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進んでるようで進んでない。
数十分もすればそれなりに落ち着いてくる。ちょっとした騒ぎを鎮めた桃子さんが淹れてくれた飲物で喉を潤し、軽い説明を交えた雑談が弾んでいた。それから、なのはの父親である士郎さんを治療することに決まったので──両肘を立て、テーブルに乗せて寄りかかり、組んだ両手で口元を隠す──さあて、ブチ込んでみよう。
「みんな、聞いてくれ。この中に転生者がいる……」
「どうしたのシン? 脳でもヤられた?」
ネミッサは無視するか。
「まずは俺、間薙真だ。次に新田優、お前だ。最後は葛葉のオッサンがそれに近いが、俺とオッサンは脇に置いておこう」
「自白したからな。僕は転生者だと認めるが、真もそうなのか」
「あれ? 無視してるの?」
そうです。
「新田優。お前は地球以外の惑星、『ミッドチルダ』を知っているだろう? その説明もしなければならない」
「ミッドチルダ……。管理局か」
「ねね、シン。話を聞いてよ」
聞きません。シリアス中です。
「魔法文化の花が咲き、次元世界の平和を管理、維持するための機関だ。そんなお題目を掲げた組織の名が『時空管理局』という。どこか、傲慢に聞こえないかね? その実、管理局は正義と平和を願う者共が集う傍ら、魔法文化のない世界を見下してもいるのだから」
「ちょっとシン? 聞いてってば」
「魔法文化のない世界を管理外世界とし、ある世界には喜び勇んで来る。そして『管理』と『保護』を押し付けてくるわけだ。そうして番号をふる。第何十管理世界とな。地球の名は『第九七管理外世界』だそうだ。ひどく失礼な話だよ」
「シン? シンさ~ん」
つんつんしないでくれるかな。ポーズが崩れる。ピクシーは俺の髪をどうしたいんだ? 絡まってるぞ。
「その強欲さを自覚できず、管理外世界での魔法行使を禁じていながら、行使すれば逮捕するというのだから。傲慢だとは思わんかね? 管理外だのにだ。自分らで関係ないといい、魔法文化の匂いがあれば管理させろという。我儘なガキだ」
「ねねっ、シンってばっ」
やめろ、腕を掴むなっ。ピクシーはそのままでいいな。ええいっ、ウザい。“身体強化だ、相棒。隠蔽式でガチガチに頼む”
“OK BUDDY.RAKU-Kaja”
「それにくわえて、管理局の内部に警察と軍隊、裁判所まで内包している。自らが法を作り、自らで治安を維持し、自らが裁くのだ。管理局内の地位が高ければ何でも出来る、そんな夢物語をみそうだよ。万年人手不足をうたい、例え犯罪の烙印を押されてもすぐに恩赦が出、社会奉仕という名の奴隷になるそうだ。犯罪者やガキであろうが才能ある者は働かされる。それも最前線へ」
「新田くん。事実か?」
「そう聞いてますよ、恭也さん」
「ねぇねぇ、シン。無視しないでよぅ」
引っ張っても無駄だ。ガチガチに固めたから動かないぞ?
「その仕事が犯罪者を逮捕するものであれば運がいいだろう。どこかの世界の戦場になれば悲惨だな。テロの標的でもなればご愁傷様だ。その才能ある者共を、贄となる戦士達を『魔導師』と呼ぶ。先天的な資格ある者が多数であり、後天的にはごく稀だ。主に遺伝で資質が受け継がれる可能性が高く、突然変異もある。それが優、お前となのはにある」
「えっ、なのはも?」
「そうだな。僕となのはだ」
「なるほど。それが先ほど説明されたマグネタイト、リンカーコアの件に繋がるわけか」
「あれ? 皆で無視してるの?」
お? 離したな。
「そう。魔導師に必須の器官、リンカーコアが二人にはある。管理局に知られると勧誘されるだろう。『共に平和を守る奴隷になろうよっ!』なんてね。くれぐれも気をつけるようにな」
「しかしだ。その口振りからすれば、何らかの接触をしたのだろう? 敵対的とまではいかないが友好的でもない様子だ。──そうか。地球にも似た組織があるのか」
「さすが恭也さん。地球にある主な組織は二つあります。管理局に思想から敵対している『メシア教』と実利主義に徹する『ガイア教』です。共に魔法文化を隠蔽していますので、管理局は表ではなく裏側で接触しています。そして我々デビルサマナーは基本的にはガイア教に所属すると思っていただきたい」
「ねね、シン。そろそろイジけるよ?」
イジけなさい。
「なるほど。基本があれば例外があるな。君達は例外なのだろう? 忍は知っていたか?」
「浅くならね。オカルトの事件は隠蔽も仕事だから、気づかせないまま終わらせるのが基本よ。それも超一流なのよ、葛葉は。……それで? 真くんの立ち位置はどこかしら? 深く知る真くんはとびきりの例外なんでしょ?」
「やはり気づきますか。葛葉一族は古くは陰陽師に類似する末裔であり、日の本を裏から支える守護の一族です。俺も所属する機関は『ヤタガラス』であり、日の本の影に徹しています。ガイア教の堕落したデビルサマナー、私利私欲に走るダークサマナーに対処するのもヤタガラスになりますね。ヤタガラス最強の一族である葛葉、今代のライドウはそちらのクズですが」
「おいこら」
「腕前は初代を越える逸材ですし、日々の安寧は守ってくれるでしょう。ああ、オカルト事件だけです。それ以外はチンピラだと思ってください。ヤクザではないです、チンピラです」
「おう、坊主。表にでろや」
「こんなクズです。さて。そこで先ほど説明されたリンカーコアとマグネタイトに戻ります。悪魔を認識した皆さんは疑問に思うでしょう。魔界からきた悪魔がなぜ人間を襲うのか。異界に住む悪魔達が現出するにはマグネタイトが必要です。召喚した彼女らは今もなお、俺からマグネタイトを吸い続けています。それがなくなれば周囲を探すでしょう。マグネタイトがなくなれば死にますからね」
「死ぬのか。悪魔が」
「そうなれば僕となのはに?」
「そしてみつける。この場にいる二人はマグネタイトが豊富な子供だ。躊躇いなく、二人から吸おうとするでしょう。しかし、サマナーでない二人はマグネタイトを差し出す術を知らない。そうなればどうなるのか」
「……僕なら魔力を渡せるはずだ」
「それは可能かもしれない。しかし、どれだけ渡せば満足すると思う? 悪魔の中には会話が通じないものもいるんだが、そうなれば諦めるのかな? 悪魔は猛獣よりも強大で狂暴だ。戦ってみるかい? ならば殺しあいだ。それとも逃亡するのかな? 悪魔から逃げ切れればいいね。残念なことに、悪魔には神や魔王だって含まれる。忘れてた? 思い出す頃には死体かもしれないね」
「それは、そのっ。なんとかするッ」
「悪魔召喚だ、相棒。レギオン、ピシャーチャを召喚してくれ。ひと目みればわかるだろう」
『OK BUDDY.DDS-SYSTEM.ACTION』
立ち上がった俺は全員から距離をとる。二つの魔法陣から現れた悪魔達に皆が息を呑んでいた。背後の二体を前にして両手を広げる。
「これが悪魔。なのは。俺のうしろに」
「う、うん……。ねぇ、お兄ちゃん。悪魔って可愛いだけじゃないんだね」
「そうだな。真くん?」
「すまない。少し怖い思いをさせるが我慢してくれ。右手の悪魔、幾重もの顔が入れ替わる群体が幽鬼のレギオンだ。ちょいとアホで可愛い」
『ウォォォレェェェダァァァ。シィィィン。ダァァァレェェェスゥゥゥゾォォォ』
まあ。幽鬼の言葉は普通の人間には通じないから、何をいってるのかわからないだろう。不気味な外見と理解不能の音が伝わればいい。……それにしてもレギオン。誰すぞってなんだ? やっぱりアホだな。
「この左手の悪魔がピシャーチャ。全身が口みたいな幽鬼だが、移動手段として重宝している。必死に俺を追う姿は可愛いぞ。デビルサマナーはこいつらと交渉したり、殺しあう。どうだ? 新田優。お前の会話は通じそうかい?」
『うぅぅぅ……。ピシャーチャだぁぁぁ。シンのナカマだぞぉぉぉ。みな殺しだぁぁぁ。シンのナカマなんだぞぉぉぉ。負けないぃぃぃ。負けてないぃぃぃ』
ピシャーチャ……。お前はもう、何かに負けてる気がする。今度、散歩に行こうなあ。
「これ、が。悪魔っ……。僕は、僕はッ」
「ネミッサやピクシーならば会話が成立するかもしれないが、レギオンやピシャーチャも悪魔だ。俺の仲魔だからいいが、野良で出会えば間違いなく殺しにくるからな。話そうなどと思うなよ? ……相棒。レギオンとピシャーチャを送還してくれ」
『OK BUDDY.DDS-SYSTEM.ACTION』
魔法陣でレギオンとピシャーチャがいなくなると、周囲から安堵の声がもれる。それも仕方ないだろう。どちらも好物は人間だからな。感じるものがあったはずだ。
「マグネタイトは感情のエネルギーだ。悪魔達は効率よく吸収するために感情を刺激させる手段にでるだろうな。それは二人を追い詰めていくはずだ。悪魔の価値観は人間と違う。二人の意思は無視され、泣き喚いても無駄になってしまう。その震え、奮える心の動きはご馳走にみえるだろう。吸われ過ぎて亡くならなけば運がいい。生きて帰れる者は少ないのだから」
「ただただ殺されろと? だから、僕となのはが危ないとッ! ……ちくしょう、僕達は餌というわけか。なんて話だッ」
そう。悪魔にとって人間は餌でしかない。それを制御して使役する人間ならば対等となる。だからこその悪魔使い、デビルサマナーなのだ。
「まあ落ち着け。幸いながら、海鳴市では低級な異界しか確認されてない。異界や悪魔を発見次第に潰して回っているから安全だと思っていい。ただ、何事にも例外はあるんだ。優となのはが危ない目にあうまでもなく知れたのは行幸だといえる。お前は悩み、考え抜き、その才能をどうするのか決めろ。新田優。お前は転生者なのだからな」
「くッ……。ちくしょう」
「なのははどうなる? 妹の安全は確保したい。兄としては譲れないが」
「……お兄ちゃん。実はなのは。あんまりわかってないのです」
「あのな、なのは……」
「ぶっちゃけ困ってます。どうしましょうか? 恭也さんは意見あります? ……おいでネミッサ。イジけてないでさ。抱き締めていいから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「無視しない?」
「無視しないよ。今も喋ってるだろ? だからおいで」
「じゃあ行く」
「ねぇ、美由希ちゃん。可愛いわよね? 頭とか撫でていいのかな?」
「ですね、フィアッセさん。あれは可愛いです。うわあ。真くんが女タラシにみえる。あれはひどいよ」
「やれやれ。長話は肩が凝るね。私は一服してくるかな。表に出ますけど、葛葉さんとスプーキーはどうします?」
「オレも行くわ」
「付き合いますよ」
いそいそと近寄ったネミッサが俺を抱き抱える。その姿をみたからだろう。フィアッセさんと美由希さんがネミッサの頭に手を伸ばしていた。
「あら? お母さんも参加していいのかしら。妖精さんは初めてみたし、お母さんはそっちね。なのはもおいで」
「やったっ!」
「シリアスは終わり? ねぇ、恭也。ちょっとだけ楽しかったけど、ことは重大なのよ? ほら、しっかりしなさい」
「……あのな、忍。それはわかっているが、脱力するだろう。真剣な話のあとだというのに。頭痛がする」
「まあまあ、恭也くん。君達の父親が回復してから決めたらどうだね? こんな息子でも頼られると私は嬉しい。君達の父親もそうだと思う」
「それは、はい。仁さんの仰る通りです。しかし、大変な息子さんですね。転生者、デビルサマナーというのは」
「おや? いわれてなかったのかい? 私達の家系は悪魔と関わる宿命があってね。なにせ『混沌王』の血筋だからなあ。息子が転生者だろうがサマナーだろうが、大した話ではないのだよ」
「それは、また。……凄そうですね」
「実際、いろいろと狙われているよ。まあね、私の妻が女神の転生体というのも、ひとつの理由だろう。そこに息子が増えた。ただそれだけ話だよ。妻や息子を守るのは父親として楽しい。君にもわかるさ。身体に無理をせず、恋人や家族の話を聞いて頑張りなさい。助力はするからね。優くん。君もだよ」
「あ、はい。どうもです」
「それは、はい。ありがとうございます。忍や家族とも話し合いますが、何かあればよろしくお願いします」
「わかってるようだね。君達は若い。まだまだ大人を頼りなさい。ただし。息子のようにこき使ってはダメだよ? 家の罰ゲームなら臨死体験だ。いささか過激だから食らわないように」
「マジですか……」
「それは、また。……肝に命じます」
──そういえば閣下。人修羅に呼び出されたって聞いたけど怒られてないかな。サボりがバレて、ルキフグスから苦情でもきたのかねぇ。ああ、勾玉の話かもしれない。勾玉は人修羅の管理だと聞いたからなあ。閣下。ご愁傷様です。
登場人物/作品。
メシア教『真・女神転生シリーズ』
ガイア教『真・女神転生シリーズ』
ヤタガラス『デビルサマナーシリーズ』
レギオン『真・女神転生Ⅲ』
ピシャーチャ『真・女神転生Ⅲ』
混沌王『真・女神転生Ⅲ』
人修羅『真・女神転生Ⅲ』
ルキフグス『女神転生シリーズ』
登場魔法。
女神転生シリーズより。
補助魔法『ラクカジャ』
一定時間内の誰かの物理、魔法防御力を上昇させる。
補足説明。
忘れなければ本編で触れる予定?
『新田優』が閣下のいう『オリヌシ』
『間薙真』が『踏み台』となっている。
まあね。皆さんは気づいてるでしょうが、念のためです。