかもあるのだし、これは必須だった。

 

 「まぁお前らサーヴァントを戦闘させるには、マスターのサポートが必要だし、特異点で活動するからには体力は必須か。」

 「本当なら、マスター達は拠点等に集めて防衛専門のサーヴァントを複数配置するのが理想的なのですが……。」

 

 それは聖杯大戦が開催された世界にて、赤と黒の陣営双方が取った戦術だった。

 全員敵のバトルロワイヤルではなく、サーヴァントの集団運用だからこそ出来る戦術。

 

 「贅沢に贅沢を言えば、マスター達全員をライダー等の宝具に乗せて、魔力供給を増やせれば言う事無しですね。」

 

 やはり先人の知恵は大事という事で、どちらも赤と黒の陣営が取った戦術だった。

 これを突破するには、それこそ膨大な魔力リソースを持った大英雄や更に多数のサーヴァント達をぶつける他無い。

 

 「そんな複数が乗れる宝具となると……。」

 「船とか城とか神殿ですかねー。」

 

 全部持ってる気違いもいるが、それはさておき。

 

 「取りあえず、魔力供給に関しては素材次第ですがどうにかできる宛てがありますので、その辺はお任せを。」

 「あぁ、その辺は専門家に任せる。」

 

 取り敢えず、当座の方針はこれで決まったのだが……

 

 「で?慎二としてはここはどうですか?」

 「設立目的が目的だけあって、まぁ居心地は良いよ。」

 

 無論、当初は相応に疑われ、ダヴィンチやロマニに厳重な検査をされたのだが、それさえ終われば詳細な事情説明と勧誘だった。

 それに応じたのはそれしか無かった事もそうだが、チャンスだとも思ったのだ。

 慎二と桜、士郎が穏やかに暮らす、そのための面倒事を片付けるチャンスだと。 

 まぁ実際はもっと巨大な厄介事に突っ込んでしまったんだけどネ!

 

 「それは良かった。貴方達をここに送り込んだ身としては、その辺が少し心配だったんですよ。裏切り者も出たばかりだと言いますし。」

 「ま、その辺は仕方ないだろう。」

 

 だが、少なくとも疑いが晴れた後に疑念を引きずる連中はいなかった。

 それは慎二とメドゥーサにとっては大満足の答えだった。

 何の証明もなく信じ切るお花畑も、猜疑心に凝り固まって後ろ弾をしてくる輩もいらない。

 また、常に拠点内で気を張っているもの疲れる。

 最悪の最悪として、このカルデアの乗っ取りすら企画していたメドゥーサにとって、これは実にありがたい事態だった。

 流石はマリスビリーが世界中から集めた人材、その中でも爆破テロを逃れるだけの幸運を持ち、最後の最後まで第四の獣を覚醒させなかった良心の持ち主達だ。

 

 「取りあえず、今夜はもう休みなさい。召喚で疲れているのでしょう?」

 「そうだな。今日はもう休ませてもらうよ。」

 

 そう言って、慎二は体を伸ばして欠伸をする。

 時間は既に夜10時を過ぎている。

 少し早いが、疲れた日には丁度良い。

 

 「ってお前、ベッドは……。」

 「サーヴァントには睡眠は必要ないですからねー。」

 

 霊体化するつもりだったキャスターは、しかし何を思いついたのか、丁度良いとばかりにフードを消すと、そのままベッドに潜り込んだ。 

 

 「おい……。」

 「子供の体に欲情する程飢えてはいないでしょう?さ、早めに休みますよー。」

 「分かった分かった。間違って蹴っても怒るなよ?」

 「その時は蹴り返してあげます。」

 

 こうして、互いに特に性欲とか抱いてない二人はあっさりと同じベッドで床に就いた。

 

 

 

 (ほほう、モヤシかと思えば中々の筋肉。鍛え甲斐がありそうですね。)

 (眠れない……。なんかメドゥーサから良い香りするし肌も髪も綺麗だし色々凄いしなのに無防備とかこいつ……。)

 

 が、メドゥーサの女神級の容姿に色々と削られる慎二なのだった。

 彼が眠るのは今から三時間後、憐れんだメドゥーサが暗示で眠らせてくれてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うぬぬ、久々の更新と思ったら、一話で足りなかった。
次回もコミュ回です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。