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8件の感想……ありがとう。
少しは進んだけど、アリスとキクリヒメの登場に時間を取られた。
優とフィアッセさんの愉快な会話と俺への説教がおわり、逃げる口実に『修行があるので』といえば、二人が興味を持ってしまった。流血沙汰があるからと俺が渋れば、フィアッセさんの頼み方が可愛らしかったので承諾してしまった。今は間薙家へ向かう最中であり、呆れていたネミッサをなだめおえたところだ。
“まったく。今はこれぐらいにするけど。その癖を直さないと早死にするわよ?”
“そうはいってもだな。可愛いのが悪い”
悩む俺を横目にフィアッセさんが間薙家へ連絡してしまい──昨日、父親と交換していた──なにやら楽しげな会話を始めるしまつ。差し出された電話をかわれば『すぐに連れてきなさい』といわれたのだ。母親に逆らったら臨死体験が待っているので選択肢は残っていない。しかもだ。フィアッセさんが『真くんのお嫁さんになるならね。知らないといけないんじゃない?』といって、顎に指を当てて小首を傾げるのだ。勝てるわけがない。なんもかんも可愛いのが悪い。
“まあ、チアキには報告するからね。ご愁傷様”
“おいバカやめろください。……お母様はどうしてこう、過激なのかしらん”
“気持ち悪い言葉で逃避しても無駄よ。少しは反省すること”
“はあい。身から出た錆になるのかぁ。転生したからといって性格なんぞ変わらんからなぁ”
“変わらなくても正せるでしょ? 少しは矯正しないとね。あれよ、あれ。あの祭りが再開されるわ”
“あの祭り? ……ああ。ムドフェスティバルか。何回パトラッシュしたと思ってるんだよ。あれはかなり辛かったぞ”
フィアッセさんと優を連れて辿り着いてしまった我が家は三階建ての戸建てになり、地下一階が異界と繋がったままの事故物件だ。関係者からは『伏魔殿』と呼ばれている。やや広めに造られている裏庭から走ってくるパスカルを愛でてから、チャイムを鳴らしてドアを開けた。
「間薙家へようこそ」
「お邪魔するわね」
「ふうん。中々いい家じゃないか」
「随分とまあ。偉そうな子供ね。仁みたいに優しくはないわよ? 私は」
黒スーツ姿で仁王立ちしていた母親の視線で優は直立不動になる。電話のあとから立ったままなのか。片手に握る携帯電話をプラプラと振ってみせた。
「ただいま。こちらが俺のお母様になる、間薙千明です」
「おかえり。私が千明よ。真が色気づくのは早かったけど趣味はいいわね。女悪魔の好みから心配してたけど」
睨まないで欲しい。
「お久し振りです、千明さん。突然お邪魔してすみません。千明さんに息子さんがいるなんて知らなかったですよ」
「本当に久し振りね。誕生日パーティー以来かしら。今、ティオレと話してたのよ。大変だったみたいね。こんなバカ息子だけどフィアッセなら安心だわ。これからは近所なんだから何かあれば頼ってちょうだい」
「はい。ありがとうございます。何かあればお願いしますね。……真くん? 千明さんは私のお母さん。ティオレ・クリステラとお友達なの。千明さんの誕生日パーティーで何度か歌っててね。私も可愛がってもらったわ」
「そんないいものじゃないわ。世紀の歌姫と家出娘を同列に語っちゃダメよ。それなりのグチを語りあう仲ね。その程度でね? ……真。あなたまさか、フィアッセのことを何も知らないわけ?」
「……面目ない」
軽く頭を下げれば蹴られた。
「呆れたのよ。もう一発もらう? よろしい。一目惚れだとしても知る機会はあるはずよね? フィアッセ。その時の状況を詳しく教えなさい。真はその子供と会議室に行きなさい。朱美(あけみ)がアップデートに来たらしいから。ああ。代金は自分で払うように」
「まあ。仕方ないか。わかりました」
「よろしい。こっちよ、フィアッセ」
「またあとでね、真くん」
消えていった二人はリビングでお茶でもするのだろう。
「──口を挟めなかった」
「ある意味正解だな。優はこっちだ」
玄関近くにある階段を上った。二階には検証室と会議室、転送室がある。検証室では様々なデータの検証と研究が行われ続け──主に地下にある異界と悪魔についての情報を取り扱っている──転送室にあるターミナルは、ターミナルが設置されている場所同士を繋ぐ機械であり、ヤタガラスや政府関係者が秘密裏に通う場所でもあった。会議室は休憩室も兼ねており、研究員達の憩いの場ともいえる。
「……シン。新しい女は?」
「……真。僕には幽霊だとしか思えないが、彼女は何をしているんだ?」
「彼女はアリサ・ローウェル。ちょっと地縛霊をしていたから暇だろうと思ってね。ここで働いてもらっているんだ。ああやって天井から頭を生やしているが、頭脳明晰で大活躍しているよ」
二階の廊下に足を入れると茶色のワンピースを着たローウェルが声をかけてきたのだが、優の顔がひどいことになっている。ローウェルは二階にいる人物を把握する仕事をこなしているだけだから悪意はない。すでに死んでいる研究員は貴重な労働力だから大切にしているし、小学生の外見だからか、研究員達には可愛がられている。
「地縛霊が働いている? ……なんだこれ。僕はどうすればいい」
「シン。ママさんがいってたの。シンが新しい女を連れてくるって。アリスが泣いていたわ。だからワタシは逃げているの」
「アリスが? 今はどこに?」
「会議室だと思う。会議室なら防音されているから。……すごく泣いて、うるさかったのよ。どうにかしてちょうだい。ワタシは研究のほうの仕事に戻るから」
「りょーかい、了解。アリスは任された。ローウェルは仕事に戻ってくれ」
「はーい。頼むわねぇ」
ローウェルが透けるようにいなくなり、ブツブツと呟く優の頭を叩いてから会議室に入った。
「赤おじさ~ん。黒おじさ~ん。シンお兄ちゃんが~、シンお兄ちゃんが~」
「なあ。幼女がバタバタするの。なんであんなにイイのか研究しないか?」
「そうだな。あの癒しは効果が高い」
赤おじさんこと赤伯爵の魔王ベリアル、黒おじさんこと黒男爵の堕天使ネビロスの悪魔達が慌てる姿はひどく滑稽だが、間薙家ではよくある光景である。明らかに泣き真似をして遊んでいるのは青いワンピースを着た屍鬼のアリスで、あの二体の悪魔から過剰な愛情を注がれていた。地下の異界からやって来た三体の悪魔は間薙家を気に入り──主導権はアリス──住み着いてしまっている。研究員達からも甘やかされているアリスは姫扱いされていた。
「おうおう。ロリコンの紳士諸君っ。諸君には仕事があるだろう。さっさと働きたまえっ」
「やべ。真がいるっ。みんな散れっ! キクリヒメがくるぞぉぉぉ。掛け算される前に散れぇぇぇ」
俺の説明を受けた優は難しい顔をしているが、アリスを観察している紳士達には仕事があるのだ。雇い主が俺ではないとはいえ、働いてもらわなければ困る。軽く手を叩いて視線を集めていたら、アリスが飛びかかってきた。押し倒された俺をからかうように声をかける、やたらと機械的な車椅子に乗る灰色のスーツを着た男が『中島朱美』である。
「相変わらず楽しそうだね、君は。僕は僕の仕事をしたいから検証室に行かないかい?」
「了解。今日は赤くないから中島さんですね。アップデートって聞きましたけど、今回はいくらになります?」
俺の腹に頭を擦りつけてくるアリスをどかすと、楽しそうな悲鳴をあげている。俺が起き上がれば中島さんは唸っていた。
「ううむ。今回は無料でいいよ。バグの除去とセキュリティ関連のアップデートだからね。代金をもらうほどでもないさ。ところで真くん。ジャイヴトークの調子はどうだい? 我ながらいいプログラムだと思うんだけどね」
「役立ってますよ。レギオンとピシャーチャを仲魔にしましたからね。レギオンはちょいとアホで可愛いし、ピシャーチャの移動魔法は便利です」
「それは良かった。けど、君の趣味もすごいよね。僕もそれなりにサマナーはみているけど、レギオンを可愛がるひとには初めて会ったよ。わりとね。ピシャーチャはいるんだけど。……さて。そろそろ紹介してもらえるかな? 僕は中島朱美。『車椅子の男』とか『レッドマン』なんて名前もあるけど、通り名は『スティーブン』が有名だと思う。君のような子供は転生者と相場が決まっているが、自分で名乗れるかい?」
「あ。はい。新田です。新田優です」
優の会釈に軽く笑った中島さんは車椅子を動かして先に行ってしまった。俺をみた優に頷いてやり、背中に張り付いていたアリスを肩車して歩けば悔しがる声がする。ひと睨みすれば散っていく研究員達にタメ息が出てしまう。アリスが俺の頭を軽く叩いてきた。
「ねぇねぇ。シンお兄ちゃん? アリスから新しい女に乗り換えるってホント?」
「嘘だな。アリスは今も昔も妹だから。未来になっても妹だなぁ。アリスは俺がお兄ちゃんなのは嫌かい?」
「う~ん。シンお兄ちゃんはずっとシンお兄ちゃんがいいなぁ。シンお兄ちゃんは肩車してくれるしっ!」
「おう。そうだな」
「──話がずれている気が。いや、なんでもない」
「シンお兄ちゃん。……この子、誰?」
俺が口を開きかけると優が制止するように手をあげ、俺の頭を掴むアリスに向かって右手を差し出した。アリスは手を取らない。
「優だ。僕は新田優。よければ友達になってくれないか? アリスでいいのかな?」
あ。地雷。
「お友達? わたし、アリス。わたしのお願いきいてくれる?」
「おい優っ」
「お願い? いいぞ。僕にできることならだけどね」
「あのねー。……死んでくれる?」
まずったなあ。屍鬼のアリスは強力な魔人の顔も持つ悪魔だ。アリスはベリアルとネビロスが拾った魂を偽りの肉体に入れ、偽りの記憶を与えられて生まれている。生者の頃の記憶はなく、アリス自身と同じ死体で、腐らない友達を欲しがっているのだ。俺とアリスの仲はそれなりに良いが、間薙家に住み着いているだけのアリスは野良の悪魔で──俺がアリスを使役するには、俺の実力が足りてない──アリスは俺の成長を待っていてくれているが、野良の悪魔なのだ。
「え? なにを」
「優、アリス。落ち着いてくれ」
「死んでよー。はやく死んでよー。 ねぇねぇ、はやく死んでよー。はやくはやくー」
「で、きない。かなあ」
「聞けよ、お前ら」
「うぇーん。ウソつき~。アリスのお願いきいてくれるっていったのに~。──あのねー、『死んでくれる?』……やったよー。死んだよ、シンお兄ちゃん! お友達ふえたよ~」
優が死んだ──。
「ああ、うん。ダメだからね? ……起きろ、相棒。音声入力。『悪魔召喚プログラムから緊急召喚』だ。キクリヒメを召喚する」
『OK BUDDY.SUMMON PROGRAM.START-UP』
瞬時にバリアジャケットの姿へ変わり、魔法陣が展開される。
『NEXT.DDS-SYSTEM.ACTION』
黒い肌で白髪の、勾玉を各所にあしらった巫女服が特徴的な悪魔がキクリヒメだ。俺の仲魔で回復に特化しており、死後数時間以内なら完璧に蘇生できる。空中でくるりと回り、一礼した。
「──わたくしの名はキクリヒメ。参上いたしました。……あら? ご主人。新しい遊戯ですね。ショタっ子のリョナ、鬼畜攻めとは業が深い。さすがご主人。感服いたしました」
この性格さえなければなあ。かなり優秀なんだがね。ぶぅぶぅ煩いアリスを肩から下ろし、軽く抱き締めてやると大人しくなった。
「優に。この男の子にサマリカームを頼む。それとな、キクリヒメ。そんな趣味は欠片もないから勘違いしないように」
「またまたご冗談を。ご主人が二刀流であれば。先日の紳士、本日の幼児。……ああ。わたくしは。ねえ?」
士郎さんを舐めるようにみてた理由はそれか。縁結びの神として空気を読んで黙っていたと思っていたら……。
「いいから、キクりん。サマリカームだ」
「かしこまりました。『サマリカーム』です。それよりご主人。わたくしと愛の縁結びをいたしましょ」
キクリヒメはキクりんと呼べば素直に従ってくれるのだが、デビルサマナーとして何かを間違えている気分になるんだ。
「相棒。キクリヒメを送還してくれ」
『OK BUDDY.DDS-SYSTEM.ACTION』
「をすれば、よりよい快楽──」
さて。臨死体験をした優に事情を説明しないといけないな!
登場人物/作品。
ティオレ・クリステラ『とらハ』
アリサ・ローウェル『とらハ』
アリス『真・女神転生Ⅳ』
ベリアル『真・女神転生Ⅳ』
ネビロス『真・女神転生Ⅳ』
中島朱美『旧約・女神転生Ⅰ』
レッドマン『デビルサマナー』
登場魔法。
呪殺魔法『ムド』
相手を呪殺する。
蘇生魔法『サマリカーム』
相手を瀕死状態から完全復活させる。
登場技能。
会話技能『ジャイヴトーク』