東西交流戦。そして一切名前が語られない西方十勇士……ごめんよ。
東西交流戦の場所は川神の工業地帯の一角で行われていた。
一日目と二日目は九鬼のビルでテレビ越しに観戦していた。というか、たかが学校同士の闘争にテレビ局が出動している事に驚きである。
初戦の一年生は残念ながら川神が負けてしまった。どうやら大将が突っ走り過ぎたせいらしい。
あのテレビの前を一瞬で通り過ぎて行った、刀を持った剣士の女の子を主軸に作戦を立てれば勝てただろうに。
次の三年生の試合で、テレビ越しに懐かしい女の子を見つけた。
あっ、この子……百代だ。
黒く長い髪をなびかせ腕を組む少女。色々成長して変わってしまったが、強気で自信に満ちた目だけは、あの頃の百代のままだった。
百代は手から気のレーザービームを打ち出して、組み体操みたいに生徒が一人一人合体して作り上げられた天神館の巨人を、一発で薙ぎ払ってしまった。
結果、ものの十数分で決着が着いた。勿論百代のいる東の川神学園の勝利だ。
なんというか、才能が憎い。こちらが一歩進んでいる内に、向うは十歩、いや百歩くらい進んでいる気がした。
ま、愚痴ってもしょうがないか。無いモノは仕方ない。有るモノでやれるだけやるだけだ。
そして一勝一敗で訪れた今日の二年生の対決によって、どちらの学園が優秀かが決まる。
英雄も凄く張り切っていた。今も本陣で大将として指揮を執っている。
そんな二年生の試合を、自分は上空の九鬼家専用ヘリから見下ろして眺めていた。
良く見えるようにとドア全開で入口付近の取っ手に掴まって見ている状態で。
「おい優季、あんまり乗り出すと危ないぞ」
「あ、すいません。つい見入っちゃって」
「まあ確かに見応えのある戦いですからね」
自分と同じヘリに同行してくれた九鬼家従者部隊のステイシー・コナーさんと
ステイシーさんは金髪の長いブローがかかった髪を左右で結ったツインテールの髪型で、メイド服の上からでも分かる程のグラマーな西洋美人。
表情がコロコロ変わる表情豊かな人で、思った事を口にするタイプのようだ。
口癖はロックとファック。良い意味がロック、悪い意味がファックのようだ。
逆に李さんは黒髪のショートヘアーで体型はスレンダーなアジア系美人。
感情があまり表情に出ないクールビューティーな感じだが、結構ずばずばツッコミを入れてくる辺り、お茶目で面白い人なのかもしれない。
義経が乗っている方のヘリには
営業スマイルが完璧な、ちょっと胡散臭そうな人だったが、物腰は柔らかく、あのワザとらしいスマイルさへ直せば、クラウディオさん並みの完璧な執事になる気がする。
因みに桐山さんは大のマザコンのようで、本人にそれを言うとむしろ喜ぶらしい。
以上の三人が武士道プランに関わる残りの従者らしい。後は彼女達の部下的な扱いで、随時人員が変わるからと、紹介されなかった。
「おっ。あそこはロックにやってるじゃねえか!」
「あれは……」
ひときは大きな爆発の起こっている地点を見詰める。
そこには大筒を抱えた少女とポニーテールの髪型で薙刀を持った少女がいた。
あれ……もしかして一子か?
良く観察すると、やはり幼い頃に遊んだ一子だった。
子供の頃の面影を強く残して成長した彼女を見て『ああ、帰ってきたんだな』と、そんな懐かしい思いが自然と溢れた。
百代の時もそんな感じは得かけたが、その後のレーザービームで吹き飛んだ。
一子はどうもあの砲撃に苦戦しているらしい。
というか、あれだけの火力を使ってもいいなんて、どっちの学校もどんだけ戦うのが好きなんだよ。
暫くすると赤毛で眼帯つけて、トンファーを装備した軍服を着た女性が、一子を助けに来てくれた。というかなんで軍服?
「んん? ありゃもしかして猟犬じゃねえか?」
「確かドイツ軍に所属している軍人でしたか?」
あ、マジな軍人さんだったんだ。てことはヒュームさんと同じで誰かの護衛で学校にいるのかな?
というかドイツ軍てことはエイミーさんと同じ軍の出身か。彼女は元気にしているかなぁ。
「ああ。あいつの部隊の横槍のせいでアーノルドが……あ、ダメだ落ちる」
「えっ。落ちる?」
さっきまで陽気だったステイシーさんが急にその場で落ち込んでしまう。
「ステイシーは元傭兵で、仲間の死を沢山見過ぎたせいか、戦場のフラッシュバックを起こすと気分が落ち込んで鬱になってしまうんです」
「それは……辛いですね」
今の自分はかつての友人達の死も、その時の思いも、克明に思い出せる。
気付けばステイシーさんを抱きしめていた。
「大丈夫です。ステイシーさんが彼らのことを覚えているなら、きっと彼らは笑ってくれていますよ。だから大丈夫」
「……なんでそんな事、お前に分かるんだ……」
「自分も友達を亡くした事がありますから。その内の一人が言っていたんです。『覚えてくれているだけでいい。それだけで良かったんだ』って。もちろん最後を看取れた自分の方がステイシーさんの何倍も恵まれているのは分かっています。でも、少しはステイシーさんの気持は分かるつもりですから、悲しい気持になったらいつでもこうしてあげます。だから元気を出してください」
かつて気落ちした自分にサーヴァント達がしてくれたように、ステイシーさんを抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「あ、あ~うん。もう大丈夫! 大丈夫だから放してくれ」
ステイシーさんが顔を少し赤くして、慌てたようにこちらの腕を解いて離れる。
そんなステイシーさんを見て、李さんが苦笑しながら呟いた。
「……そんな恥かしがらなくても」
「ファック、うっせー! 絶対ヒュームのおっさんやあずみには言うなよ!」
「言いませんよ。傍から見ていた私も、ちょっとキュンとなりました。これが所謂天然ジゴロ、という奴でしょうか?」
「私に聞くな」
何故か李さんは僅かに頬が赤く、ステイシーさんは耳まで真っ赤にしてそれぞれ別方向に顔を向けて戦いを見守る。
なんかまずいことしたかな? ただステイシーさんに元気になって欲しかっただけなんだが。
「それよりほら、あずみが戦ってるぞ」
ステイシーさんが何かを誤魔化すように慌てて指を指すので、そちらに視線を移す。
そこではあずみさんと忍者が戦っていた。というか、あんな一目で『忍者です』て、丸分かりな格好の人も居るんだな。
「ホントですねって、爆発した!?」
あずみさんが拘束されて宙に上がると、その途中で二人が爆発した。
「相手の拘束を解くためにあずみが自爆したのでしょう。そしてあずみの方は既に変わり身で背後を取っていますね」
あずみさんは水着姿になると、相手を逆さにして拘束し、まるで流星のように落下して相手を地面に叩き付けた。
……あれくらって生きてる方も生きてる方だな。
土煙が晴れてピクピクと震える相手を見て、この世界の人間の頑丈さに呆れる。
ホント、この世界は人間のレベルが異常な気がする。『凄いね人体』を地で行く世界である。怖いです。
ここ本当に現実だよね? 虚構世界で実はみんなデータとかじゃないよね?
自分の頬を抓って現実を再確認する。
「何やってんだ優季?」
「いや、なんか凄い戦いばかりで現実なのかと一瞬不安になったので、自分の頬を抓ってみました」
「ヒュームのおっさんの攻撃に耐えられるお前も大概だと私は思うぞ」
何故かステイシーさんに呆れられてしまった。
「おや? 軍師陣の方で何か動きがあったみたいですよ」
今度は李さんが指を指す。
そちらを見ると海から筋骨隆々のモヒカン男が上がってきて、川神学園の軍師陣の部隊の背後をついていた。
そして対峙するなり持っていた壷を頭の上で逆さにして、中の液体を自分にかぶせた。
「なんですかあれ? なんか壷の中の液体を被りましたけどって、燃やされた!?」
見た目ハーフっぽいメガネをかけた優しそうな男子が、外見に似合わず平然と相手に火をつけた。
火は凄い勢いで燃え上がり、一瞬にしてモヒカン男は火達磨になった。
「あ~あれ油だったんだな。というか躊躇無く火をつける辺り、見た目よりもロックな奴だな」
「あ、白い髪の女の子が現れましたよ」
「っ!!」
燃やされても尚突っ込むある意味二重の意味で燃え滾っているモヒカン男を、眼鏡の男子生徒の背後から現れた白髪で長髪の女の子が、モヒカン男を思いっきり上空に蹴り上げた。
だがそんな事よりも、自分はその行為を成し遂げた相手に驚愕していた。
あれは小雪だ!
見た目は大分変わっているが、所々に子供の頃の面影が残っているためすぐに分かった。
そうか、あの頼りなかった小雪が、今では大の男を一撃で空中に蹴り上げ、自分もどんだけ飛ぶんだというくらい跳躍して、これまた相手を凄い勢いで海に向かって蹴り落として沈めるまでに成長したのか。
ゆっくりと顔を上げて、夜空の星々を笑顔で見詰めながら心の中で呟いた。
小雪、自称お兄ちゃんは貴女の成長を喜んで良いのかドン引きしていいのか複雑です……なんでそんなに強くなっちゃってるの!?
叶うなら後半は声に出して叫びたかった。
百代といい小雪といい、やっぱ川神っておかしな街なんだな。
きっと二人も強くならねば川神で生きて行けなかったのだろう。
そう、全ては川神が悪い。そう思うことにしよう。そして自分は考えるのを止めた。
「ん~出撃してる西方十勇士は今ので全員終わりか?」
「おや? 先程までいた西の大将が居ませんね」
「え? あ、ホントですね。さっきまでこれでもかってくらい目立つ屋上に居たのに」
大将とその補佐らしきゴツイ顔の学生と優男風の学生の二人が立っていた場所には、すでに誰もいなかった。
ちょっと探ってみるか。
一気に気を放出して索敵する。
「うお? もしかして優季、気を放ってるか?」
「はい。ちょっと探ってみます……見つけました。あそこですね」
「随分索敵範囲が広いんですね。それに気配も薄いです。これは感知し難いですね」
二人が指差した方を向く。そこは工業地帯の一画で、空からも死角になっている場所だった。
「おーい地図持って来てくれ」
ステイシーさんが部下の従者部隊のメイドさんから地図を受け取る。
「えっと……ああ確かにここに僅かですがエアポケットになる場所がありますね。結構聡い大将のようです」
「でもよー大将がこそこそ隠れてる時点でってファック! なんだよ話し中に!」
ステイシーさんが耳につけた無線機からの連絡に応答する。
「義経を投入する? おいマジかよ誰の指示だ? マープル様か、了解、好きにしろ」
ステイシーさんが無線機を切って苛立たしげな表情をする。
「どうしたんですか?」
「義経を乱入させるそうだ。まあ確かにこれ以上ないくらいの宣伝にはなるだろうが、ファック、現場の私達にはもっと早く伝達しろってんだ」
「……そっか、テレビが来てるから」
「きっと義経を大々的に発表して、同時にクローン技術についての発表も行うのでしょう。人道的には今尚線引きの難しい技術ですから」
まあそうだよな。偉人だからって勝手にクローンとして蘇らせていいのかって問題だもんな。
しかも九鬼なんて大財閥じゃ生まれた後に求められるレベルも高い。
それは自分自身が身を持って体験したから分かる。
生まれた瞬間にある程度生き方が決められるのは、少し辛いよなぁ。
与一と義経を見ると特にそう思ってしまう。
「本当に今後の義経達次第って感じなんですね、武士道プランは」
「おや他人事ですか? あなたはその武士道プランと切磋琢磨している最初の一般人なんですよ? 九鬼の人間もみんな注目しています」
「……そうだった」
忘れていた。自分も結構重要な位置にいるらしい、世の中複雑だ。
「ま、お前は今のロックなままでいいと思うぜ、私は」
「むしろ今のままの方がステイシー的には嬉しいのでしょう?」
「ファック。李、なんならここでおっぱじめるか?」
どこから取り出したのか、ステイシーさんが重火器を取り出して李さんに向ける。というか間にいる自分に向けている。
「久しぶりにやりますか?」
李さんもどこから取り出したのか、その手に大きな針を数本、指の間に挟んで構える。勿論間に自分がいるんだから、自分に向かって構えている。
そして二人とも殺気を放っちお互いに睨み合う。正確には自分越しに睨んでいる。
「……勘弁してください」
ヘリ内部に移動して土下座する。人の命がかかっているんだ、土下座くらいしますとも。
周りのメイドや執事も頷いている。特に操縦しているメイドさんは物凄い勢いで頷いている。しかも若干半泣きである。気持ちは痛いほど分かります。
「はは、冗談だ冗談!」
「ええ。任務中ですし、こんな不安定な場所ではやり合いませんよ」
……できれば今度は冗談と分かる空気でやってもらいたい。
二人の傍に戻ると、ステイシーさんがまた無線でやり取りをする。
「あいよ了解。撤収だ。義経は後で地上部隊が回収する」
「回収? 怪我ですか?」
「違う。あいつ地図も持たずに飛び下りやがった。だから迎えを寄越したんだよ」
「義経ェ」
やはり義経は義経だった。
長かった。ようやく本編だ!(ゲームの時間軸的な意味で!)
そしてちゃっかりステイシーさん達も攻略開始だ!