無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「やはり、おかしいよね」
「お前、疑問ばっかりだな」
「君の事だよ?
 だからこその異物な訳だけど」
「わけがわからないよ」
「それは僕も同じさ。
 自分の為に願い、自分の為に魔法を得た。
 その魔法が、自身に負担をかけるものばかり。
 わけがわからないよ」
「頑張れ、ナマモノ。
 オレは応援するぞ。
 何故ならば……!」
「何故ならば?」
「オレに、わかるはずもないからだ!!」
「わけがわからないよ」


百十四章 横に立つ

SIDE out

 

 巴マミと佐倉杏子。会話の内容は先程の模擬戦。

 魔人の狙いと、その上をいった魔法少女の話。

 

「決着を着ける気が無かった!?」

 

 驚愕するのは佐倉杏子。どう見ても、最後の一手だと思われた、あれこそがフェイク。

 

「覚えたてでは、充分な効果が得られない。

 それは、電磁障壁(アースチェイン)が証明している。

 あの、琢磨君が。

 そんな、覚えたての炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)を決め技にするはずが無い」

 

 それを読みきり、上をいった巴マミだからこその言葉。

 

「ティロ・フィナーレの衝突を盾に、間合いを詰める。

 これこそが、琢磨君の狙いだったのよ」

 

 巴マミの性格。互いの技の特徴。自身の勝利条件。

 病院での魔女戦で、二人のティロ・フィナーレが魔女を倒す際に起きた爆発。

 当然、二人のティロ・フィナーレが衝突した際に、爆発が起きるのは想定出来る。

 それを隠れ蓑にして、間合いを詰めて王手(チェック)

 それこそが、群雲琢磨の策だった。

 

「だから私は“近付いてくる琢磨君を拘束”する方法をとった。

 利用したのは、琢磨君の魔法」

「琢磨の?」

 

 群雲の策が読みきれなかった杏子には、さらにその上をいったマミの策が解るはずもない。

 それに対し、マミは真剣な表情のまま。自身の行った行動を説明する。

 

「私の『無限の魔弾』は、電磁障壁(アースチェイン)により防がれた。

 では、防がれた弾はどうなった?」

「どうって……」

 

 言われて、杏子はその状況を思い出し。

 

「あ……!?」

 

 そして、気付いた。砂煙の中、起きていた状況を理解した。

 

 あの時、無数の弾丸は、電磁障壁(アースチェイン)に阻まれ、地面に散らばった。

 そして、その弾丸こそが“巴マミの編み出した魔法”によるものだった。

 ティロ・フィナーレの直後。巴マミは弾丸を糸に戻し、群雲を拘束するように操作したのだ。

 結果、間合いを詰めようとした群雲は、自分から無数の糸に直進する結果となり。

 

 黄色いミノムシの出来上がり。

 

「琢磨君が間合いを詰めてくる事に気付けなかったら。

 負けていたのは私の方だったでしょうね」

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 コアラのようにしがみ付いているゆまと一緒に、左右に揺れながら。

 オレはしっかりと、先輩達の会話を聞いていた。

 

電磁障壁(アースチェイン)で防いだ弾丸を、その場に放置した事。

 それが、オレの敗因なんだよ」

「マミおねーちゃんの方が強いの?」

 

 当然、ゆまも聞いている。補足する形で、オレはゆまと会話していた。

 

「強さの基準を何処に置くか。

 それで評価は変わるだろうな。

 大前提として言うなら。

 

 “魔法少女>魔人”

 

 オレが最弱だぞ?」

「ゆまもキョーコも負けたよ?」

「だからこそさ。

 オレは、自分が魔人である事。

 オレ以外が魔法少女である事。

 基本的に、自分が劣っているのを自覚してる。

 だが“強弱”と“勝敗”は別物だ。

 単純な力比べ、魔力比べじゃ勝ちようが無い。

 なら、別の方向から、勝ちを引き寄せないといけない訳だ」

 

 魔人の絶対数の少なさ。その要因の一つでもある。

 契約自体は可能だが、その後のリターンが釣り合わないと、そもそもインキュベーターは契約自体を持ち出さない。

 契約するだけなら、少女である必要は無い。実際に、オレは少女じゃないし。

 希望と絶望の相転移。そこからの感情エネルギー。

 回収できるエネルギーが、一定ラインを上回らないと、ナマモノにとっては契約する価値は無い。

 人間だって、食べられる野菜じゃないと育てない。牛や豚を飼育しない。

 利益を得られない“他物”は、所詮は自己満足の延長に過ぎない。

 そして、感情を持たない孵卵器が、そんな趣向を持ち合わせているはずがないのだ。

 

「だから、タクマクンは毎日必死ですよ?」

 

 まあ、そんな内容は、ゆま達には必要の無い情報だ。

 今、必要なのはそんな事じゃない。

 

「強い人達から、勝利を得る為に。

 弱い自分が、勝利を掴む為に。

 だからこそ“足手纏いにならないように”必死になってる」

「たくちゃんは、足手纏いじゃないと思うけど?」

「そうならないように努力してます。

 ゆまはどうだった?

 “魔法少女になったから大丈夫”とか、思ってなかったか?」

「う……」

 

 オレの質問に、ゆまが言葉を詰らせる。まあ、想定内ですがね。

 

「それじゃだめなのさ。

 大人になったから大丈夫な人なんて、独りも居ない。

 大人にだって、どうしようもないクズはいる」

 

 オレをボロアパートに押し込めて放置してた親戚とかね。

 

「それは、魔法少女も同じ事。

 魔法少女だからって調子に乗ってちゃ、魔女に殺されてオワリ。

 Answer Deadさ」

 

 だからこそ。共に戦うゆまには“そこで立ち止まられると困る”訳だ。

 主に、オレが。

 

「そして、おねーちゃん達が自分達のせいで傷つくなんて、笑えない事はしたくない。

 なら、ゆまに何が出来る?

 オレは、なにをすればいい?」

「……強くなる事?」

「ちと違う。

 ちゃんと“横に立つ”事だよ」

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 いつしか、琢磨とゆまの会話を、あたしらは無言で聞いていた。

 あんな風に考えてたのか、あいつは……。

 

「本当に、年下である事を忘れてしまいそうだわ。

 それもまた、琢磨君の狙いなのかもしれないけれどね」

 

 マミの言葉が、妙にしっくりくる。

 

 ……これで、黄色いミノムシじゃなかったらな。

 

「そろそろ、解きましょうか?」

 

 言いながら、立ち上がったマミが二人に近付く。

 

「そうだね。

 やらなきゃいけない事があるし」

 

 言いながら、左右に揺れる琢磨と、地面に立つゆま。

 ゆまはトコトコとあたしの横に立つ。

 

「ゆま、頑張るよ!」

 

 あたしの手を握りながら。しっかりと前を向いたゆま。

 

「ああ。

 そうだな」

 

 相槌を打ちながら、あたしも手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらなきゃいけない事って?」

炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)の欠点、覚えてる?」

「強烈な反動ね。

 ……え?

 そう言えば、どうやって?」

「手を離した。

 そうする事で、自身への反動を最小限に抑えて、間合いを詰める予定でした」

「つまり?」

「どっかに飛んでったショットガンを探しに」

「お前はオチがないと気がすまないのかよっ!?」




次回予告

寂れた教会 原初の罪

少年は、自分の為に




事実を疑う

百十五章 想像に妄想を

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