無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「世界に愛されている者と、世界に認められていない者」
「オレ達を明確に分けるのは、その一点だと思うんだ」


第一幕 スベテを憎んだFirst Night
九章 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉


SIDE out

 

 その街には今、三人の魔法少女がいた。

 (ともえ)マミ、鹿目(かなめ)まどか、暁美(あけみ)ほむら。

 キュゥべえと契約を交わし、魔女と戦う使命を持つ、魔法少女。

 その日、彼女達は一人の少年と出会う。

 契約を交わした、数少ない男の一人。

 従来とは違った在り方で、生き続ける、一人の少年と。

 

 

 

 既に変身を終わらせた三人は、結界の中を進む。

 

「誰も、いないわね……」

 

 先頭を走る巴マミが、首を傾げながら呟いた。

 そう、結界内に入ってから今まで、一度も使い魔と遭遇していない。

 

「もしかして……私達以外の魔法少女が、すでに戦っているとか?」

 

 鹿目まどかの疑問に、巴は首を振る。

 

「この街は、私達の管轄だし、それ以外の魔法少女が来たのなら、キュゥべえが連絡をくれるはずよ」

 

 ただ一人、暁美ほむらだけは別の疑念が発生していた。

 

(自分が魔法少女として、過去に戻った事で、未来は別の方向に向かっている。

 もし、他の魔法少女が来たのなら、それは私の影響なの?)

 

 三者三様の考え。

 それらすべてが、間違っている事を、三人はすぐに思い知る。

 なぜなら、前方で戦っている人物を見つけたからだ。

 そして、その人物は……小柄な“少年”だったのだから。

 

 

 

 リボルバー拳銃を右手に、髭の使い魔と戦う少年に対し、やはり三者三様の印象を受ける。

 

 

 

(男の子!?

 なんで結界内にいて、しかも戦っているの!?)

(わぁ~、真っ白い髪の毛。

 しかも右目だけ緑色だ。)

(軍服に拳銃……どこかの軍人さん?

 でも……鹿目さんよりも小さいわ……)

 

 そんな三人に気付く事無く、少年は撃ち尽くしたリボルバーを左手に持ち替えてリロードする。

 少年の銃“コルト・シングル・アクション・アーミー”は回転式拳銃である。

 一発ずつ排莢、装填するタイプであり。

 

 ――――リロードが遅い。

 

 無論、敵対者がその隙を逃す筈は無く。

 

「チッ」

 

 少年は舌打ちをし、リロードしながら使い魔を蹴り飛ばす。

 全弾装填が完了した訳でもないが、回し蹴りを放った流れのままに引き金を引き、別の使い魔を撃ち殺し、再び蹴りを繰り出しながらリロードを続ける。

 それは、さながら舞台劇、殺陣を思い起こさせる動きであり、少年の戦闘経験の豊富さを物語っていた。

 結局、三人の魔法少女が介入する前に。

 それ以前に、全弾リロードが完了する前に、一帯の使い魔は全滅していた。

 

「……ふぅ」

 

 少年は一つ、息を吐くと、リロードを完了させ、クルクルと銃を回転させる。

 そのまま、違和感の無い流れで銃を右手に持ち替えると。

 

「「「!?」」」

 

 銃を腰に構え、その銃口を魔法少女達に向けた。

 

 

 

ドドドドドドン!

 

 

 

 そのまま、ファニングと呼ばれる速射術による神速の六連射。

 

 煽り撃ちとも呼ばれる、SA(シングルアクション)式の銃専用の速射術であり、西部劇などでたまに見かける撃ち方だ。

 しかし、銃の反動を押さえ込めるだけの筋力が必要であり、SA式の銃自体が旧タイプである為に、命中精度は、さほど高くは無い。

 しかし、少年はそれを自らの魔法“電気操作”を応用する事によって解消する。

 銃を持つ手を、電気による神経操作で無理やり押さえ込み、撃鉄を下ろす手を、同じく電気による神経操作で従来以上の速度で行う。

 “電光速射”と少年が名付けた、自身専用の速射術である。

 

 放たれた弾丸は、一直線に魔法少女の。

 ――――後から忍び寄っていた使い魔を、正確に撃ち抜いて消滅させた。

 

「すごい……」

 

 鹿目まどかから、思わず呟きが洩れる。

 その言葉が聞こえなかった少年は、先程のようにリロードをし、再び銃をクルクルと回転させる。

 

「魔法少女……か?」

 

 そのまま、器用にガンスピンをしながら、少年は三人に問いかけた。

 

「え、えぇ」

 

 年長者である巴マミが、三人を代表して返事をする。

 そして、疑問を口にしようとするが。

 

「オレはこのまま、魔女狩りを続けるが、そちらは?」

 

 ガンスピンを続けたまま、少年が先に問いかけた。

 開きかけていた口を閉ざし、巴マミは少年を見据える。

 僅かに持ち上がった長めの白髪に、黒と緑のオッドアイ。緑で統一された軍服に両手足を染める黒。器用に回転を続ける拳銃。

 何よりも、結界内で戦っている――――――男の子。

 先輩魔法少女として、他の二人を守り、導く立場にある者として。

 目の前の人が、信用に足るかどうかを判断しようとしているのだ。

 

「行くよ」

 

 他二人の魔法少女は驚き、少年は若干目を細める。

 

「魔女の脅威から、みんなを守るのが、魔法少女の役目だもん。

 だから、行く」

 

 強い意志の込められた言葉。

 その言葉を発したのは、鹿目まどかだった。

 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉を聞き。

 

「……ん」

 

 少年はガンスピンを止め、ゆっくりと奥に向かって歩き出した。

 

「ま、まって」

 

 慌てて、鹿目まどかが追いかける。

 

(何かあれば、私が……)

(鹿目さんは、私が守るんだ)

 

 それぞれの決意を胸に、他二人もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 道中は無言だった。

 少年が先頭に立ち、迷う事無く歩を進める。

 巴マミと暁美ほむらは、少年を信用していいのか判断しきれず、その小さな背中を見つめる。

 鹿目まどかは、話をしようと思うのだが、話題が見つからずに若干オドオドしていた。

 結局、会話も戦闘も無いままに、四人は魔女の下に辿り着いた。

 

“薔薇園の魔女 ゲルトルート”

 

 なんとも、気色悪い魔女を確認し、少年は魔法少女たちに問いかける。

 

「……武器は?」

 

 その言葉に、魔法少女達は自分の武器を少年に見せる。

 巴マミは、マスケット銃。

 鹿目まどかは薔薇の枝をモチーフにした弓。

 暁美ほむらは……。

 

「……なにそれ?」

「えっと……自作の爆弾……です……けど…………」

 

 徐々に声が萎んでいく、お下げ髪の少女を見ながら、少年は思った。

 

(ひょっとして、この人が一番過激じゃなかろうか……?)

 

 そんな考えを、一旦隅に置き、少年は考察を開始する。

 

 銃に弓に爆弾。

 前二つは遠距離武器だし、爆弾は……どうすんの?

 設置するか、投げて爆発させるか……ぐらいか?

 そうなると、前衛がいないな。

 

「……オレが前に出るから、援護を」

 

 そう言うと同時に、少年は右腰にSAAを収納し、変わりに左手から武器を取り出す。

 取り出されたのは、一振りの刀。

 鍔のない、白鞘こしらえのそれは、長ドスのような印象を受ける。

 そのまま少年は、返答を聞く事無く、使い慣れた移動手段で、魔女との間合いを詰める。

 両足神経を魔法により操作して、直接動かす歩法。

 少年が最も多用する<電気操作(Electrical Communication)>の、基本行動。

 

(((……うわぁ……)))

 

 上半身を動かさず、下半身だけが異常な速度で動くその姿は、傍から見たら異様だろう。

 だが、そんな魔法少女の感想など気にも留めず、少年は一気に魔女を間合いに捉えて。

 

「逆手居合、電光抜刀、弐の太刀。」

 

 電気操作による、神経操作で繰り出されるは、横薙ぎの逆手抜き。

 

「閃風!」

 

 視認出来ないほどの神速抜刀は、一筋の黒き放電を残し、少年はそのまま通り過ぎる。

 だが、魔女の体は大きく、それでは致命傷には至らない。

 自身に攻撃を加えた少年を目標に、魔女と小さな使い魔達が動き出す。

 少年は、足を止める事無く納刀し、右腰のSAAを抜く。

 左手の刀はそのままである為“電光速射”は使えないが、それでも構わない。

 何故なら、二人の魔法少女もまた、自らの武器を魔女に向けているのだから。

 三方向から攻撃を受けた魔女は、誰を目標にするか一瞬躊躇する。

 が、変わらず少年に狙いを定めた。

 走り回る少年が、自分の使い魔を何体か踏み潰していたからだ。

 四人にとって想定外だったのは、魔女の速度だろう。

 大きな体躯とは対照的に、その動きは速く、時折壁まで走ってみせる。

 そのまま上空に飛び上がり、少年を踏み潰そうと襲い掛かる魔女に、少年は逆に魔女に突進し、閃風を繰り出し、攻撃と回避を同時に行ってみせる。

 が、致命傷には至らない。

 “閃風”はあくまでも“抜刀術”であり“魔法付加攻撃”ではないからだ。

 無論“魔法付加攻撃”に属する“逆手居合 電光抜刀”もあるのだが、それは溜めを必要とする“待ちの太刀”であり、現状では使用する隙が無い。

 体躯の大きさ、その違いが互いの攻撃力と防御力に直結する結果となっているのだ。

 

(使うか? <オレだけの世界(Look at Me)>を?)

 

 切り札とも言える魔法ではある、が、ネックも存在する。

 

“時間停止中は、他の魔法が使えない”

 

 それは<部位倉庫(Parts Pocket)>にも当てはまる。

 戦闘において“オレだけの世界”を使用する際は“SAAと大量の弾を取り出した上で使用”し“停止中に何十発という射撃を行い、時を動かす事で瞬間的にダメージを与える、強制同時攻撃”が運用法であった。

 が、実は魔法少女達と出会う前に使用しており、現在はインターバル中。

 右目の裏の時計は、11時56分12秒を指している。

 使うとしても、もう少し時間を稼がなければいけない。

 そう考えた少年は、SAAをリロードする為、刀を左手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納して持ち替え、回避行動に専念する。

 

 

 

 

 

 少年は、戦いの運命を選択してから、ずっと一人で戦ってきた。

 その為、魔法少女達の存在を、頭の隅に追いやっていた。

 むしろ“SG(ソウルジェム)を無制限に浄化できる訳ではないGS(グリーフシード)の、取り合いになるのでは?”という危惧すら持ち、出会った事がない事実をむしろ僥倖だとすら、考えていた。

 

 だからこそ。

 

 巴マミの放った弾丸が魔女に命中し、その部分から黄色い糸が無数に現れて、魔女を拘束するその姿を、驚愕の瞳で見つめていた。

 思わず足を止め、もがく魔女を見つめる。

 

(特殊な弾丸……? いや、魔法弾!?)

 

 その状況を理解し、少年はその魔法少女を見る。

 周りに無数のマスケット銃を召還し、一発ごとに使い捨てる姿を。

 たしかにマスケット銃は、単発銃である。

 

(そんな使い方があるのか……)

 

 その欠点を、周りに大量に召還して使い捨てる事で、巴マミは己の弱点を克服した戦術を実践しているのだ。

 少年のリボルバーも、一発ずつの排莢、装填である為に、リロードが遅い。

 少年はそれを“リロード中でも射撃を行う”事で、ある程度カバーしていた。

 しかし、巴マミの戦術は、まさに目から鱗。

 

(魔力で生成して使い捨てる。

 そんな方法があるのか!)

 

 が、後に少年は、自分にそんな能力が無い事を痛感し、軽く凹むのだが、それは余談。

 そして、もう一つ。

 

(弾丸に魔法付加。

 その発想は無かった)

 

 自分の<電気操作(Electrical Communication)>を利用した戦闘技能“逆手居合 電光抜刀”にも“魔法付加攻撃”は存在する。

 元々、拳に宿したり、両足を動かしたりをメインに使っていた上、電気そのものを放出するという使い方しかしていなかった為“刀身に魔法付加して斬りつける”という発想から、技を編み出しこそしたが“弾丸に魔法付加して、銃で撃つ”という発想に、至らなかったのだ。

 そして、少年はさらなる驚愕を味わう事になる。

 

「ほむらちゃん!」

「はい!」

 

 鹿目まどかの言葉に、暁美ほむらが返事をして走り出す。

 その速度は、決して速いとは言えない。

 むしろ、遅い。

 それは、少年には奇行にしか見えず。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをして、電気操作で駆け寄ろうとした瞬間。

 少年は見た。

 暁美ほむらの左腕にある盾の一部が開き、内部が90度回転した事を。

 

 

 

 

 

 ――――――そして、時は止まった。

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 なん……だと…………。

 まさに、絶句。

 魔女も、使い魔も、二人の魔法少女も。

 そして、オレ自身も。

 時は止まっていた。

 お下げの魔法少女以外の、時が。

 手に持っていた爆弾を、魔女の近くに設置する少女を見て、オレはようやく気付く。

 時は、止まっている。

 では“オレは何故、思考している”んだ?

 設置を終えて、弓を使う魔法少女の下に駆けていく、時を止めた魔法少女。

 それをオレは、その“世界”を右目で見ていた。

 

 そしてオレは、ひとつの仮説を立てるに至る。

 

 同種の魔法だから、か?

 “時の止まった世界”を“知っているから”か!?

 

 そんなオレの考えをよそに、盾の内部が再び回転するのを確認する。

 

 ――時は、動き出す。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

どごおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

 

 

 

 設置した爆弾が爆発し、黒煙が視界を塞ぐ。

 ちょwwwまじかwwwww

 コレが、自作品!? いくらなんでも、威力が凄過ぎない!?

 

 もはや、呆然とするレベルなオレだが、事態は常に変化していく。

 黒煙が晴れた先。

 上空に、先程の数十倍の大きさのマスケット銃を魔女に向かって構えている、魔法少女。

 

 マジか!? なんぞそれ!??

 

 思考が完全に麻痺し、オレはその光景を呆然と見詰めていた。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 発射された弾丸は、確実に魔女を捕らえ、再度爆発を起こす。

 色鮮やかな蝶が舞い上がり、消滅。

 その先に、どこからか取り出したティーカップを口元にあてる魔法少女と、その少女に笑顔で駆け寄っていく、他二人の魔法少女を確認する。

 

 辺りの景色が歪み始めた時、オレはようやく思考を取り戻す。

 そして、笑顔で会話をする魔法少女達を見て、素直にこう思ったのだ。

 凄い、と。

 そして……。

 

 足元に、先程の魔女の物だと思われるGS(グリーフシード)が転がってきて、オレは浮かんだ感想を打ち消した。

 それを拾い上げた、オレは。

 結界の消滅した場所で。

 三人の魔法少女と対峙した。

 

 さて……どうしよ?

 自分と同じく、真剣な表情をする三人の魔法少女。

 

 ……逃げたい……(;´д`)




次回予告

初めて出会う、魔法少女
始めて出会う、魔法少年

誰よりも近く
誰よりも遠い

真の意味でここからハジマル
これは、引き寄せられた物語


十章 ……慣れてない……だけだ…………

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