無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「何度、幕が下ろされようと。
 幾度となく、幕が上がろうと。
 決して変わらない、始まりが“ここ”さ」


序幕 異端な少年の契約風景
序章 笑って過ごせる事を


その少年は、絶望の底にいた。

何故、自分がこんなに辛い目に遭わないといけないのか。

家族を失い、味方もおらず。

黒かった髪は、白く抜け落ちて。

いつからか、涙の流し方も忘れ。

それでも“肉体は生きている”から、モノクロの日常に身を投じ。

その少年は、絶望の底にいた。

 

 

 

SIDE 少年

 

 きっかけは、些細な違和感だった。

 誰もいない家に帰る途中。いつものように、人気の少ない路地裏を歩いている時。

 朝、通った時には無かったはずの、落書きみたいなもの。

 誰かが書いたのだろうか?

 何気なく、その落書きに手を伸ばし……手が入った。

 

「…は?」

 

 硬直。停止。

 

 今、オレの手は落書きの書かれた壁の中にある。

 ……ように見える。

 なんぞ、これ?

 

「契約してないのに“魔女の結界”を認識できるんだ」

 

 そんな言葉に、首だけをそちらに向ける。

 そこに、動物?らしきものがいた。ウサギとネコを足して2で割って、ウサギを掛けたような……。

 なんか、見た事の無い動物?がいた。

 

「最近は、雌からしかエネルギーを採取してないからね」

 

 動物?が喋ってる?らしい。

 ……どうやら、オレの精神もここまでのようだ。

 

「まあ、素質があるなら性別は問わないよ」

 

 一人?で納得?しながら、その動物?は、オレに対して問いかけた。

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、少女ちがうし」

 

 壁の落書きに手を突っ込んだまま、オレは動物?に反論した。

 

「君は雄だったね」

 

 見て解れ。

 首を傾げながら、そう言う動物?にオレは内心でツッコむ。

 首を元に戻して、動物?は再び問いかけた。

 

「僕と契約して、魔法使いになってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだと、性別関係なくね?」

「確かに、雌でも魔法使いで成立するね」

 

 誰か、この状況をなんとかしてください。

 落書きが書いてある壁に、手を突っ込みながら、白い動物?と会話してます。

 誰か、助けて下s

 

 ……誰かに助けてもらった事なんて、なかったな。

 

「いずれ“魔女”になるのなら“魔法少女”でいいんだろうけど。

 雄の場合はどうだっただろう?」

 

 知らんがな。

 

「随分と雄と契約してないから、情報の取得に手間取りそうだ」

「そーなのかー。

 ……帰っていいかな?」

「僕の問いに答えてからにしてよ」

 

 わぉ、このナマモノ、わがままだ。

 

「僕と契約して、魔法少年になってよ」

「なんか、語呂が悪いから、イヤ」

「わがままだね」

 

 君に言われたくないです。

 

「じゃあ、契約してから考えようよ」

「何、契約する前提で話を進めようとしてんのよ」

 

 もうやだ、このナマモノ。

 

「いいじゃないか。

 願い事を一つ、叶えてあげるからさ」

「なにそれこわい」

「願いが叶うのに怖いのかい?

 わけがわからないよ」

 

 わけがわからないのはこっちですよ。

 

「君の願いを一つ、叶えてあげる。

 そのかわりに、魔女と戦って欲しいんだ」

「いじめられっこに、戦い期待すんなし」

「なら、苛められないように願えばいいんだよ」

「いや、そうじゃなくて、戦いとか言われても」

「僕と契約すれば、魔法が使えるようになるよ」

「使い方、知らんし」

「どんな魔法になるかは、契約してみないとわからないんだ」

「無責任、ここに極まれり」

「どんな能力かは、願い事に左右されるからね」

「契約して、能力が気に入らない場合は、キャンセルとか」

「無理」

「ですよねー」

 

 なにこの悪徳勧誘者。

 願いを叶える代わりに、魔女とかいうのと戦え。

 その手段は、願い事に左右される。

 クーリングオフは受け付けません。

 いや、そもそもどこに返すんだよ?

 

「契約したら、戦うのは強制?」

「強制はしないけど」

「けど?」

SG(ソウルジェム)の穢れを浄化するには、魔女の持つGS(グリーフシード)を使わないといけないからね」

 

 なんか、専門用語っぽいの出てきた。

 まあ、現状が理解できないので、スルーで。

 

「願い事は……絶対に叶う?」

「もちろんだよ」

 

 願い……ねぇ。

 ふと、自分の事を振り返る。

 

 

 

 両親を事故で亡くし。

 親戚は、両親の遺産目当てで。

 その遺産も、オレが成人するまで、持たない程度で。

 学校では、いじめられ。

 友達も無く。

 先生も、助けてはくれず。

 

「……ははっ」

 

 こうして見ると、異常すぎるな。

 良く見る漫画や小説の方が、よっぽど“希望”に溢れてる。

 対して、自分の世界の“絶望”が、どれほどのものか。

 

「契約……しようか」

 

 だったら。

 

「オレの願いは」

 

 世界のすべてが、優しくないのなら。

 

「オレの、何時、如何なる時も」

 

 自分の、最大限の希望を。

 

「オレの、想うがままに」

 

 叶えてみせてくれないか。

 

「笑って過ごせる事を」

 

 笑い方を、忘れたオレに!

 

「今、ココに願う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、一人の少年が、契約を交わし。

 

 

―――――その願いは、エントロピーを凌駕した―――――




次回予告

そして始まるのは

ある少年の、人生謳歌の物語
ある少年の、傍若無人の物語


ある少年の、天異無法の物語

二章 記録にない状況だね

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