無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「僕にとっては、好ましくない展開だけどね」
「バッカ、ナマモノ、オマエ、バッカ」
「なんで片言なんだい?」
「下手に魔女だらけになったら、素質者()がなくなるだろ?」
「そうだね。
 素質があっても、契約していないと、魔女に対抗する事は出来ないからね」
「なら、実力の高い魔法少女を生き残らせて魔女を狩り、成り立ての魔法少女を孵化させた方が、効率いいだろうに」
「間引きが必要だというのかい?」
「バランスが重要って事だよ」
「でも、契約した以上は魔女になってもらわないと、エネルギーが無駄になるじゃないか」
「魔法少女狩りが、それを加速させてるだろ?
 魔法少女狩りを殺せる魔法少女の確保は、重要だぜ?」


百八章 ロッソ・ファンタズマ

SIDE out

 

 佐倉杏子は、黙っていた。

 以前も、今、この時も。

 

 家族の為に願った。最愛の人たちの為に祈った。

 そして、力を得た。魔法少女になった。この力で、幸せを広げるはずだった。

 

 しかして、結果は真逆に終わる。最低な形で、幕を下ろす。強制的に降ろされた。

 

 佐倉杏子は、黙っていた。

 以前も、今、この時も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「最初に気付くべきだった。

 気付いてあげるべきだったのね」

 

 あたしの耳に届いたのは、マミの後悔する声。

 違うだろ? そうじゃないだろ?

 あんたが謝るのは、おかしいんだ。あんたが傷つくのはおかしいんだっ!

 

 ゆっくりと深呼吸をした後、マミは真剣な表情であたしを見る。

 その眼差しを……あたしは正面から受け取ることが出来ず、視線を逸らす。

 

「確信したのは、先日の病院での魔女戦よ」

 

 マミは言う。その時の考えを。その時の状況を。

 

「ゆまちゃんの作戦を聞いて、佐倉さんは反対した。

 でも、他に策が無かった。

 ならば、それを実行するしかなかった。

 それが、病院での状況だった」

 

 マミは言う。そこでの考えと、そこでの“証拠”を。

 

「あなたが、ゆまちゃんを大切に思っているのは知ってるわ。

 だからこそ、ゆまちゃんが最前線に立つ作戦を、反対するのは当然。

 そして、他に策が無いのなら。

 ゆまちゃんへの危険を、少しでも遠ざける筈。

 その点において、幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)ほど、最適な魔法は無かった筈なの。

 その事に、あなたが気付けない筈がないのよ」

 

 

 幻惑魔法ロッソ・ファンタズマ

 あたしが得た魔法。マミが名付けた魔法。

 

 家族と共に、失った魔法。

 

「でも、あなたは使わなかった。

 ゆまちゃんを守る為に最適のはずだった魔法を。

 当然、導き出される結論はひとつだけ。

 使えなかったのね?

 いえ、使う事が出来なくなった」

 

 開いていたノートが、閉じられる音がした。でもあたしは、顔を上げる事が出来ないでいる。

 

「駄目な先輩ね、私も。

 気付かなかった。

 気付く事が出来なかった。

 これじゃ、救える人の数なんて、たかが知れてるわ」

 

 っ!? だからっ!

 なんで、あんたがそこまで気遣わないといけないのさ!

 そう、叫ぼうとしたあたしの耳に。

 

「あといっぽぉぉぉぉん!!!」

 

 未だにナイフを探している琢磨の声が届いた。

 

 ………………。

 

「「はぁ……」」

 

 あたしとマミが、同時に溜め息をついた。

 こっちの空気はガン無視か。まあ、琢磨が空気を読むとは思えないが。

 そんな事を考えながら、あたしは声のした方を見る。

 

 茂みに頭を突っ込んだ状態の琢磨に、暇そうに欠伸をするゆま。

 

 そして、二人が居るのは、教会の前。

 

 

 

 

 

 あたしは、なにをしてるんだ? 何の為に、この場所を選んだんだよ?

 

 僅かに震える右手を、無理やり押さえ込んで、あたしはマミを見る。

 マミもまた、あたしと同じ様にゆま達を見ていたが、あたしの視線に気付いて、顔を向ける。

 

赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)が使えなくなったのは、家族の心中が原因だ。

 結局、あたしの願いが家族を壊しちまった。

 願わなければ良かったなんて後悔が、魔法が使えなくなった原因だって、キュゥべえは言ってたよ」

 

 あたしは、ゆっくりと発露する。もう二度と、後悔しない為に。

 

「もう二度と、誰かの為に魔法は使わない。

 家族を不幸に巻き込んだ力で、赤の他人まで巻き込みたくなかったから。

 だから、誰かの為に戦うあんたとは、一緒にいられない。

 いるべきじゃないって、そう思ったんだよ」

「佐倉さん……でも」

 

 何かを言おうとしたマミを遮るように、あたしは言葉を続ける。

 

「マミ先輩なら、それでも一緒にいてくれたかもしれない。

 でも、あたしのせいで、戦い方を変えられたりしたら、きっとあたしは後悔する。

 一緒にいる事を、後悔する」

 

 あたしの言葉に、マミは息を呑む。

 

「マミさんは優しいから。

 魔法が使えなくなった、足手纏いなあたしにだって、GS(グリーフシード)を分け与えただろうね。

 そんなの…………あたしが、惨め過ぎるじゃんか」

 

 一緒でも。一緒じゃなくても。どうなっても。

 自業自得だ、あたしの。

 

「だったら、別れるのが一番だろ?

 どっちにしたって、傷つくなら。

 より、被害が少ない方を選ぶだろ?」

 

 あたしのせいで、マミが傷つく。その結末が不可避なら。

 一緒にいて、足を引っ張り続けるよりも、きっぱり別れた方がいい。

 あたしは、そう思ったんだよ。

 

「……そう…………だったのね」

 

 僅かに震える声で、そう呟いたマミは。

 

「先輩失格ね」

 

 そう、苦笑した。

 

「っ!?」

 

 だから、なんであんたが傷つかなきゃ……っ!

 

「私はね、佐倉さん」

 

 一気に感情が爆発しそうになったあたしを、マミの声が押し留める。

 

「正義の味方になりたかったわけじゃないの」

 

 そして、その言葉が。あたしの動きを止める。

 

「事故に遭って、願いを叶えて、私だけ生き残った。

 すぐに後悔したわ。

 どうして私は“自分の為にしか願えなかったんだろう?”って」

 

 左手の中指。SG(ソウルジェム)が形を変えた指輪をなぞりながら、マミは続けた。

 

「でも、私が魔女や使い魔を倒す事で、ひとつでも命が繋ぎ止められるなら。

 きっと、それが私の使命なんだって。

 そう思ったのも事実だし、人々を救う事で、私は自分の心を救いたかったのかもしれないけど。

 本当は、独りになりたくなかっただけなのよ」

 

 正面から、あたしはマミの顔を見る。

 悲しいような、寂しいような、怖いような、辛いような。

 そんな、表情をしてる。

 きっと、あたしも同じ様な顔をしてるんだと思う。

 

「家族を失った私は、魔法少女として戦う。

 そう言っていたのは、キュゥべえ。

 もし、私が魔法少女として戦わないなら。

 キュゥべえまで、いなくなってしまう。

 きっと、弱い私はそれに耐えられない」

 

 家族を失っても、キュゥべえは現れる。使用済みのGS(グリーフシード)は、あいつじゃないと処理出来ない。

 魔法少女である限り、キュゥべえは二度と現れない事はない。

 戦えるわけじゃないけど、魔法少女と共にあるキュゥべえの存在は、間違いなく孤独を紛らわす。

 

「これ以上、自分との“繋がり”を失うのが怖かっただけ。

 繋がる相手がいなくなったら……繋がる事を諦めたら。

 きっと私も、魔法を失うんでしょうね」

 

 そのまま、マミは視線を琢磨に向ける。

 

「繋がりを手放さず、引き止める為。

 頼りがいのある先輩を演じた。

 拒絶されないだろう“正義の味方”を求めた。

 結局、私は自分の事で精一杯。

 自分との繋がりを大事にして、繋がっている相手を、ちゃんと見てなかったのね」

 

 つられて、あたしも琢磨を見る。

 

「そういう意味で言えば、琢磨君は誰よりも優れてるわね。

 “魔法少女である事に縛られてる”と言われた時は、心を鷲掴みにされたようだったわ。

 それでも“ここにいてもいいか?”なんて聞き方をするんだから、卑怯な子よ。

 空気を読まないし、嘘吐きだし、自分の事しか考えないし。

 電子タバコなんて使ってるし、新しい料理に挑戦したらおかしな色になるし。

 この間なんか、学校にお弁当を持ってきた上に「お姉ちゃんにお仕置きされたくないから」とか、捨て台詞を残していくんだもの。

 クラスメイトの誤解を解くのが、大変だったんだから!」

「マミ……後半、ただの愚痴になってるぞ……」

「本当に……“肩肘を張る”のが、馬鹿らしくなるわよ」

 

 ……あ。

 

「見せ掛けの強がり。

 足手纏いになっちゃいけないとか、一人でカッコよくならなきゃとか。

 自分すら騙す、寂しい嘘。

 琢磨君はそれを、別の見方から突き崩す。

 虚構を削ぎ落とす、優しい嘘。

 本当に……嘘吐きで、卑怯な子」

 

 あたしは、マミと琢磨のやり取りを、何度か“手馴れてる”と考えてた。

 でも、それは違った。あしらい、あしらわれる。そんな関係じゃなかった。

 

 自然体

 

 片意地を張らず、自分を偽らず。

 ただ純粋に、心の想いを表現する。

 それでよかった。それだけでよかった。

 

 

 

 

 だから、あたしは琢磨が羨ましかったのか……。

 

「どんなに強いモノにだって、弱点は必ずあるものよ。

 だからこそ、私達は独りぼっちじゃ駄目だったのよ」

 

 でも、あたしの“見方”で言えば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琢磨の生き方はとても「あったぁぁぁぁ!!」空気読めよマジでぇぇぇ!!!」

 

 反射的に、叫んだあたしは悪くない。

 

「会話は、一時中断ね」

 

 苦笑しながら、マミは肩を竦める。あたしはもう、張り詰めていたモノが、根こそぎ吹き飛ばされた気分だよ。

 

「待たせたな!」

「そのドヤ顔がウザイ!」

 

 ようやく対峙した琢磨とゆま。マミは当然のように、琢磨に声をかける。

 

「3連戦の2戦目ね」

「そうだね、プロテ「ハンデ戦、武器使用不可で」……マジカ……」

 

 はぁ!?

 

「いや、いくらなんでもそれは……」

 

 あたしの言葉を無視して、マミは言葉を続ける。その言葉は当然のように、あたしの予想の斜め上を行く。

 

「常に万全の状態で戦えるとは限らない。

 琢磨君は“ナイフを探している状態で、ゆまちゃんが仕掛けてくるのを待ってた”でしょ?」

「oh……バレテーラ……」

 

 え、えぇっ!?

 

「そのまま、なし崩し的に模擬戦開始するつもりだったんでしょうけど、そうはいかないわ」

「なし崩し的に、ゆまを瞬殺して、巴先輩に専念したかったぜ……」

「むっ」

 

 苛立ちを顕にするゆま。自分の策が潰されて、空を見上げる琢磨。再びノートを開くマミ。

 ……置いていかれたあたし。

 

「闘劇をはじめた以上、幕を下ろすまでは全開だからな」

 

 琢磨は改めて、ゆまと対峙する。それを見たゆまも、手に持つハンマーを構える。

 

「3連戦と最初に言った以上、琢磨君にとっては“私を倒すまでが戦闘モード”なのよ」

 

 ……マジ、あいつがわからねぇよ、あたしには。

 結局、話し途中になったし。

 

 でも、話の続きはいつでも出来る、か?

 

 そんなあたしの前で、2戦目がはじまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆまが、たくちゃんを倒す!」

「やってみろ! このたくちゃんに対して!!」

 

 色々台無しだった。




次回予告

第二戦 千歳ゆまVS群雲琢磨

子供の喧嘩 第二幕

条件は違えど、それは変わらず

子供の喧嘩 第二幕

少女は、少年を倒す為に力を磨き

少年は、少女の壁となる為に煽る









ガキの、意地の張り合い

ただ、それだけのこと

百九章 遅い 色々な意味で

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