・完全な蛇足話。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』に関連する、重要なネタバレ要素が含まれている(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』に関連する、重要なネタバレ要素が含まれている(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』に関連する、重要なネタバレ要素が含まれている(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』に関連する、重要なネタバレ要素が含まれている(重要)
・『P5R/3学期』に関するネタバレを把握していることをお勧めする。
・『P5R/3学期』に関するネタバレを把握していることをお勧めする。
・『P5R/3学期』に関するネタバレを把握していることをお勧めする。
・『P5R/3学期』に関するネタバレを把握していることをお勧めする。
・普遍的無意識とP5ラスボス&P5Rラスボスの間にねつ造設定がある。
・『改心』と『廃人化』に関するねつ造設定がある。
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』のせいでヤバさが上昇している(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』のせいでヤバさが上昇している(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』のせいでヤバさが上昇している(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』のせいでヤバさが上昇している(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』のせいでヤバさが上昇している(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』を誹謗中傷する意図はない(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』を誹謗中傷する意図はない(重要)
・『ペルソナ5 ザ ロイヤル』を誹謗中傷する意図はない(重要)
・ジョーカーのみ先天性TS。
原作ジョーカー(TS):
・原作軸でも明智×TSジョーカーが成立している。
・現時点では続きはないが、ギャグパートに入れなかったことだけは未練なので、それがらみのネタが出てくる可能性大。ただし続き物になるかは未定。
掴め。その未来を、今度こそ。
『帰ろう。――私たちの《現実》に』
こちらを見返す来栖暁の眼差しは、僕/俺が憎み、愛した正義の味方そのものだった。黒幕に真実を突き付けられたときは酷く取り乱していたけれど、それでも、彼女は、僕/俺の憧れた姿のままでいてくれた。それが酷く嬉しくて――けれども、どうしようもなく、胸が苦しかったことを覚えている。
機会が与えられたのだと思った。今度こそ、暁のライバルに相応しい命になれると信じていた。けれど、歪んだ理想の世界は、僕/俺の決意を許してくれない。罪を償い、罰を受ける覚悟は打ち砕かれた。自分が抱えてきた燃えるような憎悪も、暁へ抱いた複雑怪奇な想いも、破滅の旅路の中で得た光も、全てが塗り潰されていく。
「――キミの負けだよ、明智くん」
狂った教皇は、厳かに告げる。
奴の視線の先には、俺の腕に抱かれた黒衣の怪盗。
『――クロウ、危ない!』
ジョーカーは何を思ったのか、黒幕の攻撃から俺を庇って倒れた。触手によって貫かれた体からは、だらだらと鮮血が流れ落ちている。体温は急速に失われていき、顔は蒼を通り越して真っ白になっていた。
怪盗団ご用達の薬は効果を発揮しない。他の仲間たちもみんな倒れ伏している。誰1人として、立ち上がるどころか、ピクリとも動かない。――誰がどう見ても、“彼らがもう助からない”のは明白だ。
黒幕が作り上げた理想の世界もなかなかの悪夢だったが、俺の眼前に広がる光景も悪夢極まりない。残された俺も、文字通りの満身創痍。万事休す以外、この状況を表せる表現が見つからなかった。
「怪盗団の司令塔は倒れ、唯一残っているキミも満身創痍……いいや、戦闘不能、かな? 唯一無二の拠り所を失ってしまったのだからね」
「ッ、黙れ!」
――まだだ。
まだ何も終わってない。終わっちゃいない。こんな形で、終わらせてはいけない。
形はどうあれ、託されたのだ。共に進むと誓ったのだ。
折れるわけにはいかない。屈するわけにはいかない。
……だって、僕/俺にはもう、それしか――!!
「可哀そうに」
ヘリワードの放った一撃は、アザトースの触手によって阻まれる。次の瞬間、別の触手の攻撃が降り注いだ。
俺はそれに対応しきれず、吹き飛ばされた。地面に叩きつけられる。
「どうしてキミは、自分から、茨の道を進むんだい?」
ヘリワードを呼び出そうとするが、出てこない。利き手に握っていたはずのビームサーベルは、黒幕の向こう側に転がっていた。ならば銃でと思えば、ホルスターに装着したはずの銃が見当たらない。
「キミは充分すぎる程に傷ついて、苦しんできたんだ」
アザトースの触手が、怪盗団の面々に巻き付いていく。
黒幕の力が発動したのか、彼らの姿が歪み、怪盗服から私服へと変化した。
体中の傷も、嘘みたいに消え去っていく。――血潮が、巡っていく。
「もう、いいだろう?」
黒幕の触手が、ジョーカーに巻き付いた。彼女の怪盗服は私服に変わり、傷もすべて消え去る。
「キミは救われるべきなんだよ」
ついには俺も、黒幕の触手によって捕らえられた。
凪のような微笑を湛えた教皇の顔が、ぐにゃりと歪んでいく。
「大丈夫。目が覚めたら、キミは幸せな世界で、痛みを知らずに生きていけるんだ」
――ああ、僕は負けたのだ。
罪を償うこともできず、大事な人が正しい道へ進めるよう導くことも叶わず、再び彼女の信頼を裏切った。ジョーカーのライバル/来栖暁の恋人という絆も、守ることができなかった。
でも、それは暁だってお互い様だ。僕のライバルならば、こんな場所で、こんな形で死ぬべきではなかった。歪んだ夢が終われば
来栖暁は、いつだって、僕の選べなかった“正しい道”を突き進んでいるような人間だった。突如降り注いだ理不尽にも負けず、めげず、屈することなく、真っ直ぐに立ち向かう人だった。――黒い服がよく似合う、とても優しい人だった。“もっと早く出会えていればよかったのに”と僕に思わせた、唯一無二の存在だった。……僕の、すべてだった。
だから突き放した。僕は『彼女の未練で生まれ落ちた偽物』でしかなくて、彼女が望むような未来を与えられるような命ではないと自覚していたから。叶わない約束はするものじゃない。ただでさえ、俺は、暁を傷つけてきたのだ。もうこれ以上、『彼女を苦しめるだけの人形』になんか、なりたくなかったのに。
最初から、言えばよかったのだろうか。『僕はもう既に死んでいて、キミの未練によって生かされているだけの人形になり下がってしまった』と。
『いい加減僕に捕らわれるな。死んだ人間の影を追いかけるなんてマネはやめて、さっさと目を覚ませ』と、もっと手酷く突き放せばよかったんだろうか。
(僕は、何を間違った?)
実父への復讐に燃え、悪事に手を染め、多くの人の命を奪ってきた極悪人。同情の余地なんて存在しない、間違いだらけの人生だった。
だけど、その人生を歩んでいたからこそ、来栖暁という光を見つけた。最初で最後の初恋は、どうしようもない現実によって打ち砕かれた。
でも、無意味ではなかった。無価値ではなかったのだ。――それだけは、誰にも否定されたくなかった。消されたくなかった。暁だって、それに頷いてくれたのに。
(俺は、何を間違った?)
明智吾郎は、来栖暁に“何も残せない”ことを知っていた。愛を知らなかった僕/俺では、彼女に傷をつけるので精一杯だった。あの頃も、今も、それだけはどうしても変わらなくて。
最後くらい変われたらいいと願い、率先して前に立った。彼女や怪盗団の前に立って、攻撃を受け止めようとした。『どうせ僕は消えるのだから』、『『また明日』なんか要らないから』と。
暁が現実に帰れるならば――彼女をそこまで導いて、背中を押してやれるならば――それだけでいい、と。それ以上を望んだつもりなんか、一切なかったのに。
(畜生……!)
……だめだ。
もう、意識を保っていられない。
何もかもが歪んでいく。すべてが塗り潰されて、塗り替えられて、作り変えられていく――。
◆◆
目覚めた先には、黒幕が作り上げた悍ましい楽園が広がって――いなかった。
「……僕の部屋?」
必要最低限のものが置かれた、広いだけの部屋。元から備え付けられていた家具の高級さが目に付く以外、生活感の薄い部屋――それが、今の僕の家だ。外の景色は真っ暗で、ちらちらと雪が舞っている。
日付と現在時刻を確認しようとしたら、壁掛け用のカレンダーや時計類はすべて消え去っており、スマホを含んだデジタルは完全なバグ表記となっていた。これでは時間の確認ができない。
(とりあえずは情報を集めないと)
そう思った僕は、立ち上がってドアノブに手をかけた。だが、幾ら回しても、扉が開く気配がない。
道具でこじ開けようとしても、力を込めて蹴破ろうとしても、一切びくともしないのだ。
イライラを発散するようにアレコレ試し終えた俺は、顎に手を当てて状況の分析を試みた。
見た限り、僕の部屋を模した空間は、“黒幕が作り上げた歪んだ世界”ではない。もしこの世界が“そう”ならば、僕は既に扉を開けて、外へ飛び出すことができていた。なにせ、あの世界は、“誰かにとって都合がいいこと”ばかり起きる世界だから。下手すれば、黒幕や怪盗団のことなど忘れ去っていてもおかしくはない。
しかし、今僕が閉じ込められている部屋は、僕にとって非常に都合が悪かった。悪夢に等しい光景を、はっきりと覚えている。故に、俺はこんな場所で足止めを食らっている暇などない。早く怪盗団と合流し、彼らを目覚めさせ、黒幕を倒して現実世界へ帰らなければならないからだ。……それがどれ程残酷なのか、分かっていて。
(黒幕による“曲解”で歪んでいたとしても、奴に負けて、暁たちが瀕死の重傷を負ったのは事実。認知世界と融合しかかっていたと言えど、もし歪みが正されて、“曲解”が解除されたら――)
俺の脳裏に浮かんだのは、死に体と言っても過言ではない傷を負った暁たちの姿だ。黒幕の歪みが成就した悪夢の世界では、きっと、彼女たちの傷も『なかったこと』にされているのだろう。
“曲解”の力が解除されてしまえば、暁たちの運命は――十中八九、僕と同じ末路を辿る。世界を正したその瞬間に、自分の命が燃え尽き、跡形もなく、世界から消え去るのだ。
「くそっ」
小さく吐き捨てて、扉を殴りつける。
(知りたくなんか、なかった)
彼女が“僕/俺”を生み出した原因を、そのとき何を考えていたのかを、嫌が応にも突き付けられる。だけれど、それを弄んだ黒幕を肯定するわけにはいかない。
消されたくないと叫んだ命として、消したくない傷や痛みを抱える命として、どうしても、あの歪んだ楽園を認めるわけにはいかないのだ。
『歪んだ大人を命がけで改心させる』――それが、僕の愛した怪盗が掲げた美学だ。成し遂げ、積み上げてきた旅路の答え。
「……成し遂げないと」
せめて、それだけは。
暁に庇われて、最後の1人として残された僕が、果たさなくては。
(――でも、どうやって?)
「ここから出る方法、知りたいか?」
背後から声が聞こえた。振り返れば、見覚えのない男がダイニングテーブルを椅子代わりにして、足を組んで座っていた。
黒と青を基調にしたクラシカルな衣装が目を引く。青いインバネスコートには、豪奢な装飾と蝶の刺繍が施されていた。ラヴェンツァやモルガナ、あるいはジョゼと雰囲気が似通っているように思う。
特に印象的だったのは、目元を覆う白い仮面。その左半分には、夜明けを思わせる東雲色の蝶が描かれていた。左耳には、金色に輝く星形のイヤリングが煌めいている。
「お前、何者だ」
そう問いかけながらも、僕は直感していた。この男が、僕をこの世界に閉じ込めた張本人なのだと。
相手も僕がそれに気づいたことを察したのだろう。奴は静かに微笑み、くるりと手を動かした。
「これが、部屋から出るための鍵」
奴の掌の上には、一羽の蝶が羽を休めている。どこからどう見ても鍵には見えないけれど、どうしてか僕は、“それで扉が開かれる”と一瞬で理解できてしまった。
ならばここで立ち止まっている暇はない。僕は奴の手の中にいる蝶めがけて手を伸ばす。しかし、蝶は僕の手をすり抜けて、男の掌へと再び舞い降りて羽を休めていた。
何度手を伸ばしても、蝶はひらりひらりと僕の手をすり抜ける。……埒が明かぬと判断したのだろう。男は苦笑したのち、蝶を消してしまった。俺は思わず喰らいつく。
「おい。その鍵をよこせ」
「今のままだと、結末は変わらないぞ? 黒幕の力を
――黒幕の力を打ち砕く。
あまりにも、あまりにも甘美な言葉だった。成す術なく飲み込まれるしかなかった“曲解”の力を打ち砕ければ、黒幕の望みを阻止できる。黒幕が管理する楽園を壊して、現実世界へ帰ることができる。男の口ぶりからして、“怪盗団がどんな状況にあるかを知っていて、その状況もひっくりかえせるという確証がある”らしい。
……けれど、僕/俺は知っている。汚い大人たちと交わした取引を、薄汚れた世界の掟を、よく理解している。奴がそんな力を俺に提供するというのだ。なら、奴は俺に対して、何らかの見返りを求めているのだ。僕は思わず身構える。男は静かに微笑み、言葉を続けた。
「契約してくれ。“責任持って、最後までこの『ゲーム』をやり遂げる”って」
「『ゲーム』?」
「そう、『ゲーム』。一発勝負でやり直しのきかない、幾重もの選択肢と幾重もの結末が存在する――そういうヤツ」
男が指示したのは、据え置き用ゲーム機と、その脇に置かれたCD-ROMだった。ROMのケースは透明で、『どのようなゲームなのか』を箱のデザインから類推することは不可能である。
ケースの中には、無地の白いラベルに『人生ガメオペラ』と雑な字で書かれたCD-ROM。何やら精魂尽き果てたような筆跡に見えたのは気のせいではない。……自作ゲームなのだろうか。
「作ったのは俺じゃない。――幾銭、幾万、幾億もの蝶の群れだ。『そんな世界が、どこかにひっそりと存在していますように』という祈りそのものが編み出した、誰かにとっての夢。あるいは、誰かにとっての“たった1つの現実”であり、“確かな真実”」
男は大仰に言葉を続ける。
「キミは知らなければならない。何を間違ったのか、何が原因だったのか、あの日何をどうすればよかったのか。そうして、今これから何をすべきなのか。何ができるのか、どうしたいのかを」
「……そんな無意味なことをして、何になるって言うんだ」
「それこそが――いいや、『それだけが、黒幕の“曲解”を打ち砕く対抗手段になる』と言ったら?」
男の手には、契約書と万年筆が握られていた。契約書の下部には名前の記入欄がある。東雲色の蝶が描かれた、高級そうな紙――そこから漂う神秘的な力を、肌で感じ取った。
一度サインをしてしまえば、僕はもう逃げられない。奴の出した条件を果たす――奴が提示した得体の知れない『ゲーム』を責任持ってやり遂げるまで、絶対に。
けれどきっと、それを成しえた果てには、契約は果たされる。眼前で漂う力はごく僅かなものだけれど、黒幕の“曲解”を打ち砕けるという確証だけがあった。
消されたくないと叫んだ命として、消したくない傷や痛みを抱える命として、どうしても、あの歪んだ楽園を認めるわけにはいかないのだ。
『歪んだ大人を命がけで改心させる』――それが、僕の愛した怪盗が掲げた美学だ。成し遂げ、積み上げてきた旅路の答え。
(……成し遂げないと)
せめて、それだけは。
暁に庇われて、最後の1人として残された僕が、果たさなくては。
だって、俺にはもう、何もない。黒幕を倒して現実世界へ戻れば、俺はあの豪華客船で死んだことになる。認知世界で命を落とした人間がどうなるかは分からないが、暁の反応からして、おそらく死体すら残らないのだろう。存在した証は消え去り、人々はやがて俺を忘れ去る。暁だってそう。最初からそんな人間などいなかったかのように、世界は滞りなく回るのだ。
僕は、自分の未来なんて最早どうでもいい。借りを返すために出頭したときから、極刑を覚悟していた。もう二度と外には出れないし、死刑判決を下されて死刑が執行されることだって視野に入れていた。それは当然の報いなのだから、僕には釈明も弁明もするつもりはない。逃げずに
たとえ、どんな末路を迎えようとも、もう迷わないと誓ったのだ。僕にこんな決意を抱かせた少女の姿が、鮮やかにリフレインする。積み重ねた日々と絆を、胸に抱く。何も許されなかった僕が唯一自分の意志で手に入れた、生きた証。生きていた意味。――大切な、“答え”。
「お前の契約に乗ってやる」
俺の答えに満足した男は、契約書とペンを差し出した。それをひったくり、記入欄に僕の名前をさらりと書き記す。途端に契約書は溶けるように消え去った。
「ただし、覚えとけ」
俺は男を睨み、吐き捨てるようにして言い放った。
「すべてが終わったら、テメェをぶっ潰してやる」
“お前も、僕を玩具にしようとした連中と同じなのだ”――言外にそう訴えれば、男は虚を突かれたような顔をした。
「まさか明智吾郎にそんなことを言われるだなんて思わなかった」とでも言いたげな表情。
男は暫し目を瞬かせた後、どこか寂しそうに微笑みながら、頷き返した。
「――うん。楽しみにしてる」
***
>絆の繋がりが発生しました。
<???(名称不明)>
【アルカナ:剣】
僕/俺を得体のしれない部屋に閉じ込めた張本人。すべてが終わった暁には、絶対コイツをぶっ潰してやる。
<未開示>
【アルカナ:未開示】
現時点ではまだ、絆の繋がりが発生していません。
<未表示>
【アルカナ:未開示】
現時点ではまだ、絆の繋がりが発生していません。
<未表示>
【アルカナ:未開示】
現時点ではまだ、絆の繋がりが発生していません。
***
――みとめない。
声にならない慟哭を上げながら、男は“滅びの夢”に捕らわれる。
最早覆しようのない現実。緩やかな滅亡が確約された世界。
終焉のラッパ代わりに響き渡るのは、表裏一体の善神/悪神の嗤い声。
――こんなげんじつ、みとめない。
男の傷口から流れるのは血だけではない。積み重ねてきた旅路と、それに伴う記憶と感情が流れ落ちていくような錯覚があった。
血液を失ったことによる寒気を感じながら、男は天を仰ぐ。全てを対価として捧げた高校生たちと、自分にとって大切な弟分と妹分の姿が脳裡をよぎった。
傷跡も後悔も、喜びや悲しみも、共に歩んだ日々や絆も、何もかもが消されてしまう。痛かったこと、怖かったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、間違いを引きずりながらも新たな一歩を踏み出せたこと――何もかもが、“世界を救うため”に消されてしまう。
『いかないでくれ、兄さん……!』
糸が切れる音がした。
戦を司る神が、悲痛な顔をしたまま消えた。
『ダメだ、至さん!』
『お願い、思い出して! 私の口癖を忘れないで!』
糸が切れる音がした。
太陽を司る神と、月を司る女神の手は、こちらを掴めなかった。
『ダメだよ。そんなのダメだよ!』
『違う。“命のこたえ”は、そんな形で使うものじゃない……!』
糸が切れる音がした。
救世主たちは呆然と、切れた糸を見つめていた。
『こんな真実、見たくなんかなかった……』
糸が切れる音がした。
日本神話の神は、自分の目を覆って首を振っていた。
『――至さん』
糸が切れる音がした。
1羽のヤタガラスが飛び立つ羽音を聞いた。
悪魔の王たちは、その背中をずっと見つめていた。
――こんなにたいせつなものなのに。
ここは最早、ゴミ捨て場だ。どこにも行けなくなった“誰か”の叫びと、『世界のために』と捨てられた想いの残骸が降り積もる。それを必死に抱えて、男は泣いた。
――もういやだ。
――うばわれたくない。
――ころされたくない。
それでも、現実は揺らがない。理不尽に奪われ、壊され、潰され、打ち捨てられる。嘆いて泣き叫ぶ男を嘲笑うようにして、表裏一体の善神/悪神が雑談に耽っていた。
アレは人間が存在し続ける限り、絶対に消えない存在だ。人に干渉し、悲劇の種を蒔き、舞台を整え、人間たちが足掻くさまを見て笑いながら、試練という名目で理不尽を投下する。
……そうして最後に、「これが現実なんだ」と突き付ける。「ひっくり返す手段のない、絶対的な現実なのだ。お前の宿命なのだ」と嗤うのだ。
「――こんな現実、大嫌いだ」
哀しみは怒りに変わる。理不尽に対する反逆へと変貌する。
奪うだけの神様に、嘲笑うだけの神様に、反逆の一撃を叩き込む。
まさか男が動くとは思わなかったのだろう。善神/悪神の驚いたような声が響き渡る。それらすべてを
『人を、救いたい』
どこかで誰かの声がする。
どうにもならない現実に対する、強い反逆の心を有する人間の、血反吐を吐くような悲痛な叫び。
『彼女を、救いたい』
どこかで誰かの声がする。
奪われたものを取り戻そうと足掻く、ちっぽけな人間の揺るぎない意志。
『――こんな現実、大嫌いだ』
【彼】がぽつりと零した本音は、男と同じものだった。
最近流行りのRTA/ゲーム実況風のSSを読み漁っていた結果、ふとした拍子に「この切り口で書けばいいのではないか」と思い至った末に筆が乗って書き上げたSSです。
一言で言い表すなら『原作R明智による、『魔改造明智が主人公の魔改造ペルソナ5-20周年記念作-』プレイはーじまーるよー!(棒読み)』の準備号。そのため、完全シリアスオンリーとなっています。
今回は区切りがいいので、ゲームを始める経緯および直前で切り上げました。ギャグパートに入れなかったのが心残りなので、後でギャグパート分のSSを執筆してUPしようかなと思案中。
もし続き物になる場合、Fate/EXTRA-CCCの某キャラクターの名台詞――「恋は現実に敗れ、現実は愛によって塗り替えられ、愛は恋によって打ち砕かれる(要約)」要素がぶち込まれる予定。
この名台詞をもじった結果、「理想は現実に打ち砕かれ、コンプレックス/歪みは現実を侵食し、コンプレックス/歪みは理想によって打倒される」という文面も誕生。この三すくみを主軸にできたらいいなあ。
……他版権から作品の土台や着想を得た場合、それも記載しておいたほうがいいのでしょうか? でも、本編にはそういう文面が出てくる程度なので、逆に検索妨害になりそうで怖いです。