どっちを前編にするか迷ったのですが、やっぱりこっちと言う事で主人公視点の方を前編にしました。
後編は客観的にこの時主人公に何があったのかのお話しです。
ですのでセットで見て下さると嬉しいです。
ああ、なんか物凄く懐かしい感じがする。
水中にいる様な感覚が身体に走る。
辺りは真っ暗でどこまでも身体が沈んで行く。
しかし不安は無い。何故なら自分はこの感覚を知っているから。
自分は今、『死』に向かっている。
前世の知識が、覚えていない記憶の欠片が、そう告げている。
このままでは死ぬ。だからなんとかしないと。
どうやって?
何時だって自分の死の間際に助けてくれたのは『英雄達』だった。
しかし彼らはここにはいない。
だから諦めるしかない。
そもそも意識しか存在しないのだから足掻き様が無い。
待て。ならなんで、自分はここが暗いと認識できる?
だって目蓋を閉じているから。
なら目はあるんだな?
……ある……『目』は、在る。
いや、そもそも自分は……『水中にいる様な感覚が身体に走る』と言っていたじゃないか。
自分の肉体が存在していると自覚した瞬間、目蓋が開く。
暗かった視界が一気に広がり、見覚えのある『虚数の海』が辺り一面に広がっていた。
海面目指して必死に腕を、足を動かす。
ここで死ぬ訳には行かない。
だって、もしここで死んだら、家族を、小雪を、百代を、ファミリーの仲間を傷つけてしまうじゃないか!!
思い出せないが、かつて自分は一人の女の子に助けられた。
しかし女の子はそのせいで……消えてしまった。
思い出せないが、かつて自分は二人の戦友に助けて貰っていた。
けれど、その戦友との約束を、自分は叶える事が出来なかった。
思い出せないが、かつて自分はライバルであり、同時に友であった者達によって支えられていた。
けれど、その友人達は自分を活かすために死んでいった。
辛かった。悲しかった。何より弱くて何も出来ない自分自身が許せなかった。
あんな思いを、みんなにさせるのか?
それだけは許さない!!
故に足掻く。しかし、そんな自分の意思と行動に反して、海面はどんどん遠ざかる。
身体から熱が奪われていく。
しかし、右手だけは……とても温かい熱に包まれていた。
熱が足りない。熱を起こせ。その方法を考えろ。
瞬間、脳裏に過ぎったのは父さんに聞かされた『気』による属性変化。
身体を動かすのを止めて自身の内側に集中する。
ある。気はまだ感じ取れる!
しかしそれをどのようにすれば属性変化させられるのかを、自分はまだ知らない……だが。
自力で起こす手段が思いつかないなら……借りろ!!
心の奥底、意識の底の底、生死の際、そんな極地にてようやく、自分、鉄優季はかつての自分、岸波白野の記憶の欠片を拾い上げる事に成功する。
その記憶は本来ならムーンセルによって消えるはずだったもの。
しかし想いの強さによって無意識に、岸波白野が施した霊子魔術によって永遠に消えることのないよう刻み困れた『岸波白野の絆』。
その欠片を完全に掌握した時、今まで感覚としてしか思い出せなかった『記憶』が鮮明に呼び起こされる。
パートナーであった四人の英雄の名を。
自分を支えてくれた二人の名を。
自分が殺め、そして自分を守ってくれた友人達の名を。
そして、自分に恋してくれた儚い少女達の名を。
ここに至り、ようやく岸波白野という魂は完全な覚醒を果たした。
熱と言えば彼女以外ありえない!!
それは誰よりも民に情愛を注いだ焔の様に生きた赤い皇帝の具現。
出来るはずだ。だって、誰よりも自分は……彼女を見続けて来たんだから!!
生きたいという渇望、生き残るという切望、そして確かに感じる自分を支える右手の熱を触媒にして、自分の左手に気を集中させる。
具現しろ。それは元々、燃え上がらせる道具が原点!
原初の火(アェストゥス・エウトゥス)!
途端、燃える様な艶やかな紅い刀身の大剣が、炎を迸らせて左手の前に現れる。
大剣の柄をその手でしっかりと握り締める。瞬間、文字通り身体が燃える。
肉体が焼けて激痛が走る。熱で血管が沸騰して内側で破裂しそうだった。
しかし気にしている暇も考えている暇も無い。
重さの感じない剣を振り被って海面を睨む。
それは彼女が自分の情熱を表すために作った技。
前世の記憶では気恥ずかしくもあり嬉しくもあったあの技を、借りるよ……セイバー!
星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)……!!
今の自分の『想い』を『焔』に変えて剣を振るう。
焔はそのまま剣線をなぞる様に走り、水を燃やしつくし……辺りから虚数の海を打ち払った。
身体が宙に放り出される。途端その身を焼いていた炎は消え、身体の痛みと熱が引いて行く。しかし、身体にはまだ確かに熱が宿っている先程まで感じていた冷たさは感じない。
一度目蓋を閉じる。そしてゆっくりと目蓋を開いて尚も温かい右手へと視線を向ける。
その先に、二人の少女がいた。
そうか。自分を必至に引き止めていてくれたのは……二人だったんだな。
笑みを浮かべる。二人は安心したように笑うと、ゆくりとその手を放して消える。
そして自分の身体もまた、光の粒子となって消えていく。しかし消える身体の行方に不安を感じる事無く、ゆっくりと目蓋を閉じた。
ゆっくりと目蓋を開けると、白い天井が視界に入り込んだ。
「…………生きているのか?」
声に出して自分自身に問いかけつつ、その手を心臓に持っていく。
うん。生きてる。
心臓の鼓動に安堵の溜息を吐きつつ、ゆっくりと身体を起こす。
病室か?
清潔感のある無駄の無い装飾の部屋を見回してそう判断した。
体には機器から伸びるコードが取り付けられ、腕には点滴が付いていた。
あれ?
その時、少しだけ違和感を覚えた。
自分の腕って、こんなだっけ?
痩せ細った青白い腕を見る。
なんだか身体が凄くだるい。一体どれくらい眠っていたんだ?
とりあえず誰かを呼ぼうとナースコールを探していると、扉が開いた。
「「っ!!」」
「あ、母さんに父さん……」
扉の前にいたのは愛する両親だった。
記憶の中にいる二人よりも髪の長さや顔の皺に違いがある気がした。
二人はしばらくその場で息を飲んだように硬直していたが、母さんは次第に目に涙を浮かべ、父さんは嬉しそうに笑った。
「ああ優季! 目が覚めたのね!」
「先生を呼んでくる!」
母さんが駆け寄って来て俺を抱きしめる。
父さんは医者を呼びに言ったのか慌てて部屋から出て行ってしまった。
「母さん、あれから何日くらい経ったの? 身体が凄くだるいんだけど……」
もしかしたら一週間近く眠っていたのだろうか?
そう考えれば腕の件や身体のだるさも多少は納得できるんだが。
「……いい優季、落ち着いて聞いて」
母さんは涙を拭いながら真剣な眼差しで自分を見詰めた。
「あなたはあの嵐の日から……一年以上も眠っていたのよ」
「……え?」
「あなたは今年の年が明けたら、中学生になるのよ」
「……それは流石に予想外でした」
今の自分の心境を表す言葉があるとすれば、一言だけだ。
まぁじでぇ?
はい。と言うわけで次回から中学編……ではなくてゲームの本編である川神学園からとなります。
まさか八話も使うなんて思わなかった。京編まで入れていたら過去編だけで大変な事になっていた。
本編前に質問がありましたら感想なりメッセージなりで送って下さい。
基本ネタバレとか無い作品なんで本編で語ること以外は答えます。