無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「琢磨も、効率の悪い方法を選んでるよね」
「何の話よ?」
「痛覚の遮断を、わざわざ魔法で行っているんだろう?
 そんな事をせずとも、痛覚の遮断は可能だよ?
 君達の意識は、肉体と連結してはいないんだから」
「なん…………だと…………!?」


百三章 魔獣

SIDE out

 

「どちらも、見滝原中学の生徒とか、世界はこの場所が大嫌いだろ?」

「わけがわからないよ」

 

 深夜の考察。魔人と孵卵器。その思考は、全ての斜め上へと到る。

 

「長くて黒い髪。

 琢磨の言った印象と一致する少女だ」

「それだけじゃないだろ?」

「当然だね。

 もっとも、僕の持つ情報はあまりにも少ないけど」

「おいこら、働けよナマモノ」

「仕方が無いと、琢磨も考えるはずさ。

 ほむらは、僕を見ると殺しに来るからね」

「……なるほど」

 

 情報を得る為に近付けば、殺される。それでは情報を得る事は難しい。

 

「無駄な事をしてるな」

「ほんとだね。

 この星に、僕は無数にいるから」

「実は、ビッグなボディとか、ないだろうな?」

「わけがわからないよ」

 

 だが、難しいのであって、不可能ではない。この二つは、それを熟知している。

 

「ナマモノを殺すって事は“真実”を知っている可能性が高いな」

「何故か、人類は真実を知ると、僕らを目の敵にするからね」

「そして、お前を殺しているって事は、魔法少女を増やす事を、良しとしていないって事だ」

「現存する魔法少女を、駆除しても、おかしくはない」

「動機は成立する訳だな」

 

 真実を知り、孵卵器を目の敵にするならば。

 その目的であるエネルギーの回収をさせないようにするならば。

 エネルギーの元である魔法少女を、魔女になる前に殺していても、おかしくはない。

 

「容姿も動機も成立可能。

 その上で確証が無いって事は」

「そう。

 殺害方法が一致しない。

 ほむらが僕を殺す方法は、銃殺や爆殺。

 斬殺された端末は、存在しない」

「加えて、真実を知るならば。

 SG(ソウルジェム)を狙った方が、効率がいい事を知っているはずだしな」

 

 もちろん、それがフェイクである可能性もあるが。あくまでも可能性の話だ。

 

「こうして考えると……中々素敵な状況だな」

 

 容姿と殺害方法が成立して、動機が成立しない呉キリカ。

 容姿と動機が成立して、殺害方法が成立しない暁美ほむら。

 

 そして。

 

 殺害方法と動機が成立して、容姿が成立しない群雲琢磨。

 

「嫌な三すくみだな、オイ」

「まったくだね」

 

 故に、確証がない。得られない。決定的なモノが無い。

 

「共通しているのは、全員が契約者って事ぐらいか」

 

 呟き、電子タバコを咥える群雲にとって、完全に予想外の一言が、キュゥべえから告げられる。

 

「多分ね」

「……は?」

 

 首を傾げる群雲に、変わらず無表情なキュゥべえは、淡々と事実を告げる。

 

「暁美ほむらとは、契約した記録が無い」

「いやまて、なんだそれ?」

「琢磨と同等のイレギュラーだよ、ほむらは。

 その力は、間違いなく魔法少女のものだ。

 SG(ソウルジェム)も確認している。

 でも、契約した記録が無い。

 魔法少女であるはずなのにね」

 

 その言葉に、群雲は黙り込むしかない。完全に想定外の情報であるが故に。

 

「琢磨を異物とするなら、ほむらは異端と呼ぶべきだね。

 そんな彼女が魔女になった時、どれほどのエネルギーを得られるか」

 

 結局、キュゥべえにとってはそれこそが重要なのだ。

 

「オレが魔女になった時と、どちらが多い?」

「どうだろうね?

 そればかりは、回収してみないと」

 

 そしてキュゥべえは、一つの訂正を加える。

 

「琢磨の場合は、魔女とは呼ばないけどね」

 

 再び、首を傾げる群雲に、キュゥべえは告げる。

 

「魔女、及び、魔法少女。

 これは、君達人類に合わせての呼称だ。

 当然、魔人である君には、魔人に合わせた呼称があるよ」

「なにそれ、初耳なんだけど?」

「言ってなかったかい?

 いずれ魔女になる、だから魔法少女。

 同じ様に、自分を失い、人という形から堕ちていく」

 

 その言葉から、自身への呼称に予想がついた群雲は。

 

「ケモノに成り下がるって事か?」

 

 口の端を持ち上げながら、問いかける。

 それに合わせるように。

 キュゥべえもまた、口の端を持ち上げながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずれ理性を失い“魔獣”に堕ちるキミの事は。

 “魔人”と、呼ぶべきだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にあわねぇな、おい」

「やっぱり?

 君のように表情を造れば、僕らも効率良くなるかと考えたんだけどね」

「表情造っても、感情がなければ一緒じゃね?」

「そういうものか」

 

 それでも、結局変わらない。呼び方が違えと、答えは同じ。

 

「感情を持つ個体を、精神疾患として処分するんだっけ、おまいら」

「それが、どうかしたのかい?」

「それを研究材料にでもすればいいんじゃね?」

「残念ながら、サンプルとしては少なすぎるんだよ。

 個という概念が無い僕らには、意見交換なんて作業は存在しない。

 だからこそ、琢磨の存在は貴重なんだけどね」

 

 真実を知らなければ、意見交換は出来ない。

 真実を知っても、インキュベーターに敵意を抱く者とは、意見交換なんて不可能。

 真実を受け入れ、割り切り、それでも生きていくと決めた群雲琢磨だからこそ。

 インキュベーターとの異星交流が、成立しているとも言える。

 

「なんにしても。

 魔法少女狩りは、僕らにとっては害悪でしかない」

「だよな。

 魔女になる前に殺されたんじゃ、お前らはエネルギーの回収が出来ない」

「縄張りで魔法少女狩りが起きている以上、これを放棄する事は出来ない」

 

 そして、利害が一致する。それが魔人。それが異物。それこそが群雲琢磨。

 

「両方と、接触してみるのが一番なんだが」

「そのまま、殺されるなんて事はないのかい?」

「はっはっは。

 完全に否定出来ないあたり、オレって才能ないよね」

「わけがわからないよ」

 

 どちらにしても、明日は特訓の日だと決まっている。

 動くのは、それ以降になるだろう。

 

「イベント盛り沢山で、泣けてくるね」

「その割には、嬉しそうだね」

 

 煙を吐き出しながら、群雲はいつものように微笑んだ。




次回予告

明確に存在する敵

これまでとは、意味を変える敵

生き延びる為 意志を貫く為

必要なのは、力




そして、その正確な使い方













百四章 たくちゃん

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