射手の青年、鳥の娘   作:はたけのなすび

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誤字報告してくださる方、ありがとうございます。これのみならず、過去の作品にもして下さる方もいて、作者は頭が下がっています。本当に。

推敲も頑張りつつ、ではどうぞ。
場面は東京に戻りました。







Act-15

 

 

今更ながら、とアーチャーは前置きした。

 

「お前の宝具ってのは、逸話が昇華されたものか?」

「本当に今更な話だな!」

 

大剣を乱暴にも棍棒のように振り回して、神殿の守護獣の首を両断しながらセイバーは叫んだ。

首を抉り取られて尚、動くのを止めないスフィンクスの胴体を両断したのは、魔銀で造られたランサーの大槍である。

アーチャーは何事も無かったかのように続けた。

 

「聞いてなかったからな。で、どうなんだ?」

「……微妙、だな。正直な所」

「セイバー、それはこの状況を打破するに足りるものですか?」

 

底が無いかのように次々湧き出すスフィンクスを避けるため背中合わせになりながら、三騎は言葉を交わす。

三騎が正面から乗り込んだのは、というより乗り込まざるを得なかったのはライダーの宝具である『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)』である。その内部は地獄のようだった。

頑健な体を持つアーチャーやセイバーだったが、彼らですら体の内側が蝕まれていき、血反吐を飲み込みながら戦っていた。

逆にスフィンクスは外で戦っていた時より、動きに鋭さが加わり、重さが増していた。

ファラオの敵には毒を与え、手駒には恩恵を授ける。

これは、そういう結界宝具だった。

前脚を上げて襲って来たスフィンクスの体の下をくぐり抜け、セイバーは胴体を串刺しにする。矢を弓に番える間も惜しいとばかりに、アーチャーは駆け寄ると矢を眼球に差し込み、そのまま脳を抉って動きを止めた。

丸太のように転がって来たスフィンクスの体をセイバーは両手で抱え上げて投げ飛ばす。他の神獣に叩き付けて足止めにすると、跳んでアーチャーとランサーの元へと戻る。

 

「宝具の威力は不死相手にならかなり効く自信はあるけれど、このままだとここでは発動できそうにない。一瞬、この神殿が根幹から揺らげば或いは……」

「……すまないが俺もだ。この神殿には宝具封印の能力も備わってるってとこか?」

「おい、アーチャーはそもそも宝具使用禁止ってエルザに言われてただろうに。使ったら魂が聖杯に食われてしまうんだから」

 

軽い口調を崩さない彼らに、ランサーは呆れたように首を振った。

 

「分かりました。私だけはどうやらそれを免れているようです。宝具にてこの神殿の基盤を突きます。その隙に宝具を発動させて下さい」

 

了解した、とアーチャーとセイバーは頷いた。

 

「ファラオの所まで宝具を届かせて、眼前にこの呪いと聖杯の正体を叩き付けてやる」

「それで話を聞いてくれるタマかね、あのライダーは」

 

さあね、とセイバーは肩をすくめた。

そして誰からと言うでもなく、彼らは同時に動いた。セイバーは風の魔力を槍のようにして飛ばし、スフィンクスの壁を一瞬崩す。ランサーはそこを強引に突破して神殿の奥へと消える。スフィンクスが彼女の後を追えないようにアーチャーの矢が、神殿の柱を崩して獣たちを怯ませ、ランサーへ続く道を断った。

場には、獣たちの憎悪をすべて引き受けることになったセイバーとアーチャーだけが残された。

 

「不死を殺せるって言い切るってことは、ずいぶん宝具に自信があるんだな」

「……殺せるとは言ってない。私のはちょっと空間を切って相手を何処かの次元に追放するんだ」

 

昔、幻獣の親兄弟が消えた世界の裏側。

セイバーの宝具は、そこへの入り口を剣で空間を切り開いて作り出し、相手を叩き落とすものだ。

しかしセイバーも無手では世界の裏側へと繋がる空間を完全には切り裂けない。実際大聖杯前でのときは余裕がなく、不完全な発動になった為に押し負けている。

そしてそのための触媒には三枚しかない幻獣の羽を用いるのだ。つまりセイバーの宝具発動は三度だけ。

羽の一枚は愛歌に取られっぱなしなので、今セイバーの手元にはニつしかない。

 

「回数としちゃ十分だろう。じゃあお前は昔、その手を使って竜を倒したのか?」

「そうだよ。あの竜は斬っても斬っても再生するし、毒を吐き続けるんでどうしようもなくなった。だから世界の裏側に落としたんだよ」

 

そんな話はどっちだっていいんだけど、とセイバーはアーチャーと背中合わせになりながら言った。

 

「違いないな。背中は任せたぞ、セイバー」

「アーラシュ・カマンガーにそう言ってもらえるなら、私も嬉しいや」

 

口元から垂れた毒に侵された黒い血を拭い、セイバーは笑った。そもそもあれだけ優秀なマスターがいるのに、これで負けたらそれこそ死んでも死にきれない。

そのマスターからの支援魔術も、ここからでは流石に効果が切れていた。しかしマスターの意地だとばかりにこの『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)』に念話だけは届かせて来る辺り、本当に沙条愛歌というのは規格外であった。

何でも、念話によればあちらはキャスターとの魔術戦に移行したらしい。術の英霊とマスターがサーヴァント無しに魔術で殴り合いなど、エルザや巽のような愛歌以外のマスターだったなら正気の沙汰ではないと目を剥くところだが、愛歌に関して言えばセイバーは全く心配していなかった。

この状況で最も最悪なのは、肝心なところでキャスターの横槍が入ることだったからだ。

 

『あなたもかなり器用よね。スフィンクスと戦ってるのでしょ?現在進行形で』

『こいつらくらいの相手なら、頭と手足を別に動かしていてもまだ何とか……。それとマスター、宝具二回分の完全使用許可もくれ』

『そんなのセイバーの好きにしてくれて良いわよ。こっちも好きにやっておくから。令呪も使うわ。こんな大盤振る舞い、もう二度しないからね』

『こっちだってこんな大乱闘もう二度とごめんさ……。ま、了解。お互いに頑張ろうか。――――って危なっ!』

 

大きく(あぎと)を開いて迫って来た獅子の顔面に回し蹴りを叩き込み、相手の脳を揺さぶり後退しながら、セイバーは頭の中で叫んだ。ついでに念話が断ち切られてしまう。

セイバーは舌打ちをした。

蹴りの威力も先ほどと比べると格段に落ちていた。アーチャーもスフィンクスの数に手をこまねいて完全に近接戦闘に移っているが、文字通りに血反吐を吐いている。

 

「ランサーは……まだか!?」

「焦るなって。もう少しなんじゃないか?―――――そら、来たぞ!」

 

千里眼なのか、アーチャーはランサーの仕掛ける機会を把握していた。

轟音とともに神殿全体が地震にあったように揺れ、スフィンクスたちがたたらを踏む。

その隙に、一瞬でアーチャーの手に真紅の大弓が握られた。彼は高々と弓を掲げると、力一杯それを引く。半月の形になった弓に光り輝く矢が番えられた。矢に込められた魔力の煌めきは、太陽王の神殿の光にも侵されることは無かった。

無論、宝具ではない。無いが、並みの宝具にも比肩するような魔力の高め方だった。

その輝きを見て、セイバーも自然と魔力を高める。白い喉から哄笑が吹き上がった。

 

「合わせろ、セイバー!」

「あはははっ!無っ茶苦茶だなぁ、もう!」

 

それでも嗚呼、こんなに楽しい戦いは無かったな、とセイバーは片手に宝具である霊鳥の羽を二枚顕現させた。

 

「真名開帳!―――――『癒やし齎せ奇跡の翼(アヴィウム・アリス・サンクタ)』!」

 

光が弾けて、セイバーの手元から羽の一つが消える。

霊鳥スィームルグの持つ、癒やしの力が籠められた宝具が開放される。神殿からの呪いが束の間解除され、二騎のステータスが一時的に最高値へと戻された。

 

「続けてやるぞ!真名、完全開放!」

 

セイバーの叫びに応えて、アーチャーがいよいよ弓を引き絞った。強く強く、ペルシャ随一の射手は太陽すらも撃ち落とさんと弓を構える。

それに合わせられなくて、何が最優の剣の英霊(セイバー)なのか。

その高揚に紛れて、小さな後悔が胸を刺す。生きている頃にこうすることができていたら、という虚しさを、セイバーは振り払った。

過去は過去だ。どれほど悲しかったとしてもその過去を積み上げ続け、糧にして自分はここにいる。

余計な感傷など今は要らないのだ。この刹那を楽しみ尽くして、主の所へ帰る。今はただ、それだけを考えればいい。

 

周囲から魔獣が迫り来る中、かつて無いほど()()した顔で刀身を白銀に輝かせるセイバーの横顔を、アーチャーは見守った。

この状況で笑えるような英雄にまでなったあの妹分は、一体全体自分のいなくなったあと、どのような人生を歩んだのだろうという思いが脳裏を過ぎった。

きっと沢山のものを失って、沢山のものを得たのだ。暇があればそれらを聞いてやりたいが、無理な望みは持つまい、とアーチャーは苦笑した。

それでも白髪を風に靡かせながら、自由な心を持つ者が浮かべられる天衣無縫な微笑みを見る限り、多分自分があの子どもに唯一遺してやれた平和な時代とやらは、この英霊にとっては善い時になったのだろう。

 

「ま。不要ってこともなかった、かな」

「……ん?」

 

まだ何かあるのかと首を傾げるセイバーに、良いからお前は前だけを向いていろ、とアーチャーは言った。

限界以上に力を込めた一矢を、アーチャーはこれより解き放つ。

宝具のように身体は爆発四散しないだろうが、撃てばしばらくは魔力の喪失でまともには動けなくなるはずだ。

あとはこの鳥娘に何とかしてもらうしかあるまい。

 

「行けよ、セイバー!」

 

そして矢が放たれて、神殿の内側から光の柱が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿奥、玉座に就いた神王も三騎の奮闘は見ていた。神殿の呪いから逃れ得る程高い神性を持つランサー、身体は蝕まれていても戦意を衰えさせるどころか更に昂ぶらせるアーチャーとセイバーたちは、紛れも無い勇者たちではあった。

 

「だが、足りぬな」

 

確かに彼らは砂漠の神獣には決して負けないだろう。だが、あれらは所詮、ファラオの威光の一欠片でしかない。

オジマンディアスの目は、剣を片手にスフィンクスと切り結んでは獣を乱雑に蹴り倒している小柄な英霊に注がれた。

 

怪物王女(ポトニア・テローン)の走狗よ。貴様とて勇者を名乗るのならば、さぁ、その魂の輝きを見せてみよ!」

 

その言葉に応えたわけでもあるまいが、ランサーはセイバーたちに場を任せて離れて行く。撤退ではなく、何か策あってのことなのだろう。

面白い、とライダーは微笑む。

ファラオはあのセイバーのマスターを滅すると一度裁定を下した。セイバーは身の程知らずにもそれをやめろと止めた。

故に、それを覆したければセイバーは、戦い己がで心根を示せとファラオは彼らに言った。

マスターであるあの魔術師は、何やら暗躍しているようだった。強力なサーヴァントを従えるマスターを殺すことで、サーヴァントへの魔力供給を絶つというのは如何にも考え付きそうな手である。しかし、ライダーは喩え己のマスターが危機に陥ったとしても、彼らを助けるつもりは毛頭なかった。

眼下で戦う英霊たちの輝きに比べれば、魔術師の根源への探求など知ったことではない。主の命を背負い、己のすべてを賭けて全霊で挑む英霊と、自らは陰に潜み神王の威光を借りようという不逞の輩とではどちらを優先させるか、比べるべくも無い。

 

神殿が揺さぶられたのは、正にその時だった。

先ほど姿を消したランサーが、宝具なり何なりを使ったと思しい。神殿全体が揺らいだ隙を突いて、アーチャーが弓を手に持ち、セイバーが新たに宝具を出現させる。

セイバーがそれまで放っていた神秘とは桁違いに高いモノが籠められた羽に、ライダーは眉を動かした。

 

「ほう。彼の剣士は東方の幻獣に連なる者であったか」

 

大地を穿ち、戦乱を終わらせたあの偉大なる弓の勇者と同郷であったらしい。

ならば、とライダーは玉座から立ち上がり、王の証である黄金の笏を取る。

 

「ファラオの神威を見るがいい!そして絶望せよ!光を求めし者!」

 

玉座の間から神殿内部へと一直線に黄金の光線が放たれる。

それを迎え撃ったのは、アーチャーの一矢だった。

 

「如何に勇者と言えど、宝具でもない矢で、我が光を押しとどめられると思うなよ!」

 

矢と黄金が正面からぶつかり合い、神殿が再び揺さぶられた。弾けた魔力光は流れ弾になって神殿を砕き、巻き添えを食った獣たちは次々に魔力へと還っていく。

それがどうした、とライダーは更に王笏を持つ手に力を込めた。

宝具ではない矢と黄金の拮抗は然程保ちはしない。矢はたちまちの上に燃え尽きる。そのまま進めばアーチャーを呑み込むだろう。

だがその時間は、もう一人の英霊が宝具を発動させるには十分だった。

セイバーが真名を開放する声は、轟音に紛れて誰の耳にも届かなかった。

しかしアーチャーが光に呑まれる寸での所で、セイバーが彼の前に躍り出て大上段に持っていた剣を一気に振り下ろした。

気合の叫びとともに振るわれた白銀の刀身が宙を裂く。白い軌跡に沿って生み出されたのは、奈落への入り口のような黒い裂け目だった。

その中へとライダーの光線が吸い込まれていく。悪食な暴食の獣のように、黒い裂け目はそのまま光を喰らい続けて前進を始める。

ファラオの光を正面から喰らうという不遜な宝具に、ライダーは喰らい尽くせるものなら喰らい尽くしてみせよと傲岸に笑った。

だが、それを放った当人は全く気にせず裂け目へと更に力を送り込み続けた。余波で髪が燃えようが、手足の先が燻ろうが何も顧みていない。あまつさえ、セイバーは歯を剥き出して笑っていた。

セイバーの宝具がライダーの威光を喰らい尽くすか、ライダーの光がセイバーを焼き尽くすか。

ライダーが眉をひそめた瞬間、セイバーの力が爆発的に高まった。拮抗を続けていた漆黒と黄金は、一気に漆黒へと傾いた。

あのセイバーには、最早そのような力など残っていなかったはずだとライダーは一瞬思うが、すぐに理由に行き当たる。

 

「―――――令呪、か」

 

この神殿内にいる己が従者にすら令呪の効果を届かせる魔術師の、見事な助けであった。

 

「そうか貴様らは―――――最初から二人で戦っていたのか」

 

闇が光を喰らい尽くして、神殿はみるみるうちに崩れ行く。瓦礫が降り落ちる玉座の間に佇みながら、ライダーはなかなかに楽しめたと一人呟くのだった。

 

 

 

 

 




バーサークしているこのセイバーの宝具は、要は掃除機とでも思って下さい。
神王のビームも吸い込めるような超強力な奴です。

次の投稿は恐らく遅れます。
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