無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「聞きたい事があるのだけど?」
「どしたよ、巴先輩?」
「琢磨君は、模擬戦で時間停止を使わないわよね?」
「そりゃ、そうでしょうよ。
 なんだかんだで<オレだけの世界(Look at Me)>が、一番魔力消費が大きいんだもんよ。
 GS(グリーフシード)が入手出来る訳じゃない模擬戦で使って、その後に魔女狩りが出来ないんじゃ、意味が無い。
 インターバルもあるし」


百六章 影が薄い

SIDE out

 

 見滝原郊外、寂れた教会の前。

 自らの力を高める為に今、赤い魔法少女と魔人の戦いが幕を開ける。

 

 槍を構えた杏子を相手に、群雲は日本刀を取り出して距離を詰める。

 当然、それに合わせて杏子が槍を振るうが、群雲は日本刀を抜く事無く、弾き返す。

 そのまま、懐に潜り込み。

 

「逆手居合 電光抜刀 壱の太刀」

 

 日本刀を用いた肉体操作プログラムを発動させる。

 

「逆風!」

 

 逆手居合による、斬り上げ。魔法により威力、速度を底上げされたそれは、早々に決着を着ける。

 

「甘ぇよ!」

 

 筈も無く。

 槍を弾き飛ばす為に繰り出された『逆風』を、杏子は槍を多節棍状にする事で()なす。

 そのまま、群雲の体を絡め取り。

 

「うぉっ!?」

 

 肉体操作プログラムである為、往なされようとも構わず、納刀モーションに入っていた群雲は。

 絡め取られるがままに、杏子によって吹き飛ばされた。

 しかし、当然のように着地。二人はそのまま距離を離して対峙する。

 

「最近、日本刀の影が薄い。

 むしろ、弱い。

 つーか、ナイフの方が使いやすいから、むしろ使う方が危険。

 これは、テコ入れが必要か」

「知るかよ」

 

 軽口を叩きながら、群雲は日本刀を戻し、替わりに両腋から二丁の自動拳銃を取り出す。

 

「実弾銃なのは、知ってるよな?」

 

 器用に電子タバコを咥えたまま、白い煙を吐き出して、群雲は告げる。

 

「流石に殺すつもりは無いからな。

 生き残れ、佐倉杏子!」

 

 そのまま、左手を突き出し、右手を曲げる独特の構えから、乱射を開始する。

 杏子は多節棍状態の槍を操り、襲い来る弾丸を全て弾く。

 全弾撃ち尽くした群雲は、右手の銃を一時的に右手の平へ収納し、左手の銃から弾倉を抜き取り、入れ替える形で次の弾倉を右手の平から取り出して。

 

「させるかよ!」

 

 そんな行動を、杏子が黙って見ている筈も無く。

 槍を元の形状に戻し、上空から群雲を襲う。

 

「うん、わかってた」

 

 群雲は瞬時に、空の銃と弾倉を上に放り投げると、右手の平からナイフを3本取り出し、杏子へ投擲する。

 襲い来るナイフに対し、杏子は自身の槍を投げて対抗する。

 質量の違い、勢いの違い、立ち位置の違い。色々な要素はあれど。

 杏子の槍が、群雲のナイフを弾き飛ばしながら進む現実に、違いは無い。

 

「邪魔ぁ!」

 

 襲い来る槍を、群雲は再び取り出した日本刀で弾いて、方向をずらす。

 自身の横を通り過ぎて、地面に刺さる槍を尻目に、群雲は上空で身動きが取れない杏子に迫る。

 

「逆手居合 電光抜刀 弐の太刀」

 

 自ら距離を詰めての横薙ぎ。

 

「閃ぷ「縛鎖結界!」へぶしっ!」

 

 しかし、杏子は自身の前に紅いひし形の結界を張り巡らす事で、群雲の突進を防ぎ。

 肉体操作プログラムであるが故に、群雲は見事に結界に突進、衝突した。

 

(((かっこわる……)))

 

 相手の杏子と、観戦中の二人の魔法少女。全員の思考か一致する中、群雲は衝突の際に飛んでいってしまった電子タバコを、何事も無かったかのように、普通に拾う。

 

 縛鎖結界を中心に、二つに分かれた二人が、思考を巡らせる。

 如何に攻めるか。如何に凌ぐか。如何に勝ちを拾うか。

 

「キョーコ、勝てるかな?」

 

 離れたところに、ビニールシートを敷いて、戦況を見守っていたゆまが、横にいるマミに問いかける。

 

「そうねぇ……」

 

 ゆまの横に座るマミが、戦況を見極める。

 

「佐倉さんが気付ければ、勝機はあるわね」

「……?」

 

 マミの言葉に、ゆまは首を傾げる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()のよ。

 それに気付けなければ、ナイフあたりを首に突きつけられて決着が着くでしょうね」

 

 以前、同様の策で敗北した事のあるマミが、冷静に分析する。

 

「初見であの策を見破るのは、難しいでしょう。

 それだけ、琢磨君は佐倉さんを評価しているという証でもあるけれど」

 

 策を破る方法はある。でも“今の佐倉杏子”では難しいだろうと、マミは判断していた。

 マミの言葉を聞き、不安げな表情のゆまが見守る中、戦いは次の局面へ。

 

「さて、その結界があると、戦いが続かないんだけど」

 

 電子タバコを右手の平に収納し、代わりにナイフを取り出す群雲。

 

「わかってるさ」

 

 先程投擲した槍を消し、新たな槍を構えて、杏子も構える。

 一瞬の間。縛鎖結界の消失と同時に、二人は間合いを詰める。

 

 ここで、群雲は杏子にとって想定外の行動に出る。

 持っていたナイフを、投げるでもなく。収納するでもなく。

 

 右手を開いて、その場に落とした。

 

「は?」

 

 思わず、ナイフに視線が行く杏子。その一瞬の隙を突き、群雲が再び、懐に潜り込む。

 

「ゆまは耐え切ったが、佐倉先輩はどうかな?」

 

 そして発動する、肉体操作プログラム。

 

 至近距離での戦闘において。攻撃速度を比較するならば。

 長物である槍よりも、日本刀の方が短い分、速く。

 日本刀よりも短い、ナイフの方が速く。

 当然、拳の方が速い。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>技能『黒腕の連撃(モードガトリング)

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 その名の通り、ガトリングガンを髣髴とさせる、黒い電気を纏った両手のラッシュ。

 杏子は槍を離し、両腕をクロスさせる事でガードする。

 黒腕の連撃(モードガトリング)の利点は、<電気操作(Electrical Communication)>の補助を受けた、通常以上の高速ラッシュ。

 黒腕の連撃(モードガトリング)の欠点は、肉体操作プログラムである為の、応用性の無さ。発動したら解除するまで、狙いを変える事は出来ない。

 故に、杏子の腕を滅多打ち状態である。当然、杏子がそのままでいる筈も無い。

 ガードの際に落とし、足元に転がる槍を器用に足で蹴り飛ばし、群雲の足を狙う。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔ぁぉうっ!?」

 

 足への衝撃に、群雲はバランスを崩してしまうが、両腕は止まらない。慌てて肉体操作プログラムを解除する。

 その隙を突いて、杏子が間合いを取る。再び離れて対峙する二人。

 

(攻撃が多彩すぎる……次の手が読めない)

(あそこで槍かよ……あの凌がれ方は想定してなかった)

 

 今度は、縛鎖結界がないが、関係なく二人は思考を巡らせる。

 

(なにが、広くて浅いだよ……充分じゃねぇか)

(Lv1であるが故の欠点だよなぁ……だから、魔女戦では武器を使ったほうがいいんだよ……)

 

 杏子は槍を構え、対して群雲は素手のまま。相手から視線を逸らさずに。

 

(対応出来る速度だから、何とかなってる感じか)

(そろそろいけそうな気もするが……盛り上げるか?)

 

 そして、先に動いたのは。

 

 

 

 

 群雲琢磨。

 

 

 

 

「3連戦なんだよね」

 

 いつものように、口の端を持ち上げて。群雲は言葉を紡ぐ。

 

「だから、そろそろ決めさせてもらうぜ?」

 

 その言葉に、杏子の表情が一層に引き締まる。

 

「出来るのかよ?」

 

 言いながら、槍の感触を確認し、群雲に集中する。どう動いても対応出来るように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来るんだ」「なぁこれが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 視線を逸らした訳ではない。集中を切らした訳でもない。

 

 「出来るんだ」までは、群雲は確かにそこに居た。

 だが「なぁこれが」の言葉は、杏子の後ろから聞こえていた。

 

 杏子が反応するより前に。群雲は、先程上に放り投げた銃が、重力に従い落ちてきたのを、しっかりと受け止める。弾切れの為、スライドが引かれたままの銃を左手に、弾の込められている弾倉を右手に。

 風が頬を撫でる中、叩き込むように弾倉を装填した音に反応し、杏子が動く。

 杏子が選んだ行動は、攻撃。飛び退いて間合いを取るのではなく、自分の後にいる群雲への反撃。

 考えた訳でもなく、反射的に体が動いたのだ。

 回転するように槍を横薙ぎに振るう杏子。その腕を右手で掴み、その動きを抑え込む群雲。

 同時に、群雲は杏子のこめかみに、左手の銃口を押し当てていた。

 

勝利は、オレの手に(Rock you)

 

 その言葉と共に、銃のスライドが元に戻り、弾が込められた事を示す。

 

 勝者は、一目瞭然だった。




次回予告

何が起きたのか

ゆまと群雲の戦いが始まる前に

語られるのは、成功した魔人の策

合わせて語られる




二人の少女の、心


百七章 使わなかった

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