メドゥーサが逝く   作:VISP

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FGO編 幕間その3

 「ねぇライダー、貴方達二人の事、どう呼べば良いかな?」

 

 与えられた自室で、桜はライダーのメドゥーサにそう問うた。

 

 「それは……すみません、小さい方の私と相談しなければなりませんね。」

 「ううん、ごめんね、突然こんな事言って。」

 「いえ、名称を定めておかなければ、咄嗟の時に判断を誤る可能性もあります。寧ろ早ければ早い方が良いでしょう。」

 

 咄嗟の判断や早急な呼びかけが必要な場面で、いちいち「大きなメドゥーサ」と「小さなメドゥーサ」等と長い呼称で呼び分けてなどいられない。

 

 「それにしても、此処がカルデアですか……。」

 

 しげしげと、ライダーはカルデアのマイルームという環境を隅から隅まで眺めていく。

 

 「そんなに珍しい?」

 「いえ、構造自体はそこまで。ただ、少しだけ感慨深いな、と。」

 

 眼帯に隠され、表情の余り変わらないし分かりにくいライダーだが、どうやら結構上機嫌らしい。

 まぁ、この彼女は大凡原作と言われる世界線のそれに最も近い性質を持っている。

 自分によく似て、しかし既に救われているマスターの下で、大義名分ばっちりの立場で戦えるのだ。

 彼女からすれば、これ以上ない程の好条件と言えた。

 

 「ふふ、気に入ってくれたのなら良かった。ギリシャ生まれの貴方達に合わせた住居ってなると、バルテノン神殿みたいなのを想像してたから。」

 「あれは確かに神霊向けですが、外向けの謁見用でもあります。普段使い用の私室はまた別の個室があるんです。」

 

 有名所の神霊は大抵従属神や妖精に精霊等をメイド代わりにしているので、自身の権威の誇示も合わせて大仰な建物になる傾向が高い。

 しかし、メドゥーサらの住んでいた形無き島は三女神を除けば後は普通の生き物(神代基準)ばかりであり、手先が器用かつ成長して力も強いメドゥーサが生活全般を担当していた。

 姉二人?男を破滅させたり貢がせたりして家計に僅かなりとも貢献していたが、根本的に生活能力0なので、メドゥーサを扱き使って生活していた。

 まぁ余りにも扱き使いまくって愛想尽かされて出ていかれたのだが、その辺のことはさておき。

 

 「しかし今後の事も考えますと、やはり部屋数が足りなくなるかもしれませんね。」

 「え、どうして?」

 「冬木とは違って、今回の召喚は魔力さえあれば制限はありません。つまり、今後も英霊はどんどん増えるという事です。」

 

 不幸中の幸いか、カルデア職員の殆どが先の爆発によって死亡したため、部屋数が足りなくなる事はよほどの数が召喚されない限りは大丈夫だろう。

 

 「そうなると、やはり部屋をリフォームしたいという声が大きくなりそうですね。」

 「うん、ただ今は余り余裕がないから…。」

 「まぁその辺は小さい私に任せましょう。基本凝り性でこういうのは好きですからね。」

 

 宝具すら殆ど自作してるメドゥーサ(例外は城壁)である。

 今更部屋の一つや二つ、十や二十はどうという事はない。

 そも、形の無い島で気まぐれな姉二人相手にリフォームやガチの改築等も既に経験済みである。

 

 「処で桜、いい加減に士郎に告白したのですか?」

 「な、なななななななななな!?なんでいきなりそんな話になったの!?!」

 

 唐突過ぎる話題転換に、桜は動揺のままに叫んだ。

 

 「桜、よく考えてください。このまま手を拱いていれば、何れセイバーや今後召喚されるサーヴァントに掻っ攫われる可能性はとても高いのですよ。」

 

 実際、相性召喚ってそういうのありますしね、としれっとライダーは言ってのける。

 事実、触媒の無い縁召喚の類は比較的異性同士が召喚されやすい。

 その上、相性も良いのだから、切っ掛けさえあれば「そういった関係」に成りやすい。

 

 「どど、どうすればよいの…!?」

 

 顔を真っ赤にし、錯乱して全く考えの纏まらない桜は、目の前の自分と相性召喚された信頼するサーヴァントに問う。

 それを待ってましたとばかりに、ライダーは喜色を隠さぬままにちょろいマスターを安心させるべく僅かばかりの笑みを浮かべた。

 

 「私に良い考えがあります。」

 

 そして、何故か特大の失敗フラグを立てた。

 

 「良い考え?」

 「そうです、とても良い考えです。」

 

 すっと極自然に眼帯を外し、その魔眼で以て軽い暗示をかける。

 すると桜の目はぐるぐると渦巻きを描き始め、酩酊に近い状態となっていく。

 

 「これさえ出来れば、奥手な貴方も鈍チンの士郎に自分の気持ちを伝えられます。」

 「先輩に……伝える……。」

 

 みょいんみょいんみょいんと何か変な電波でも出てるのか、桜はぶつぶつとライダーに言われた内容を繰り返す。

 

 「勝負服に着替え、相手の手を握り、体を摺り寄せ、思いを告げるのです。大抵のあの年頃の少年相手なら、それで堕ちる=ベッドインですよ。」

 「勝負服……摺り寄せ……ベッドイン……。」

 

 確かに大体当たってると思うが、普段の桜なら羞恥心と好意から絶対にしない行動だ。

 だがしかし、今現在の彼女はライダーの暗示(と言うか毒電波)によって正気を失っている。

 今の桜に常の優しさと常識的な判断は期待できなかった。

 

 「お膳立てはこちらで行います。勝負服の準備も、邪魔者の排除も。後は貴女の決断だけですよ……?」

 「わわわたたたたししししはははははははは……。」

 

 がくがくと瘧の様に震えながら、桜は何とか決定的な決断から逃れようとする。

 一人の乙女として、恋する少女として、その様なはしたない真似は断じてしたくない。

 だがしかし、それであの鈍チンの少年をものに出来るのならば……!

 

 (ま、お膳立ての分はしっかりお零れを頂きますが、ね。)

 

 内心でにたりと笑みを浮かべるライダー。

 現在のカルデア、特にマスターである3人の少年達は実に彼女好みの魂の輝きと才覚を持った稀有な存在だった。

 包容力の立香、正義漢の士郎、そして意志力の慎二。

 そんな極上の少年達を指を咥えて見て堪える事は、この混沌・善のメドゥーサには出来なかった。

 

 

 が翌日、桜の様子に気づいたキャスターのメドゥーサに気づかれ、どつき倒される事となる。

 

 「桜の応援はもっと普通な手段にしなさい。」

 「仕方ありませんね。」

 

 そういう事になった。

 

 

 ……………

 

 

 「その、士郎、本当に申し訳ありませんでした…。」

 

 マイルームにて、未だ暗い顔をしたままのセイバーは、そう言って士郎に何度目かも分からない謝罪を行った。

 

 「良いって。オレはもう十分謝ってもらったからさ。明日、改めて所長達に謝ろう。それでもう十分だよ。」

 

 そう言って、士郎はセイバーを許した。

 自身を裏切り、人理を焼却した者へと与したアルトリア。

 しかし、その行動は人理を守るためのものだったと、キャスターの方のメドゥーサが証言した。

 

 『彼女の行動、戦闘遅延による時間稼ぎが無ければ、カルデアは間に合わなかった。』

 『そして黒幕側、あのレフと言いましたか、彼も騎士王という強大な戦力を手元に置いた事で油断が生じていましたからね。』

 『支配下にありながら、それでも抗っていた辺りは流石の対魔力と言えますね。』

 『結果的にはどうにかなりましたが、彼女の協力が無ければ、事態はもう少し悪くなっていたでしょうね。』

 『ま、時間稼ぎの点で言えば、最大の功労者はヘラクレスですけどね!』

 

 そんなオチの付いた解説で、取り敢えずカルデアの、少なくともマスターである面々は納得した。

 そういう訳で、カルデア内では彼女を責める声は表立ってはない。

 とは言え、感情的なしこりはあるので、その辺りは今後の活躍と交流で払拭していく必要があるだろう。

 

 「それでセイバー、カルデアはどんな感じだ?」

 「私の所感ですが、よろしいですか?」

 「あぁ、頼む。」  

 

 こと戦争経験、それも国家を率いた経験もあるアルトリアにとって、このカルデアという集団はどう見えるのか?

 また、どんな長所・短所があるのか?

 そういった事に全く経験のない士郎は、その辺りが聞きたかった。

 

 「先ず、現時点で内紛の心配がないのは大きいですね。」

 「初っ端からそれかー。」

 

 すると、一番重要な情報が齎された。

 

 「私から見て、そして直感も交えてですが、やはり指揮系統が一本化されているのは大きいですね。慎二もメドゥーサ達も、ここの職員達も、皆オルガマリーをトップに据える事に関しては異論が無い。これは集団としてとても大事な事です。」

 

 更に言えば、ここカルデアには既に典型的な魔術師はいない。

 それらは全て、レフの爆破工作によって死んでいった。

 それはつまり、サーヴァント達を単なる使い魔呼ばわりする典型的な魔術師がいない事を意味する。

 それはサーヴァント達の士気を保つ上で、とても重要な事だった。

 

 「更に、支援体制も充実していますね。万能の天才ダ・ヴィンチに神話からして多才なメドゥーサ、更にカルデアの各種システム。英霊を効率的に集団運用するためのものが殆ど揃っています。」

 

 守護英霊召喚システム・フェイト。

 原子力発電システム・プロメテウスの火。

 事象記録電脳魔・ラプラス。

 疑似地球環境モデル・カルデアス。

 近未来観測レンズ・シバ。

 霊子演算装置・トリスメギストス。

 大凡英霊を戦力としてレイシフトし、人理修復を行うための施設は揃っていた。

 無論、完璧ではない。

 しかし、それは今後の運用や追加召喚した英霊次第でいくらでも補う事が出来るし、現時点でこれだけ揃っているというのは大きい。

 

 「戦いは今後更に苛烈になっていくでしょう。そうなると、戦力の拡充及び支援体制の更なる充実は絶対に必要です。」

 「どんな事が必要かな?」

 「やはり補給体制ですね。現状の士郎とカルデアから供給される魔力では、一日二発も聖剣を解放すれば翌日は宝具を使用できないでしょう。食料や施設維持のための物資にしても限りがあります。何処かで補充する必要があるでしょう。」

 

 補給の重大さは今更語る事もないだろう。

 だが、現状のカルデアではその辺りが未だに大きな問題がある。

 不幸中の幸いとして、大幅に人数が減ったため、食料の問題はすぐには来ない。

 しかし、何れ必ず対処は必要だ。

 魔力に関しては、メドゥーサに腹案があるらしく、然程問題にはならないと考えられる。

 

 「後は、マシュの様にマスター達を守る専門の防衛役が複数いてほしいですね。アサシンの様な気配遮断を持つ者を集中運用された場合、士郎以外のマスターでは対応できないでしょう。」 

 

 マスター殺しを専門とするアサシンのサーヴァント。

 如何に強力なサーヴァントを召喚しようとも、マスターは只の生身の人間だ。

 彼らを狙うのはサーヴァントを撃破するよりも遥かに手っ取り早い。

 

 「他には、集団移動を可能とする乗り物や回復要員ですね。」

 

 如何に汎用性の高いメドゥーサ、そしてクー・フーリンがいるとは言え、彼彼女らを支援要員として使うには余りにも勿体無い。

 無論、キャスターのメドゥーサに関しては、そうする方が正しいのだが、現状他者を治療できる者が少ないのは問題だった。

 支援役は集団戦において真っ先に狙われるため、目標を分散する意味でも、やはり一人は専門家にいてほしい。

 

 「そっか。その辺りも明日話さないとな。」

 「えぇ。やるべき事は山積みです。」

 

 二人の目には、意志の輝きがあった。

 正道を行き、成すべき事を成すという意志の光が。

 触媒があったとは言え、やはりこの二人の召喚はとても相性が良かった。

 

 「でもま、取り敢えず。」

 「取り敢えず?」

 「もう遅いし、今夜はもう寝よう。」

 「あ」

 

 話し込んでいたセイバーはそこでハッと部屋の壁にかけてある時計を見る。

 時間は既に23時を回っている。

 良い子ならとっくに眠っている時間帯だ。

 

 「す、すみません士郎!貴方への配慮を忘れていました。」

 「良いって。オレが頼んだんだしさ。」

 

 そしてさぁ寝ようとなった時、問題が発生した。

 

 「あ、セイバーの寝床……。」

 「士郎、その、私は霊体化できませんし、この時間帯にオルガマリー達を起こすのも…。」

 「あ~~……。」

 

 士郎は天井を仰ぐ。

 この部屋には今、可愛い女の子と自分が一人。

 迂闊な男女同衾等、硬派と言うか奥手で純朴な士郎からすれば絶対に許されない事だ。

 

 「ごめんな、セイバー。オレは適当に床で…。」

 「てい。」

 「んな!?」

 

 床で寝ようと言い切る前に、士郎の視界は反転、反応する前に僅かな衝撃と共にベッドへと落とされていた。

 

 「さ、士郎も疲れているでしょう。早く寝ましょうね。」

 「ちょっと待てちょって待て!」

 「待ちません。少々恥ずかしいですが、早く寝てしまいましょう。」

 

 カルデアのシステムにより、ステータスが全盛期のそれに近くなっているアルトリアにとって、暴れる士郎を寝かしつける等造作もない。

 顔を真っ赤にして固まる士郎の横で、ドレス姿となったアルトリアも僅かに頬を朱に染めてベッドに横になるのだった。

 

 「士郎、お休みなさい。」

 「お休み……。」

 

 緊張でガチガチになった士郎がようやく眠れたのは、午前3時頃の事だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「士郎、眠りましたか?」

 

 「……今から独り言を言います。」

 

 「私は嬉しかった。」

 

 「貴方はメドゥーサ達の説明を受ける前、召喚されて直ぐでも私に触れ、慰めてくれました。」

 

 「一度は裏切ってしまった私を、信じてくれた。」

 

 「それが私には、とても嬉しかった。」

 

 「宣言しましょう。騎士として、女として。」

 

 「私は絶対に、もう士郎を裏切らないと。」

 

 「お休みなさい、士郎。どうか今だけは良い夢を……。」

 

 

 

 


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