Fate/Zero Son of Sparda 作:K-15
どれだけ腕を、本体を斬っても底が知れない。邪悪の塊となった聖杯は、一体どれだけの力を持っているのか。
セイバーが黄金の剣で絶え間なく斬り続けても、聖杯の一部となった臓硯は痛くも痒くもない。
「その程度か? フフフッ、もはやお前に聖杯を破壊する事などできんよ。サーヴァントがワシの力に及ぶ筈がない! ワシは完全な存在となったのだ!」
「まだ終わった訳ではない! アイリスフィールも、聖杯も返して貰う!」
「あッはははははッ! もはや語る必要もない! お前の力もワシの一部となれ!」
全方位から襲い掛かる漆黒の手。特別な力など使わずとも邪悪から伸びる手に絡め取られれば為す術もなく取り込まれる。セイバーの対魔兵装も関係ない。
剣を構えるセイバーだが、手がその体に触れる事はなかった。一瞬の内に斬り落とされる邪悪の手。残るもう1人のサーヴァントが現れた。
「言った筈です。まだ終わった訳ではないと」
「雁夜のサーヴァント! フフフッ、好都合だ。貴様も取り込んでくれる!」
「妖魔、聖杯を返して貰うぞ。お前には過ぎた力だ」
閻魔刀を抜くバージルはセイバーに合流するとその隣に立つ。そして切っ先をセイバーへと向けた。
「遅かったですね、バーサーカー。ですが聖杯は私が貰います」
「それなら俺に勝ってみせろ。セイバー、お前との勝負はメインイベントに取ってある。あんな物が最後の相手など、お前からしても相応しいとは思わんだろ?」
「確かにそうですね」
2人は力を合わせ、目の前の邪悪と対峙すべく歩を進めた。今までは生き残りを掛けて互いに殺し合う相手だったが、今だけは目的を共有し手を取り合う。
「残りカスのサーヴァントが集まった所で。ワシに勝つつもりか?」
「自分でもわかっていないのか? 貴様ではその力を制御しきれない」
「バーサーカー、あのような姿になってしまった奴に言葉など不要です。私達の剣でわからせてあげましょう」
「そうだな」
この世の邪悪、決戦の火蓋が切られた。
///
バージルから手渡された時の腕輪に魔力を流し込む凛。余計な邪念を捨てて、全神経を腕輪を作動させる事に集中させる。
幼いながらも才能に恵まれている凛ではあるが、それでもまだ魔術師としては半人前以下。
魔女が使っていたとも言われている時の腕輪。それはただの魔導器ではない。使い方を誤れば使用者にどのような事が起きるのか。
凛もその事は1度経験しているし、充分に理解している。それをわかっていながらも、今はこの腕輪を使うしかない。でなければ雁夜は確実に死ぬ。
(私が上手くやらなくちゃ……やらないとおじさんが死んじゃう! 私ならできる! あの時だってできたんだから、これだって!)
魔力に反応して腕輪が激しく光る。発動する強大な魔力は雁夜のキズを元に戻していく。
(上手く発動してる! これなら……)
けれども腕輪はキズを治すなどと生易しい魔導器ではない。魔女が時を操るのに使用されたと言われた腕輪、これを使う者は時を自由に操れるとも言われた。
だが、まだ未熟な凛にそのような大魔道などできる筈もない。
膨大な魔力が使用者である凛にも流れ込んで来た。
(何なの、コレ? 制御できない!?」
雁夜だけでなく凛の体にも変化が現れた。小さく幼い少女の体が、更に小さく縮んでいく。
(コレは……ダメ……意識が……)
凛の体に掛かる時間までもか巻き戻り始める。このまま制御不能に陥れば凛の体は時間の中に消滅してしまう。
ブカブカになる服、縮む体に立っている事すらできなくなる。
光の中に凛も包まれてしまう。
(ごめん……なさい……お父様……)
「集中力を切らすな。このまま飲み込まれたいのか?」
体が背中から支えられる。視線を向けた先に居るのは、父親である時臣の姿。
「お父様!」
「凛、この魔導器は半人前の魔術師が使える程簡単な物ではない。だがお前は私の娘だ。だからできる。遠坂の娘であるお前なら」
「でも……私では……」
「今だけは少し手伝おう。これならできるだろう?」
言うと時臣も腕輪に向かって一緒に手を伸ばした。逆流する魔力の流れを制御する為に精神を集中する。そうする事で凛が時間の狭間に消えるのは何とか防がれ、体の状態も元に戻っていく。
時の腕輪を制御しながら、時臣は傷ついた雁夜の姿をちらりと見る。
(この魔導器は普通の物ではない。コイツのキズも、治っているのではなく時間が戻っている。凛はどうにか抜け出せた。後はこのままコイツの体を時の狭間に……)
///
「そ……そんな馬鹿な!? ワシは聖杯の力を――」
邪悪の塊、その本体にも綻びが見え始める。幾度も斬り付けられた体からはドス黒い液体が止めどなく流れ出しており、臓硯は力が流れ出すのを何とか止める事で精一杯。
セイバーは動きが鈍くなったのを見逃さず、黄金の剣を振り降ろそうと構えた。
「これで決めます! エクス――」
「させる物か! 死ねッ!」
伸ばされる漆黒の手がセイバーの手から剣を弾き飛ばす。
「しまッ!?」
宙に浮く黄金の剣。そして迫る無数の邪悪な手。武器が手元にないセイバーに防ぐ手立てはない。
だが今は、頼りにできる協力者が居る。
「詰めが甘いぞ。そして妖魔、死ぬのは貴様だ!」
セイバーの剣を受け止めるバージル、そしてすかさず鞘に収めた閻魔刀をセイバーに向かって投げ付けた。
回転する閻魔刀は伸ばされた手を分断して行き、そしてセイバーの手元に収まる。
「バーサーカー、助かります」
「さっさと終わらせるぞ。これ以上は見るのも不愉快だ」
「それは私も同意します。ですが、アナタにその剣が使いこなせるのですか?」
「お前こそ、閻魔刀を扱えるのか?」
「見よう見まねですが」
「フッ、騎士王ならやってみせろ」
互いの剣を構える2人。自身の魔力を凝縮させるバージルとセイバーは必殺の一撃を邪悪に目掛けて叩き込む。
もはや臓硯に逃げる事などできない。
「や、止めろ! 聖杯はお前達も――」
「エクス――カリバー!」
バージルの一振りから黄金の光が放たれる。
聖剣の中でも頂点に立つ最強の聖剣。その一振りを前に邪悪の塊は否応無しに消し飛ばされていく。
「ぐお゛お゛お゛ォォォッ! だ、だが……ワシさえ生き残れば……」
邪悪の塊の中から逃げ出そうと企む臓硯だが、剣はもう一振りある。
閻魔刀を構えるセイバーは、最後の足掻きを見せる臓硯を逃しはしない。
「次元斬ッ!」
空間ごと分断する閻魔刀の斬撃。
この刀は闇を斬り裂き食らい尽くす。歪に変化した聖杯の邪悪ごと、斬撃は臓硯を斬った。
手足を、体を、その魂までも。
「不死身の体が!? 聖杯の力が!? ワシは最強の筈だぁぁぁッ!」
消えて行く。臓硯も、邪悪も、漆黒の塊は目の前から姿を消していく。
隣り合う2人は互いの剣を交換し、自身の鞘へと収める。
「品のないセリフだ」
「これで……聖杯は……」
消滅する漆黒。
そしてその中から現れるのは、器として利用されたアイリスフィールと桜。
眠っているその体は宙に浮いており、アイリスフィールは鞘を、桜は聖杯を握っていた。セイバーはアイリスフィールを救出すべく跳躍し、バージルも床を蹴り桜を抱きかかえた。
「アイリスフィール! 意識はないが生きている。良かった……」
「こいつが雁夜の言っていた娘か」
その手に握るは聖杯、バージルは桜の体をそっと床の上に下ろし聖杯を手に取った。奇跡を起こす願望気とも呼ばれた聖杯だが、今やそんな力など残っていない。
それでもセイバーは、この場を立ち去ろうとするバージルに向かって剣を向けた。
「バーサーカー、聖杯をこちらに渡せ」
「……お前にはその鞘があるだろ?」
「あの邪悪を討ち滅ぼしたのも、アイリスフィールを助ける事ができたのも感謝はしている。だが、私の目的は聖杯を手に入れる事だ」
「そんなに聖杯が欲しいか? 聖杯を手にした所で、国を救った所で、お前を愛する者は永遠に現れない」
「うるさい! ハァァッ!」
剣を振り下ろすセイバー。
閻魔刀を引き抜くバージルはこれを受け止め、鍔迫り合いに刃がギリギリと悲鳴を上げる。
「セイバー、お前がすべき事は国を救う事ではない。その誇り高い魂を引き継がせる事だ!」
「お前に何がわかる! 力だけを求めたお前に! 私はもう……人間としての生など捨てた! だからわかる。私のような人間が王になってはならない。私の魂など……引き継がせてはならない!」
互いに剣を押し返す。距離を離す両者は己の剣を構え、最後の戦いが始まろうとしていた。
「垣間見ろ、セイバー。スパーダの真の後継者が受け継ぐ力を! その魂を!」
バージルの魔力が一気に爆発する。秘められた真の力、悪魔の力。
全身が鱗のように変化し、鋭い爪と牙が、恐怖と殺意がセイバーを睨む。
左手には閻魔刀を、右手にはフォースエッジを握る。
そして、母の形見であるアミュレットと聖杯が合わさった。フォースエッジに秘められた魔剣士スパーダの力が開放される。
「その姿は……」
「セイバー、魂を開放しろ。でなければ俺に勝つ事はできんぞ?」
「魔人……いや、魔王か……」
フォースエッジの形状が変化する。刃が湾曲した大剣。偉業の大剣。
魔界最強と謳われた魔剣士スパーダが握っていた剣が遂に開放された。そしてその剣を握るのは息子であるバージル。
それは魔王と呼ぶに相応しい。
「バーサーカー。戦いの前に、貴殿の新名を教えて欲しい」
「バージル……」
「良いだろう。騎士王アルトリア・ペンドラゴンの名に置いて! 魔王バージル、貴様を討つ!」
次で最終話です。
途中をすっ飛ばしてたり、設定的にどうなの? って思う部分はありますが目をつむってくれると嬉しい限り。
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