無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「な~ま~も~の~♪」
「仏の顔も三度までという言葉を知っているかい?」
「二度ある事は三度あるって、有名だよね」
「この二つの言葉が、矛盾を内包する人類を表してるよね」
「同時に、人間の自分勝手さを象徴してるよな」
「……君は、誰の味方なんだい?」
「オレ」


九十六章 群雲版ティロ・フィナーレ

SIDE out

 

 お菓子の魔女。決して、蛇の魔女でもうなぎの魔女でもない。

 しかし、それを知る術を、魔法少女達は持たない。

 それでも、解っているのは、戦う事。戦わなければならない事。

 

 そして今、千歳ゆまがゆっくりと、真っ直ぐに魔女に向かって歩いていく。

 

 佐倉杏子は、少し離れた場所で、祈るように膝を突いている。

 

 巴マミは、作戦の為に移動し、群雲琢磨がそれに着いて行く。右腕の治療は、まだ行っていない。

 

「休んでていいのよ?」

「試したい事があるし、最悪<オレだけの世界(Look at Me)>でリカバリしなきゃいけないんでね。

 まあ、時間停止中は魔法が使えないから、間違いなく激痛に悶える事になるだろうけど」

 

 右腕を食い千切られながらも、通常通りに振舞えるのは、本来感じる激痛を<電気操作(Electrical Communication)>で、強制的に遮断している為だ。

 時間停止を行えば、その魔法も強制的に解除される。その後の状況は容易に想像出来るだろう。

 

「それでも琢磨君なら、躊躇い無く使うんでしょうね」

「……前から思ってたんだけど、オレを美化しすぎじゃありませんかい?」

「私には、琢磨君が自分を過小評価し過ぎてる様に見えるわよ?」

「はっはっは、まさかぁ~」

 

 予定の位置に辿り着き、巴マミは魔女を注視する。

 群雲はその横で、先ほど取り出したショットガンの弾を左手に持ち、準備(チャージ)を開始する。

 

「試したい事って、電磁砲(Railgun)なの?」

「それの、もう一つ上」

 

 マミの質問に、簡潔に答えて、群雲は視線を魔女へと向けて、告げた。

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐ進んでくるゆまを確認し、魔女は当然狙いを定める。蛇のように近付き、その口を大きく開けて、ゆまを喰らう為に迫る。

 その動きは俊敏。まさに蛇。

 だが、対応できない速度ではない。

 

 ゆまの武器はハンマーだ。どうしても大振りになる。

 

 だが、対応できない訳じゃない。

 突っ込んでくると解っているなら、迎撃する為に必要な事も、おのずと判断できる。

 

 ゆまは見ていた。右腕を失った魔人と、魔女の立ち回り。それを見続けていた。

 故に、魔女の速度も把握している。

 

「たぁーーーー!!」

 

 ゆまは、横薙ぎにハンマーを振る。

 魔女も馬鹿ではない。迎撃するだろうゆまの行動を読み、ハンマーに当たらないように迂回して迫る。

 それに対し、ゆまの取った行動。

 それは、横薙ぎの勢いのまま。

 

 その場で回転する事だった。

 

 ゆまのハンマーは、衝撃波を発生させる。

 重要なのは、ハンマーがぶつかった際に衝撃波が起きるのではなく、ハンマーから衝撃波を発生させるという事。

 回転するゆま。左回りに回転するハンマー。発生する衝撃波も左方向へ。

 それは、見えない竜巻となり、魔女の体を流していく。

 左に魔女を弾き飛ばし、追撃の衝撃波で、さらに弾き飛ばす。

 そして、蛇のように長い魔女の体が、完全に浮いた所で。

 

 杏子の魔法が発動する。

 

「串刺しになりなっ!!」

 

 地面から突き出された槍が、魔女の体を貫いて、その場に固定させる。

 真っ直ぐに貫通した何本もの槍は、魔女の脱皮を完全に妨害する。

 そう、完全に貫いたまま、槍を抜く事無く固定してしまえばいいのだ。

 

 後は、トドメの一撃。それで勝利。

 

 ゆまの衝撃波で、魔女の体を浮かす。

 その状態の魔女を、杏子の槍で貫き、固定する。

 最後に、大火力の一撃。

 

 これが、ゆまの作戦だった。

 

 この作戦において、最重要なのは一番最初。

 ゆまが、魔女を弾き飛ばさなければ、そもそも作戦が始まらない。

 そこでゆまは、自分一人で魔女に向かい、迎撃する形を選んだ。

 それこそが、杏子の反対した理由。弾き飛ばせなければ、そのまま魔女に食べられてしまってもおかしくはないからだ。

 大振りになる為、振り抜いた後には隙が出来る。弾き飛ばせなかったらその隙に食べられて終了。そうなってもおかしくはなかった。

 

 ゆまはそれを“振り続ける=回転する”という方法で、補う事を思い付いた。

 振り抜いた後に隙が出来るのなら、振り抜いた状態になるのを遅らせれば良い。

 

 ゆまは見事に、魔女との戦いで作戦を発案し、実行して見せた。

 

 

 

 

「さて、最後の仕上げね」

 

 串刺し状態の魔女。その顔の前に位置取るのは、巴マミ。

 

「狙うのは、口の中。

 右腕と一緒に、手榴弾を食わせて爆発した際には、魔女は悶えてたからな。

 多分、一番効果的だ」

 

 マミの横で、準備(チャージ)の終わった弾丸を、ショットガンに装填した群雲が告げる。

 

「初めての魔法。

 その実験台になってもらうぞ」

 

 そして、左手に持つショットガンが、放電を開始する。

 

準備(チャージ)した弾丸を装填したショットガンを、さらに準備(チャージ)するの!?」

 

 流石に想定外だったらしく、マミが驚いている。

 それに対し、群雲は口の端を持ち上げてみせる。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)が4人になった時。

 群雲琢磨は、過程を仮定する。

 2人の時は、オレが前に出て、巴先輩が後ろからティロるのが最善の形だった。

 でも、4人になると、そうはいかない。

 特に、巴先輩は広範囲の魔法を使う機会が増えるのではないか?

 ならば、必要になるのは何か?

 巴先輩のノートを見て。

 ゆまの戦い方を直に味わい。

 佐倉先輩との共闘での記憶を呼び起こし。

 自分に必要なモノを模索した。

 それが、これだ」

 

 必要なのは、高火力。マミが援護に回った際に、換わりとして終焉を告げる魔法。

 必要なのは、遠距離魔法。自分の代わりに前に立つだろう、杏子とゆま。

 そして、思いついたのが、この方法。

 

 充電した弾丸を、充電したショットガンで撃ち出す、電磁砲(Railgun)の高火力化。

 

 

 

 

 

 群雲版ティロ・フィナーレ『炸裂電磁銃』

 

 

 

 

「まあ、どうなるかは解らんけどね」

 

 その言葉に、脱力するマミを、誰が責められようか?

 

「でも、巴先輩のトドメに便乗する形なら、安全に試せるかなぁ?

 とか、考えたんですけど、ダメ?」

「……ダメじゃないわよ。

 むしろ、安心したわ。

 ちゃんと、ゆまちゃんの事を考えてくれていたのね?」

「いや、その結論はおかしい」

「そうかしら?

 4人で戦う状況、それを仮定して過程したんでしょ?

 メンバーに、ちゃんとゆまちゃんを加えていたんでしょ?」

「そりゃ、リーダーの指示ですからね」

「ふふっ。

 そう言う事にしといてあげるわ」

 

 そして、二人は発動する。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)。初期メンバーが同時に告げる。

 

 巨大化したマスケットによる高火力。

 充電したショットガンによる高火力。

 

 それは、戦いの終焉を告げる祝砲。

 

 

 

 

 

「「ティロ・フィナーレ!!」」




次回予告

戦い終わって、めでたしめでたし

そんな筈はない そんな事はない

むしろ、ここからハジマルのだ

むしろ、ここからオワリに向かうのだ

望むモノを、譲れないモノ達の

愚かで愛おしい、喜劇にしかなりえない戯曲が





九十七章 それ以外要らない

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