無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「いつも思うんだが」
「どうしたんだい?」
「ナマモノって基本的に、他の魔法少女の情報ってくれないよね」
「当然だね。
 僕らにとって、害悪にしかならない魔法少女なら、情報を回して排除してもらう事もあるけど。
 基本的に、中立だから」
「でも、聞かれれば答えるよね」
「僕らには、騙すという概念はないからね。
 嘘を付く事もない」
「ほんと、やりやすくてやりにくい」
「わけがわからないよ」
「お互いに、な」


百一章 現状の正常認識

SIDE 佐倉杏子

 

 “くろいまほうしょうじょ”

 黒い魔法少女か……織莉子じゃないらしいな。

 まあ、あたしは織莉子の攻撃方法とか知らないけど。

 

「なるほど。

 オレは黒くない。

 それ以前に、少女じゃねぇし」

「その通りだね。

 魔法少女狩りが、琢磨の仕業であったなら、特定は容易だ。

 現状唯一の魔人だからね」

 

 そんなあたしの思考を無視して、キュゥべえ達は会話を続けている。

 

「つまり、変身した時に黒ベースの魔法少女が候補になると言う事ね?」

「……いや、そうとは限らないな」

「琢磨の言う通りだね。

 白ベースでも、長い黒髪が特徴的であったとすれば。

 後から見た際に、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはない」

「さっきのオレの仮定。

 “被害者を殺す為に加害者が結界に入った”という仮定から、さらに過程を仮定するなら。

 黒い魔法少女の目的は、魔法少女狩り。

 すなわち“魔法少女の殺害”となる」

「つまり?」

()()()()()()()()()()()だ。

 ハイリスクノーリターンだよ」

 

 確かにな。殺害対象に、わざわざ自分の存在を認識させる理由は無いってことだ。

 突然襲われて、その場に倒れた状態で、襲撃者を目撃するとして。

 去っていく襲撃者が長い黒髪だったなら、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはないか。

 

「ただ……」

 

 ここへきて、琢磨が電子タバコを咥えたまま、肩を竦める。

 

「これ以上の仮定から、発展するとは思えないんだよな。

 決定的な情報が無いから」

「……頼むから、一人で納得すんな」

 

 説明しろよ、それ込みで。

 

「解りやすく言えば、証拠が無いんだよ。

 切り刻まれた魔法少女の遺体から、状況を分析して、過程を仮定した訳だが。

 仮定は、実証できなきゃ、真実には成り得ない。

 って、なんかのドラマで言ってた」

 

 そして、オチをつけんな。あたしとマミが同時に溜め息をついた。

 

「容疑者が判明して、かつ、背後関係とか解れば、もう少し発展出来るだろうけど。

 これ以上は、仮定じゃなくて、ただの想像にならない?」

 

 本当に、こいつの頭はどういう構造をしてるんだか。

 

「なら、何の為の会話だったんだよ?」

「現状の正常認識の為、かねぇ?」

 

 あたしの質問に、琢磨はあっさりと返答する。

 

「魔法少女を狩る魔法少女。

 その存在を、知らないままと知っているのでは雲泥の差だ」

「警戒するには、充分な存在よね」

「それが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の縄張りにいる可能性。

 まあ、狩られた魔法少女の遺体があったんだから、黒い魔法少女の行動範囲内に、オレ達の縄張りが含まれて居るのは、間違いない。

 警戒するのは当然じゃないか?」

「つまり、魔法少女狩りに注意しましょうって事か」

「端的に言えばね」

 

 一言でまとまるのかよ。

 

「そして、明日取るべきであろう選択肢候補は、今のところ二つ」

 

 その後の方針を決める為の話し合いだったって事か。

 変わらず、口の端を持ち上げながら、琢磨は右手の人差し指を立てる。

 

「学校が休みなんで、明日は4人が揃って行動出来る。

 故に、一つ目は全員で修行」

「特訓ね」

「意味、一緒じゃん」

 

 でも、特訓はいい考えかもしれないな。

 

「今回の魔女狩りで、ゆまも頭角を現してきた感じだし。

 一度、本格的に特訓するのもありじゃないかと、群雲君は考えた。

 ゆま、ツノが生えてる訳じゃないけど」

「生えててたまるか」

 

 そして、オチをつけるな。

 あたしのツッコミを無視して、次に左手の人差し指を立てる。

 

「二つ目は、情報収集。

 目的がなんであれ、オレ達にとって“くろいまほうしょうじょ”は、敵にしかなりえない」

「魔法少女狩りを続けるのなら、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)にとっては、そうなるしかないわね」

「巴先輩の性格的にも、ねぇ」

「なんか、私が悪いみたいな言い方ね」

「悪いなんて、一言も言ってないよ。

 が、群雲君的に、こちらはあまりお勧めはしないかな」

「どうして?」

「情報が少なすぎ」

「その情報を探すんじゃないのかよ?」

「どこから、どうやって?」

 

 ……あ。

 

「情報が少なすぎて、探しようがないのが、現状じゃないか?

 まさか、聞いて回る訳にもいかんし」

 

 なら、特訓か?

 

「なら、特訓かしらね?」

 

 あたしの思考と、マミの言葉が被った。

 

「まあ、それが妥当だろうね」

 

 そこに、キュゥべえが割り込んでくる。

 

「魔法少女狩りを探して、逆に狩られたのでは、意味が無いからね。

 自身の実力を上げて、襲撃に備えるのは良い判断だと思うよ」

「魔法少女を狩れる実力を、黒い魔法少女は確実に有している。

 ミイラ取りがミカンになっちゃ、意味が無い」

「いや、ならねぇよ!?」

 

 なんで、ミカンなんだよ?

 

「お隣さんから、差し入れに貰った。

 食べる?」

「相変わらず、唐突過ぎるだろ、お前!?

 ……食べるけど」

「じゃ、明日は特訓って事で」

 

 言いながら、琢磨は電子タバコを右手にしまい、部屋の中へ。

 そう言えば。

 

「悪い、琢磨」

「ん?」

「眼鏡、壊しちまった」

「……ああ」

 

 キッチンに向かう琢磨に、あたしは謝る。

 

「まあ、オッドアイを隠す為のモノだし、今は眼帯してるし、気にせんでいいよ~。

 ……それなりに長い付き合いだったし、愛着もそれなりにあったけど」

「気にさせるつもり満々だな、お前!?」

 

 ああ、そうだ。こいつはそういう奴だよ!

 

「まあ、無くても困らない程度の代物だし、気にせんでいいよ~」

 

 言いながら、いつものように笑う琢磨。

 泣いているような印象を受けてしまう、琢磨の笑顔。

 ……ああ、そうだ。こいつはそういう奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、蜜柑じゃなくて柚子だ!?」

「マジカ」




次回予告

自分勝手に決め付けて 自分勝手に解釈し

自分勝手に判断して 自分勝手に黙ってる

そんな少年の、孤独な駆け引き


百二章 まだまだ

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