無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

110 / 173
「いつも思うんだが」
「どした、佐倉先輩?」
「前髪、うっとおしくないか?」
「慣れたよ」
「慣れる前に、切れよっ!?」


百四章 たくちゃん

SIDE 群雲琢磨

 

 朝。そう、朝です。特訓予定の朝が来たのです。

 ……結局、ナマモノとの会話で夜が明けるとか、何してんだろうね、自分。

 

 リビングで、無音のテレビから情報を取得。魔女が関係していそうな事件は見当たらず。

 朝食は、軽めの物を用意。本来なら食事すら必要ないんだけどね、オレ達(契約者)は。

 作った事のある食事なら、おかしな色にはならない。うん、わけがわからないよ。

 

「おはよう、琢磨君」

 

 準備を終えて、ベランダで一服中に巴先輩が起きてきた。

 

「おはよう、巴先輩。

 朝食は出来てるよ」

「相変わらず、早起きね」

 

 寝てませんもの。そんな事言ったら説教コースなんで言わないけど。

 

「おはよう、琢磨」

「おはよう、佐倉先輩」

 

 続いて、佐倉先輩もやってきた。当然のように、ゆまもそこにいる。

 僅かに俯き、目を合わせないようにしながら、ゆまも挨拶した。

 

「お、おはよう、たくちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 ゆまの挨拶直後、琢磨の動きが止まった。

 まあ、いきなり呼ばれ方が変われば驚きもするか。そう思った次の瞬間。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「何語!?」

 

 顔を真っ赤にして、両手を上下に振り回しながら、琢磨が奇声を発した。思わずツッコんだあたしは、悪くない。

 

「ちょ、お、う、あ、えぇ!?」

 

 ここまで狼狽する琢磨を見るのって、初めてだな。それほど、想定外だったのか。

 くすくすと笑いながら、マミが琢磨に告げる。

 

「琢磨君とゆまちゃんの仲を修復する為。

 と、言ってもゆまちゃんが一方的に嫌っているのが現状よね?」

「う、お、おぅ」

「だからまず、呼び方から変えてみようと思ったのよ。

 だから、たくちゃん」

「いや、その理屈はおかし……くないのか?

 いや、まあ、うん、好きに呼べばいいんじゃないかな。

 いや、でも、もうちょっと、何とかならないのか。

 いや、割り切ればいいのかも。

 いや、しかし」

「いやが多すぎるだろ、おい」

 

 顔を真っ赤にしたままの琢磨の呟きに、ツッコミを入れるあたしは悪くない。はず。

 

「いや?」

「とりあえずゆまは、その上目使いは反則だから、自重しような。

 呼び方と合わせて、オレの神経が羞恥でマッハ」

「お前はまず、理解出来る日本語を使え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 朝食を終えたあたし達は、リビングで今日の予定を話す。琢磨だけはベランダにいるけど。

 

「特訓はいいが……場所はどうするんだよ?」

「いつもの高架下か、郊外に出るか……。

 特訓の内容にもよるんじゃね?」

「特訓内容は決めてあるわ。

 その為には……やっぱり郊外が最適かしらね?」

「お弁当だな、まかされたぜ!」

「ピクニックじゃねぇんだぞ、おい」

 

 場所は……ある。でも……。

 

「さて、この群雲琢磨君が特訓場所の候補を、絞り込んでおいたぜ」

「準備いいわね」

「オレの候補は108まである」

「多すぎだろ、おい」

「いやぁ」

「それで、どこにするつもりなの?」

「……おのれ、適度にオレをあしらえる様になってやがる……」

「当然でしょ?

 どれだけ、一緒にいると思ってるのよ」

 

 見滝原に戻ってきて。あたしは何度も思い知る。

 マミと琢磨の繋がりの強さ。

 隣町に住んでいたあたしは以前、押し掛ける形でマミの弟子になった。

 

 だが、琢磨は違う。

 

 琢磨は、最初から“マミと対等の立場”で接触した。

 

 男の子の癖に。年下の癖に。少女ですら無い癖に。

 自分の事しか、考えてない癖に。

 

 違う。

 自分の事しか考えてないからこそ。

 

 琢磨にとって、他人はすべて“平等”なんだ。

 

 他人の評価なんて、知ったこっちゃ無い。

 これまでの経歴なんて、知ったこっちゃ無い。

 

 今、自分にとって。それだけが判断材料。

 

 マミをマミとしてのみ。ゆまをゆまとしてのみ。あたしを佐倉杏子としてのみ。

 

 そして、自分を群雲琢磨としてのみ。

 

 だからかな? そんな琢磨の笑顔が、泣いてる様に見えるのは。

 だからかな? そんな琢磨の生き方が、悲しすぎるような気がするのは。

 だからかな? 自分の為と言っている琢磨が――――

 

「どした?」

 

 考えに耽っていたあたしを、琢磨の声が現実に引き戻す。

 

「考えてたんだよ。

 特訓場所をな」

 

 ベランダで、電子タバコを咥えて。

 前髪が長く、右目に眼帯をして。

 僅かに見える左目が、あたしを真っ直ぐに見据えている。

 

「見滝原の郊外」

 

 だから、あたしも。

 

「風見野との境に近い位置」

 

 対等になる為には。

 

「佐倉さん……あなた、まさか」

 

 もう一度、あの時のように。いや、あの時以上に。

 

「寂れた教会があるはずさ」

 

 みんなと、一緒にいる為に。

 

「そこなら、人目につく事はないはずだ」

 

 乗り越えないと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 佐倉さんの言葉に、私は言葉を失った。

 郊外にある教会。

 それが、佐倉さんにとってどういう場所なのかを知っていたから。

 まさか、その場所を佐倉さん自身が推すなんて、考えても見なかったから。

 

「佐倉さん……いいの?」

 

 私の問いかけに、彼女は微笑みながら言った。

 

「あの場所だからこそ、あたしにとって、新たな一歩を踏み出す為に。

 素直になるのに、相応しい気がするからさ」

 

 その微笑み方はどこか。琢磨君に似ていた。




次回予告

どれだけ強大な力を持っていても

心一つで、無力になる

どれだけ強大な力を持っていても

心一つで、暴力になる

善悪を決めるのはいつだって心






ならば心は、どうやって鍛える?

百五章 拠り所

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。