項羽との戦闘回。
「待たせたね項羽姉さん。マープルさんから多少の無茶くらいなら許すって、了承を貰ったよ」
笑顔で項羽姉さんに話し合いの結果を伝える。すると項羽姉さんは驚いた表情を浮かべたるが、すぐに嬉しそうに笑って自分を称賛してくれた。
「おお、凄いぞ優季! あのマープルを押さえ込むとは。うむ、やはり俺の軍師はお前だ!」
光栄に思えとばかりに胸を張る項羽姉さん……さっき断ったのを忘れているのだろうか?
それに、その立場には既に適任者が存在する。
「その立場は既に予約済みだから、自分の入り込む隙間は無いよ」
「な、何? 既に俺の軍師は決まっているのか?」
「うん。項羽姉さんの一番の相談役は……この人以外ありえない」
そう言って手に持っていた清楚姉さんの人形を項羽姉さんに手渡す。
「ん? 人形っぐ!?」
項羽姉さんは人形を見た瞬間、片手で頭を抑えると、瞳の色が黄金色に戻った。
「ユウ、君……」
苦しげな表情でこちらを見上げる清楚姉さんに、安心させるように微笑む。
「清楚姉さん、無事で何より……戻れそう?」
「無理かな……項羽の、外で力を使いたいという欲求が強過ぎて……」
まぁ当然か。
「なら後はこっちに任せて。大丈夫、遊んで疲れれば項羽姉さんも満足するさ。だから清楚姉さんはもう一人の自分、項羽と会話する事だけを考えてくれればいい」
「うん……ごめんね。項羽の事、お願い」
記憶を共有しているから清楚姉さんもきっと気付いたのだろう。彼女がまだ色々幼いということに。
「もちろん。任せてくれ!」
この姿に肖って、かつてのセイバーがしたように自信に満ちた表情で笑い、両手を広げて答える。
それを見た清楚姉さんは安心したように瞳を閉じると、改めて項羽姉さんが現れる。
「この人形はなんだ?」
「自分の趣味。項羽姉さんの分も帰ったら作るから安心してくれ」
「べ、別に欲しいなんて思っていないぞ。だ、だがお前がどうしてもというなら、貰ってやらんでもない」
そう言って項羽姉さんは人形を傍のバイクに収納する。というか、今自動で動かなかったか、そのバイク?
そんな事を考えていると、人形をなんとも言えぬ緩んだ顔で仕舞っていた項羽姉さんは、不意に何かに気づいたような驚きの表情を浮かべた後、眉を吊り上げてこちらに振り返った。
「って、話を逸らされたがこの俺、覇王の誘いを二度も断るとは、許さんぞ優季!」
「……自分が心から尊敬し愛した皇帝はこの模した相手ただ一人。だから、認めさせてみればいい……自分がそれ以上に、仕えるに値すると!」
項羽姉さんから距離を取り、セイバーがそうしたように、片手で大剣を持って頭上で回転させた後、改めて両手で構える。
「少なくとも、もっとも可能性のある武で自分を降せないなら、王の道など夢のまた夢」
「はっ。いいだろう、その言葉を後悔させてやる! スイ!」
『はい。方天画戟でよろしいですか?』
「おう!」
ええ!? あれスイスイ号なの!?
格好つけた後なので頑張って表情に出さないようにしながら、内心で驚愕した。
一体どうしたら自転車から大型化け物バイクに変身できるんだ?
こちらが驚愕している間にバイク型スイスイ号の側面が開き、そこから独特な装飾と刃紋が施された戟が飛び出す。
あれが方天画戟か。
三国志最強の武将、
……まさか弓矢に変形したりしないだろうな?
生前サーヴァントとして立ち塞がった呂布の方天画戟を思い出して嫌な想像が頭を過ぎった。
項羽姉さんは戟の柄を掴むと、感触を確かめるように軽く振り回した。
それを見た瞬間、額から嫌な汗が出た。
おいおい。清楚姉さんは武器を扱ったことなんて無いんだぞ。
武器と言うのは扱えるようになるには時間が掛かる。
特に得物が長ければ長い程、独特であれば独特であるほど、扱いが難しい。
例えば梅子先生の鞭だ。素人はまず武器として扱えない。まともに振れないし、振っても自分に絡まったり自分を叩く羽目になる。
戟や槍も突くだけなら問題ないだろう。
だがこれを『振り回す』となれば掴む柄の位置、刀身や石突の柄の軌道、身体の動きと、考慮しなければならない事が多い。
だというのに、項羽姉さんは平然と振り回し、方天画戟をほぼ使いこなしていた。
弁慶を基準にした目測では、六割くらいは自由自在に扱っているように見える。
「うむ、初めてにしてはこんなものか。待たせたな、では行くぞ!!」
一瞬臆しかけた気持ちを改めて奮い立たせて、闘気を放つ項羽姉さんに、闘気をぶつけ返しながら笑って答える。
「ああ! 我が情熱、受け止められるものなら受け止めてみろ!!」
方天画戟を勢いよく振り上げたままオレに迫る項羽姉さん。
それに答えるために自分もまた、原初の火を下段に構えて項羽姉さんに迫る。
そして小手調べとばかりに、お互いにそのまま力任せに武器を振るった。
気を纏った武器同士が激しくぶつかり合い、空気や大地を震わせながら、自分達を中心に外に向かって巨大な衝撃波が放たれた。
◆
「まず!」
百代、義経、弁慶、マルギッテ、小雪、由紀江が前に出て、自身の武器や手足でその衝撃波を打ち消して後ろの仲間を守る。
「なんて衝撃波だ」
トンファーで受け止めたマルギッテが未だに衝撃で震えるトンファーを見詰めて冷汗を流す。
これが、優季の二つ目の切り札か。
マルギッテが眼帯を外して二人の動きを見逃すまいと目を凝らす。
力任せに自身の格闘センスに任せて振るわれる項羽の暴力的な攻撃を、優季もまた力強い剣撃で相殺して行く。
あれだけお粗末だった武器の扱いが見違えるように洗礼されている事実に、マルギッテは目を見開く。
「川神百代、貴女は優季の使っている技の内容を知っているのですか?」
マルギッテが先に優季と接触していた百代に説明を求めるも、百代は首を横に振った。
「いや。見た感じ『限りなく本人に近い状態になりきっている』と言ったものだろうが……それにしても」
本当に別人のようじゃないか。
百代もまた驚いていた。
姿だけを変える技なら川神院の技にもある。しかし百代と戦った時の体術の動きとは違う完全な『剣士』の動きをする優季を見て、似て非なる技と百代は判断した。
「私よりそっちの義経ちゃんとかの方が詳しいんじゃないか? というか同じ剣使いとしてどうだまゆまゆ、義経ちゃん?」
「スピードなら義経さんの方が速いでしょう」
由紀江が真剣な表情で項羽と優季の戦いを見詰める。
「だがパワーはお兄ちゃんが上だ。でもそれだけじゃない。お兄ちゃんはわざと清楚、いや、今は項羽さんか。項羽さんの戦い方に合わせている」
「はい。鉄先輩の視線の動きや手の運びから見て、完全に葉桜先輩の動きを見切っています。もっと上手く戦えるはずですが……何故?」
由紀江は疑問を口にして首をかしげるが、百代と小雪は呆れたような笑顔で苦笑した。
「そりゃまあ、アイツが相手の戦い方に合わせるって事は」
「結果よりも内容を選んだって事だろうね。そして激写! 金髪碧眼のユーキとかレアだよレア! しかも露出高いヒャッホー!!」
「あ、私も撮っとこう」
「あ、じゃあ私も」
「では私も」
「凄いね君達!?」
「この状況で!?」
「ブレない人達だ」
準、卓也、京のツッコミ陣のツッコミもむなしく。彼に好意や興味を寄せている上に、戦闘を目視できる娘達は携帯を構えて激写しまくった。
「ふむ。個人的にだが珍しく優季が『強者』らしく戦っているように見えるな。まるで項羽を『指導』しているかのようだ」
主に優季の全身を激写するマルギッテが、以前の百代との戦いへの姿勢の違いを口にする。
「指導か、確かにそういう風にも見えるな。優季が模したあの相手は、元々そういう立場の人だったのかもな」
主に優季の顔と、きわどい腰や胸のラインを狙って激写する百代が相槌を打つ。
そんな百代の返答に、なるほど。とマルギッテが頷く。
「止まった!」
「チャンス!」
そして主に優季の顔のアップや顔を含む上半身を狙って撮りまくる弁慶と小雪。
「頑張れーユウ!」
「根性見せろ!」
「うーん私はどちらを応援すべきか」
一子と風間が仲のいい優季を応援し、クリスはどちらを応援すべきか悩む。
「おい大和見えるか?」
「少しは」
「僕はもう気付くと火花がピカピカと」
岳人、大和、卓也は、もはや次元の違う戦いを唖然として見詰める。
「美人は何をしても綺麗ですね」
「そうな。一人男だけど」
「もはやビックリ人間ショーだよね」
冬馬はいつもの穏やかな笑顔で戦う二人を見詰め、もはやツッコミを諦めた準と京は呆れたように戦う二人を含めた回りの光景に溜息を付く。
気付けばギャラリーも増えて先生陣は校庭に、生徒も校舎の窓や校庭に現れて二人の戦いを見詰める。
「はーはは! 見事だ優季! この俺とここまでまともに打ち合えるとは思わなかったぞ」
「寿命を削っているんだから、その位のリターンはあるさ。でも、そろそろ限界だから……今度はこちらから攻める!」
項羽の方天画戟を弾いて距離を取った優季は、前傾姿勢をとって原初の火を肩にかける。
「
優季が足の裏から気を放出させ大きく踏み込む。超高速の弾丸となった優季は、項羽に迫って原初の火を振り下ろす。
「ぐあっ!?」
項羽はなんとかその勢いの乗った攻撃を方天画戟で防ぐが、威力を殺しきれずに吹き飛ぶ。
「まだまだ!」
吹き飛ばした項羽に更に追撃するために優季が迫る。
「調子にっ乗るなあぁ!!」
項羽が勢いに後退する足を踏ん張り、足が止まった瞬間に方天画戟を片手に持ち替え、迫る優季に向かって突きの連撃を放つ。
しかし優季はその連撃の動きを優れた動体視力で読み切る。
「
一撃目の振り下ろしで迫る方天画戟の勢いを殺し、二撃目の振り上げで方天画戟を大きく上に弾く事で項羽の体勢を崩し、三撃目の袈裟切りで肩を打ち、四撃目の斜め下からの振り上げ攻撃を項羽の腹部に打ちつける。
まるで舞うような自然な動きによって放たれた四連撃に、流石の項羽も痛みで顔を歪める。
「ぐっせい!」
それでも項羽は痛みを堪えて回し蹴りを放って優季を牽制し、優季は蹴りを避けつつ一度距離を取る。
「ふう。今のは少し効いたぞ優季」
僅かに痛みを感じる肩と腹部を気にしながらも、項羽は心の底から楽しそうに笑った。
「はは、楽しそうで良かった。さあ残り僅か、どんどん行くぞ!」
攻防が逆転して今度は優季が攻め、項羽がその攻撃を弾く形となる。
その様子を観ていたマルギッテと百代は写真を撮るのを止めて見入っていた。
「攻守が入れ替わった途端に項羽が劣勢になったな」
百代が腕組しながら視線だけを動かして戦いを見守る。
しかし組んでいる手の指は忙しなく上下に動いていた。
「項羽は技術面、精神面で未熟ですね。まあそれを補って余りある格闘センスと身体能力がある。まるで誰かさんと同じ様だ」
マルギッテもまた視線だけを動かして二人の戦いを見詰めていた。
しかし爪先は今にも飛び出さんばかりに忙しなく上下に動いていた。
そしてマルギッテの物言いに百代が獰猛な笑みを浮かべてマルギッテを睨む。
「それはドイツでも有名なお犬様の事かな?」
「ははは、私が言った人物は堕ちた龍と理解しなさい」
二人の間に生まれた殺気によって、一瞬にして二人の周囲が陽炎のように歪む。
「ちょっ勘弁してよ姉さん!」
「そ、そうだぞマルさん、これ以上戦闘範囲を広げたら校舎にも被害が及ぶ!」
弟、妹分が慌てて自分達の姉貴分を止めに入るが、殺気は一向に治まらない。
「はあ、しょうがないな~」
京は二人の傍に近寄ってボゾッと呟く。
「校舎壊したりしたら校長に優季に会うことを制限されるかも?」
ピクっと、百代の肩が僅かに震えた。
「派手に暴れたら危険人物って事で護衛役を別の人に替えられて、優季と戦えなくなるかも?」
ピクっと、マルギッテの肩が僅かに震えた。
二人の周りの景色が元に戻り、先程までの殺気が嘘のように晴れた。
「横槍は良くないよな!」
「まったくです!」
物凄い不満気な笑顔を浮かべる二人を他所に、京はそのまま大和達の元に帰って来るとVサインで勝利の笑みを浮かべた。
「相変わらず人の嫌な所を突くのが上手い」
「夫に鍛えられてますから」
「鍛えた覚えもないし夫でもないから」
頬を染めて京が爆弾発言をするも、大和が慣れた手付きで瞬時にその爆弾を処理する。
周りが騒いでいたその間に、項羽が優季の大振りの一撃を防ぐも、勢いによって後退し、また二人の距離が離れる。
「ふん。効かん! それに段々目も慣れてきたぞ」
項羽の自信に満ちた笑みを見て、優季は軽く息を吐く。
頃合かな。これ以上はこっちがもたないし。
「……次の攻撃で最後だ」
優季の顔から笑みが消える。
来る。
項羽もまた、優季から放たれる鋭い闘気を瞬時に感じ取り、笑みを消して肉体に気を纏わせて優季の動きに集中する。
「……
紅蓮の刀身がより鮮やかな朱色に染まり、優季の周囲が歪む。
「あれは!」
「前に病院で見た技だな」
小雪と百代が見知った技に声を上げる。
「周囲が歪むほどの熱だと」
剣に宿っているのが熱属性だと知るマルギッテが戦慄して冷汗を流す。
優季はその剣を上段に構え、花散る天幕の時と同じ様に突進の態勢を取る。
「この剣に宿るは我が情熱の焔、受け止めきれるか?」
その言葉と共に、優季は彗星の様に地を駆けた。
「見えている!」
超高速の突撃を項羽は見切り、カウンターを合わせる。
しかしそのカウンターの刃を、優季は更に見切り、上体を更に屈めることで頬を僅かに切り裂くに留める。
優季は項羽の攻撃後の隙を突いて、紅く燃える刀身で『初めて』項羽を切り裂きながら、項羽の脇を駆け抜けた。
優季は原初の火を地面に突き立てると同時に元の学生服の姿に戻り、全身から大量の汗を流して片膝を着いた。
「あれ? 剣の色が……」
誰もが元に戻った優季を見詰めている中、小雪が原初の火の刀身の色が元に戻っている事に気付いて声を漏らした次の瞬間、項羽が叫び声を上げた。
「ぐっああぁぁああーー!?」
項羽の身体から焔が放出され、それは項羽を飲み込みながら巨大な焔の渦の柱となって天に向かって迸る。
「流石は覇王項羽、これ程の気力を有していたか」
荒い呼吸で原初の火を支えにし、なんとか意識を失うのを堪えている優季が苦笑を漏らす。
そして焔の放出が止まると、そこには優季に斬られた傷も、火柱による火傷も負っていない無傷の項羽が立っていた。
その事実に周りが驚いていると、項羽はそのままゆっくりと仰向けに倒れた。
そしてそれを見届けると、優季もまた笑みを浮かべて倒れた。
「あとは……二人次第だよ」
小さくそう呟いて、優季はギリギリで繋ぎとめていた意識を手放し、気絶した。
相変わらず戦闘は難しいです。
【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)
『
原作では初期攻撃スキル。相手に突っ込み切り裂くというシンプルな技。
『
原作では二つ目の攻撃スキル。四連撃を叩き込む技。
『
原作では最終攻撃スキル。切り裂いた相手を業火が襲い、しかも状態異常を与える。
因みにこの技の別名は告白剣。理由はこの技を放つ時にセイバーが主人公への想いを盛大に告白しながら放つため。
(本編では本当はそっちの台詞を採用したかったが、流石に今後の展開に影響しそうなので自粛した)