Fate/Zero Son of Sparda 作:K-15
薄暗い路地裏で、雁夜は蟲の痛みに耐えながら壁に這い蹲る。すぐ傍には自らのサーヴァントであるバージルも一緒だ。
「どうする? 教会が……招集を掛けてる。多分キャスターの事だろう」
「キャスターもいずれは倒す相手だ。心配する必要はない。だが、ここに来て招集か。その教会が何を考えているのか、気になるな」
「キャスターとそのマスターは昨日も児童を10人以上殺している。教会側の隠蔽工作も限界が近いんだろう。だから戦いの邪魔になるキャスターを優先的に倒して欲しいんだと思う」
「教会側の思惑はわかった。だが俺達が従う理由がどこにある? あいつらの隠蔽工作など知った事ではない」
「俺は魔術師じゃないからな、そこまで詳しい事はわからない。他のマスターを束ねられる程の強制力を持った何かがあるのか? それとも古き良き魔術師の生業か……」
「くだらんな」
「あぁ、そうだ。くだらない」
「だが他のサーヴァントが一堂に会するのなら倒すチャンスもあるだろう」
「行くのか?」
苦しむ雁夜を置いてバージルはこの場を後にした。雁夜が最後に口にした言葉は届いていない。
「アイツなら絶対に負けない。でも……俺の体の限界が先かもな」
蝕まれる体、激しい痛み。
こんな目にあってまで耐える事ができるのは一重に彼女の為。彼女の子どもの為。
けれどもそれは本当に彼女の為なのだろうか。盲目する雁夜はこの道を進むしかできない。
「葵さん……桜ちゃん……また、元の生活に戻ろう。親子仲良く3人で……」
愛しているから耐えられる。愛しているからやり通す。愛しているから全てを投げ出せる。
愛しているから……愛しているから……愛しているから……
薄れていく意識の中で最後に見えたのは、葵と凛と桜、3人が仲睦まじく公園で遊んでいる風景。
(葵……さん……葵さん……葵さん!)
必死の叫び声は彼女に届かいない。
おっとりとして柔和な葵の表情、何か言葉を発して唇を動かしているがそれも雁夜には届かなかった。
意識を手放す雁夜は夢の中へと落ちて行く。
だが悪魔と契約した者に安息の瞬間などない。落ちて行く先は悪夢。
光の届かぬ闇の世界。
でも雁夜は耐えなければならない。そうしなければ桜は救えないのだから。
故に聖杯をその手にするその時まで彼は激痛に苛まれながらも耐えるだろう。彼女を愛しているのだから……。
///
冬木市に建てられた教会。その中で神父は1人、誰もいない空間に語りかけている。神父の名は言峰 璃正。
聖杯戦争の監督役でもある。
「今、聖杯戦争は重要な危機に面している。キャスターのマスターは、昨今の連続誘拐事件の犯人であると断定した。よって私は非常時に置ける監督権限を発動し、暫定的ルール変更を実行する。全てのマスターは直ちに戦闘行動を中止し、キャスター燼滅に専念せよ。そして見事、キャスターとそのマスターを討ち取った者には、特例処置として追加の令呪を授ける。コレは過去の聖杯戦争で、マスターが使い残した令呪である」
右腕の袖を捲る神父。その右腕にはおびただしい数の令呪が刻まれている。
「諸君らにとってコレは貴重極まりない価値を持つ筈だ。キャスターの消滅が確認でき次第、速やかに聖杯戦争を再開するものとする。さて、質問がある者は今ここで申し出るが良い」
教会内には霊体化したサーヴァントが4人。セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー。
自体の中心人物であるキャスターは当然この場に居ない。アサシンは聖杯戦争開始早々に退場した事になっている。最後の1人はバーサーカーであるバージル。
神父は気配で誰が来ているのかを察知して、バーサーカーが来ていない事に疑問を持つ。
(ランサーが来ていると言う事はマスターであるアーチボルトはまだ生きている。それはわかった。だが、奴が来ていないのがどうしても気になる所だ。何を考えている……令呪は貴様らにとっても重要な筈だぞ)
考えていると、突如教会の扉が開かれた。現れたのは神父が不安視した相手、バーサーカーのバージル。
「どうした、バーサーカー。指定した時間はとっくに過ぎたぞ。悪いがもう1度同じ事を説明する暇はない。私も忙しい身でな」
「関係ない。それに安心しろ。すぐ楽になる」
「なに? どう言う――」
言葉を全て発する事もなく、バージルの刀は神速の斬撃を繰り出す。
神父が気が付く暇もない。意識を向ける暇もなかった。
痛みすら脳に届くのに幾らかのタイムラグがあり、吹き出す血しぶきがべっとり頬に付着してもまだ気が付かない。
既に右腕は自らのものではなくなっている。
「神父などと聞いて呆れる。邪気が満ちているぞ」
バージルは幻影剣を1本生成。空中に浮かぶ青い短剣は、神父の首目掛けて飛翔する。その場に居たセイバーとランサーは急いで霊体化を解くが、間に合う筈もなく幻影剣は頭と胴体とを切り離した。
「バーサーカー! 貴様は――」
「セイバーか、遅すぎたな。俺は貴様らと共闘するつもりなどないし、かと言って令呪を奪われるのも面倒なのでな。この方法が1番手っ取り早い」
「教会に背くつもりか?」
「邪魔をするなら誰だろうと容赦はせん。誰だろうとな……」
セイバーを無視して教会を出て行こうするバージルに、霊体化を解いたランサーまでもが立ち塞がる。長槍の切っ先を向けるランサーは、鋭い視線を向けながら口を開く。
「俺からも1つ聞かせて貰おう。バーサーカー、以前お前はこう言ったな。必要なのは力のみだと。ならば聖杯に何を求める」
「何故、貴様に言う必要がある?」
「同じ武を志す者としてお前には敬意を払うつもりだった。だが此度の奇襲、騎士としてあるまじき行為。断じて許す訳にはいかない!」
「強くなければ……勝たなければ意味はない。そうでなくては何も守れない。それともランサー、ここを貴様の墓標にするか?」
ランサーが動いた。
鋭い突きがバージルの眼前に迫るも鞘から抜かれた閻魔刀がこれを受け流す。
「俺が求めるのは只1つ。何者をも超える力……スパーダさえ超える力だ!」
「その為ならば恥をも晒すと?」
「ランサー、そしてセイバーもだ。貴様らも俺と同じ。過去に自分が死んだ事に納得できていないからこうまでして現世に蘇っている。力さえあれば守れた。力さえあれば勝てた。力さえあれば……」
「バーサーカー……お前は……」
槍に込める力を弱めるランサーに、バージルは閻魔刀で押し返した。
もう互いに戦う意思は失くなってしまい、バージルは閻魔刀を鞘に戻す。
「言った筈だ、馴れ合うつもりはない。ランサー、貴様の首は俺が取る」
「フフッ、それはこちらのセリフだ。バーサーカー、次に会えるのを楽しみにしているぞ」
「フンッ」
霊体化もせずにこの場を後にするバージル。残されたランサーとセイバーは遠ざかっていく彼の背中を見守るだけだ。
気が付けばアーチャーの気配は教会から消えており、ライダーもいつの間にか実体化している。
「奴も過去には色々とあったようだな。だが、聖杯は余が頂く。そしてその暁には、奴を我が軍門に招き入れる! あれ程の業前、余の軍勢に入れば百人力、いや千人力よ!」
「今は戯言として流してやる。兎も角、今はキャスターの討伐が最優先だ。だが報酬の令呪は失くなってしまったがな」
ランサーの言葉に頷くライダーとセイバー。この場は解散する各陣営のサーヴァント達。けれどもその胸の内に宿すのは、万能の器たる聖杯を手に入れる事。
///
地獄、ここはまさに地獄だ。
炎獄、氷獄、混沌、全てがここにある。
血の海、断末魔、欲望が渦巻き力なき者は死が待っている。地獄に住み着く悪魔は今や居なくなった魔界の頂点を目指し、時間の概念もないままに争い続ける。
相手が同じ悪魔であろうと関係ない。負けれは死、勝って悪魔を付き従えよ。そしていずれは頂点に君臨する魔王にならんと悪魔は戦い続ける。血を求め戦い続けるのだ。
「何なんだ……これは一体何なんだ……」
悪魔に魅入られた雁夜はこの地獄を嫌でも目にする。そして刻まれる、魂の奥底にまでこの光景を。
「逆賊スパァァァダァァァァッ!」
「スパーダだと? 何だ……何だこれは!?」
下級悪魔が灼熱の炎で蹴散らされる。現れたのは全身に炎を纏う4足歩行の下半身に人形の上半身を持つ魔獣。
獅子のように凶暴な表情、その右腕には巨大な剣が握られており立ち塞がる者を全て薙ぎ払う。
炎の地獄から飛び出した魔獣は、その巨大な剣で別の魔獣を戦っている。相手も炎を体に纏う魔獣。姿は蜘蛛に似ているが3メートルはありそうな程に大きい。
「ギャアアアぁぁぁスッ!?」
「炎獄の覇者はこのベリアルだ! ファントム、貴様は死ね!」
「ほざけ、たかだか生まれて2000年の小童が! 貴様如きが、逆賊スパーダを討ち取るなど笑わせるでないわ!」
「炎獄はこの俺が覇権を取る。そして魔帝を裏切った逆賊を討ち取ってみせようぞ! ファントム、貴様はここで終わる!」
「グガァァァァァァッ!」
魔獣同士の戦いは熾烈を極める。四脚を引き裂き目玉を抉り取り、血の1滴まで燃やし尽くす。
雁夜は炎獄での決戦に目を奪われていた。
「これは……地獄だ……」
炎獄の覇者を決めるこの戦い。
互いの炎で相手を燃やす、噛みちぎる、斬り裂き骨を断つ。血みどろになるまで、どちらかが死ぬまで戦いが終わる事はない。
ファントムは岩をも容易く砕く牙でベリアルの腕に喰らい付くが、同時に大剣が胴体を貫いた。鎧のように硬い皮膚も、ベリアルの力の前には無力。
吹き出る血はマグマのように熱く、激痛に苛まれるファントムは突き立てられる大剣を引き抜かんと暴れる。
「このガキが! この程度で――」
「我こそが炎獄の覇者! ファントム、貴様はここで終わりだ! 死ねェェェッ!」
「ギャアアアぁぁぁッ!?」
大剣を両手で握るベリアルは更に奥深くまで突き立てる。響き渡る悪魔の絶叫。
そのまま刃は体は半分に斬り裂き、マグマの血しぶきがベリアルの体に降り掛かる。絶命する瞬間の最後の抵抗。
けれども体を守る炎は降り掛かるマグマでさえも燃やし尽くす。
「フハハハハッ! 遂に制したぞ、ファントムを! 我こそが真の覇者!」
(悪魔……こいつが悪魔……)
戦いを勝ち残ったベリアルを雁夜はまじまじと見るしかできない。ここは悪夢、現実とは違う。
空中で宙吊りにされながら見た光景は、目に焼き付いて離れない。
だが、ベリアルは雁夜の存在に気が付いた。
「この匂い……この覇気……忘れる筈もない! 逆賊スパァァァダァァァァ!」
「何だ? 俺が見えるのか? 気が付いているのか?」
恐怖に苛まれる雁夜。その視線は確かにベリアルと交わった。瞬間、動き出すベリアルは宙吊りで動けない雁夜の体を無骨な手で掴み上げる。
ここは悪夢、現実ではない。けれども体を通じる感触と痛みは現実以上。
折れる骨、焼かれる肉。
「ぐあ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!」
「人間! 貴様、スパーダを知っているな?」
「し、知らない! スパーダなんて――」
「我らが魔帝を裏切った罪深き逆賊! 許す訳にはいかぬ、断罪せねばならぬ! 逆賊を殺す事が魔帝への忠誠!」
「スパーダ……逆賊スパーダ……魔帝だって?」
「口を割らぬのなら、人間! 死ぬしかないな!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!?」
握り潰される雁夜の体。痛みを超えて死の恐怖が魂にまで刻まれる。
意識が途切れたその時、雁夜は悪夢から開放されて現実に戻ってこれた。
「だはぁッ!? はぁ……はぁ……はぁ……夢だったのか」
「ようやく起きたか」
「バージル……」
日も当たらぬ路地裏。汗だくの顔で見た先にはいつの間にかサーヴァントであるバージルが帰って来ていた。
「成果はどうだ?」
「教会はキャスターを討ち取ったマスターに令呪を1画渡すようだ」
「令呪を? 不味いな、急がないとこっちが不利になる。時臣……アイツに令呪を渡してたまるもんか!」
「フフッ、キャスターは倒す。だが急ぐ必要はない」
「どう言う事だ? 先を越されたら令呪が1画増えるんだぞ。そうなった陣営が圧倒的に有利だ」
「誰が先にキャスターを討ち取ろうと関係がなくなった。令呪を持つ神父の右腕、斬り落としておいた」
口から大きく息を吐く雁夜は安心して背中をコンクリートの壁に預ける。そして心の奥底から笑いがこみ上げてきた。
「ぁぁハハハッ! この聖杯戦争を監督する筈の魔術師がサーヴァントに殺されかけるか。フフフフッ」
「何がおかしい?」
「俺は魔術師が嫌いなのさ、心の底からね。ざまぁみろ」
「……そうか」
「ところでバージル、お前は悪魔なんだよな?」
「契約の時にそう言ったな」
「だったら知ってるか? 逆賊スパーダの名前を」
悪夢の中で聞いたスパーダと言う名前。炎獄の覇者たるベリアルでさえも怒りを覚える相手。スパーダとは何者なのか。
悪魔などおとぎ話の存在。現実に存在するなど想像もしなかったし、そうでなくとも雁夜は一般社会で生活してきた人間。
魔術的な知識はほとんど持っていない。
「逆賊……スパーダ……」
「知っているのか? スパーダを」
「伝説の魔剣士、スパーダはその力を持って魔帝を封印し人間界に平和をもたらした。こんな所か」
「何だそれ? おとぎ話にしてももう少しちゃんとしてるぞ。それで、バージルはスパーダを恨んでいるのか? 俺が夢の中で見た悪魔共はスパーダをえらく憎んでた」
「そうだな……目指すべき相手か……」
「目指すべき相手? ははっ、悪魔でもそんな事を考えるのか?」
(スパーダを超える力。それさえ手にすれば俺は……)
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