もう一度、会うために   作:mad pierrot

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さてさて、問題児シリーズに手を出し始めました、mad pierrotです。
この話は、まあpixivにも投稿しているので、よかったらそっちも見ていってください。
ちょっとだけ内容変えるかも…?


英雄王

[00]

 

 世界には、様々な人間がいた。

 その中でも特に、神々と闘い、またそれらと等しい力を持つ人間の事を、英雄と呼んだ。

 

 

 英雄王。

 一国に所属する英雄であり、その国の最終兵器。

 一夜でエルフの大群を滅ぼし、赤き竜を叩き潰し、数々の災厄を跳ね除けてきた。

 

 そんな彼の、最後の戦い―――つまり、最終決戦の日。

 その、前日。

 

 今度こそ死んでしまうかもしれない、という事で、この日は私的な友人に対するお別れのあいさつの日となった。

 とはいっても、これまでに世話になった人間は溢れるほどいるし、とても回り切れない。

 

 だから。

 だから、最後くらいはただの『人間』として過ごしたくて、そこに帰った。

 

 

[01]

 

 

 懐かしい、香り。

 一面に草が生えて、それらが伸びきってしまっている。

 そんな草原の端っこ辺り、昔は何かしらの建物の一部であったのであろう大きながれきの上に腰かけて、背中のカバンから、王国のワイン室より拝借してきた一本の瓶を取り出す。

 

「ったく、こんなに荒れちまって」

 

 そう言いながら、瓶から直接ワインを飲み。

 

「ふぅ…。明日だってよ、俺の最終決戦。

 

 一口。

 

「早いよなぁ、全く。

 

 一口。

 

「あんなにあっさりと燃え尽きて、もう戻らないとか言われてたのに、

 

 一口。

 

「もうこんなに草が生えて、昔の面影すらねえ。

 

 一口。

 

「おいおい、返事くらいしろよ。この英雄王サマがきてやってるんだからさあ。

 

 一口。

 

「独りで酒盛りしても楽しくねえんだよ。

 

 一口。

 

「なあ、アルタ。

 

 一口。

 

「ヴェージ、ゴル、ネセトリ…マリア…ジェー、ン、ソラ、ト…」

 

 カラン、と乾いた音が響く。

 

「返事くらい、してくれよ…。最後なんだ…ようやく終わるんだ…最後くらい、励ましてくれてもいいじゃねえかよ…」

 

 フッと、一陣の風が吹いた。

 コロコロと、空き瓶が転がる。

 そして、誰かがすすり泣く声だけがした。

 

 

 

 結局、返事は無かった。

 ただただ、優しく風が吹くだけだった。

 だけど、だけどそれだけで元気づけられた気がした。

 

「…帰ったら、ここの草全部引っこ抜いて綺麗にするか」

 

 夕日が沈む。

 

 夜は更ける。

 

 決戦の朝は近づく。

 

 

 

 

 

 それからすぐ。

 

 

 

 

 

 若き英雄王は。

 

 

 

 

[02]

 

 三つの神群を同時に相手した。

 跡地の状態は、それはそれは酷いものだった。

 でっかい大陸の真ん中を通る形で、大きな川が出来た。

 その大陸で一番デカかった山は、真っ黒焦げで一回り小さくなっており、二番目の山は跡形もなく消えていた。

 地図に乗るほど大きな都市の半数が物理的に消えてしまい、残りの殆どは半壊状態、わずかに傷を受けていない場所も残っていた。

 地元民にふざけるなよとか言われそうだな、と、英雄王はむき出しの地べたに寝ころびながら考えていた。

 

『いやはや、流石だ、英雄王』

 

 その傍ら。

 腕組みをしながら、胸に大きな穴をあけた男が立っている。

 

『三つの神群を同時に相手取り、しかし負けんとはな。だが、ここでお前の英雄譚も終わりだろう。その体では、もう戦えまい』

 

「うる、せえよ。大体、ただの人間に対してぶつける戦力じゃ、ねえ、だろ」

 

 返事をする英雄王の身体。こちらも中々なものだった。

 

 生きているだけですでに奇跡だ、と。

 死の神辺りがみても、そう言いそうな程ひどかった。

 

『まあ、とはいえ、貴様の勝ちじゃ。どうじゃ、勝利してみて―――人間の枠組みを超えてみて』

 

「はっは、やかましい神様だな、おい。…っていうか、お前きちんと死んでんのか?当たり前みてえにぺらぺら喋ってっけどよ」

 

『当然じゃ。霊体も潰され、物質体も潰され、生きておるわけなかろう』

 

「ああそうか。いや、漸く安心できるなぁ」

 

 英雄王として、数々の英雄から借りパクしてきた宝具を贅沢に使い潰し、帝国にいる多くの人間から強引に奪い取った魔力を搾りかすまで使って、疑似的に終焉を造り上げ。

 そして、自分が最高の状態でなければ打てない最終奥義を無理やり打ち。

 ここまでして負けてしまったら、本当に打つ手がない。

 

『まあ、どうせ霊界にもどれば千年ほどで回復するんじゃがの』

 

 ふぉっふぉっふぉ、と。

 ムカつくほどの笑顔で、その神は言った。

 

「っち。さっさ消えろよ、お前。死ぬ時くらい、ただの人間でいさせろ」

 

『ああ、分かっておるわ。それくらいは、このオーディーンを倒した権利として認めてやろう―――

 

 フッと。

 男―――オーディーンの身体が透けていく。

 ボロボロと崩れ落ちていき、

 

 ―――ほんじゃ、またな』

 

 神様らしくない一言が、響いた。

 

 

「はぁ、疲れたな…。ったく、迷惑な神様だ。……オーディーン…もう、死んだか?」

 

 返事は、ない。

 声は、虚空に響くだけ。

 

「ははは。無理し過ぎたかねえ、全く、柄でもない。―――すまねえな、みんな。草は、きれいに、できそうに、ない」

 

 呼吸が荒くなる。

 終わりが、近づいていた。

 

「向こうの世界で、また、会えるかねえ…」

 

 フッと。

 風が通り過ぎる。

 

「…あん?」

 

 カサリ、と。手紙が顔に落ちてくる。

 

 開けて。

 

 声が、聞こえた。

 

「…はっ、お前ら、最後の最後にか」

 

 

 来てね、お願い。

 

 

 高そうな?で封がしてあったが、気にせずそのまま破って開ける。

 

 

 向こうで待ってるから。

 

 

 開き、読む。

 

 

 きっと、来いよ。

 

 

『悩み多き異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの?箱庭”に来られたし』

 

 

 光が、視界を覆った。

 

 残ったのは、無邪気な笑い声だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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