無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「魔法少女から魔女になる」
「そういうシステムだね」
「魔人から魔獣になる」
「そういうシステムだね」
「魔法少女と魔人の違いってなんだ?」
「基本的に、名称が違うだけだよ。
 第二次成長期の少女が、最も効率がいい。
 それは“それ以外の契約者”と比較しなければ発見しようが無いからね」
「だから、最も効率がいい存在とそれ以外って括りになるのか」
「相変わらず、理解が早くて助かるよ」
「じゃあ、魔女と魔獣も名称が違うだけか?」
「残念ながら、そうじゃないんだよ。
 魔女と魔獣では、決定的な違いがあるけど」
「けど?」
「その内、本編で明かされるんじゃないかな?」
「メメタァ」


百二十一章 だれやねん

SIDE 呉キリカ

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)……!!」

「だれやねん」

 

 私の言葉に、殲滅屍(ウィキッドデリート)はなぜか、関西弁で返事をした。

 

「助かったわ、琢磨君。

 佐倉さん達は?」

「え?」

「え?」

 

 私から、視線を外す事無く。殲滅屍(ウィキッドデリート)は銃闘士との会話を続ける。

 

「……琢磨君は、どうしてここに?」

「セール会場の帰りに、偶然」

「わかったわ。

 帰ったら説教タイムよ」

「助けた結果、説教確定っ!?

 わけがわからないよ」

 

 なんだこれは? それまでの空気を一変させる、銃闘士と殲滅屍の雰囲気は!?

 

 『絶対に逃げなさい』

 

 織莉子はそう言っていた。今ならその理由が少しだけ理解できる。

 

「さて、それはそれとして。

 正直、納得いかないけど切り替えますよ、だって魔人だもの、みつ……たくま」

「何を言おうとして、なぜ言い直したのよ?」

「そこはほら、空気読んでよ」

「間違いなく、それは琢磨君がするべき事ね」

「ジーザス!

 って、どういう意味だっけ?」

「……」

「無言の圧力、まじやめて」

 

 捉え所が無さ過ぎる。世間話をするような状況でないにも拘らず、この会話。

 その上で、まったく隙が無い佇まい。

 

「それで、魔法少女狩りの犯人。

 黒い魔法少女ってのは、そちらのお姉さんの事で間違いないかな?」

 

 銃闘士を庇う様に、私に向かって対峙する殲滅屍。

 

 どうする? どうする? どうする?

 

 織莉子は言った。逃げろと。なら逃げる?

 

「逃げるつもりか?」

 

 っ!? 私の考えを読み取ったかのように、殲滅屍は言葉を紡ぐ。

 

「まあ、そうだろうな。

 病院の魔女結界に“確実に黒い魔法少女はいた”はずだ。

 オレ達という“先客がいた事を知った上で”だ。

 にもかかわらず、仕掛けては来なかった。

 ただ、魔法少女を狩る“だけ”であるならば“仕掛けない理由はなかった”はずなんだよ。

 ならば、結論は簡単。

 “仕掛ける訳にはいかなかった”事になる。

 さて、現状はどうだ?」

 

 今なら解る。織莉子が逃げろと言った意味。対峙しただけで、ここまで心を掻き乱すッ!

 どうする? 魔法少女の死体なんて、いくらでも見つかっていい。

 だが“生きて帰す”のはだめだ。私の事をしろまるに気付かれれば。

 そのまま、織莉子まで到達するだろう。

 

 こいつらは、ここで 殺 さ な け れ ば な ら な い !

 

「先方、闘争の意思あり、か」

 

 鉤爪を構えた私に、殲滅屍(ウィキッドデリート)は電子タバコを咥え、器用に嗤う。

 

「当方、迎撃の用意あり、だ」

 

 いつのまにか殲滅屍(ウィキッドデリート)の右手には、ナイフが爪のように握られていた。接近戦か、ならば私の間合いだ。

 

「黒い魔法少女の実力は、充分に理解できる。

 これまで、魔法少女を狩り続けていた事が、黒い魔法少女の実力の高さを証明している。

 だが、黒い魔法少……言いにくいわぁ!!」

 

 言葉途中で、何故か殲滅屍(ウィキッドデリート)がキレて、持っていたナイフを地面に叩きつけるように投げ捨てた。

 

「まず、名前教えれ!

 このままだと、黒い魔法少女がゲシュペンスト崩壊するわ!!」

 

 ゲシュ……なに?

 

「私がそれに、答える義理はないね。

 なんで、殲滅屍(ウィキッドデリート)にわざわざ名前を教えないといけないのさ?」

「だから、だれやねん!

 そのウィキッドデリーなんとかってのは!!」

 

 言えたよね? 絶対最後まで言えたよね、この子!?

 もう、色々とめんどくさい。どうせ、ここで殺すんだし、いいか。

 

「私は呉キリカ」

「オレは群雲琢磨」

 

 仕方なく、名前を言ったら、即座に返された。

 

「年上っぽいし、呉先輩と呼ぼう」

 

 先ほど投げ捨てたナイフを拾ったウィキ……群雲は、それを左手で爪のように握り込む。

 

「呉先輩は強い。

 だが、この群雲琢磨が戦うのには、それは()()()()()()()()

 

 言いながら、振られた右手には、同じようにナイフが握り込まれる。鉤爪と爪のような持ち方のナイフ。右目を眼帯で隠した者同士の戦い。

 だが、この結界は私の魔法の効果内だ。負ける道理は無いはずっ!

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 いつもの言葉で、オレは思考の全てを戦いの為に切り替える。

 

[巴先輩は“警戒”を続けてくれよ]

[どうして?]

[オレは、呉先輩が“単独”だとは考えてないから]

 

 同時に間合いを詰め、オレのナイフと呉先輩の鉤爪が激突、拮抗する。

 

[悪い、話は後]

 

 やばい、呉先輩が想像以上。互いに両手の武器を振るい、火花を散らす。

 待てよ、こっちはLv2全開だぞ?

 襲い来る鉤爪を、ナイフで弾く。

 オレより速いっ!?

 防戦だ、まずい、これが魔法少女狩りの実力ッ!?

 

 巴先輩が追い詰められていた。その時点でオレに“遠距離戦”という選択肢は無くなった。自分より優れている巴先輩が押されてたんだから、当然である。

 日本刀による『電光抜刀』も、選択しない。呉先輩の武器が“両手”の鉤爪である以上、手数で押されるのは目に見えてる。

 故に、オレは“ナイフを用いた<操作収束(Electrical Overclocking)>で戦う”事を選んだんだが。

 

「くぉっ!?」

 

 容赦無く襲う鉤爪を、辛うじて弾く。接近戦は相手の間合い。それを速度で上回る事で、優位に立つ。はずだったが。まさか、Lv2より上かよっ!?

 間合いを離すか、いや、させてくれそうもないな。

 

 なら、相手から間合いを離すように、誘導するか。

 

 切り裂かれようと関係ない。痛覚はすでに遮断済み。両手には握り拳の間にナイフ。

 

 ()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!!!」

 

 黒腕の連撃(モードガトリング)verナイフ装備。滅多打ちのような滅多刺し。突然の高速ラッシュに、呉先輩が慌てた様に後方に下がる。

 右肩やられたっ!? 痛くないっ!!

 

 追撃のナイフ投げだ! オレは左手に持っていたナイフを投擲する。

 しかし、Lv2に匹敵、上回りかねない呉先輩は、当然のように回避する。

 オレはかまわず、右手のナイフも投擲する。もうチョイ下がって。そんな希望を胸に。

 連続投擲は想定してなかったのか、呉先輩は鉤爪で弾き飛ばす。

 

 ……うん?

 

 ふと、違和感を感じた。なんだ?

 

「私からすれば、お前が邪魔だよ」

 

 ちょ、考えさせれ、無理か。

 

「ステッピングファング!」

 

 呉先輩が、鉤爪を投げ飛ばす。てか、飛ぶのっ!? それっ!??

 

「邪魔ァッ!!」

 

 反射的に、左手に日本刀を取り出して、そのまま弾き飛ばす。あっぶねぇっ!?

 

「流石は、数多の魔法少女を狩ってきた呉先輩。

 種族的に劣る、魔人群雲では荷が重いかもしれない」

 

 いつものように、オレは口の端を持ち上げる。咥えた電子タバコから煙を吸い、咥えたまま吐き出す。うん、落ち着く。

 ひょっとして“電子タバコを吸うと落ち着く”ように、無意識に操作してるかもしれん。

 

「なら、狩られてよ。

 私も暇じゃないんだ」

 

 自身の優位を確信したのか、呉先輩が嬉しそうに言う。そりゃ、そちらが優位だわ。

 

 Lv2の動きに合わせられる以上、接近戦は不利。巴先輩を追い詰めるのだから、銃を用いても結果は見えてる。やっべ、強いわこの人。

 

「わかりました。

 なんて、笑えない事を言うはずもないだろ?」

 

 巴先輩の参戦に期待するか? いや、呉先輩の“協力者”を考えると、後方に控えて貰わないと、対応出来る気がしない。

 <オレだけの世界(Look at Me)>で、追い込むか? いや、これは最大の切り札だ。焦って使うのは愚策。

 

「なので、群雲琢磨はこう動く」

 

 接近戦は辛い。銃でも上回れそうにない。なら。

 

「オレのナイフは、大量だぜ!」

 

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、大量のナイフを取り出す。扇状に手にしたナイフを、まとめて投げる。

 

 はい、回避されました。そりゃそうだ。銃弾より遅いもの。

 まあ、後方に飛ぶ形で回避してくれたので、距離はさらに広がったけど。

 

 ……うん?

 

 散らばるナイフを見て、オレは再び違和感を覚える。なんだ?

 

[琢磨君]

[はいな?]

 

 ここで、念話ですか? ごめん、今忙しい。

 

[ナイフ投げ、繰り返してもらえる?]

[はいな]

 

 取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。

 オレは、言われた通りにナイフ投げを繰り返す。流石に次々に飛来するナイフは想定外なのか、呉先輩は回避行動に専念する。

 

[なるほどね]

[そういう事か]

 

 オレと巴先輩の念話が、同じ結論に到達した事を示す。

 

「いや、これだけの大量のナイフを回避するか。

 さすがと言っておくよ、呉先輩」

 

 もう、何度目か解らないほど、扇状に取り出したナイフを手に、オレは声をかける。

 

「無駄な事はやめなよ。

 どうせ、私には通用しないんだから」

 

 変わらず、優位を保つ呉先輩の言葉に、オレはいつものように口の端を持ち上げる。

 

「確かにそうだ。

 このまま“ナイフを投げ続けるだけ”じゃ、勝利を掴む事は出来ないだろう」

[巴先輩は“警戒”を続けてくれ]

 

「確かに、呉先輩は強いさ。

 巴先輩を追い込み、オレを簡単に退ける。

 見事だと、言わざるを得ない」

 

 左手と両足を用いて、オレは準備を開始する。その為に必要なのは、時間を稼ぐ事だ。

 

「速さには、オレも自信があったんだがね。

 まさか、上回ってくれるとは、想定して無かったよ」

 

 オレの言葉に、不穏な気配を感じたのか。呉先輩の表情が引き締まる。

 だが、関係ない。オレは言葉を続ける。

 

「だがっ! しかしっ!!

 この群雲琢磨が、自分を上回る速度を持つ相手に、何の手立ても無い筈がないのだッ!!!」

 

 笑え。嗤え。哂え。オレは、その為に魔人になった!

 

「確かに速い、認めよう!

 だが、それだけでッ!

 勝利が当然だなどと、思い上がるんじゃあないッ!!」

 

 魅せてあげよう! <操作収束(Electrical Overclocking)>のバリエーション!!

 

「そこで、呉キリカ!

 貴様がどれだけ速く動こうともっ!

 関係無い、回避不能の処刑方法を用いてやるよっ!!」

 

 たった一人の魔法少女を追い詰める為に!

 時間を止める必要なんて!!

 

 無いッ!!!




次回予告

自分の為に力を得た少年は、自分の為にその力を使う

自分の為に力を得た少年が、自分の為にその力を使う

その力を、より自分の為の力にする為に

自分の為の力を、自分の為に発展させる

それもまた、自分の為の、力の使い方



そんな、歪な少年の、完成させた一つの形








百二十二章 短剣思考

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