すまない。また上手いタイトルが浮ばなかったんだ。(というかタイトル候補が多すぎた)
清楚姉さんの正体探しは週末をフルに使った。
金曜の夜に清楚姉さんに事情を話した時は驚いていたが、義経達が『自分達も頼って欲しい』と言うと、困ったような笑顔を浮かべて『そうだね』と言って義経達の参加も認めてくれた。
金曜日に清楚姉さんにマープルさんから避けるように言われた国や人物の歴史や史実の小説などは無いかを色々尋ねてノートに書き纏め、土曜に内容を確認しながら該当しそうな偉人を市の図書館で探す。
そして日曜の今日、お昼に小雪達も含めて清楚姉さん以外の全員に、自分の部屋に集まってもらった。
「…………」
「んっ。どうした? 何か珍しいものでもあったか?」
無言のまま辺りを見回す葵ファミリーに声を掛ける。
因みに周りには勉強会と言ってある。こういう時に同じクラスだと色々融通が利いて助かる。
「いや、むしろ……」
「何もないと言うか……」
「質素過ぎるだろお前の部屋」
準の言葉に葵ファミリーの全員が頷いた。そうだろうか?
改めて自分の部屋を見渡す。
九鬼のビルは一室で普通に一人暮らしできる広さと最低限の設備が揃っている。
脱衣所のある風呂。洋式トイレ。小型だが最新式の洗濯機。同じく小型だが最新式の冷蔵庫。
テレビやネットが出来るように配線も繋がっているので、自分の小遣いで買った小型のテレビ、それと勉強用の机にはノートPCが置かれている。クローゼットと布団一式を仕舞える納戸もある。
ふむ。そう考えると部屋にある私物は『本棚と本』『テレビ』『ノートPC』『勉強机』『色々創作物やその材料を入れている収納箱』『義経達が収集し過ぎて置けなくなった色々な私物を仕舞う収納箱と棚』あ、これは棚と箱だけ私物だな。
「……何か変か?」
特にこれと言って生活に支障は無いと思うのだが?
「優季君は無趣味なのでしょうか?」
「う~ん、強いて趣味として挙げるなら料理とか裁縫、小物作りか? そこの青色の収納箱に色々小物が、クローゼットの赤い箱に自作の服が入っているから、好きに見ていいよ。その間にお菓子とお茶を取ってくる」
「へぇ、ユウ兄服も作れたんだ。それは私も知らなかった」
部屋の隅に置かれた自作の物が入った箱を指差して退室して、お茶を用意する為に九鬼ビルのキッチンへと向かった。
◆
「では了解も得ましたし、見てみましょうか」
「意外にノリノリだな若」
冬馬が箱を開けると、そこには小さな毛糸で編まれた掌に収まるくらいのぬいぐるみや、あみぐるみが入っていた。
「何これ可愛い!!」
小雪が目を輝かせて我先にと、狙っていた親子で寄り添う可愛らしい兎のぬいぐるみを手に取る。
「よ、義経はこれが!!」
その隣で義経は子犬のあみぐるみを手にとって見とれる。
「まったく二人とも子供だね。あ、この猫いいな」
しょうがないな~と言いたげな表情で二人を見ていた弁慶だったが、丸くなって寝ている格好の三毛猫のぬいぐるみを見つけると、それを手にとって眺める。
「スゲーな。こんな特技があったのか優季の奴」
「ん? なんだ知らなかったのか。兄貴の裁縫技術は世界一だぞ。俺が着てるのも兄貴の手作りだしな」
「「え?」」
そう言って与一は自分の服を指差した。
今日着ている与一の私服は大好きなラノベのキャラの服で、白地に灰色の山型の線が横に入ったものだ。
「確かに服も作れるとは言っていましたが……」
「そういや与一あんた、漫画やラノベキャラと同じ様な服着てる事多いけど……まさか」
「ああ、兄貴に作って貰ってる。材料と資料さえあれば作れるって言うか――うごあ!?」
会話の途中で目にもとまらぬ速さで、弁慶が与一に源氏式アイアンクローを放つ。
「な・ん・で・お・し・え・な・かっ・た!!」
「し、知ってると思ってたんだってばああああああ!?」
「べ、弁慶落ち着け! そのままでは与一の外れちゃいけない繋ぎ目が外れる!!」
義経の仲裁を受けて、弁慶は渋々ミシミシ言う与一の頭をようやく解放した。
「ふむ、強度も凄いですね。普通に売り物にしてもいいできだと思いますよ」
「おっ。なあなあ義経達、これお前らじゃないか?」
「どれどれ」
準が持ち出したのは川神学園の制服を着た義経達四人の人形だった。
小さくデフォルメされたそれは本人達の特徴を良く掴んでいた。
「おお、義経達がいるぞ。ミニ義経は笑っている!」
「私こんな眠そうな表情してるか?」
「俺はなんでこんな恥かしそうにそっぽ向いた表情なんだ?」
いや、十分特徴を掴んでいます。
葵ファミリーは声に出さなかったが同じ思いで無言で頷いた。
◇
「よし!」
予め作っておいたタネを型で取って焼けたクッキーを大き目のバスケットに並べ、そのバスケットをお茶の入ったポットを乗せたトレーに乗せる。
因みに全て自腹で買った専用の物だ。九鬼のは高級過ぎて怖くて使えない。
「おっ。いい匂いがすると思ったら優季じゃないかって、エプロンドレス?」
「こんにちは優季って、なんですかその格好は?」
「あっ。ステイシーさんに李さん」
九鬼ビルの学校の教室二つ三つ分くらいはありそうな広さのキッチンの入口で、ステイシーさんと李さんが興味深げにこちらを覗いていた。
「……そんなに変ですか?」
料理に毛が入っても嫌だし、油や汁の跳ねが服についても嫌なので、料理中は割烹着に三角巾を身に付けている。
これはキッチンの隣の料理用の衣装が置かれている衣裳部屋に常備されている物を借りている。他にもコックが着る様な専用の衣装もあるしエプロンもある。
使った衣装は衣装部屋の洗濯籠に入れておけば従者部隊の人が回収してくれる。
「いや、なんか似合い過ぎて怖いな」
「確かに」
二人は褒めているのか呆れているのか分からない、なんとも微妙な表情でこちらを見詰める。
ま、まあ気にしてもしょうがない。男が身に付けていたらこういう反応も仕方ないだろう。
気にするのを止めて、用意しておいたもう一つのバスケットを二人の前に置いた。
「クッキーを焼いたんです。良ければどうぞ」
クッキーを焼くと決めたときに、以前日頃のお礼をすると言ったステイシーさんや李さんの分もと思って、今回は多めに焼いたのだ。
「ロック! マジか!」
ステイシーさんが嬉しそうに笑ってバスケットにかけてあった布を捲る。
「お二人で食べ切れないようなら他の従者部隊の皆さんにも分けてあげてください」
「ありがとうございます。では一ついただきます」
「ロックにいただくぜ!」
二人とも同時にクッキーを口に運ぶ。義経達には好評だが、二人はどうだろう……。
「おお。普通に上手い」
「ええ。普通に美味しいですね」
「良かった」
普通に美味しければ問題ない。趣味の範囲なのだし、不味くなければいいのだ。
「なんかこう、家庭的な味っぽい」
「あ、分かりますね。素朴な味といいますか」
お~なんか好評だ。というか弁当の時もよく言われる感想だな。『懐かしい味』とか『優しい味』とか。
三角巾と割烹着を脱ぎながらよく言われる感想を思い出して、自分の味付けについて考える。
「家庭的な味……そういやぁジールの奴はこの戦いが終わったら嫁さんの手料理を食べるんだ。とか言っていたっけ。結局食えずじまいだったが」
「……毎回思いますが、なんで貴女の友人はそう戦場で不吉なフラグを立てるのですか?」
クッキー片手に鬱り始めたステイシーさん。なんか、最近鬱る回数が多い気がする。大丈夫だろうか?
「大丈夫ですかステイシーさん?」
いつものように彼女を抱きしめて頭を撫でる。
「……も、もう大丈夫だ、うん。いつもありがとうな優季」
いつも通り赤い顔でステイシーさんが照れたように笑う。
「いいえ、気にしないで下さい」
まあ人前であの行為は恥かしいよね。
「最近優季の前でよく鬱りますよねステイシーは」
「な、そんな事ない!」
意地悪そうに笑う李さんに、ステイシーさんが顔を真っ赤にして怒る。
しまったな。李さんとは仲がいいみたいだから気にしなかった……なら。
「よいしょ」
「きゃっ!?」
李さんを後ろから抱きしめて頭を撫でる。
「李さんはステイシーさんのコンビのようですし、恥かしい思いは共有すべきですね。と言う訳で李さんも撫で撫でして上げます」
そう言って微笑みながら李さんの頭を優しく撫でる。
ふふふ、キャストオフAUOやセクハラ発言正義馬鹿の相棒という理由で恥かしい目に遭った自分としては、パートナー同士は恥かしい思いを共有すべきだと思うんだよね!
「ちょっ、待ってください優季!」
「待ちません。いいこいいこ」
李さんの言葉を無視して頭を撫でる。
すると何故か李さんは顔を真っ赤にして大人しくなってしまった。
うむ。これで少しはステイシーさんの気持ちを理解してもらえただろう。
どうですステイシーさん。やりましたよ!
そんなどこかやり遂げた気持ちでステイシーさんの方に振り返ると……何故か銃口が視界を遮っていた。
「……ステイシーさん、何故に銃口を私めに向けているのでしょうか?」
「ハハハ、何故だろうな? 私の銃が火を吹く前に、お前はさっさとみんなの所に戻りやがれ!」
「い、イエス・マム!」
李さんを放し、言われたとおりにトレーを持ってキッチンを退室した。
◆
「……随分とイラついていますねステイシー」
「うるせぇ。お前こそ顔が真っ赤じゃねぇか」
「うっ」
立ち上がりつつ恥かしさを紛らわすためにステイシーの態度をつつこうとした李だったが、逆にカウンターをくらって言葉に詰まる。
「で、なんで抜け出さなかった? お前なら優季の拘束から逃げられただろ?」
李は元々暗殺を生業とする組織の人間だった。故に小柄でスレンダーなその身に沢山の暗器を隠し持ち、身軽なその身のこなしで諜報等もこなせる。
九鬼家の者の暗殺を請け負った際にクラウディオに敗れ、その時に九鬼家に誘われそのまま就職した。
因みにステイシーは元同僚のあずみをからかいに来た時にヒュームと一悶着あって敗れ、そのまま済し崩し的に九鬼への就職が決まった。
「いえその、すぐに抜け出そうとは思ったのですが……優しく頭を撫でられたのはいつ以来だったかと考えてしまって」
「あ~……なら仕方ねぇか」
素直に話す李に、ステイシーも素直に返事を返して頭を掻く。
それはステイシー自身も、優季に初めて抱きしめられた時に最初に思った感想だからだ。
二人は職は違えど結局は『命の奪い合う世界』で生きてきた。
九鬼に来てその頻度は減ったとはいえ、今度は実力競争の世界と、厳しい世界に変わりはない。
もちろん彼女らの友人にして上司のあずみも、師の様な立場のヒュームやクラウディオも、彼女達を褒める事はあるし、時には優しさを表して接する事もある。
しかし彼女達が表す優しさは『大人のさり気無い』優しさなのだ。
逆に優季の行為は分かりやすい『直接的な優しさ』だった。
相手の頭を気遣うようにそっと優しく撫でる。
相手の手を気遣うように優しく、けれどしっかりと気持ちが伝わるように握る。
相手の目をちゃんと見て、相手の言葉をちゃんと聞いて、理解しようと真摯に接する。
それは二人にとって昔に置いてきた。けれど忘れる事の出来ない『優しさ』だった。
「少しだけ、ステイシーの気持ちが分かりました。優季はなんというか、甘えたくなります」
「……やっぱり?」
李が先程言った事は事実で、ステイシーは普段のフラッシュバックが減った代わりに、優季の前だとちょっとした切っ掛けでフラッシュバックする事が多々あった。
それはまさに『甘えている』と言ってもいい態度だった。
「今思ったんだが、優しくて家庭的で勉強できて運動も出来るフリーの男って、どう思う?」
「……超が付くほどの優良物件だと思います。まあ惜しむらくは鈍感という欠陥でしょうか」
「でもさあ、それって付き合っちゃえばどうでもいい欠陥だよな」
「まあそうですね……」
二人は優季の去った扉を見詰める。
「私達はコンビだよな?」
「ええもちろん。それが強みでしょう」
二人は無言のまま頷き合うと、力強く手を握り合った。
◆
「はっ!?」
「どうしたのお姉様?」
川神院で一子と稽古していた百代は、突然走った嫌な予感に、難しい顔で空を見上げた。
「あの馬鹿がどっかでフラグを建てたか回収したような気がする!」
「あの馬鹿って誰の事?」
「一子は気にしなくていい」
対象が妹ではない事に安堵しつつ、百代はいい加減、新必殺技『フラグ・ブレイカー』をあみ出すべきか、真剣に悩むのだった。
ハートキャッチされる側だったのは実はメイドさんの方だったんだよ!
という訳でメイド二人のフラグ回収完了です。
主人公の趣味が家庭的な物なのは『形の残る物や他人に喜んでもらえる物』を作れる自分が嬉しいからという、前世からの無意識の欲求の結果です。
原作では結局自分で作りたいと思っても技術力(魔術師としての)不足でダメでしたからね。