エメの過去   作:フリッカ・ウィスタリア

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1か月余りの夏休みが終わり、2学期が始まろうとしていたが、蒼の心はエメが見つかったあの日から進展していなかった
そんな中、また嫌がらせが始まり…


一本の外れたネジ

夏休みは終わり新学期が始まった

エメが私と暮らし始める前と同じように私は朝食を摂りながらニュースを見ていた

キャスター「それでは次のニュースです。昨日未明、大阪府高槻市で女子高生の松下 彩さんが自殺するという事件がありました。彩さんの部屋には『ごめんなさい』と何度も書かれたメモが見つかった事から、虐めがあった可能性が挙がっています。それに対し彩さんの通う学校は『学校内で虐めの事実は見受けられなかった』と述べており、現在捜査が進行中です」

蒼「(虐め…か…)」

ニュースを耳に入れながら私は歯を磨き、服を着替え、髪を整えた

最終的に夏休みいっぱい捜査の結果を待ってみたが有力な証拠は出てくることなく警察はやはり事故なのではないかと結論を出し捜査は打ち切られてしまった

蒼「(エメがうっかり足を踏み外すなんて事ありえないと思うんだけど、何も証拠が見つからないんじゃ、そう結論付けるしかないのよね…)」

未だにエメの死を引きずっている私だったが、夏休みで長い休みの間だったこともあり時間をかけて気持ちの整理をつけることが出来た為、どうにか学校を不登校にならずに済んだ

蒼「(エメの分も強く生きなきゃ…)」

そう決心し、エメがいない事を除けば何も変わっていない学校へ出かけた

 

教頭「えー、それでは始業式を閉じます。一同礼!」

長ったらしい校長の話も終わり、始業式も終わった

校長の話の中にはエメの話もあった為、その間涙をこらえるのに必死になって他の内容が碌に入ってこなかった

 

教室

担任「えっと…エメラルドさんが亡くなった事は残念です。しかし、貴方達も来年は受験生です。いつまでも悲しさを引きずっている訳にはいきません。エメラルドさんの分も貴方達が頑張ってください」

担任が言っている事は至極尤もだ。しかし、私にとってその言葉はとても納得のいくような言葉には聞こえてこなかった

 

次の日

いつもの様に学校に行くと、私の机の上に花瓶が置いてあった

蒼「(前々から思ってたけど、こういう嫌がらせって今でもする人いるんだなぁ…)」

そんな事を思いながら例の二人を見たが、二人はまだ来ていないようだった

蒼「(あれ?あの二人じゃないって事は、別の人がやったって事?それとも昨日の段階から既に置かれてたのかな?)」

まあどうでもいいやと思い、その花瓶を後ろのロッカーの上に置き読書に耽った

その後も、引き出しに蜂の死骸が置かれていたり、教科書が無くなっていて次の日に元の場所に戻って来ていたり、昼休みに出かけているうちにシャーペンが折られていたりと、不定期に私の机や所持品に何かしらの嫌がらせが施されていた

 

数日後

最近涼しくなってきているというのに薄着で居過ぎたせいか、今日はお腹の調子が悪く、休み時間はトイレに篭っていた

ようやくお腹が落ち着きそろそろ出ようとしたところで誰かがトイレに入ってくる音が聞こえ、蒼の入っているトイレのドアを蹴飛ばした

蒼「⁉…誰?」

渡辺「私だよ」

蒼「(この声…渡辺?)何か用?」

渡辺「用ってか、面白い情報を聞いたんでね」

蒼「面白い情報?」

正直言うとトイレでドア越しにする話ではないだろうとは思ったが、あえて何も言わず相手の話を聞いた

渡辺「あんた…親死んでるんだって?」

どこからその情報が漏れたんだろう…

蒼「…ええ、それがどうしたの?」

一瞬、心配してくれているのかとも思ったが、先程の声のトーンからまずそれはないと判断した私はスカートをあげ外に出ようとした

渡辺「じゃあ、そこで汲んできた清めの聖水でもぶっかけて除霊してやるよ!」

しかし、スカートを上げ終えた時には既に水を上からかけられ、全身ずぶぬれになってしまった

渡辺「ハハハハ!これであんたの運の悪さも少しは治るんじゃない?」

蒼「…」

その時、私は自分の中の何か大事な物が外れた気がした

渡辺「なんだよ…なんか不満があるってんなら言ってみろよ」

蒼「と…や…めろ…」

渡辺「あ?なんだって?はっきり言えよ!」

蒼「父さんや母さんを侮辱するのはやめろって言ってんのよ!」

渡辺「なっ!?ずいぶん大きい口叩くじゃねぇか!」

私が言い返したことが気に食わなかったのか渡辺は私の胸ぐらを掴んで引き寄せた

私はその勢いを利用して渡辺の顎に頭突きをかました

渡辺「いってぇな!調子に乗りやがって!」

渡辺が顎を押さえながらこちらに向き直った

蒼「(面と向かっての喧嘩じゃ勝ち目はないわ…)」

そう思った私は渡辺に何かをさせる暇を与えずに体当たりし、渡辺を押し倒した

渡辺「チッ!ふざけんじゃねーよ!」

渡辺の上に馬乗りになった私だったが、渡辺に脇腹を2、3発殴られた

渡辺「エメがいなきゃ何にもできないお前が粋がってんじゃねぇよ!」

蒼「(ああそうよ…私はエメがいなきゃお前にも勝てないような弱虫さ。でも、もうエメはいないんだから、自分の身は自分で守るってあの日決めたのよ!)」

何度も殴られズキズキと痛む脇腹の痛みに耐え、私は渡辺の顎に膝蹴りを叩き込んだ

すると、急に渡辺の抵抗が止み、静かになった

しかし、私は今までの鬱憤と先程の怒りから渡辺を殴り、蹴るのを止めなかった

蒼「(私はもう、泣き寝入りなんてしたくない!)」

その攻撃の手には渡辺への怒りの他に、過去の自分への怒りも籠っていた

ふと我に返った時、渡辺がピクリとも動かない事に気が付き、一瞬殺してしまったかと思った私だったが、耳を澄ますと一応息をしているようだ

渡辺が生きていることを確認した直後、トイレが騒がしい事に気が付いたのだろうか、教師が駆けつけてきた

教師「な、何があったの⁉貴女、そこを退きなさい!誰か、担架を持ってきて!」

無理やり渡辺の上から引き剥がされた私は、改めて渡辺の周辺を見て、周辺に血が飛んでいることに気が付いた

教師「この子と喧嘩していたのは貴女?」

蒼「…はい」

教師「そう…放課後に生徒指導室まで来なさい。わかったわね?」

蒼「分かりました…」

教師「とりあえず、もう授業が始まるわ。早く教室へ戻りなさい。詳しい話は放課後聞くから」

そう言われ、私は半ば追い出されるようにトイレから出され、午後の授業を受けに行った

 

放課後

生徒指導室

教師「蒼さん、あの時トイレで何があったの?詳しく教えなさい」

蒼「私はトイレに入っていたんです。そしたら渡辺が除霊の聖水だとか言って私にバケツの水を上からかけてきたんです。うちの両親は別に悪い事して死んだ訳でもないのに悪霊みたいに言われて…一学期にも細々としたトラブルがあったこともあって周りが見えなくなっちゃって…」

教師「そう…あなたが苦しんでいたのはわかったわ。でも、流石にあれほどの事をしたんじゃ何かしらの罰は下るかもしれないわ…」

蒼「はい…」

自分がやったことが全面的に悪いなどとは全く思っていないが、流石にあれはやり過ぎてしまったと思った

蒼「それで…渡辺はどうしたんですか?」

教師「渡辺さんは、ちょっと頭を切っただけで大事にはなってないわ。あの後すぐに渡辺さんの意識も戻ったし」

蒼「そうですか。よかった」

死んでなくて。死なれると後々面倒だし

教師「今日はもう帰っていいわ。気を付けて帰るのよ」

蒼「はい、失礼しました」

礼をしてから私は家に帰った

 

次の日

私が学校へ行ってみると引き出しの中に何かが入っていた

蒼「(ん?また誰かの嫌がらせ?)」

一瞬そう思った私だったが、中を確認してみると、それは手紙の様だった

蒼「手紙?誰からだろう…」

封を開け中の手紙を読んでみた

『ここ最近の机や所有物に対する嫌がらせをしていた事はちょっとした出来心だったんです。もう決してこのような事はしませんのでどうか許してください』

おそらく昨日の騒動の野次馬の中にこの手紙を書いた人間がいたのだろう

そして、虐められっぱなしだった人間がやり返し、挙句の果てに相手を気絶させたなんて知って怖気づいたと言ったところだろう

というか、そうであって欲しい

蒼「(ここ最近の嫌がらせ?…あぁ、あれの事か。それより、名前が書いてないから誰が犯人だったのかさっぱり分からないわね。まあ、どうでもいいか)」

渡辺の性格から察するに、最近の蒼の机等に対する嫌がらせは渡辺の所為ではなさそうだ

別に誰がやったのかなど、どうでもいい上、もうしないというのならそれでいい為、敢えて深く追及する気はなかった

蒼「(まあ、名バレするのが怖くて名前を書けないような人の事なんて信じないけどね…)」

この手紙の事より、今私は渡辺の件の方が重要である

蒼「(最悪の場合退学かもしれないわね)」

そんな事を思っていると、担任が教室に入ってきて、HRを始めた

 

昼休み

午前の授業を終え、昼食を摂っているとアナウンスが流れた

教師「えー、2-3時雨さん、時雨 蒼さん、昼食を食べた後、至急生徒指導室まで来てください」

おそらく例の件の話だろう

私は残りの昼食を掻っ込み、生徒指導室まで急いだ

 

生徒指導室

蒼「失礼します」

教師「いらっしゃい。まあ、そこに座りなさい」

椅子に座るよう促された為、私は椅子に座った

教師「まあ分かっているとは思うけど今日貴女を呼んだのは昨日の件についてよ」

蒼「はい…」

教師「あの後、職員会議があって、その話し合いの結果と生徒に聴取を取ってあなたの処分を決めたわ」

蒼「そう…ですか」

先生の顔が険しい…これは停学は免れられないかなぁ…

教師「貴女の処分は…厳重注意よ」

蒼「…え?」

私は耳を疑った

あれだけの事をして厳重注意?いくらなんでも甘すぎないだろうか…まあ、こちらとしては軽い罰の方が嬉しいのだけれど…

教師「職員会議で貴女は滅多にそんな非行をするような子じゃないって先生達が言っていたし、生徒の聴取では、貴女が嫌がらせを受けていたって事を話してくれたわ」

蒼「あの、自分で言うのもなんですけど、そんな処分でいいんですか?」

教師「まあ、確かに甘々な罰だとは思っているわ。でも、相手がやっていたことも大概だったし、汚い話、学校側としてもあまり事態を大きくしたくないみたいだわ。だから、今回の件は暴力事件じゃなくて『同級生同士の喧嘩の末の事故』として処理させてもらったわ」

蒼「そうですか…ありがとうございます」

教師「でも、今後こういう事が無いように!分かったかしら?」

蒼「はい、気をつけます…」

なんか、いろんな意味でどっと疲れた…

 

教室

私が生徒指導室から帰ってくると、渡辺が登校してきていた

渡辺は私の顔を見るなり目を逸らし、私に嫌がらせをしていた頃とは別人のようになっていた

蒼「(って、気絶させられたんだから当然か)」

そんな風に自己完結して、自分の席まで戻った

その後、午後の授業の話し合いや休み時間に至るまで先生以外の周りの人が一切私に話しかけてこなかったのは言うまでもなかったが、その事については全くショックを受けていなかった

蒼「(やり返しただけで周りの人の認識は『暴力女』なんだろうなぁ…まあ、その程度で離れて行く位の関係なんだから、何も無かったとしてもそう遠くないうちに離れていくんだろうけど…)」

相変わらずの被害妄想っぷりだが、周りの反応から察するにあながち間違ってはいないだろう

一瞬、こんな時エメがいてくれれば慰めてくれるのでは?っと思ったが、ふと自分がまだエメ離れ出来ていない事に気が付き、自分に少し嫌気がさした

あの事件があってから私に対する嫌がらせはめっきり無くなり、同時に、私に話しかけてくれる同級生もいなくなってしまった

だが、私の中に後悔は無く、寧ろ吹っ切れて清々しい気持ちになっていた

 

数年後

私は今、看護師として働いている

毎日入院患者と来院患者の世話で目が回りそうだ

でも、看護をしていると患者が不意に「ありがとう」と私に感謝してくれる

何でもないそんな一言だが、小さい頃から親と碌な会話も交わせず、中学と高校で虐めを受けていた私にとっては、やりがいも意義も見出せている

しかし時々来院して来る、とある女子中学生の後ろ姿がエメと重なってしまい、時々見入ってしまう事があるのが最近の悩みである

話は変わるが、私は地元の地域団体に属しており、月一の頻度で県内の小中高校へ赴き、虐めに対する講義をしており、その過程で自分の事についても触れる事がある

そこで私は『虐められていた側』から言える気持ちや実体験を各学校の学生に説いているが今のところ受けが悪いようだ

しかし、私の様な人を今後出さないようにするには必要な運動だと自分を鼓舞し、私は看護師の仕事の傍らこちらの活動も頑張ろうと思う

虐めは人の感情を歪め、最悪の場合死に至らしめるという事を今の学生にわかって欲しい。

これを読んでくれている、あなたもなにか悩みがあるのなら、友達や家族、なんならネットの顔も知らない誰かにでもいい。愚痴をこぼしてでも話をしてほしい

それであなたの気持ちが軽くなってくれる事を心から願っている

 

The End




エメに頼りっきりだった蒼は復讐という形だというのは惜しい事だが、精神的に強くなり、吹っ切れたようだ
いづれ、蒼がエメの死を受け入れられる日が来ることを祈ろう
~~次元の壁~~
今回でこの作品は終幕となります。お付き合いくださりありがとうございました!
ちなみに、作中で起きたイジメの内容は私自身が中学時代に受けていた事100%(親は死んでません)で構成されています。イジメは人の心を歪め、良い事など被害者の精神力増強程度しか生みません。一刻も早くイジメで苦しむ人が減っていく事を願っています
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