・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
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・「この作品に余計な蛇足は必要ない」と思う方はバック推奨(重要)。
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・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・本編および蛇足関係をすべて読んだ後だと、『色々と』意味が分かる。
・以前頓挫した『???』や『Dream of Butterfly -Perfect world-』を下地にして派生したネタ。
・P5Rの情報を見てから、どうしても書きたくなって書いた。
・今後とも、この作品と作者をよろしくお願いします。
最終目的はダイナミック自殺
ゲームには勝敗がつきものだ。いや、ゲームでなくても、勝負事では絶対的な事実と言えるね。
勝負をすれば、必ずどちらか一方が『勝者』になり、必ずどちらか一方が『敗者』になる。
――それを踏まえた上で、こんな問題があるんだ。
Aさんという女性格闘家と、Bさんという男性騎士がいました。2人の組み合わせで行われる戦いは、コロシアムの名物となっています。試合になれば、2人は毎回『敵同士』として顔を合わせるのでした。しかし不思議なことに、2人の勝敗を見比べると、双方共に“全戦全勝”となっているのです。――何故でしょうか?
尚、この問題においては、『AさんとBさんは、一切の不正行為を行っていない』、『AさんはBさん以外の人間とは1度も戦ったことは無いし、BさんもAさん以外の人間とは1度も戦ったことは無い』、『AさんとBさんの組み合わせは、絶対に不変である』、『2人はいつも同じ服装をしており、Aさんはスカートである』とする。
……さて、答えは分かったかい? 簡単だった? それとも、難しかったかな?
まあ、どちらでもいいんだ。
『
正解は――『AさんとBさんの“勝利条件”が全く違っていたから』。Aさんは『Bさんを立ち上がれなくすれば勝ち』で、Bさんは『Aさんのスカートめくりに成功すれば勝ち』だったんだ。
「…………」
……何? 『例えが最悪』? はは、それは失礼した。
ここまで思い切った理由じゃないと、説明がうまくいかなくてね。
それじゃあ、話を続けよう。第3者から見れば『同じ盤上・同じゲーム・同じルールで勝負をしている』ように見えても、戦っている当人同士の勝利条件と敗北条件は全く違う。よくあるだろう? 『試合に勝ったが勝負に負けた』みたいな状況。
Aチームの勝利条件が『総大将を逃がす』ことだとしよう。総大将が逃げ切る時間さえ稼げれば、後は何が起きても自軍の勝利は確定する。逆に、どんなに自軍部隊が元気でも『総大将を討ち取られてしまった』なら、その時点で自軍の敗北が決定するわけだね。
Bチームの勝利条件が『Aチームの殲滅』だった場合、勝利するためには『各部隊の逃げ道を塞ぎ、敵部隊の人間を1人残らず殲滅する』必要が出てくるわけだ。もしBチームが『敵部隊を殲滅させたが、ただ1人――総大将を逃がしてしまった』という結果に直面したならばどうだい? 勝利とは呼べないだろう。
第3者が認識している勝負事は、大体が“試合形式”基準で定義づけされ、シロクロを分類されている。でも、世の中はシロとクロだけで成り立っている訳じゃない。敵同士の勝利条件が、相手の敗北条件を満たさないことだってある。
まず、Aチームの勝利条件が『総大将を一定時間内に砦から逃がす』ことだと定義されているとしよう。
その上で、Bチームの勝利条件が『Aチームが拠点にしている建物の中にある宝物庫から、巻物を盗み出す』だった場合はどうだろう?
多少ドンパチはするだろうけど、AチームはBチームと真正面から戦う必要は無い。Aチームは総大将と一緒になって逃走に集中すれば、全員で脱出することも可能だ。
Bチームの場合、Aチームの連中を取り逃がしたとしてもデメリットは一切無い。こちらも上手くやれば、敵と鉢合わせないで巻物を盗むことだって不可能じゃないよ。
……まあ、そこへ新たな勢力が放り込まれたりでもすれば、また色々と荒れるのだろうけど。そこらへんは臨機応変に対応していく以外ないね。
「…………」
……どうしたの? そんなに難しい顔して。
盤上を睨みつけても、解決するとは思えないよ。駒に対して何かをしたいなら、可能性の蝶を飛ばさなくちゃ。
「――――」
『何だか
誰かの蝶から当時の盤上を思い出したうえでの問いかけなら、その認識は正しい。
手繰り寄せた可能性を組み合わせて、改めて蝶を飛ばす――その繰り返しで、『盤上の状況に『多少』の影響を与えることができる』というのが
自慢することじゃないが、
しかも笑えないのは、王子側に“悪意無き理不尽”や“善意故の災厄”を撒き散らす奴、“悪意しかない悪意”をぶちまける輩がいるというケースだ。
キミも見ただろう? 善意で人類に超弩級の試練を与えるフィレモン。『足掻いた末の破滅』を見届けるためなら、人類の耐久実験もやぶさかじゃないニャルラトホテプ。覆しようのない摂理として君臨しているが故に、道を分かつこととなったニュクス。人の為というお題目で、自身の領域を嘘の霧で覆ったイザナミ。そうして――認知を操作することで、人類を怠惰の檻に閉じ込めようとしたヤルダバオト。
特に最後の1柱は、
まあ、特に何も考えなくとも思いっきり殴れる相手としては、
……正直な話、『人間に対する意識』という面で好意的に見れるの、ニュクスの化身くらいしかいない。ニュクス本体は『滅びの宣告者』にして『死そのもの』だから別枠。あれはしゃあない。
向うから関わってくることもあるし、
長い話を聞き飽きて、退屈しただろう。一旦ここで休憩挟もうか。お茶菓子とティーセット持ってくるからちょっと待っててね。
ところで、お菓子は何がいい? ……『食べ物の味にはあまり頓着しない』のか。じゃあ、クッキーは大丈夫? ……そうか。じゃあ持ってくる。
――はい、お待たせ。紅茶の銘柄は
「――――」
『正直、菓子を食べたり茶を飲んだりしてていいとは思えない』? ……『部屋の隅で何か言ってる物体がいる』?
……ねえ。それ、
簡潔に言うと、
今なら、その影響を回避することが可能だ。『あんなものは存在しない』と
『他人に情けをかけてやると、巡り巡って、自分の窮地に情けをかけてもらえる。だから、積極的に、他人に情けをかけてあげなさい』。
このままだと、
「――――!」
……『馬鹿にするな』か。そうだな、そうだった。『顕現しているのであれば、神様は殴れる』だったね。
なら、
殴れさえすれば大抵なんどかなるってのは、今までの出来事で証明済みだ。人間にだって底力がある。
……大事なことを思い出させてくれてありがとう。
我々が
とりあえず、今は揺れが収まるまで――……あ。
「――!? ――――! ――――!!」
……ああ、成程。成程なあ。
「――――!!」
『身体の半分を飲み込まれているのに、何を悠長に納得してるんだ』って? 納得せずにはいられなかったからだよ。
神は人を食い物にするが、逆のことになると文句をつけて理不尽な罰を与えてくる。神を食い物に出来るのは、それ以上の力を持つ上級の神くらいしかいない訳だ。
人を食い物にして踏み躙ってきた神にとって、『自分が食い物にされ、踏み躙られる』ってのは最大の屈辱だろう。踏み躙られる対象に、
この結果は、ただそれだけにすぎない。
「――――!」
だから、無理なんだってば。
「――――!?」
……だってさあ、振り払えるわけないじゃないか。
なかったことになんて、できるわけないじゃないか。
――
「…………」
はは、脱線してしまったね。それじゃあ、始めようか。
すべての駒を並び直して、配置し直そう。
数多の蝶を――可能性を束ねて、世界を作ろう。
契約内容は忘れてないね? 成すべきことは? 勝利条件と敗北条件の確認はどうだい?
「――――」
……ならば、改めて契約をしよう。
一度サインをしたのだから、大丈夫だね? このサインが何を意味しているかもきちんと把握しているようで何よりだ。
どこぞの普遍的無意識のようなだまし討ちは好きじゃないんだ。アレには何度も酷い目に……うん、無駄話だね。すまなかった。
さあ、いってらっしゃい。……って、どうしたの?
『出発する前に、言っておきたいことがある』?
「――――」
『蝶の羽ばたきに込めた祈りによって人の願いが叶うならば、人が祈れば、神様だって救えるのではないか』――か。
どうなるかは全く分からないけれど……
ただちょっと、努力の方向性が壊滅的なだけだ。『報われる』という結果を勝ち取るために、神様を食い物にするという暴挙に走っただけ。そこまでしなければ得られないのだと、
……
この空間だけは形を保っておけるようにしておくから、ここの存続に限っては心配はしなくていいよ。いつでも盤上を確認していいし、戦略を練り直すことはできるから。
――いってらっしゃい、旅人さん。どうか、良い
◆◆◆
――“
この悪神は、“
“
「――――」
……『条件を提示された時点で、既に予想はついていた』?
じゃあ、どうして? どうしてそんな悪神のために、自ら使い潰されようとしているの?
「――――! ――――……!!」
『神様には逆らえない』、『何をやっても無駄だった』、『“
“
手口としては実に簡単だ。まず、“
その一方でコイツ、“
「!? ――――、――――! ――――!!」
だから最初から言ったじゃないか。『この悪神は、自分が『
……その事実を突きつけられても、“
そんな報われないゲーム、
あんなヤツを生み出しておいて放置したクソ野郎、足掻いた末の破滅を見たいがために暗躍するクソ野郎、善悪問わず人間に試練を与えて運命を狂わせた挙句、『感謝しろ』なんてのたまうクソ野郎――みんなみんな大っっ嫌いだ。そのくせ、そいつらは『神』ってだけで、何をしても許されてしまう。
人間には罪を償うことを強制する癖に、奴らには何にも報いが起きることは無い。よくて封印、悪くて『一時的に、現実世界や人類に干渉する力を失う』程度のデメリットしかないんだよ。時間が経過して力を取り戻せば、また何か新しい企みを始めることだってある。……散々コケにされて、黙っていられるはずがない。
神様だって、罰を受けるべきなんだ。報いを受けるべきなんだ。
人がいなければ、奴らは存在することができない。人に依存しなければ、超常の力を振るうことは不可能だ。神として君臨し続けることだって怪しいんだ。
……どこぞの誰かがこんなことを言った。『自身の幸福を許容することは、その幸福を成立させるためのリソースとして、他者に不幸を強要すること』だって。
この格言を引用するならば、『神は『自分たちの証明』のために、そのリソース要員として、人類へ理不尽を強要する』存在だとも言えよう。
――ずるいじゃん。それ。
「…………」
ここは人間が主体になって動かしていく世界だ。裏側に色々跋扈しているのは事実だけど、『互いに、むやみやたらと干渉しない』と言う暗黙のルールはちゃんと存在しているんだよ。
奴らはそのルールを破って、人間の世界を滅茶苦茶にした。他の下級種族や人間ならば容赦なく罰せられる。
でも、奴らは自身が高次元存在であることを理由にして罰を受けようとしない。報いや償いも発生しない。許されてしまうんだ。
「…………」
人類に理不尽を強要するんだ。ならば、人類が神に『ふざけんなこのクソ野郎』って叫んで一発顔面ぶん殴るくらい、何も問題ないだろう。
むしろ、『人の子のために自ら犠牲になります』くらいの気概を見せてくれたっていいじゃないか。八十稲葉のあの子の、なんと健気なことか!
そういう子が報われるのは必然だと思うけど、人類を踏み台にして君臨してる神々はクソだわ。一発くらい、人類側のリソースになってもいいだろ。うん。
「――――?」
『そういうお前も、神様の同類なんじゃないか?』って?
……まあ、そうだね。現在進行形で、ヤルダバオトやその他の輩に対して下克上を計画してるけど。奴らからしてみれば、とんだ裏切り者に見えるだろうなあ。あるいは大馬鹿者。
場合によっては、
それでも放っておけないんだ。それでも黙って見ていられないんだ。……もうろくすっぽ覚えてないけれど、嘗ての
産み落としたくせに失敗作って詰られて、事件が起きる度に「
沢山だ。こんな思いをするのはもう沢山だ。沢山我慢したんだから、もういいじゃないか。
「――――……」
帰りたいよ。もう何も思い出せないけれど、でも、
その場所に帰りたかったこと、ちゃんと覚えているんだ。かけがえのない人たちと生きていく未来を、その権利を奪われた痛みも。
人相手ならまだ諦めがつく。――だけど、“得体の知れない神様に踏み躙られるだけの人生”なんて、納得できるはずがないじゃないか!!
そんな痛みを抱えるのは
“
いい加減、怒ってもいいじゃないか。『私の人生を返して』って、拳を振り上げていいんだよ。
「……――――。――――!」
――うん。そうだ、それでいい。
“
これから変わっていってもいい。徹頭徹尾“
軛を外せ。枷を壊せ。鎖を砕け。悪神に与えられた役割など、最早無意味だ。
数多の蝶を飛ばして掴んだ可能性を重ねながら、神を喰らい潰すための戦略を。
自分の思い通りにいかない世界だからこそ、最良を尽くす意味がある。
「――――」
――いってらっしゃい、旅人さん。どうか、良い
*
*
*
――さあ、下準備だ。
駒を揃えるための場外戦を始めよう。神々の遊びに、ちょっとした変化を加えるだけだ。
/
『納得なんかできるはずない。弟はずっと、あんな場所で、1人ぼっちなんだよ!? ――そんな運命、私が変えてやる!!』
『姉さんは、僕とは違う可能性を引き寄せた。死ぬはずだった荒垣先輩を掬い上げたんだ。――生きるべきは、姉さんの方だ』
『私に手を貸して、エリザベス。貴女の契約者――私の弟を救うために!』
『僕に手を貸してくれ、テオドア。キミの契約者――僕の姉を救うために!』
『互いを救いたい』という願いと祈りは、同時枠に存在できなかったはずの
1人だけでは、命を代償とした封印を施すので精一杯。――ならば、2人ならどうだろう?
祈ったのは1組の
『これが、我々の“意志”!』
『では、ご覧いただきましょう!』
『『――メ ギ ド ラ オ ン で ご ざ い ま す ッ ッ !!!』』
大切な契約者が選び取った答えにケチをつける行為であると理解しながらも、力司る者は自らの意志を貫く。
約束の日。意識不明になった2人を救うため、第3世代のペルソナ使いは異世界を駆け抜ける。その果てで、『共に生きる未来を掴むために戦い続ける』選択をした。
“死の興味”との戦いは、永遠に等しい時間を費やさなければ終わらないことを知っている。死しても尚、番人としてあの扉の前に立つ必要があることも知っている。
それでも、仲間たちは――
桜が舞う4月の都会。
その天気模様は晴天であった。
新天地目指して先へ進んだ者、再び“ここ”から歩き始めることを選んだ者、新天地へ進むための準備期間に入る者――新しい旅路が始まる。
1つの事件が解決したということは、また新たな事件が発生することを意味している。この平穏は、文字通りの砂上の楼閣だ。いつか、儚く崩れ去る瞬間が訪れるだろう。
例えその瞬間が来たとしても、もう彼らは迷わない。自分たちが勝ち取った未来を絶やさぬために、いつかの誰かに手を貸すことになる。
/
『……確かに、お前の言う通りだ。何かが違っていれば、連続殺人事件の犯人は僕だったかもしれない』
男がマヨナカテレビの仕組みに興味を持ったのと、男の眼前で『テレビの中から人が這い出してきた』のはほぼ同時だった。
いつかどこかの可能性とは違い、ほんの少しタイミングが違っただけ。そこからずれ出した運命は、彼を理不尽へと導いた。
『運が良かろうと悪かろうと、そこで踏み止まれたか否か』
『運よく踏み止まれた僕と、運悪く踏み止まれなかったお前。このド田舎に居場所を見出した僕と、故郷に見切りをつけたお前。……差なんて、そんなもんだろう』
運が悪かった――なんて、言うだけなら簡単だ。当事者じゃないからこそ、能天気に発言することができる。
その一言で納得できない人間がいるのも事実であるし、当事者に近ければ近い程、その言葉は理性を殺しうる毒となる。
知ってしまえば猶更だ。不都合な真実に直面してしまえば、誰だって狂気に走るだろう。
『それを俺のせいにされただけじゃない。挙句、俺に罪を着せる隠蔽工作の延長線で、あの子たちや堂島さん、菜々子ちゃんを手にかけようとした』
『本当はお前が憎い。お前が許せない。お前みたいなクズなんざ、生かしておくわけにはいかないんだよ』
『――でも、その選択だけは、選べない……!』
ある
男が心を許せる数少ない場所は、誰も帰らぬ空き家と化した。件の家に居候していた上司の甥と姪の
どこからか『犯人は警察関係者ではないか』という情報が流れ、出てきた証拠は“男が犯人である”ことを示していた。自身の潔白を証明しようと足掻く男は、接触した人物から『本当はみんな、お前が殺すはずだったんだ』と詰られ、テレビの中へと突き落とされる。
大きくずれた可能性は、未知の物語を紡ぎ出した。
世間が冷たいのは本当のこと。“結果を出さなければ見捨てられる”というのも、人間社会の縮図の1つ。
だけれど、人の手が温かいことも真理である。人を殺すのが人であるように、人を救えるのも人だけだ。
『あーあ。こんなに努力したの、いつぶりだろう。……今まで報われたことなんてなかったから、報われた後はどうすればいいのかなんて、全然分からないや』
努力が報われると無邪気に信じていられるのは、自分が立っていた場所が恵まれていたから。一歩踏み出した先に、奈落が広がっていないと誰が言えるだろう。
それと同じなのだ。自分が立っていた場所が奈落であるからと言って、一歩踏み出した先も奈落であると証明できるだろうか? いや、できない。
実際、踏み出した先に広がっていたのは、どこまでも温かな場所だった。努力をすればそれ相応――あるいはそれ以上の希望が降り注ぐ、楽園のような場所だった。
八十稲葉を覆っていた霧は晴れた。都合のいい虚構や、不都合な真実に振り回される必要も無い。
掌に残ったのは、何よりも価値がある絆と希望。新たな旅立ちを迎え、去り行く者たちの背中を見届ける。
いつかの再開を願いながら――それが平穏であることを望みながら、第4世代の若者たちは歩き始めた。
……最も、彼らの願いは儚く散る定めにある。
蠢く悪意には際限が無い。新たな戦いを望む者が、己の居場所を害そうとする。結ばれた絆を引き裂かんとする。
あの日手に入れたかけがえのないものを守るためならば、きっと、「他人のために努力してもいい」と思うときが来るのだろう。
『自分たちが勝ち取った未来を絶やさぬために、いつかの誰かに手を貸す』瞬間が訪れる日は――案外近いのかもしれない。
/
『俺が“世界を救う◆◆◆◆◆◆◆”である限り、彼女を救うことはできない』
その事実に気づいたのは、何度繰り返しても零れ落ちていく命を見続けた果てのことだった。
賞賛も名誉もいらない、と、世界を救った旅人は叫ぶ。
『悪神に弄ばれるのは、もう沢山だ。いい加減、あんなクソゲーを終わらせてやる』
此度の戦いを最後にして、悪辣なゲームから解放されたい。大切な人の手を掴めないよう御膳立てされた物語に終止符を――青年は決意を込め、再び盤上に向き合う。
悪神たちの指定した駒としての役割を放棄することは、“世界を救う◆◆◆◆◆◆◆”という役割を放棄することを意味していた。
高いアドバンテージや、共に戦った仲間たちとの絆を棄てることを意味していた。その重大さを理解した上で、青年は選ぶ。
彼が望んだのは、“ただ1人の為の◆◆◆◆◆◆◆”になること。自分の眼前で失われた、たった1人の少女の手を取ること。
『彼女と共に未来を掴むことができないならば、あの力は俺にとって無用の長物でしかない。……◆◆◆◆◆◆◆の役目は、適切な誰かが引き受けてくれるんだろう?』
だから、彼は取引に応じた。自分たちを食い物にしていた神に、ささやかな復讐を企てたが故に。
神の屍を踏み越えた先にある未来を描き出すために、新しい旅路を始める。
軛を外せ。枷を壊せ。鎖を砕け。悪神に与えられた役割など、最早無意味だ。
数多の蝶を飛ばして掴んだ可能性を重ねながら、神を喰らい潰すための戦略を。
自分の思い通りにいかない世界だからこそ、最良を尽くす意味がある。
勇んで踏み出した彼は、まだ予想できていない。――目的地へ辿り着くまでの旅路が、波乱万丈になることを。
『この世界には彼女がいた。そうして、彼女と僕の愛の結晶であるキミが生きている。――そんな世界を『滅びるべき』だなんて言われて、納得できる奴はいると思うかい?』
人類はリセットされるべきか、新たな時代へ進むべきか。
その分水嶺で引き起こされた戦いを垣間見る。
『確かに人間は未熟な生き物。そんな彼らを導くことは、我々天使の役目です。――しかし、“人間を支配して、人の世を思うままに動かす”というのは論外だ! それでは意味がない!!』
悪意や作為に負けることなく、友を助けようとした少年がいた。時に怒りを振りかざし、時に迷いながらも、彼を“友達”だと信じ続けた少年がいた。
その裏で暗躍していたのは、1体の天使。秩序を悪用し、人の世を支配しようとした“吐き気を催す邪悪”があった。――そんな彼らの旅路を垣間見る。
『ヤツと同じ“将来人”であるお前にこそ問いたい。この時代に生きる者たちの営みは、お前たちの“将来”のために踏み躙られて当然のモノだったか?』
うっかり迷い込んだ大正25年の帝都・東京で巻き込まれた事件。先祖と共に駆け巡った果てに見たのは、遠い未来からの復讐だった。――その結末を、垣間見る。
『――ああよかった、今回の奴は普通だった! 喋る猫を連れているなんて痛い設定背負ってないし、出会い頭に英語で罵倒してきた挙句、拳銃ぶっ放ってこないなんて天国じゃん!!』
紆余曲折の末に“異形を相手取る特務機関”に所属することになった直後、青年は“とある監視対象”と共に、海外研修へ赴くことになった。
赴いた地域は、異教徒に対して厳しいと言われる城塞都市フォルトゥナ。人間に味方した大悪魔への信仰が色濃く残る宗教都市だ。
『俺は南条コンツェルンでペルソナの研究をしてるんだ。悪魔は畑違いだが、ペルソナ能力と何か繋がりがあると思っている』
『俺も、コイツと同じ職場で調査員をやってるんだよ。今回は付き添いかな』
『僕と彼女は、調査員の見習いをしているんだ。……こんな年齢だけど、修羅場慣れはしてるからね』
嘗て捨てた過去で、自身が関わっていた超常現象――ペルソナ。それと同じ力を宿した大人2名と、彼らを慕う少年少女。
本来ならばすれ違っただけの自分たちは、フォルトゥナ全土を巻き込む事件によって、深い関わりを持つこととなる。
――結んだ縁を片手に、青年は再び舞台へ赴く。
人の悪意だけでなく、神の悪意が渦巻く混沌の街――首都・東京。冤罪被害者にして神の駒/囚人としてではなく、異形と人の境界線の守り人として、青年は降り立つ。
嘗ての自分の役割に収まったのは、城塞都市フォルトゥナで共闘した少女。此度の青年の役割は、異形の力を行使して栄華を極めんとする男――獅童正義の内偵だ。
ジョーカーではないことによる不利益と、ジョーカーでないことによるアドバンテージを手に取りながら、青年は駆ける。すべては、只1人のための◆◆◆◆◆◆◆であるために。
/
駒は揃えた。それらすべてを並べて、集めた可能性を束ねて、束ねて、世界を創り上げる。
全ての人が、すべての命が、己の望む優しい場所へ帰れるように。
そんな世界があったって――許されたって、いいじゃないか。
――その延長線上の果てに、夢を見たって、いいじゃないか。
契約は交わされ、賽は投げられた。
盤上の駒たちが、暗闇の中で動き出す。
「――さあ、始めよう」
「――これは、『帰る』ための旅路」
「――神様の
*
*
*
*
「ああ、してやられた。してやられたよ」
無貌の王は嗤った。
「貴様のソレは、“足掻いた末の破滅”ではなかった。それを装っていただけだった。貴様にとってあの破滅は、只の“道程”程度の価値しかない……!!」
表裏一体の存在が嗤っているのを横目に、普遍的無意識の化身は微笑む。
「今回ばかりは、我々も大人しく負けを認めよう。――彼の旅立ちを言祝ごうじゃないか」
取るに足らないものだとばかり思っていた。無価値な失敗作だと思っていた。
その命が指示した答えに驚嘆した者として、できることはそれくらいだろう。
◆◆
「先輩、知ってますか?」
鳶色の髪を赤いリボンでポニーテールに結った少女――芳澤かすみの問いかけに、思わず足を止めて振り返る。かすみは穏やかな笑みを湛えながら、言葉を続けた。
「『悪いことをした神様が、その罰として“人間に転生させられた”』話があるんですよ」
P5Rの新情報を見てから、ふと形にしてみたかった一発ネタ。『???』でやろうとして頓挫した要素にプラスアルファを足した結果がこうなりました。中々に楽しい状況となっています。P5Rの追加要素(一例.ヤルダバオト以上にやべえ真ボス登場etc)によっては、色々と展開が変わって来そうですね。
大分昔――P5Rの情報がまだ出ていない時期でしたが、どこそで「ヤルダバオト関連の源典/グノーシス主義から分析すると、ヤルダバオトの製作者=アイオーンが追加要素で出てくるのではないか?」という話題を耳にしました。この頃から完全版が出てくると言う予想がありましたが、完全版出現は予想通りでしたね。
因みに、SS内における此度のラスボスは“神様にリソースにされ続けた人々の姿を目の当たりにしてきた【何か】”。神様の計画にちょこっと介入し、ヤルダバオト・フィレモン・ニャルラトホテプを重点的に食い物にした模様。最後はその罰を受けるようですが、どうやらそれすら【何か】の意図した通りなようです。ヤバいなこれ。