「仏の顔も三度までという言葉を知っているかい?」
「二度ある事は三度あるって、有名だよね」
「この二つの言葉が、矛盾を内包する人類を表してるよね」
「同時に、人間の自分勝手さを象徴してるよな」
「……君は、誰の味方なんだい?」
「オレ」
SIDE out
お菓子の魔女。決して、蛇の魔女でもうなぎの魔女でもない。
しかし、それを知る術を、魔法少女達は持たない。
それでも、解っているのは、戦う事。戦わなければならない事。
そして今、千歳ゆまがゆっくりと、真っ直ぐに魔女に向かって歩いていく。
佐倉杏子は、少し離れた場所で、祈るように膝を突いている。
巴マミは、作戦の為に移動し、群雲琢磨がそれに着いて行く。右腕の治療は、まだ行っていない。
「休んでていいのよ?」
「試したい事があるし、最悪<
まあ、時間停止中は魔法が使えないから、間違いなく激痛に悶える事になるだろうけど」
右腕を食い千切られながらも、通常通りに振舞えるのは、本来感じる激痛を<
時間停止を行えば、その魔法も強制的に解除される。その後の状況は容易に想像出来るだろう。
「それでも琢磨君なら、躊躇い無く使うんでしょうね」
「……前から思ってたんだけど、オレを美化しすぎじゃありませんかい?」
「私には、琢磨君が自分を過小評価し過ぎてる様に見えるわよ?」
「はっはっは、まさかぁ~」
予定の位置に辿り着き、巴マミは魔女を注視する。
群雲はその横で、先ほど取り出したショットガンの弾を左手に持ち、
「試したい事って、
「それの、もう一つ上」
マミの質問に、簡潔に答えて、群雲は視線を魔女へと向けて、告げた。
「では、闘劇をはじめよう」
真っ直ぐ進んでくるゆまを確認し、魔女は当然狙いを定める。蛇のように近付き、その口を大きく開けて、ゆまを喰らう為に迫る。
その動きは俊敏。まさに蛇。
だが、対応できない速度ではない。
ゆまの武器はハンマーだ。どうしても大振りになる。
だが、対応できない訳じゃない。
突っ込んでくると解っているなら、迎撃する為に必要な事も、おのずと判断できる。
ゆまは見ていた。右腕を失った魔人と、魔女の立ち回り。それを見続けていた。
故に、魔女の速度も把握している。
「たぁーーーー!!」
ゆまは、横薙ぎにハンマーを振る。
魔女も馬鹿ではない。迎撃するだろうゆまの行動を読み、ハンマーに当たらないように迂回して迫る。
それに対し、ゆまの取った行動。
それは、横薙ぎの勢いのまま。
その場で回転する事だった。
ゆまのハンマーは、衝撃波を発生させる。
重要なのは、ハンマーがぶつかった際に衝撃波が起きるのではなく、ハンマーから衝撃波を発生させるという事。
回転するゆま。左回りに回転するハンマー。発生する衝撃波も左方向へ。
それは、見えない竜巻となり、魔女の体を流していく。
左に魔女を弾き飛ばし、追撃の衝撃波で、さらに弾き飛ばす。
そして、蛇のように長い魔女の体が、完全に浮いた所で。
杏子の魔法が発動する。
「串刺しになりなっ!!」
地面から突き出された槍が、魔女の体を貫いて、その場に固定させる。
真っ直ぐに貫通した何本もの槍は、魔女の脱皮を完全に妨害する。
そう、完全に貫いたまま、槍を抜く事無く固定してしまえばいいのだ。
後は、トドメの一撃。それで勝利。
ゆまの衝撃波で、魔女の体を浮かす。
その状態の魔女を、杏子の槍で貫き、固定する。
最後に、大火力の一撃。
これが、ゆまの作戦だった。
この作戦において、最重要なのは一番最初。
ゆまが、魔女を弾き飛ばさなければ、そもそも作戦が始まらない。
そこでゆまは、自分一人で魔女に向かい、迎撃する形を選んだ。
それこそが、杏子の反対した理由。弾き飛ばせなければ、そのまま魔女に食べられてしまってもおかしくはないからだ。
大振りになる為、振り抜いた後には隙が出来る。弾き飛ばせなかったらその隙に食べられて終了。そうなってもおかしくはなかった。
ゆまはそれを“振り続ける=回転する”という方法で、補う事を思い付いた。
振り抜いた後に隙が出来るのなら、振り抜いた状態になるのを遅らせれば良い。
ゆまは見事に、魔女との戦いで作戦を発案し、実行して見せた。
「さて、最後の仕上げね」
串刺し状態の魔女。その顔の前に位置取るのは、巴マミ。
「狙うのは、口の中。
右腕と一緒に、手榴弾を食わせて爆発した際には、魔女は悶えてたからな。
多分、一番効果的だ」
マミの横で、
「初めての魔法。
その実験台になってもらうぞ」
そして、左手に持つショットガンが、放電を開始する。
「
流石に想定外だったらしく、マミが驚いている。
それに対し、群雲は口の端を持ち上げてみせる。
「見滝原の
群雲琢磨は、過程を仮定する。
2人の時は、オレが前に出て、巴先輩が後ろからティロるのが最善の形だった。
でも、4人になると、そうはいかない。
特に、巴先輩は広範囲の魔法を使う機会が増えるのではないか?
ならば、必要になるのは何か?
巴先輩のノートを見て。
ゆまの戦い方を直に味わい。
佐倉先輩との共闘での記憶を呼び起こし。
自分に必要なモノを模索した。
それが、これだ」
必要なのは、高火力。マミが援護に回った際に、換わりとして終焉を告げる魔法。
必要なのは、遠距離魔法。自分の代わりに前に立つだろう、杏子とゆま。
そして、思いついたのが、この方法。
充電した弾丸を、充電したショットガンで撃ち出す、
群雲版ティロ・フィナーレ『炸裂電磁銃』
「まあ、どうなるかは解らんけどね」
その言葉に、脱力するマミを、誰が責められようか?
「でも、巴先輩のトドメに便乗する形なら、安全に試せるかなぁ?
とか、考えたんですけど、ダメ?」
「……ダメじゃないわよ。
むしろ、安心したわ。
ちゃんと、ゆまちゃんの事を考えてくれていたのね?」
「いや、その結論はおかしい」
「そうかしら?
4人で戦う状況、それを仮定して過程したんでしょ?
メンバーに、ちゃんとゆまちゃんを加えていたんでしょ?」
「そりゃ、リーダーの指示ですからね」
「ふふっ。
そう言う事にしといてあげるわ」
そして、二人は発動する。
見滝原の
巨大化したマスケットによる高火力。
充電したショットガンによる高火力。
それは、戦いの終焉を告げる祝砲。
「「ティロ・フィナーレ!!」」
次回予告
戦い終わって、めでたしめでたし
そんな筈はない そんな事はない
むしろ、ここからハジマルのだ
むしろ、ここからオワリに向かうのだ
望むモノを、譲れないモノ達の
愚かで愛おしい、喜劇にしかなりえない戯曲が
九十七章 それ以外要らない