無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「予定がおかしいんだよ、ナマモノ」
「琢磨でも、想定外な事があるのかい?」
「オマエ、オレをなんだと思ってんだ?」
「異物」
「うん、知ってた」
「で、なにがおかしいんだい?」
「主夫になった時点でおかしかったんだけどさ。
 生活費管理まで、オレが担当してるんだぜ?」
「家に居る時間は、琢磨の方が長いんだから、当然じゃないかな?」
「だからって、通帳と印鑑まで渡されてもさぁ……。
 おかげで、切り崩してるは、オレの両親の遺産だぜ?」
「わけがわからないよ」
「いや、流石に使えねぇっての。
 その上で、先輩達に悟られないようにしなきゃいけないんだぜ?」
「おおよそ、琢磨らしくない行動だね?」
「は? オレの為に決まってるだろ?」
「どこがだい?」
「オレと共同生活したせいで、先輩達が不自由になるとか、笑えない事する訳ねぇだろ?」


百十八章 知ったことではないわ

SIDE 群雲琢磨

 

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 

 いつものように、巴先輩を送り出した後。

 オレは、手早く掃除を終わらせる。

 佐倉先輩とゆまは、未だに夢の中。まあ、学校に行ってない彼女達には、早起きをする理由が無いわけで。

 オレ? ただ寝てないだけよ?

 

「これでよしっと」

 

 二人宛ての、書置きと朝食(もしかしたら、昼食になるかもしれないが)の準備を終わらせて、オレは静かにドアの外へ。

 電子タバコを咥えて、まずは深呼吸。うん、うまい。不登校な小学生のする事でもないが。

 

「さて、行くか」

 

 思考を切り替えて、オレはゆっくりと歩き出す。

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 いつもの学校生活。という訳にはいかないわね。

 黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 犯人はわからないけれど、自分と同じ魔法少女が狙われている事実。

 いつか、私の前に現れるかもしれない。

 油断は禁物。その為に、琢磨君達と決めた事は、単独行動を極力避ける事。

 

 もっとも、学校に行っている私は、どうにもならない。佐倉さんとゆまちゃんは、基本一緒に居るから安心だけれど。

 ……琢磨君は……平気で単独行動しそうなのよねぇ……。

 あの子には時間停止という、絶対に逃げ切れる魔法があるから、安心といえば安心なんだけれど。

 

 自分の為なら、平気で無茶をして、無理を通すような子だから、どうしても心配だわ。

 

 

 

 放課後、私は行動を開始する。

 クラスメイトとの挨拶をそこそこに、私は念話を飛ばす。

 

[聞こえているかしら?

 暁美ほむらさん?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 巴マミからの念話を受け、私は教室の外に出る。

 そこには既に、巴マミが立っていた。

 

「話とは?」

 

 重要な話があるから、直接会って話したい。それが、巴マミからの念話。

 それでも、私の目的はあくまでもまどかを守る事。

 手早く済ませる為に、私は廊下で巴マミと対峙した。

 

「黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 貴方は、気付いているかしら?」

 

 真剣な表情で話す巴マミ。

 魔法少女狩り? 初耳ね。今までの時間軸で、そんな出来事は無かった筈。なにかしらのイレギュラーが起きているようね。

 

「私達は、そんな存在を容認する訳にはいかないの。

 貴方は、なにか情報を持っていないかしら?」

 

 私達、ね。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の事は、耳にしている。

 

 

 

『また、な』

 

 

 

 二度も、絶望の終焉に置いていってしまった琢磨。あれ以降、出逢わなかった魔人。

 あの子が今回、巴マミの相棒として、見滝原にいる事実を、喜んでいいのかどうか、私には判断しきれない。

 

 真実を知り、それでも平然とする魔人と。

 真実を知り、皆を殺そうとした先輩と。

 

 巴マミの反応は、至極当然の事。自分達が魔女になる。自分達が殺してきたのが、元魔法少女である。そんな残酷な現実に、易々と耐えられるものではない。

 まどかを救いたい。その覚悟が私に無かったら。

 私の代わりに孵卵器(キュゥべえ)と会話をし、激昂し、殺してくれた琢磨がいなければ。

 

 

 あの時、所持していた最後のGS(グリーフシード)を琢磨が私に使ってくれていなければ。

 

 私も、魔女化していても不思議ではなかったのだ。

 

 かと言って、巴マミを非難する権利など、私には無い。

 あの“約束の世界”で、私は巴マミがしようとした事を、この手で行ったのだから。

 制服の内側。胸元には“あの時の空薬莢”がある。チェーンを通してネックレスにし、身に着けている。

 これは、約束の証であり、決意の印なのだ。

 

「知らないし、知ったことではないわ」

 

 だからこそ、私はまどかを諦める訳にはいかない。

 現状魔法少女ではないまどかは、魔法少女狩りの標的ではない。

 ならば、私にとってはどうでもいい事だ。

 

「私には、私の目的があるの。

 そんな事に、構っている暇なんて無いわ」

 

 私の言葉に、巴マミの表情が僅かに歪む。でも、これは譲れないの。

 

「ほむらちゃーん」

 

 私を呼ぶ声に、視線を向けると、まどかが笑顔で手を振っていた。

 

「さやかちゃんと仁美ちゃんが、玄関で待ってるはずだよ。

 私達も、早く帰ろ?」

「ええ」

 

 右手で髪をなびかせ、私は返事をする。

 

「もういいかしら、先輩?」

「忠告はしたわ。

 貴方も気を付けなさい。

 魔法少女同士で争う事を、私達は望まないの」

 

 ……貴方が、それを言うの? 皆を殺そうとした貴方が?

 

「そう……なら」

 

 巴マミの横を通り抜ける際、私は一言だけ告げる。

 

「私達に接触し(さわら)ないで」

 

 思わず、睨み付けてしまったけれど、私は気にせずにそのまままどかの所へ歩いていく。

 私の目的は、まどかを守ること。魔法少女にさせるわけにはいかない。

 

 残念だけれど、魔法少女である貴方達は邪魔なのよ。

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜。あの魔女の討伐も大事だけれど。

 それ以上に、まどかの方が大事なの。

 目的を、履き違える訳にはいかないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 託してくれた、琢磨の為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

「ふぅ……」

 

 帰宅途中、私はひとつ、息を吐く。

 

 暁美ほむら。最近になって、転入してきた魔法少女。彼女の目的は何?

 

『長い黒髪が特徴的であったとすれば。

 後から見た際に、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはない』

 

 以前、魔法少女狩りについて話し合っていた際に、出てきた言葉。

 

 ――――暁美さんの後姿を見た時に、思い出した言葉。

 

 考えすぎかしら? でも、魔法少女狩りと転入時期は近い?

 目的が解らない。そして、彼女は友好的ではない。

 

 暁美ほむらが、黒い魔法少女だったとすれば。目的をぼかす事で、こちらの情報を探っていたとしたら?

 

 

 

 

 『まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない』

 

 ……ここで、琢磨君の言葉を思い出すあたり、私も影響されてるのかも。

 

「巴さ~ん!」

 

 考え込んでいた私に向かって、声が掛けられる。

 見れば、優木さんが手を振りながら、こちらに向かって駆けてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 目を覚ました時、マミも琢磨もいなかった。

 いや、マミが学校に行っているのは解るんだが……琢磨、どこいった?

 

「ったく、あいつは……」

 

 単独行動は避ける。そう言っていたそばから、単独行動だよ。そういう奴だよ、知ってるよ。

 

「はぁ……らしくないな」

 

 スティックキャンディを咥えながら、あたしは一人で呟く。

 琢磨に振り回されまくり。思えば、最初からそうだった。

 妙に距離を置いているように見えて、誰よりも近い所からあたしを見てる。

 笑顔で振舞うくせに、心で壁を作ってる。

 真剣に考えているようで、全てを無視して動く。

 そんな奴だよ。知ってるよ。

 

 なのに……なんであたしは…………。

 

『そんなのはオレが許さない』

 

 琢磨の言葉を思い出し、熱くなった顔を手で扇ぎながら、あたしはテーブルの上を見る。

 何かが白い布で隠されており、その横には置手紙があった。

 テーブルの前に座り、あたしは置手紙を取る。手紙の枚数は3枚。ご丁寧に数字が書かれている。読んで欲しい順番らしい。あたしは1を開く。

 

『手紙を読む人へ。

 この手紙を読んでいるという事は、オレは既にいないんだろう。

 部屋に』

 

 ここまで読んだ段階で、破り捨てたくなる衝動を抑えながら、あたしは先を読む。

 

『何時に起きるかわからないので、とりあえずの食事で我慢して欲しい』

 

 そこまで読んで、あたしは白い布を取る。そこにあったのはカップ麺。いや、手抜きすぎるだろ。

 

『きっと佐倉先輩がこれを読み、今頃は手抜きだとか考えているかもしれない。

 しかし、手軽に出来たてが食べられるという点で、カップ麺は優れているのだ。

 異論は認めない』

 

 なんか、あいつの予想通りに事が運ばれてる気がしてむかつくわぁ……。

 

『1枚目はここまでにしておこう。

 ちなみにこの手紙は、読み終わると爆発する。

 なんて事が出来たら面白そうだと思うのだが、どうだろう?』

 

 知るかよ。反射的に握り潰した手紙をゴミ箱に投げ捨て、あたしは2と書かれた手紙を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカが見る~! m9(^Д^)プギャー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 とりあえず、後で絶対に殴り倒す事を誓いつつ、あたしは2枚目を破り捨てる。なんか、3枚目を読む気が失せるんだが……。

 そういう訳にもいかず、あたしは渋々3枚目を開く。

 

『きっと、お優しい佐倉先輩なら、ちゃんと読んでくれている事を期待して。

 魔法少女狩りの犯人“黒い魔法少女”は、魔法少女を狙う。当然の事。

 しかし、一般的な魔法少女は“学校に通っている”のが普通。

 故に放課後までは安全だと判断しました』

 

 本当に、あいつの頭はどうなってんだ? 12歳だなんて言われても、信じられない。

 いや、あいつは“世界の時間が止まっている中でも生きている”のだから、実際にはもっと上なのかもしれない。

 見た目は、10歳程度なんだけどな。

 

『もちろん、確定情報ではないので、油断は禁物。

 見た目的にも、ゆまは狙われやすそうなんで、任せた。

 まあ、オレの意見は関係なく、一緒に居そうだけどね』

 

 そして、最後の一文を見て。

 やっぱり殴り倒そうと、誓いを新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃ、セール会場で、おばちゃん相手に闘劇してきます』




次回予告

整った舞台は、次の演目へ




普通の舞台と違うのは

次の演目を選び

次の演目になるように









動くモノが、多すぎる事









百十九章 将来が心配

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