清楚・項羽編ラスト。実は後半のやり取りは、原作やりながら前々からやりたかった回。
(俺は何をされた)
意識が目覚めて目を開けると、海中の様な場所で漂っていた。
俺は最後にその身に起きた事を思い出そうと記憶を掘り下げる。
(ああ、そうだ。俺は優季の技をくらって)
焔の様に艶やかな紅い刀身に身体が切り裂かれた瞬間、自分の身体の中心から、熱い何かが込み上げて来るのが解かった。
身体が火照り、心が高揚し、力が無尽蔵に溢れた。
そんな熱に浮かれた俺の頭に、不意に優季の言葉が浮んだ。
『我が情熱を受け止めきれるか』
情熱。こんなにも熱く滾るモノが情熱だと、だとしたら情熱とは!!
『周りだけではなく、己が身さへ焦すモノ』
怖かった。
ただその熱に身を任せる自分を想像したら怖かった。だから……捨てた。
早く、速く、迅く!
後先考えずにこの滾る熱を捨てなければ、自分はその身に焼かれて死んでしまうと思った。
咄嗟に身体から熱を放出する。そして次第に引いて行く熱と共に意識も薄れて行ってそして……。
(そうか、俺は……負けたのか)
(うん。負けちゃったね)
(っ!?)
不意に頭の中に響いた声に首を巡らせると、俺の隣にもう一人の俺、清楚が手を伸ばせば届く距離を一緒に漂っていた。
(清楚……結局一つにはならなかったようだな)
(そうだね。でも私は良かったと思う。それにユウ君のお陰でこんなに早く貴女とお話しできるようになった)
(優季のお陰?)
(項羽が技を受けた時、同じ肉体だから私も影響を受けたの)
清楚は語る。
自分となんとか話したいと、意識を繋ぎとめ続けた事。
そして優季の技を受けた時に『もっと、もっと項羽と話したい』そんな強い意志と熱を感じたと。
そして自分でも驚く位に叫び、もがき、そして無意識にお互いを分けていた意識の壁を越えて、ここに居ると。
何故俺と清楚で『情熱』の効果が違う。
俺は情熱に恐怖して手放した結果敗北し、清楚は情熱を糧にして自身が欲した結果を手にした。
(それはきっと、想いの違いだと思う)
(想いの違いだと?)
清楚の言葉に俺は眉を潜める。
(私は『なんとしても』項羽と話したかった。でも項羽はどう? 項羽は『なんとしても』力を振るいたかった?)
清楚の言葉に俺は視線を海面に戻す。
(俺は、俺は怖かった。だって、あれは、あんなのは!)
想像した。あの熱と共に湧き上がった力、あれを振るえばきっとヒュームにだって勝てると思った。
だが、同時に想像した。その力を振るった結果、『優季を殺す』自分を。
そこからは負の連鎖だ。
義経を殺し、弁慶を殺し、与一を殺し、校舎を破壊し、名も知らぬ者を殺し、大地を砕く。
そんな負の連鎖の想像が脳裏を過ぎった。
(それじゃあ以前の俺と同じになる!)
孤独が嫌いだった。それこそ意味も知らぬ頃から、その文字を嫌悪した。しかし生前の自分を知れば、当然だったと納得した。
(だって俺は、最後まで孤独だったから)
(ええ。きっと生前の覇王と同じになっていたと思う。でも、ならなかったわ)
俺に向かって清楚が優しく微笑む。
(だって項羽は沸き上がる力よりも、その結果に起こる悲劇を嘆き『自ら力を放棄』した。それは生前の覇王では選択肢にすらならなかった思想でしょ? 項羽、貴女は『力』よりも『仲間』を選んだのよ)
(俺が……自分よりも他者の事を考えたと?)
だが覇王とは力で統べる者の事の筈だ。そんな俺が力を放棄したら、俺は覇王ではなくなってしまう。
(もう。せっかくユウ君が教えてくれたのにもう忘れたの? 項羽はまだ王じゃない。つまり『どんな王様にもなれる可能性』を秘めているんだよ。ねえ項羽、あなたはどんな王様になりたいの?)
清楚が微笑みながらこちらに手を伸ばす。
俺は清楚の顔と手を交互に見詰めながら、ゆっくりと清楚の手に向かって手を伸ばした。
(俺は、皆に頼られる王に、皆に愛される王になりたい。孤独な王には、なりたくない)
(うん。私も孤独は嫌い。でも、もう私達は孤独じゃない。だって私には項羽がいる。そして)
(俺には、清楚がいる。そして)
清楚の手を握り、お互いに水面を見詰めて同時に口にする。
((自分達には、家族がいる))
清楚の手から熱が伝わり、その熱は俺の全身を包んだ。だが、怖くはなかった。身を焦す暴力的な熱ではなく、温かい包み込むような熱だったから。
(ああ、そうか、これが……情熱のもう一つの姿)
過ぎれば身を焦すが、適量ならばこんなにも力強い、それが情熱の焔。
(さあ起きよう。みんなが待ってる)
(ああそうだな。改めて名乗る必要もあるし、それに今は、早く優季に逢いたい)
自分を変える切っ掛けをくれた存在に。
(うん、逢いたい)
清楚の手にも力が籠もる。
次の瞬間、身体が水面に引っ張られる。
さあ目覚めよう。新しい『葉桜』として。
◆
「あ、清楚さん!」
「ん? その声は義経か」
「まだ項羽のようだね」
項羽が身体を起こすと、自分を心配そうに見つめる義経達がいた。
「……優季は?」
「兄貴ならそこだ」
項羽が尋ねると与一が隣のベッドに視線を送る。そこには疲れ果てたように静かに眠る優季の姿があった。
その姿を見て、項羽と清楚は同時に安堵の溜息を吐いた。
「ところで項羽先輩、これからどうするんです?」
弁慶が尋ねると項羽は不適に笑った。
「無論王を目指すさ。俺達二人でな」
そう言って項羽が一度目蓋を閉じると、今度は清楚が表に出る。
「みんな今日はありがとう。それともう一人の私が迷惑をかけてごめんなさい」
「清楚さん!」
「人格の切り替えができるのか?」
義経は嬉しそうに清楚に抱きつき、与一は驚きで目を見開く。
「うん。私と項羽はもうお互いに認め合ったからね。これからは一緒に生きて行くつもり」
「でも一つの身体に二つの人格って、大変そうだね」
「そこはまあお互いに話し合っていくわ」
弁慶の言葉に清楚は苦笑しながら答える。
「失礼するよ」
クローン組みがお互いに話し合っていると、ノックの音と共にマープルがやって来た。
「ふむ。思ったよりも元気そうだね。今は清楚の方か?」
「はい。項羽に話しがあるなら代わりますが?」
「……もう人格の切り替えが出来るのか、頼めるかい」
清楚が一度目蓋を閉じると瞳が赤い項羽に切り替わる。
「待たせたな。説教を聴く覚悟はできている。好きにしろ」
「随分と殊勝じゃないか」
「だが、うるさくして優季が起きたら大変だ。故にあまり大声を出すなよ」
そう言って項羽は優季を気遣うように視線をそちらに送った。
「……なんか随分と落ち着いてるね」
「俺は何も変わっていないが?」
いや、さっき会話した項羽とは別人と言っていい。
マープルはしばらく探るように項羽を見詰めた後、溜息を吐いた。
「ま、落ち着いているなら説教は明日の朝でいいだろう。今後の学習カリキュラムを組む必要もある」
「うむ。清楚も、二人で王を目指す以上は話し合いが必要だと言っていたしな」
「二人でねぇ」
マープルは自身のプラントは違うが、それはそれで面白そうだと笑みを浮かべた。
「それと、今日から俺の事は『
部屋を出て行こうとしたマープルの背に向かって項羽が告げる。
「おやなんでだい?」
「決まっている。俺達二人で『葉桜』という存在だからだ」
不適に笑って告げる項羽に、マープルもいつものクールな笑みで答える。
「ふっ。分かった。今後はそう呼ぶとするよ」
「それじゃあ私達も今日は部屋に戻ります」
「ああ、明日からよろしくな三人とも」
項羽の言葉に三人は頷いてマープルと共に退室する。
「ふう。さて」
項羽は清楚に変わる。
清楚は身体を起こして隣で寝息をたてる優季の頬にそっと手を添える。
「まったく。無茶するんだから」
(まったくだな。俺達二人を支えるのは優季しかいない。こんなところで倒れられては困る)
「やったのは項羽だけどね」
(うっ。し、仕方ないだろ。あんなに楽しい思いをしたのは初めてだったし、そもそも俺が優季に執着するのは清楚の想いが強いからでもあるんだぞ! お前が大切だと想う者は俺にとっても大切なんだからな。だからそのドス黒い敵意を俺に向けるな)
「うっ。そう言われちゃうと私達ってお互いに色々筒抜けなんだよね。でも確かに、私達二人纏めて受け止められるのなんて、ユウ君くらいよね」
でも今はまだ、それを強く追求しないでおこう。
「おやすみ、ユウ君」
そう言って清楚は優季のおでこにキスをして自分の布団にもぐりこんだ。
(ななな!? いくらなんでも大胆すぎるだろ!?)
(そこはほら、お姉ちゃんがリードしないと)
慌てふためく項羽をなだめながら、清楚は悪戯っ子の様に笑った。
『俺とお前でダブル葉桜だな!』
はい。元ネタは日曜特撮のあれです。
まあネタは置いといて、個人的に項羽は、どうしても同じ暴君であるセイバーの技で倒したかったので、このような話の流れになりました。
両原作やると分かりますが、項羽もセイバーも根底は愛情を求める寂しがりやな女の子ですからね。
さて、清楚・項羽編はやりたい事を詰め込んだため、楽しんだ回でしたが……次回からどうしようか(苦笑)