エメの過去   作:フリッカ・ウィスタリア

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バイターズで過ごし始めたエメは、三人と共に日雇いの仕事を引き受けながら生活費を稼いでいた
しかし、そんな幸せな生活も長くは続かず…


バイターズ

マリ「サテライト・マーティン…まさか…」

実はマリの友人の中に一人だけサテライト・マーティンという人間がいたのだ

マリは嫌な予感がして、携帯を開きとある所に電話を掛けた

ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピ…トゥルルル…

サテラ「もしもし、どうしたのマリ?久しぶりね」

マリ「ええ久しぶり、ところで、ちょっと聞きたい事あるんだけど?」

サテラ「聞きたい事?」

マリ「ええ、サテラの子って元気かしら?」

サテラ「⁉…え、ええ。娘は元気よ?それがどうしたの?」

マリ「そう…それはよかったわ。それで話は変わるんだけど、さっきあんたにそっくりな翠髪の子が私の所に来て、名前は…エメとか言ったかな?まあ、関係ない話だけどね」

サテラ「エメがそこにいるの!?」

マリ「あんたの子は家に居るんじゃないの?それでも何?捨てた事を隠すために嘘でもついたのかしら?」

サテラ「…」

マリ「あんたねぇ!何してるの!?我が子を捨てるとか親として恥ずかしいと思いなさい!!しかもあんな小さな子を!!」

サテラ「私だって好きで捨てた訳じゃない!旦那は病気で寝込むし!お義父さんは急死するし!そんな精神状態で仕事に行ってたせいで私もミスばっかでやめさせられちゃったしで私もいっぱいいっぱいだったのよ!」

マリ「あんたの不幸は同情物だとは思うけど、子供を捨てる理由にはならないわ!子供作ったんなら最後まで育てるのが親の務めでしょうが!」

サテラ「そう…だけど…」

マリ「私には子供もいなければ旦那もいないから、あんたの苦しみはわからないわ。でも、どんなに自分が苦しくても子供を捨てるような親にはならないと断言できるわ」

マリはそう言って一方的に電話を切った

少し考え、ある程度気持ちが落ち着いた為マリは仕事に戻った

 

スラム街 とある会館

テトラ「さあ、ここが僕ら『ビッツ』の拠点だよ」

エメ「ビ、ビッツ?」

私が三人に連れてこられたのは、もう使われていない小さな会館だった

ビリー「ビリーのB、イヴのI、テトラのTでBit(欠片)。僕らみんな家庭から欠け落ちた欠片だからね」

エメ「(ゆ、由来が重い…)」

イヴ「でも、エメも入ったんだから名前を新しく考えた方がいいね」

テトラ「BITにEが入るわけだから…Ebit、Beit、Bite…Bite(かみつく)だ!」

ビリー「じゃあ、『バイターズ』なんてどう?」

イヴ「へぇ、かっこいいんじゃない?」

エメ「ええ、いい名前だと思う」

テトラ「必死に喰らい付く信念でバイターズか…逆境に強そうだね」

新しいチーム名も決まり、私は三人に拠点内の事をいろいろと教えてもらった

テトラ「そうだエメ、これあげる」

テトラが取り出してきたのは、小型のナイフだった

エメ「な、なんでナイフなんか…」

テトラ「もしもの時の護身用、あと手で切れないような物をこれですぐ切れるようにだよ。別に誰かから強盗して来いって意味じゃないから安心して」

びっくりしたエメだったが、その話を聞いて少し安心した

元会館というだけあって、かなり設備が充実しており、一般的な物に比べたら硬いかもしれないがベッドもあった

一つの設備を見ては話が広がり、次のものを見ては再び話が広がりしていた為、全ての部屋を見終わる頃には日が暮れ始めてしまい、その日は全くママを探す事ができなかった

 

数日後

イヴ「マリさんおはよう。今日もパンは余ってる?」

マリ「今日『も』とは失礼な…まあ、実際一度も完売した日はないけどさ」

マリさんはそう自嘲気味に笑いながらパンを持ってきてくれた

ビリー「いつもありがとう!」

マリ「いいよ。こっちも残飯処理の手間が省けてるんだし。あっ、そうだエメ」

エメ「え?何?」

マリ「何日か前に言ってたママの件なんだけどね」

エメ「もしかしてママが見つかったの!?」

マリ「見つかったというか…死んじゃってた…かな?」

エメ「え…」

マリ「うちに来たお客さんに話を聞いてみたんだけど、どうやらママはエメが待ってる間に車で事故を起こして死んじゃってたみたい。だからエメを迎えに来れなかったんだよ」

マリはエメに嘘をついた

まず根本的に、エメの母サテラは死んでなどいない。しかし、こうすればエメはこれ以上母探しに無駄な時間を割く事はないだろう

それに加え友としてのせめてもの情けとして、サテラをエメの中でだけでも『子を捨てた最低な親』ではなく、『事故で死んでしまった親』でいさせてやろうとしたのだ

エメ「そんな…ママが…」

そもそも、マリの話にはおかしな点がある

まず、母親が死んだとしたらその家族に知らせるためにエメの捜索が始まるはずだがその気配がないのはおかしい

しかし、まだ幼いエメがそんな所に気付けるわけもなくマリの話を真に受け、ショックを受けていた

イヴ「という事は、経緯は違うけどエメも本当の意味で孤児になっちゃったのね」

エメ「うん…でも、ママに捨てられたわけじゃなくてよかった…」

エメは母の死を聞きショックを受けたものの、自分が捨て子ではなかったと信じ少しほっとしていた

テトラ「まあ、本来は喜ばしい事じゃないんだけど、正式にエメは僕らビッツ改めバイターのメンバーになった訳だね」

マリ「へぇ、この数日で新しいチーム名考えたの?」

ビリー「そうだよ」

マリ「バイター(かみつき者)って…お願いだから私の手は噛まないでよ?」

テトラ「僕らはマリさんの飼い犬かよ…」

マリ「清掃活動とかして生きるお金稼いでるんだからある意味この地域の犬だけどね」

エメ「ハハハ、物は言いようね」

イヴ「どうでもいいけど、そろそろ行かないと時間に間に合わなくなっちゃうわよ」

エメ「え?どこかに行くの?」

ビリー「さっき言ってた清掃活動。他にも子供でもできる仕事見つけては手伝って、お小遣いをもらって生計を立ててるんだよ」

エメ「なるほど」

私はビリーに話を聞きながら少し早足で目的地に向かってるテトラとイヴの後を追った

その日は隣町まで出向き清掃活動に参加し、ちょっとした小物を買えるくらいのお金をもらった

その後も一日おき位の頻度で清掃活動や新聞配達の日雇いバイトを手分けしてお金を稼いで数週間が経った

 

数週間後

リサイクル工場

工場長「はい、今日もみんな集まってくれてありがとうな」

集合場所に行くと、40代と思しき男性が集まった人にあいさつをしていた

テトラ「おはようございます」

工場長「ああ、おはよう。毎回ご苦労だね、助かってるよ」

テトラ「いえ、僕達に出来る事なんてこれくらいですから」

工場長「ハハハ、そんな事はないよ。とりあえず、君たちはC地区のゴミ収集をしてくれ」

テトラ「分かりました。三人とも、C地区のゴミ収集だってさ」

イヴ「了解。行くわよ」

イヴに言われて私達は地図を頼りにC地区へと向かった

 

C地区

ビリー「うわぁ…相変わらずここらは汚いなぁ…」

テトラ「前回よりはマシだけど、確かに酷い有様だね」

エメ「え⁉前回はもっと酷かったの⁉」

C地区は一言で表すならゴミ山だった

ゴミを拾って来いと言われたが、寧ろ拾わなくていい物の方が少ないような場所だった

イヴ「さあ、このゴミ山からできるだけ大きくなくて重さのある物を探さないと」

どうやらゴミは量じゃなくて重さや需要で報酬が決まるようだ

テトラ「じゃあ、いったん解散!」

 

2時間後

ビリー「良さげなの見つかった?」

イヴ「まずまずってとこね」

イヴの背負っている籠には大量の金具とスクラップにした缶が入っていた

リサイクルする物としては価値も量もある物だった

テトラ「僕はちょっと不作かな」

テトラの籠もいっぱいにはなっていたものの、中身はスクラップ缶とペットボトルだった

ビリー「僕はちょっといい物拾ったよ!」

ビリーは自信満々に籠の中身を見せた

テトラ「これは…タイヤ?確かに重量あるし円形だから運びやすいけど…」

イヴ「エメは?…って言っても、エメの体格で持ってこれる物なんてしれてるだろうけど」

そう言われエメも籠の中を見せた

エメ「なんか向こうにキラキラしたゴミがいっぱいあったから拾ってきたんだけど」

イヴ「地味に趣旨がずれてる気がするわね…って、え⁉ちょっと、これって鉄くずじゃないの⁉」

テトラ「これどこに落ちてたんだ?」

エメ「あっちだよ」

エメは三人を鉄くずが落ちていた場所に案内し、4人で分割して収集場所へと運んだ

 

拠点

テトラ「今日はいつもより成果が出たね」

ビリー「エメが小柄な体格を生かしてゴミ山の奥に埋まってた鉄くずを見つけてくれたからね。運ぶの大変だったけど…」

エメ「そんなに良い物だったんだ…」

エメの見つけてきた鉄くずはさすがに廃品としては受け取ってもらえなかったものの、金属系統の買い取り業者を教えてもらい、そっちに持って行くと孤児からすれば、かなりの金額で買い取ってもらえたのだった

イヴ「これで少しはここの家具もマシな物が買えるんじゃない?」

テトラ「かもね。明日中古屋に見に行こうか」

そんな風に4人が楽しそうに話しているのを聞いている者がいた事に四人は気が付いていなかった

 

4人が寝ていると何やら物音が聞こえてきた

ビリー「(ん…何だろうこの音?)」

一番最初に物音に気が付いたのはビリーだった

ビリー「ねぇ三人とも、何か聞こえない?」

イヴ「音?…本当ね、何か聞こえるわ」

何の音か調べるために四人は音のする方へとゆっくりと近づいて行った

エメ「(あれは…男の人?なんでこんな時間に…)」

音のする場所へ着き、ゆっくりとのぞき込んでみると、そこに居たのは一人の男だった

ビリー「ねぇ、お兄さん何してるの?」

ビリーが不用心に男の前に姿を現してしまった

男「なっ!?起きてやがったのか!」

男は大層驚いた様子だったが、ビリーだけだというのを確認すると、すぐにまた落ち着きを取り戻した

男「って、ガキ一人だけか」

ビリー「え?どういう事?」

男「金はどこだ?さっさと教えろや」

どうやらこの男は四人が金を持っていることを聞きつけて盗みに来たようだ

ビリー「あれは僕らのお金なんだから、お兄さんに教える意味ないじゃん」

男「チッ…小賢しいガキだな。お前らが金なんて持ってたって何にもならねえだろが!さっさと寄こせ!」

テトラ「そこまでだよお兄さん、もう警察を呼んだから早く逃げないと捕まっちゃうよ?」

テトラの手には携帯電話が握られていた

実はこの携帯、すでに壊れているもので、テトラの言った事はただのハッタリだ

本来、警察を呼ばれたとなったら、捕まるのを恐れて誰だって逃げる事を選ぶだろう。しかし、この男は違った

男「サツだと!?は、早く金持って逃げねぇと!」

テトラの考えた作戦に一つ大きな誤算があった

この男はただ単に遊ぶ金欲しさでここに来たのではなかった

この男、薬物依存者だったのだ

男「死にたくなかったら早く金を出せ!!」

急に男の態度が激化し、銃を取り出してきた

テトラ「ビリー危ない!」

テトラがそう言い終わる前に引き金は引かれ、ビリーの頭に大きな穴をあけ、壁に血の華を咲かせた

イヴ「ビ、ビリー!?なんてことを…」

ビリーは倒れ伏し、少しの間は痙攣していたものの、すぐに動かなくなってしまった

エメ「(ビリーが…殺されちゃった…)」

仲間が殺され怒りを感じているというのに、自分も殺されるかもしれないという恐怖で足が竦み動けなくなっていた

エメ「(こ、このナイフであの人を刺せば、もしかしたら…でも、もし一発で殺れなかったら私の方が…)」

エメが迷っていると、テトラが叫んだ

テトラ「エメ!お金を持ってどこかに逃げろ!僕らじゃそんなに長い間足止めできないから早く!!」

その瞬間、敵に立ち向かわないとという時は全く動かなかった足が、逃げるという時だけはすんなりと動いた

エメはそんな卑怯な自分が嫌になったが、仕方がないのだと必死に自分に言い聞かせて死に物狂いで走った

その後、建物を出たあたりで一度男に見つかったものの、必死に逃げているうちに男の姿はどこかへ消えていた

エメ自身は気づいていなかったが、エメ達は常に足場の悪い所や商売敵と速さを競って物を集めたりしていた為、一般的な同年代よりも運動神経が桁違いに高くなっていたのだった

そのため大人である男でもエメに追いつけなかったのだった

そして、久しぶりにあの見晴らしの良い丘まで行き、まだあの男が来るかもしれないと思うと怖くて眠れなくなり、そこで周りを気にしながら夜を明かした

 

次の日 朝

エメ「(私、また一人になっちゃうのかな…)」

この数日間、他の人から見たらほんの短い時間であったが、エメにとっては久しぶりの人の温もりだった

それを薬中に壊されてしまったのだ

しかし、まだテトラとイヴが死んだという確信はない為、用心しながら拠点まで戻ることにした

 

20分後

エメ「(とりあえず、ここまでは来れたわね)」

エメは拠点の近くにある町までやってきた

すると、何やら周りの大人がヒソヒソと話し合っている

婦人A「あの廃墟、殺人があったんですって」

婦人B「聞いたわ。なんでも3人の子供が殺されてたんですってね。可哀そうに…」

その話を聞いたエメは婦人たちを問い詰めた

エメ「あの!今の話詳しく聞かせてもらっていいですか!?」

婦人A「え?そんな子供に聞かせて良いような話じゃないのよ」

エメ「お願いします!」

婦人B「…わかったわ」

エメの真剣な目を見て婦人は話を聞かせてくれた

 

数分後

エメ「やっぱり、三人は…」

ビリーが死んでしまっているのはあの時から分かっていた事だったが、あの二人まで死んでしまった事が確定し、エメは本当に再び一人になってしまった

エメ「(せめて…埋めてあげるくらいはできるかな?…)」

そう思い拠点へと足を運ぶと、ちょうど遺体を運び出すところだった為、警察に掛け合ってみたが遺体はさすがに渡せないと言われ遺品だけを渡され、一応の為と身柄を保護された

その後、あの日の事を詳しく聞かれ、身元が無い孤児だという事を言うと近くの孤児院に連れて行かれた

 

To Be Continued




バイターズの唯一の生き残りとなってしまったエメは孤児院に保護される事になった
男性に恐怖を覚えているエメはこの先うまくやって行けるのだろうか…
次回『サリー孤児院と篠原夫婦』
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