無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「真実は、いつもひとつ?」
「そりゃ、ひとつしかないだろう」
「その真実は、そいつにとって【一番都合の良いモノ】なんだから」
「オレ?」
「しったこっちゃないね」


百十五章 想像に妄想を

SIDE out

 

 見滝原郊外にある、寂れた教会。その前で、自分達の力を高める為。

 戦いを繰り広げた少女達に訪れる、つかの間の休息。

 

 戦いと、仲間の治療に力を使ったゆまは、木漏れ日の中で眠り。

 彼女に膝を貸したマミも、まどろみの中で漂っていた。

 

 そして、教会の中。

 祭壇の前で膝を着き、祈りを捧げる佐倉杏子。

 

「祈るのか」

 

 入り口からゆっくりと進んでいく、群雲琢磨。

 

「銃はあったのか?」

「意外と簡単に見つかった。

 衝突したらしい、不自然に圧し折れた木があったからね」

「とんでもないな、おい……」

 

 言いながら、ゆっくりと立ち上がる杏子。少し離れた位置に立ち、その背中を見つめる群雲。

 

「あたしが祈るのはおかしいか?」

 

 背を向けたままの杏子に対し、電子タバコを咥える群雲。

 

「無神論者なオレには、祈る事なんてないからな。

 佐倉先輩の境遇も、最初に会った時に聞いたし。

 だからこそ、祈れる先輩が羨ましくもある」

「なんだそりゃ」

 

 家族の為に願い。その願いが家族を壊した。

 それでもなお、祈る杏子が、群雲には理解できないのだ。

 

「あたしが祈ったからって、誰も喜ばないけどな」

 

 自虐気味に呟いた杏子の耳に届いたのは。

 

「愛する娘が未だに祈りを捧げられるなら、親父さんも嬉しいんじゃないのか?」

 

 予想外の言葉だった。

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「馬鹿にしてるのか?」

 

 振り返り、睨み付けながら。あたしは言葉を紡ぐ。

 

「まさか。

 素直にそう想っただけだよ」

 

 対する琢磨は、相変わらずの自然体。口から煙を吐き出した。

 

「嬉しいわけないだろ?」

「果たして、そうかな?」

 

 あたしの言葉に、即座に切り返す琢磨に、苛立ちを覚える。

 こいつは、あたしの境遇を知っているはずなのに!

 

「違和感は、最初からあったんだよ」

 

 そんなあたしを無視して、琢磨はゆっくりと告げる。

 

「結果から過程を逆算し。

 さらにそこに仮定を加えて。

 補う為の想像に妄想を重ねた上で。

 納得する為の真実に辿りつく」

 

 真剣な左目が、あたしを映す。

 

「そんな下らない戯言で良ければ、話をしてみるのも悪くないが?」

 

 何が言いたい? どう考えてる?

 そんな興味が、あたしに芽生える。

 好き勝手に、斜め上を行くような奴だ。聞いてみてもいいかもしれない。

 

「まあ、暇潰しにはいいかもな」

 

 ポケットからキャンディを取り出し、あたしは口に運ぶ。

 

「くうかい?」

「タバコがあるので、ノーサンキュー」

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「まずは、事実確認から」

 

 GS(グリーフシード)のストックはある。内容が内容だけに、いつでも取り出せるようにしておく。

 オレと会話したから魔女化しましたとか、笑えないにも程があるしな。

 

「佐倉先輩は、ナマモ……キュゥべえに願った。

 『父親の話を、みんなが聞いてくれますように』

 しかし、父親がそれを知り、壊れた。

 そして、一家心中。

 端的に言えば、これが全て。

 間違いないよな?」

「……あぁ」

 

 自身にとってのトラウマ。それは佐倉先輩の歪んだ表情が物語る。

 それを見たオレは。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で、不要な情報を遮断する(考えたくない事は、考えない事にする)

 

「【佐倉先輩の話を聞いて】【巴先輩のノートを見て】」

 

 自分の考え。考えた事。思った事を発露する。

 

「【実は】【違和感だらけだったんだよ】」

「あたしが、嘘を言ってるってのかっ!?」

「【落ち着け】【話が出来ない】」

「っ!?」

 

 佐倉先輩が、むりやり言葉を飲み込んだのを確認し、オレは言葉を続ける。

 

「【最初の違和感は】【一家心中】【佐倉先輩だけ】【取り残された】【コレガワカラナイ】」

「どういうことだよ?」

「【佐倉先輩の父親は】【聖職者だ】【一家心中するほど追い詰められていた】」

「【しかし】【自らの命を絶つ】【そこまで追い詰められていたのなら】」

 

「【なぜ、佐倉杏子を置いて逝った?】」

 

 話を聞いてもらえるようになった。それ自体は、喜ばしい事のはず。

 にもかかわらず、佐倉父はコワレタ。

 その理由を考えれば、違和感の答えの“ひとつ”が視えてくる。

 

「【佐倉先輩の願い】【そこから生まれた魔法】【ロッソ・ファンタズマ】【幻惑】」

 

 最初の違和感。

 

 “話を聞いて欲しい”から、何故“幻惑の魔法”だったのか?

 

「【おそらくは】【佐倉父の言葉に】【洗脳的な能力が備わった】【と、群雲琢磨は仮定する】」

 

 インキュベーターは願いを正しく叶えた。佐倉父の話を、みんなが聞くようになった。

 “その言葉を聞かなければならない”という力を“佐倉父の声”に付加する形で。

 だからこそ、佐倉先輩の魔法が“幻惑”なんだろうと、オレは結論する。

 

「【話の内容は度外視】【ただ、真剣に話を聞くだけ】【それは、言葉の意味を完全に消去する】」

 

 聖職者がコワレルには、充分だろう。

 思い当たる節があるのか、佐倉先輩は顔を蒼くしている。

 

「【それが佐倉杏子の願いによるもの】【魔女と罵られてもおかしくない】」

 

 重要なのはここからだ。

 

「【なら聖職者として】【魔女を生かしておくのは】【論理に反する】」

 

 オレの仮定から考えれば。

 

 “佐倉杏子を殺さない理由が無い”事になる。

 

 にもかかわらず、残ったのが佐倉杏子である事実。

 佐倉杏子以外での一家心中という事実。

 

「【納得できる理由が無い】【どう考えても】【佐倉先輩が残される】【この事実にたどり着けない】」

 

 しかし、それこそが事実。それこそが現実。

 

 なら、疑うべきは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【そこで】【群雲琢磨は考えた】」

「【事実に辿り着けないならば】【事実を疑うべきだ】」

「【なら】【違和感を拭う為の】【最初の問い】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」




次回予告

求めるモノは真実で無く

欲しいモノは現実で無く



求めるモノは





たった一つの、妄想程度で、かまわない、理由









望むのは、ただ、笑う事

それ以外、いらないはずなのに




百十六章 疑うべきは、前提

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