無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「な~ま~も~の~♪」
「またかい?」
「基本的に、前書きの会話は、あってもなくてもいいんだけど」
「メタいね。
 今に始まった事じゃないけど」
「伏線仕込んでも良いかなぁ?」
「それを、僕に聞くのかい?」

「「わけがわからないよ」」

「最近、オレも口癖になってきたんだが、どうしてくれる!!」
「僕のせいなのかい?」


九十五章 天敵

SIDE 千歳ゆま

 

「ゆまちゃん!」

 

 ゆまの名前を呼ぶ声。そちらを向くと、マミおねえちゃんとキョーコが、走ってくるのが見えた。

 

「よかった……無事みたいね」

「うん」

 

 マミおねえちゃんの安心した言葉に、ゆまは頷く。

 

「……琢磨?」

 

 キョーコは、魔女と戦っているたくまに視線を向けたまま、固まってた。

 大きいのにすばしっこい魔女と戦う、それ以上にすばしっこいたくま。

 

「あいつ……右腕どうした?」

 

 その言葉に、マミおねえちゃんもたくまを見て、息を呑む。

 

[キョーコ達が来たよ]

 

 ゆまは、手筈通りにたくまに念話を送る。

 

[待ちわびたぞ、割と切実に]

 

 念話が返ってきた次の瞬間、たくまは魔女を大きく蹴り飛ばしていた。

 

「おめぇに食わせるタンメンは無ぇ!!」

 

 ……タンメン?

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 魔女を蹴り飛ばした隙に、全力でゆまの元へ滑り込む。

 

「琢磨く「ちょい黙って」」

 

 何か……多分、右腕の事を言おうとしていただろう巴先輩を遮り、オレは覗くように魔女を見る。

 うん、キョロキョロしてる。逃げ出す事には成功していたらしい。

 

「さて、時間に余裕があるとは言えないんで、早々に策を練って、魔女を倒すぜ」

 

 電子タバコ……は、右手の中だったな。残念だ。

 

「何を言っているの!

 まずは、琢磨君の治療が最優先よ!」

「ゆまもなんで琢磨を治療しない!」

「はい、先輩達、落ち着け。

 予想出来た反応ではあるが、大声出すと魔女に見つかる。

 そのまま、なし崩し的に戦闘開始でも良いなら、止めないけど」

 

 オレの言葉に、先輩達は言葉を飲み込んでくれた。すっげぇ不服そうだけど。

 

「まあ、そうなったらオレは、全力で逃げるけどな!」

「威張るんじゃねぇよ!?」

「だから、静かにしないと見つかるって」

「てめぇ……」

 

 うん、ツッコミがいるとボケ役のオレが活きるよね。

 

「まあ、琢磨君は後で説教2時間コースとして……」

「なん……だと……」

「右腕を失っている異常事態でも、当人が通常運行なら、周りの私達もいつも通りに戻しやすい。

 そんなところかしら?」

 

 ……いや、それは好意的に見すぎじゃね?

 ほら、佐倉先輩が驚いた表情でオレを見てる。めっちゃ見てる。

 

「イヤン」

「きめぇ」

「oh……まあ、解ってたけど」

 

 小指を立ててみたら引かれた。うん、想定通りだが。

 

「そろそろ、作戦会議といきません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 群雲は、これまでの戦況を説明する。

 最初はぬいぐるみみたいだった魔女。ゆまの攻撃に抵抗する様子を見せなかった事。

 口の中から、今の魔女が現れた事。リボルバーの弾丸が弾かれた事。

 動きもかなり速く、充分に知恵を持っているだろう事。そのせいで右腕を喰われた事。

 

「おのれ、うなぎの魔女……!」

「うなぎ!?」

「せめて、蛇にしない?」

 

 鉄骨を叩き落した際、脱皮した事。抜け殻を盾にする程度には柔軟な対応を取れる事。

 

「まず、鉄骨がおかしいだろ?」

「以前のロードローラーほどじゃなくね?」

「どこから調達したのやら」

「もちろん、工事現場から」

「……説教1時間追加ね」

「まぁじでぇ~?」

「……はったおしてぇ……」

 

 まあ、余計な会話が混ざってしまうのは、仕方ない事である。原因は群雲だが。

 

「問題なのは、現状討伐出来そうな策が、浮かんでないって所か」

「琢磨でも、か?」

 

 魔法による補助がある群雲でさえ、策が浮かんでいない。その事実に杏子も怪訝な表情を見せる。

 

「相性的な問題も大きいな。

 特に、巴先輩にとっちゃ天敵と言えるほどに最悪だと思うぞ」

「確かに、聞いた限りだと、そうでしょうね」

 

 弾丸を弾いた事。これは、マスケットをメインにするマミも、同様の結果になる可能性が高い事を意味する。

 脱皮する事。これは、リボンによる拘束魔法を確実に抜け出す術を持っている事を意味する。

 

「……役に立たないわね、私」

「そりゃ、完璧超人じゃないからね。

 出来る事と出来ない事があるのは当然でしょ」

 

 僅かに俯くマミに、群雲はいつものように言葉を続ける。

 

「そして、それを補う為のコンビであり、チームだ。

 だからこそ、ここにいる4人が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)なんだし」

「ゆま、銃使えないよ?」

「役立たずが……」

「むっ」

「無駄に煽るんじゃねぇよ。

 良い事言ったと思った矢先にこれかよ」

「オレだからね」

「納得できる分、余計にイラつくわ!」

「落ち着いて、佐倉さん。

 この結界が病院の敷地内にある以上、あまり時間的余裕はないのよ」

「琢磨に言え、そう言う事は」

「理解してるに決まってるじゃん?

 むしろ、真っ先に時間に余裕がないって言ったじゃん?」

「……後でシバく。

 絶対にシバき倒す……」

 

 それでも、これが平常運転。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)のいつもの雰囲気。

 たとえ、時間が無くても。メンバーの一人が大怪我をしていても。

 

 少なからず、孤独を経験した4人。今は、孤独じゃない4人。

 見滝原という場所に、集い、共に歩む事になった4人。

 

「作戦なら、あるよ」

 

 そして、この戦いにおいて。頭角を現す少女。

 

 千歳ゆま。

 

「ゆまと、キョーコと、マミおねえちゃんがいれば、あの魔女を倒せる」

「オレは!?」

「……フンッ!」

 

 群雲に対し、そっぽを向くゆま。この二人の仲が悪いのは、今に始まった事ではなく。

 この戦いにおいても、連携していた訳でなく。

 ただ“役割を分担していただけ”である。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 それを、この子供達は理解しているのだ。

 

「話してもらえる?」

「マミ!?」

 

 そんな、ゆまの“作戦”を聞こうとするマミの対応に、杏子が驚く。

 

「魔法少女。

 それは、魔女を倒す者。

 ゆまちゃんも魔法少女なら、魔女を倒す為に作戦を考えたとしても不思議じゃないわ」

「っ!?

 でも!!」

「はい、佐倉先輩、おちつけ~」

「お前が言うと、むかつき倍増するんだが」

「理不尽な事言われた!?

 自覚してるけど!!」

「じゃあ、言うんじゃねぇよ!!」

「佐倉先輩が冷静なら、言う必要がないんだけどな」

「ぐぎぎ……」

「まあ、琢磨君への報復は後回しにしましょう」

「巴先輩の、まさかの対応に全オレが泣いた!

 オレ、独りだけれども!!」

「うるせぇよ!」

「……ゆまの作戦は?」

 

 そして、そのままいつもの空気。原因は群雲琢磨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「反対だ!」

 

 ゆまの作戦を聞いたあたしは、即座に声を上げた。

 危険だ。危険すぎる。そんなリスクを背負う意味がわからねぇ!

 

「うぅ……」

 

 あたしの言葉に、ゆまが泣きそうになりながら俯く。

 でも、これは譲れない。この作戦じゃ“ゆまが一番危険”だし“ゆまが成功しないと意味が無い”からだ。

 

「でも、有効かもしれないわ」

 

 意外な所からの、賛同の声。

 

「本気か、マミ!」

 

 思わず、掴みかかろうとしたあたしの視界に。

 

「左手だけじゃ取れない!

 取りにくい!」

 

 ショットガンから、弾を取り出そうとして、四苦八苦している琢磨が写る。

 

「なにしてんだ、てめぇは!」

「う わ ら ば !」

 

 反射的に蹴り飛ばしたあたしは悪くない。

 おかしな断末魔が聞こえた気がするけど、気にしない。

 

「なら、他に佐倉さんに策があるの?」

 

 琢磨を完全に無視して、マミがあたしに問いかける。

 それは……流石に出てこない。

 あたしにしてみれば、魔女に対する情報は、琢磨達からのものだけだ。

 それで、作戦を考えろって方が無理だろ?

 

「悔しいけれど、私にも策は無いわ。

 そして、琢磨君にも策が無い以上、ゆまちゃんの言った方法以外で、どんな手を打つの?」

 

 そうだ。マミもあたしと同条件。作戦があるはずない。

 そして、琢磨にも無い。残ったゆまだけが、作戦を思い付いた。

 

 でも。危険だ。危険すぎる。

 

「やっと弾を取り出せた」

 

 そして、お前はマイペース過ぎるだろ!

 思わず、蹴り飛ばそうとしたあたしの足を、琢磨は迷い無く。

 

「いい加減にしろよ、佐倉杏子」

 

 その言葉で、静止させた。

 その、鋭い左目で押えつけてくる。

 

「ゆまが大事なのは解るし、知ってる」

 

 ショットガンを腰の後に戻し、取り出した弾を地面に置いたまま。

 琢磨は鞘に収まったままの日本刀を取り出して、それをあたしの首に突きつける。

 

「一生、ゆまを守って生きていくか?

 一生、ゆまを戦わせずに、過ごしていくか?

 出来ないだろ?

 出来る訳ないだろ?

 それを知ってるからこそ、見滝原に来たんだろ?」

 

 あたしを見上げる魔人。放電する前髪。迸る黒い雷。

 

「魔法少女だ。

 巴マミも、佐倉杏子も、千歳ゆまも。

 性別が違うし、呼び方も違うが、オレも一緒だ」

 

 そして、その言葉が、あたしの心を穿つ。

 

「ゆまは、守られるだけの存在じゃない。

 だからこそ“最初に会った時に、オレに向かって来た”んだろう?

 オレも、煽りはしたが、決断したのはゆまだろう?」

 

 そして、打ちのめされる。

 

「ゆまは、魔法少女だ。

 魔女を倒す者だ。

 守られる側ではなく、守る側の存在だ」

 

 こいつは、あたし以上に“ゆまを、ゆまとして”見ているんだ。

 

 年下の少女ではなく。魔女に襲われた子供ではなく。

 面倒を見るべき存在ではなく。あたしのせいで人生を台無しに(契約)してしまった女の子ではなく。

 

「魔女を倒す。

 その戦いが容易じゃないことぐらい、ゆまだって理解してるだろう。

 むしろ、理解できてないなら、不合格以前の話だ」

 

 琢磨は見ている。ゆまを、ゆまとして。

 

 “それ以外の情報すべてを、放棄して”

 

「ゆまは契約した。

 魔法少女になった。

 魔女と戦う事になった。

 今、魔女と戦う為に作戦を考えた」

 

 あたしはどこかで、ゆまを“守らなきゃいけない存在”として、見ていた。

 だからこそ、面倒を見ようと思ったし、契約した時は激昂した。

 

 自分以外の誰かに願った結果、あたしは自分以外を失った。

 

 だから、自分以外(あたし)の為に願った(契約した)ゆまに、あたしみたいな絶望を味わって欲しくなかった。

 

 琢磨は見ない。そんな情報を、切り捨てる。

 

 だからこそ“ゆまを、自分と同じ立場(魔法少女)として”見る。

 そして、判断する。

 

 だからこそ、あいつは『不合格』だと言ったんだ。

 失格ではなく、不合格。

 

「その作戦しか、打つ手が無いなら。

 逃げるという選択肢が無い以上、それでいくしかない」

 

 こいつは、最初から認めてたんだ。

 “魔法少女 千歳ゆま”を。

 一般人なら、そもそも“不合格にすら、ならない”んだ。

 そして“否定(失格)にする”事もないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、その作戦しか打つ手が無いなら。

 成功させる為に全力を尽くすのが、仲間なんじゃないのか?」




次回予告

4人での魔女狩り 4人での戦い

1人でもなく 2人でもなく 3人でもない

4人いる それが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

故に だからこそ トドメはこうでなければ



九十六章 群雲版ティロ・フィナーレ

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