良ければ楽しんでください。
「いやー楽しかった!!」
百代は満足だと言わんばかりの笑顔で叫んだ。が、その笑顔は現れた人物のせいで長くは続かなかった。
「ふっ。随分とお粗末な戦い方だったな」
「……ヒュームさん」
百代が新たな獲物を見付けたとばかりに口の端を吊り上げる。
百代のその様子に、呆れたような笑みと共にヒュームは溜息を吐いた。
やれやれ、少し助言してやるか。
「俺の一族が何故不死身の怪物を殺したと言われているか、その理由は知っているか?」
「いいえ」
「不死身の化け物の正体は瞬間回復を使う武芸者だったからだ。ここまで言えば貴様も理解できよう」
「……で、自分なら瞬間回復を使える私を倒せると? 試してみますか?」
百代が闘気を漲らせて不適に笑う。
百代は先程の決闘では瞬間回復を使っていない。つまり相手はその程度の相手ばかりだったと言う事だ。
「ふっ。本来ならもう少し言葉を交わしてやってもいいが、ヒントを与え過ぎてはつまらないからな。そして俺の答えだが……赤子相手に本気を出すつもりはない」
ヒュームが眼光を鋭くして百代を睨む。
「むっ」
「断言する。お前は近々負ける」
「……優季ですか?」
百代の言葉にヒュームは、ふっ。と小さく笑う。
「俺はそう考えている。が、九鬼家でお前の敵を用意もしている。ま、そいつよりは優季の方が可能性としては高いだろうが……あいつはお前との戦いでは変な拘りを見せるところがあるからな、その拘りを捨てられなければ、お前が勝つだろう」
それだけ言うとヒュームが土手の方へと振り返った。
「さあ、お待ちかねの相手が着たぞ。ギャラリーも桐山達に帰らせた。この決闘を見守るのは……俺とあの娘だけだ」
百代もヒュームの言葉に視線を土手の方に移す。
そこには小雪を連れ立って、楽しそうに笑いながら手を振る幼馴染がいた。
あいつには緊張感とかないのか?
いつもどおりの優季を見て、思わず百代は苦笑した。
「遅いぞ優季!」
「いや、これでも連絡貰ってから急いで来たんだぞ……歩きで」
「おいこら」
「ははは! まあいいじゃないか。久しぶりの川神をゆっくり見たかったんだよ」
そう言って屈託の無い笑顔を浮かべながら、優季はいつもの軽口を叩き、上着を脱いで鞄と共に地面に置く。
「さてっと……」
軽く柔軟した優季が百代の対面に立ち、一呼吸して肉体を強化する。
「
優季の顔から笑顔が消えて真剣な表情に変わって百代だけを見据える。
その豹変に、小雪と百代が息を飲み、百代はすぐに笑みを浮かべる。
「ああ、
百代は拳を、優季は掌を構える。
「合図は俺がしてやろう。おい娘、もう少し下がれ」
「う、うん」
ヒュームに促されて小雪が土手の方に下がる。
「では……始め!!」
「川神流無双正拳突き!」
百代の技の宣言と共に気を大量に纏って強化された正拳が、優季目掛けて放たれる……が、
「ぐっ!?」
「えっ!?」
攻撃をその身に受けたのは百代の方だった。あまりの出来事に小雪も驚き目を見開き、攻撃を受けた百代は軽く後ろに後退しながら、右手を突き出した優季の姿を捉える。
優季は更に左手の掌底を叩き込むために左手を突き出すが、百代は瞬間回復で瞬時に肉体を回復させつつ、優季の掌底を右足を軸に身体を回転させて回避する。
そして身体を回転させながら、百代は手刀を水平に走らせて通り過ぎざまに優季の延髄を打ちに行くが、優季はそれを上体を下げて回避し、姿勢を低くしたまま身体を反転させる。
結果、お互いに立ち位置を交換したような状態で最初の間合いに戻り、睨み合う。
「えっと、最初にユーキが何をしたのか分かる?」
小雪は最初の優季の動きだけ見落としたので、傍にいたヒュームに尋ねる。
「……優季が百代の無双正拳突きを前に踏み込みつつ首を僅かに逸らして回避し、逆に百代の腹部に掌底を叩き込んだのだ。型としては八極拳の基本の中段突きだ。まあ身体強化しているからこその速度だがな」
ヒュームは戦う二人に注視しながらも、ちゃんと小雪に説明する。
「身体強化?」
「気によって肉体を強化をして身体能力、運動能力を上げる方法だ。今の優季なら限界まで強化すれば、元々の数値の約三倍の強さで10分は戦える。まあ代償を払えば更に強くなれるがな」
そもそも気による身体強化には段階がある。
強化後、自然治癒で肉体の回復が見込めるまでの強化を第一段階と言い、基本的に強化といえばこの段階の事をいう。
簡単に言うなら自身の動きで肉体が壊れないギリギリの強化段階だ。
その第一段階以上の強化、つまり強化自体に肉体の強度が追いつかない段階を第二段階という。
第二段階は強化中に肉体の細胞の再生を行い続ける事で、自分自身の肉体を治しながら戦う。その為使用し続けている間は肉体寿命が減る。つまり寿命を削って強化するということだ。
そして再生も間に合わない程の強化で、自分を傷つけながら戦うのが第三段階という。
第一段階の強化は肉体の強度、身体能力に比例して強化の最高値が変動し、強化の割合が大きいほど、気の消費も多くなる。しかし同時に自分である程度強化の割合を調整できる段階でもある。
例えば優季は現段階では自身の元々の数値の三倍までが強化の限界だが、今後の修行次第では四倍も可能になるだろうし、優季自身が意図的に強化の割合を下げて肉体の負担や効果時間を延ばすことも可能だ。事実、優季は二倍強化なら30分は戦っていられる。
そしてヒュームが強化について小雪に解説している間、百代と優季はお互いに笑みを浮かべていた。
「やるな優季、さっきの一撃は
なるほど、優季が掌底な理由が分かった。
優季の攻撃を受けた百代が理解する。
掌の攻撃は内部破壊、打ち込まれた衝撃波は全身を内側から傷つけて行く。
しかも優季は気も同時に打ち込んで衝撃の威力を上げていた。
結果、ただの踏み込んでからの掌底が、百代も回復しなければならない程の威力となっていた。
「そっちこそ。なんださっきの膨大な気の治癒。相変わらず無茶苦茶で驚いたぞ」
なるほど、余裕な訳だ。
優季が気の扱いに長けているからこそ、百代の瞬間回復に冷汗を流す。
全身のダメージや疲労を瞬時に治癒し、全快する。
それはもはや再生の域であり、並大抵の気力では一度が限界だろうし、一度使えばまともには戦えないだろう。だが、百代にその様子はない。
それだけ百代の気の総量が桁違いって事か……だが!
優季は改めて集中する。
想定していなかったわけじゃない!
あくまでも優季が驚いたのは回復量と速度にだけたった。故に優季は動く。そして百代もまた攻める。元々百代は待つのは好きではない性質である。そして認める。優季を強者と。
百代が拳を放てば優季にいなさ、蹴りを放てば弾かれる。
優季が掌底を放てば、その腕を百代が掴もうとする。しかし腕の軌道を変えられて避けられる。
百代が強引に踏み込んで拳を当てれば、同時に気を纏った掌底を優季が容赦無く叩き込む。
「はは、ははは! 楽しいぞ優季! 昔は数度打ち合っただけで終わっていたのに!」
「こっちも成長してるってね!」
拳飛び交う中で二人は会話を繰り返す。優季は辛うじて、百代は余裕を持って。
その様子をヒュームが見詰める。
「楽しそうに戦う。そうは思わんか鉄心、そして子犬」
「ほほほ、そうじゃのう」
「羨ましい。私も最初から真剣に行くべきでした。それと私は子犬ではありません」
「うわっ!?」
いつの間にかヒュームの横に立っていた鉄心と、眼帯を取ったマルギッテに驚いて、小雪がその場から飛び退く。
「何故符術を使わんのかのう?」
「ふっ。以前アイツに聞いたが、どうやら百代と改めて戦う時が来たら、最初は体術で攻めたいと言っていた。後の事はその時考えるとも言っていたが、どうやら最後まで体術で行く気のようだ」
ヒュームの言葉に鉄心はうむ。と唸る。
「では百代の勝ちかのう」
「ああ。百代の奴は尻上がりだ。つけ込む隙は多いが、瞬間回復がある限りは百代に分がある。何せ強引で威力が落ちた一撃とはいえ、優季にはダメージが蓄積して行く」
ヒュームの言葉どおりに百代の拳速はどんどん速くなっていった。
優季はそれを辛うじて捌き続け、決定打を打ち込める際にのみ、超高速の中段突きの
百代自身、優季の一足一倒は『一歩踏み込み、一撃打ち込む』という単純な中段突きだと見抜いている。しかし速過ぎるために対処といえば打ち込まれる箇所に気を纏う事でダメージを軽減させる事のみ。
だがそれは優季も同じで、百代の強引な一撃を打ち込まれる箇所に気を纏わせる事でダメージを軽くして辛うじて凌いでいた。
気を纏う事は、言い換えれば纏った部分に重さの無い鎧や盾を纏うようなものだ。
そのため肉体の強さはそのままだが纏った部分の強度が上がる。強度が上がるということは防御力と攻撃力が上がるということだ。格下相手ならばむしろ強化よりもメリットのある戦術だ。
つまり百代は今、優季をその程度で倒せると考えている。
しかしそれも無理もないこと。何故なら百代は今迄無敗でありそもそも強化を覚えていない。更に言えば強化しなくても優季の基本の動きは全て捉えている。
それでも百代が優季の攻撃を受けるのは、偏に優季が死地にて自分の身体を囮として百代の攻撃を誘い、死に物狂いでカウンターを打ち込んでいるからであり、体術しか使わない優季に釣られて百代も近距離系の技しか使わないせいである。
厄介! だが、だからこそ面白い!!
百代が笑みを浮かべ、もはや音速の域に届きそうな速度で拳を放つ。
しかしそれさえも優季はさばく。
大量の汗を流しながら、しかしその表情はどこまでも冷静に、百代だけを捉え続ける。
そしてここに来てようやく、ヒュームと鉄心、マルギッテが認識の違いを自覚する。
「予想以上に……巧い」
「うむ」
力なら比べるべくも無く百代に軍配上がる。だが、それ以上に優季の防御技術は二人の壁を越えた超越者の目蓋を見開かせるほどの域に届いていた。
「あの動きを見切っている。対象の視線、筋肉、気の動きに加え、自身の直感を総動員しているに違いない」
なんという集中力!
マルギッテが興奮で身震いする。
そして自分自身を抱きしめる。そうする事で二人の間に飛び込んでしまいたい衝動を我慢する。
そんな中で小雪だけは純粋に二人を、特に優季の心配をしていた。
そもそも小雪が優季の動きで見切れないのは、一足一倒と、細かい体捌きのみ。
これらを小雪が正確に視認できないのは、他の動きに比べて錬度が高く、動きが素早く『最初の動作』を視認できないためだ。
対して百代の攻撃は全て正確に捉える事すら出来ない領域に踏み込んでいた。
そんな攻撃が一撃でもまともに優季に当たったら、そう考えると小雪は怖くて仕方がなかった。
そして小雪が目蓋を閉じかけたその時、それは起きた。
「え?」
お互いの間合いがまたも最初の状態に戻ろうとした瞬間、優季の姿が、気配が、完全に消えた。
「なっ!?」
その光景を見ていた対戦相手の百代を含めた全員が驚きで動きを止めた一瞬の後に、強烈なエネルギーの気配と共に、既に踏み込みを終えた苦悶の表情の優季が、百代の懐に突如として現れる。
現れた優季の右腕は金色に光っていた。
回避できない!
超高速の踏み込みが既に終わっている、次に来るのは同じく超高速の一撃。
刹那の判断で百代が辛うじてできたのは、攻撃に備えて自身が纏う気の量を上げて防御力を上げることのみ。
「
百代の水月目掛けて優季渾身の掌底が放たれる。
次の瞬間、百代の身体を金色の光が飲み込む。
「っっ――!?」
百代は全身に走る声に出せぬ程の痛みで、ようやく先程の光の正体が電気属性の電撃を纏った一撃だと理解する。
「あっあっっ!?」
鋭く重い電撃は百代の全身を駆け巡り、外へと勢い良く弾け飛ぶ。
まずい、回復、迅やく!!
百代は僅かに残った意識を総動員して瞬間回復を行おうとするが、できない。
回復が使えない!?
百代は混乱していて気付かないが、そもそもまともに気を練れる状態ではなかった。
肉体も神経も、あらゆるものが深く傷付き、感電しているのだ。
文字どおり、百代は今『全身麻痺』に陥っていた。
そしてそんな百代を他所に、優季は全身汗だくになりながら、足を一歩引いて一足一倒の構えに移る。
その構えを見た百代の瞳が驚愕の色を浮かべる。
もしも身体がまともな状態であったなら、見えているのに回避できないこの状況に、目蓋を見開き、冷汗の一つもかいていただろう。
「一足、一倒!!」
回避できぬ超高速ではない、ただの高速の拳が迫るのを見て、百代に勝機が過ぎる。
いや耐えられる! 優季も強化を維持できていない! ただの打撃なら!
迫る掌を彼女が水月に受けた瞬間……強化時の時と変わらない容赦の無い強い衝撃波が、百代の全身を打ち抜いた。
「がはっ!?」
百代は吐血しながら心の中で驚く。
確かに優季の強化は解けていた。だが強化が解けたからといって『威力まで落ちる』と考えたのは百代の早計であった。
現実は決められたシステムのゲームとは違う。やりよう等いくらでもあるのだ。
例えば今優季がしたように『強化に回していた残りの気』を、全て打ち込む事で攻撃の威力を上げたように。
油断によって緩んだ精神と、まともに動かない肉体、それらが攻撃に耐えられるはずも無く、百代の意識は特に粘る事も無く、消えてしまった。
何故なら彼女には、際の際で意識を繋ぎ止めるモノが……何も無いのだから。
地面に倒れ伏した百代と、呼吸は荒く、疲れたような表情でそれを見下ろす優季、そして想像とは違った結果に驚く四人。
気付けば静寂だけが辺りを包んでいたが、その静寂を破ったのは優季だった。
優季はそのまま仰向けに倒れて気を失った。
「ユーキ! モモ先輩!」
小雪はようやく呆然としていた意識がハッキリして、慌てて二人に駆け寄った。
マルギッテは静かにその場を去り、ヒュームと鉄心は何かを含んだような表情で静かに笑った。
と言うわけ百代敗北です。モモ先輩ファンの方すいません。
解説回はもう少し先で、次回と次々回は周りの反応と百代のフォロー回になると思います。
ぶっちゃけ凄い難産だった。百代が弱すぎてもダメ、主人公が強すぎてもダメなため結構気を使う構成に……とりあえずこれが精一杯です。
【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)
『无二打』
本来の意味は『二の打ち要らず』という意味で、李書文は次の攻撃への動作や牽制で放った一撃目で相手を倒してしまう事から付けられた武器や技名と言うよりも異名のようなもの。
原作ではアサシン先生こと李書文の宝具技。本来ならその意味どおり、一撃で相手を仕留めるのだろうが、ゲームの都合かムーンセルの都合か、弱体化して現在のHPの9割を奪うと言う仕様になっている。元々ただの打撃な為、他のサーヴァントの宝具と違って打ちまくれるが、必ず生き残れる上に次は通常攻撃ターンなので対処しやすかったりする。所謂漫画やゲームによくある『強すぎて不遇なキャラ』である。
『一足一倒』
優季が使っていた超高速の中段突きの元ネタ。
時には聖杯戦争の運営管理人、時には購買の店員、時には隠しボスのマスター、そんな彼が使うマジカル八極拳の技の一つ。
多分モーションの元ネタはゼロで使った金剛八式の衝捶という技、中段突きだったし。
因みに无二打も中段突きのようなモーションなので、優季はこの二つの技を同じモーションで放っています。ぶっちゃけ威力が違うだけです。
『園境』
優季が姿を消した時に使った技の元ネタ。
本来は事前に瞑想して気を巡らせ、周囲の状況を察知し、完全に自身の気配を天地と合一させて対象に自らの姿を知覚せない体術による気配遮断の極意の一つ。
ゲームのアサシン先生はこれによって透明化も果たし、常時透明人間状態で参加者を暗殺しまくっていた。データ的には攻撃時には僅かに効果が下がるらしいです(ゲームじゃ全然そんな事なかったけどな!)