無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「前から疑問なんだが」
「どうしたんだい?」
「見滝原に限らず、魔法少女が存在する」
「僕が契約した少女達だね」
「他の街の魔法少女は、どんな生活をしてるんだ?」
「基本的には、人と同じだね。
 もちろん、以前の琢磨のように、住みなれた街を離れ、魔女狩りの旅をする娘もいるけど」
「そして、他人の縄張りに入り、衝突すると。
 なら、事前に情報を……。
 いや、お前にそれを期待しちゃ駄目か」
「わけがわからないよ」


百十三章 黄色いミノムシ

SIDE 巴マミ

 

 黄色いミノムシな琢磨君はそのまま。私は佐倉さんと反省会を始める。

 

「えい! えい!」

「痛っ! 痛っ!

 オレ、サンドバッグじゃねぇぞ!?」

「たぁーーーー!!」

「ちょ、武器は、おま、いつ変身して、アーッ!!」

 

 鉄棒の大車輪の如く、グルグル回る黄色い蓑虫(たくまくん)を尻目に。

 

「ちょっ、助ける気無し!?」

「罰ゲームという事にしておくわ」

「おま、3連戦1敗で罰ゲームとかそれ、なんて、いじ「たぁーーーー!!」だからハンマーはNoooooo!!」

 

 うん、平常運転ね。

 

「あたしは、頭が痛いんだが」

「慣れよ」

「……変わったな、マミさん……」

「琢磨君の扱いに慣れた、と言って欲しいわ。

 それ以外で、変わった事は……。

 独りじゃない分、心に余裕が出来たぐらい、かしらね」

 

 琢磨君は、よくわからない子。それでも、信頼できると信用できる子。ほんと、よくわからない子ね。

 

 最後の射撃対決(ふたつのティロ・フィナーレ)で汚れてしまった荷物の砂を落とし。私達はその上に座る。

 紅茶を入れる佐倉さん。ノートを開く私。

 

「さて、反省会を始めましょう」

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 黄色い蓑虫(琢磨)で遊ぶゆまを片隅に、あたし達はいつものように反省会を開始する。

 

「まずは、琢磨君と佐倉さんの対決ね」

 

 うあ、耳が痛い事に。

 

「後に続くゆまちゃんの為。

 最後に戦う私の為。

 極力“琢磨君から仕掛けさせて、その動きを把握する”のが、基本目的だったでしょ?」

 

 さすが、マミ先輩。しっかりと、あたしの狙いを見極めてた。

 

「そして、琢磨君も気付いていた。

 だからこそ、後に繋げる為に“Lv2を使用した時点で決着を着ける策”を用いた。

 戦略で言えば、琢磨君が一手、上をいっていた形ね」

 

 自分が負けても、後の二人に繋げれば。あたしのそんな考えを仮定して、過程となる作戦を考えた。実に琢磨らしい。

 

「ゆまちゃんの為に、佐倉さんが手を抜くと考えていたからこそ、琢磨君は躊躇い無く策を実行できた。

 これを見て」

 

 そう言って、マミは開いていたノートをあたしに見せる。そこに書いてあるのは琢磨の項目。

 

『重要なのは最初の一歩。

 いくら速度で上回っていようとも、それが長時間続けば、慣れられてしまう。

 緩急が大事。静と動を明確に。

 それを常に、最適の形で使用するなら。

 目指すべきは“初速=最高速”となる動き方』

 

「これが、琢磨君の<電気操作(Electrical Communication)>と<操作収束(Electrical Overclocking)>での基本行動よ」

 

 あたしは、言葉を失う。自分の為に得た力を、自分の為に全開で使う。これが琢磨の基本理念。

 その為に必要なのは“自分が出来る事を正確に把握する事”だと、このページが証明している。

 

 あたしが瞬きをする、その一瞬。それで決着を着けられると判断したのは、この“実績”があったから。

 

 不意に、思い出すのは最初の光景。あたしが最初に見た、独りの魔人。

 あたしが見た時、()()()()()()()()最初の邂逅。

 

「強いな、あいつ」

「強い、と言うよりも、(うま)い、と言った方が的確でしょうね。

 自分に出来る事を正確に把握し、状況から最適な行動を選択する」

 

 確かにそうか。

 

「だからこそ、策が破られると意外に脆かったりもするわ。

 先日の魔女戦で、有効な策が浮かばなかったからこそ“私達を待ち”“ゆまちゃんの策に乗り”“その上で、自分が出来る事を模索した”のだからね」

 

 有効な手があるのなら、わざわざあたしらを待つ事無く、魔女を退治していた。琢磨はそういうやつだ。

 

「対ゆまちゃんの作戦は驚いたけどね。

 正面から、衝撃波を体一つで打ち抜くだなんて、予想してなかったわよ」

 

 確かに、あれは驚いたな。

 

「理論だけで言えば、単純な事。

 後に下げられる以上に、前に進む。

 ただ、それだけなのだけれどね」

 

 衝撃波。すなわち“自分を後に押す力”を“それ以上の前に進む力”で相殺、上回る事で間合いを詰めた。

 その為に必要なのは“衝撃波が衝突した直後の加速”であり。

 不可視である衝撃波が、衝突する瞬間を“予測”する為の情報だった。

 だから、琢磨は何度も何度もゆまに突進して行き。

 何度も何度も吹き飛ばされた。

 

「間合いを詰めた時点で、琢磨君の勝利はほぼ確定。

 なら、ゆまちゃんの課題はふたつ。

 “敵を間合いに入れない立ち回り方”と“近接戦での対処法”ね」

「なにかありそうか?」

「間合いに入れないだけならば、先日の魔女戦で行った方法かしら?」

 

 横回転か。確かにあれなら近づけないな。

 ……あたしらも含めて。

 

「接近戦に関しては、数をこなして慣れていくのが一番でしょうね。

 ハンマーを用いた立ち回りとなると、残念ながら三人とも専門外だわ」

 

 マミは銃。あたしは槍。琢磨が使う武器にもハンマーは無い。

 ゆまが自分で考えて、自分で発展させるのが一番なのか。

 

「もちろん、補佐をする事はできるけれど……。

 自分の戦いやすい動き方は、本人が一番理解出来る事でもあるしね」

 

 マミも同じ意見のようだ。

 ハンマーと衝撃波。ある意味、一つの武器で遠近両方に対応可能な分、ポテンシャルで言えばゆまは高い方だろう。

 あとは、ゆま自身の成長次第、か。

 

「そして最後は、私と琢磨君ね」

「ほんと、どうしてああなった?」

 

 うんざりしながら、琢磨の方を見れば。

 相変わらずミノムシな琢磨に、ゆまがしがみついて、一緒に左右に揺れていた。

 ……実は、仲良いだろ、おまえら……。

 

「琢磨君は、戦闘中でもお構いなしに、会話をするような子だけれど」

 

 同じ様に苦笑した後、マミはあたしに向き直り、真剣に話し出す。

 

「戦闘中でも、自然体。

 もちろん、真剣ではあるのでしょうけどね。

 それでも、さも余裕であるかのように、自然に振舞う。

 それは、共に戦う者に安心を。

 そして、敵対する者に疑心を与えるわ」

 

 確かにそうだ。実際に戦ったからこそ、理解出来る。

 

 右腕を失った状態でも、普段通りに振舞う事で、共に戦うあたしらを落ち着かせ。

 対峙した状態でも、普段通りに振舞う事で、あたしを欺き、隙を突いて見せた。

 

「今回に関しては、その会話があったからこそ、私が一手、上をいけた形でもあるわね」

 

 そして、マミが教えてくれた事は、あたしが考えもしなかった事。

 

 『覚えたての付け焼刃じゃ、こんなもんか』

 『そりゃ、オレのティロ・フィナーレは、形になったばかりだしね』

 

「私は、この二つの言葉から読み取ったのよ。

 琢磨君がティロ・フィナーレで、()()()()()()()()()()()()()




次回予告

反省会は続く

それは、自身の力を理解する為であり

それは、自身の魔法を理解する為であり

それは、自身に出来る事を把握する為でもある









もちろん、自分だけじゃなく








百十四章 横に立つ

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