無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「立場で変わる。
 状況で変わる」
「そんなモノに、何の意味がある?」
「そんなコトに、何の理由がある?」
「まあ、オレは当然のように言うさ」

「知ったこっちゃないね」


百二十四章 敵

SIDE 群雲琢磨

 

「琢磨君っ!!」

 

 巴先輩の言葉に反応し、オレは一気に飛び退く。一瞬後、オレのいた場所に何かが大量に飛来した。

 あっぶね、巴先輩がいなかったら直撃してたな。

 飛び退いたオレはそのまま、巴先輩の近くに移動し、状況を見極める。

 

「全てのナイフが意のままならば。

 全てのナイフを無効化すればいいのよ」

 

 ナイフに囲まれた呉先輩の横。同じようにナイフに囲まれた魔法少女が一人。

 ……自分から?

 そう思ったオレが見たのは、全てのナイフの切っ先に設置された、不思議な意匠の水晶球。

 

「確かにその通りだが……それを行えるのも凄いな」

 

 水晶球は、魔法少女の物なのだろう。魔力で造られているのなら、ナイフを増やしても対応されそうだ。

 

「貴方が、ゆまを契約させるように誘導した魔法少女か?」

 

 電子タバコを咥えたオレに対し、白い魔法少女は真剣な表情で相対した。

 

「その通りよ、殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 白い魔法少女、美国織莉子。彼女の予知により、この状況はある。

 しかし、すべてがすべて、織莉子の予知通りであった訳ではない。

 黒い魔法少女の前に倒れ伏す、黄色い魔法少女。

 その状況は確かにあった。織莉子の予知通りに。

 しかし、織莉子は予知しきれなかったのだ。その直後に介入する魔人の存在を。

 故に、キリカをマミに向かわせてしまった。故に群雲と戦わせてしまった。

 状況が動く中、織莉子は再び予知にて知る。キリカが追い詰められている事に。

 キリカの元へ向かうのは、当然の事。その途中、再び観た未来。無数のナイフで造り出された牢獄。

 織莉子は、対抗策を見事に思い付き、実行してみせた。

 

「白い魔法少女。

 オレをウィキッドデリートと呼び、呉先輩に魔法少女狩りを指示する者。

 間違いないか?」

「確信しているのに問いかけるのね、ウィキッド」

 

 宙に浮くナイフをそのままに、電子タバコを咥える群雲に、織莉子は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「出来れば、貴方とは対峙したくなかったのだけれど」

「なら、最初から魔法少女狩りなんてさせなければ良かったのさ」

 

 空気が違う。今までの戦闘時特有の空気とは。

 それは、織莉子の発する威圧。全てを捨てる覚悟を持った者だけが持つ、必殺の気合。

 事実、キリカもマミも、言葉を発する事が出来ない。

 言うべき事があるのに。聞くべき事があるのに。

 

「目的はなに?」

「それは、オレのセリフだと思うが?」

 

 ただ独り。その威圧を正面から受けながら。群雲だけは自然体。

 或いは、自然体であるように“自らを操作”しているのか。それを行えるのが群雲琢磨である。

 

「貴方達とは、いずれまた()う事になるでしょうね」

 

 その言葉を合図に、群雲は右手を掲げる。その手に大量のナイフが向かって行き<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納される。

 同時に大量の水晶球も、景色と同化する様に消えていく。

 

 キリカの魔法は“低下”であって“停止”ではない。元々、この場所は長居が出来るはずもないのである。

 群雲も織莉子も、理解していたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「言いたい事がひとつ。

 聞きたい事がひとつ」

 

 電子タバコを咥え、ゆっくりと深呼吸し、群雲が言葉を紡ぐ。

 

「オレの名は、群雲琢磨だ」

殲滅屍(ウィキッドデリート)はお気に召さないかしら?

 殲滅する屍、貴方にぴったりだと思うけれど?」

 

 キリカを伴い、群雲の横を通り過ぎながら、織莉子が返答する。

 

「とりあえず、名前。

 白い魔法少女のままだと、呼びにくい」

「こちらの情報を、簡単に渡すと思って?」

「だろうねぇ。

 まあ、状況を利用すれば“あいつ”から聞き出す事は可能か」

 

 群雲の言葉に、織莉子の足が止まる。

 

 インキュベーター。魔法少女を生み出し、魔女へ変貌させる事でエネルギーを得る異星物。

 アレにとって、魔法少女狩りは害悪でしかなく、当然“処理”の対象でもある。

 

 “白い魔法少女もまた、魔法少女狩りの一端を担っている”

 

 この情報を、群雲は最大限に利用する算段だ。

 

「美国織莉子よ」

「了解した。

 年上っぽいし、美国先輩でいこう」

 

 やはり、殲滅屍(ウィキッドデリート)とは、接触するべきではなかった。

 織莉子はその事実を、痛感する事になった。

 

「最後にひとつ。

 白と黒の魔法少女は、オレ達の……見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の敵か?」

「勘違いしないで。

 ()()()私の敵なのよ、ウィキッド」

 

 そのまま、何の決着も無く。幕は下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「っは……」

 

 詰まった息を吐くような音に、オレは振り返る。

 二人の魔法少女が立ち去ると同時に、魔女結界は解除された。

 路地裏の一角で、巴先輩がその場に手をついている。うわ、すごい汗。

 

「よ……よく、平然と会話出来たわね……」

 

 立ち上がり、汗を拭う巴先輩に対し、電子タバコを咥え直すオレ。

 

「ハッハッハッ」

「膝が凄い事になってるわよ。

 震える通り越して、残像が見えるわ」

 

 操作しなければこんなもんよ。あの威圧はトンでもない。まるであの時の……。

 

 

 あの時?

 

 

「まあ、それはそれとして」

 

 感覚が鈍ってるのに、ここまでになるって事は、巴先輩の心情もお察し。

 

「ひとまず、佐倉先輩達と合流だな。

 立ち位置が明確になった以上、このままでいるのもなぁ」

「そうね。

 色々と情報交換もしないと」

 

 震える膝を<電気操作(Electrical Communication)>で押さえ込んで、オレは巴先輩と共に帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、まずは説教からよ」

「MA☆JI☆DE!?」




次回予告

邂逅は僅か 交わす言葉は極小

されど

それまでと、いままでと、これまでと



妄想するには充分で 仮定するには十全で









事実かどうか 真実かどうか









戯言









百二十五章 それが正解だ

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