無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「勘違いしている人が多いけど」
「どした、ナマモノ?」
「僕にとって、重要なのはエネルギーの回収なんだよ」
「知ってる」
「でも、魔法少女を絶望させる事が目的のように思われてる」
「違うの?」
「魔女になってくれるなら、過程は問わないよ。
 絶望してもいいし、魔法を酷使してもいい」
「どっちにしろ、最低じゃないか。
 それも、知ってるけど」


百章 喜ばしい事

SIDE out

 

 ゆまが眠り。二人の魔法少女と、二つのモノが、再びリビングに集結する。

 

「さて……どこまで話したっけか?

 あぁ、思い出した。

 独りの魔人生活の際に、軍事基地を壊滅させたって話か」

「ちげぇよ!

 てか、なにやってんの、おまえ!?」

 

 三角のテーブル。一辺にマミ。一辺に杏子。ベランダに琢磨。

 キュゥべえは、琢磨の肩に乗っている。

 

「重大ニュースのはずなのに、まったく情報が提示されなかったな。

 まあ、お偉いさんにとっちゃ、知られたくない恥部だろうね。

 正体不明の少年が、軍事基地を殲滅させたなんて」

「なにか、理由があったの?」

「弾丸の補充。

 途中で見つかったんで、交戦。

 交戦した結果、また補充が必要になったんで、さらに探索。

 で、また見つかって交戦。

 以下、殲滅まで続きました」

「馬鹿だろ、おまえ」

「失敬な。

 魔人……魔法少女もだけど……普通の人間より、圧倒的に強い事を再認識出来たのも、収穫だった」

「魔女と戦うんだから、相応に強化されているよ」

「もう一回、説教するべきかしら?」

「おいィ!?」

「……話の続きはどうしたよ?」

 

 閑話休題。

 

「さて続き……と言っても、これ以上の仮定は無意味だ。

 ……情報が増えなければ、な」

 

 そう言って、群雲は肩に乗るキュゥべえに視線を向ける。

 

「魔法少女は“お前がいなければ、存在しない”んだ。

 つまり“お前が契約した少女の中に、加害者がいる”って事になる」

 

 群雲は、自身の持つ情報を、的確に抽出する。

 そして、群雲の言葉は、話を聞いていた二人の魔法少女に、驚愕の表情を作らせる。

 

「契約した魔法少女同士が殺しあう。

 その状況を、お前は容認しないはずだ」

 

 その上で“最凶の絶望情報(魔法少女の真実)”を巧みに隠しながら。

 魔人と孵卵器は言葉を交わす。

 

「当然だね。

 僕としても、容認出来る筈が無い。

 魔女を倒す力を魔法少女(なかま)殺しに使うなんてね」

「そしてお前なら。

 確定出来てはいなくても“容疑者を絞り込む”ぐらいは出来る筈だ。

 例外無く“魔法少女はお前と契約している”のだから」

「もちろん、候補を絞り込んではいるよ。

 でも、決定的な確証を得るまでには、至っていないのが現状だ」

「どうして、私達に相談してくれなかったの?」

 

 会話を聞いていたマミが、質問で割り込む。

 それに対するキュゥべえの返答は。

 

「僕は最初、容疑者の第一候補に“群雲琢磨”を挙げていたからね」

 

 予想の上をいっていた。

 

「……怒るわよ、キュゥべえ?」

 

 当然、相棒を疑われて、いい気分になるはずも無い。マミは冷たい声色でキュゥべえに告げる。

 だが、それを遮ったのは。

 

「なるほどね」

 

 群雲本人だった。

 

「オレの見た魔法少女の遺体は“切り刻まれた痕”があった。

 日本刀やナイフを用いるオレは、充分容疑者になりえる」

「それに琢磨は“自分の為にならない存在は、容赦なく殲滅する”からね。

 これは、琢磨自身が公言している事だ」

「見ず知らずの魔法少女を殺す“動機”も、オレには充分って事だな」

 

 さらに、キュゥべえを補足までしてみせる。それが群雲琢磨という少年。

 流石に、この展開には、マミも黙らざるを得ない。

 

「だが、ナマモノの口振りだと、今は違うって事だろう?」

 

 容疑者の第一候補に挙げて“いた”と、キュゥべえは言った。

 それは、今は違うと言う事の証明である。

 キュゥべえは、それを踏まえた上で、情報を開示する。

 

「はじめは、魔女の仕業だと思っていたんだけれども。

 使い魔や魔女の攻撃方法では有り得ない死に方をしていた魔法少女も居たんだ」

「鋭利な刃物による物だと思われる事、か?」

 

 聞いているだけではない。杏子も情報を得て、自分なりに結論付けようとしている。

 そんな杏子の疑問を肯定しながら、キュゥべえは話を続ける。

 

「その通りさ。

 だからこそ“魔法少女狩り”が起きていると結論付けた。

 さっきも言ったけど、容疑者最有力は琢磨だったけれど。

 それを覆す情報を、僕は得る事が出来た」

 

 それこそが、群雲の嫌疑を晴らし。

 同時に、最有力の情報となり得る事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被害者の一人が、死に際に言い残したんだ。

 “くろいまほうしょうじょ”とね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

「……まずいわね」

 

 織莉子の言葉に、私は首を傾げる。

 確かに、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)と、ニアミスしたし。

 織莉子の警戒している殲滅屍(ウィキッドデリート)も見た。

 でも、私は見つかっていない。向こうは気付いていなかったはず。

 未来を見ていたらしい織莉子が、真剣な表情で私を見る。

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)と“アレ”が接触するのは、喜ばしい事じゃないわ」

 

 うん。言ってる意味がよく解らない。

 でも、それに対して、私が織莉子を攻める事は無い。当然でしょ?

 

「でも……良い“現実の情報”だったわ、キリカ」

 

 誉められた! やったね私!!

 

「そう……“あの二人”が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に加入したのね。

 これは“喜ばしい事”だわ」

 

 織莉子が見る“世界”を見られないのは、苦痛でしかない。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 

 私は織莉子に尽くす。それが私の願いで望み。織莉子さえいてくれれば、私の世界は無限に続く。

 

「一息つきましょうか」

 

 そう言って、織莉子は優雅な振る舞いで、ティーポットに手を伸ばす。

 

「砂糖は3個。

 ジャムも3杯。

 いつもの紅茶でいいかしら?」

 

 あぁ、もう! そうやって織莉子はいつも!!

 

「シロップなんかじゃないんだ!

 織莉子が入れてくれる、甘い紅茶がいいんだよ!!」

「えぇ、わかってるわよ」

 

 その笑顔が、私を満たしてくれるんだ。その存在が、私を生かしてくれるんだ!

 

「大好きだよ!

 世界を滅ぼせるほどに!!」

「織ってるわ。

 世界を護り通せるほどに」




次回予告

対話と会話 仮定と過程 原因と結果 目的と手段

舞台は、確実に整っていく




さて、それは果たして

誰にとっての、舞台なのか

百一章 現状の正常認識

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