「だが、会話しないと得られないものもある」
「今回は、シンプルだね」
「まあ、それ以外に“言うべき事”は無いってわけだ」
「なるほど」
SIDE キュゥべえ
琢磨が見滝原で、マミと一緒に行動するようになってから、僕らは深夜のベランダで会話をする事が、半ば日課とすら呼べるようになっている。
魔法少女システムを理解し、僕らに敵対心を持つでもなく。それすらも当然のように消化した琢磨。
そういう意味でも、群雲琢磨という魔人は“異物”と呼べる。
「やっぱり、両方と接触してみるのが一番かねぇ」
電子タバコを咥えた琢磨が、のんびりとした口調で呟いた。
「ほむらはともかく、織莉子とは殺し合いになるんじゃないかな?」
暁美ほむら。彼女の目的は不明。
美国織莉子。彼女の目的も不明。
「働けや、ナマモノ」
「わけがわからないよ」
同じ観点で状況を見る事が出来る、異なる存在。
だからこそ、琢磨との意見交換が成立する。
魔獣になれば、僕らのノルマに貢献し。
魔人のままでも、充分に役に立ってくれる。
そういう意味では、とても“都合の良い存在”でもある。
「美国先輩が、オレを“敵”としている現状、対立の立場は崩れない。
暁美先輩は……そもそも目的が解らないから、判断材料が無い」
「ほむらの場合、僕を見ると殺そうとするから、僕から情報を得る事が出来ないよ」
「だからオレが接触してみないと、どうにもならないってのが現状じゃないか?」
マミの話を聞く限り、ほむらは見滝原の
優れた魔法少女が近くにいるという事は“自分に回ってくる
だからこそ、魔法少女同士で“縄張り争い”が発生する。
「しかし“魔法少女狩り”を重要視していない事から“暁美先輩の目的は、魔法少女とは別の所にある”と見るべきか」
「魔法少女とは別?
魔法少女なのにかい?」
「魔法少女だからって“魔法少女に関わらなければならない”とは一概には言えない。
実際オレも、魔女を狩って旅してた最初の頃は、他の魔法少女と接点があった訳じゃないしな」
特定の縄張りを持たない契約者も、当然存在する。
それはつまり“人としての生活を捨てた生き方”とも言えるだろう。社会から別離した生活になるのだから、当然。
そういう意味で“両方の生活を経験した”琢磨であれば、その両方を視野に入れて考える事も出来る。
「感情の無い僕らと、感情を有する琢磨。
意見交換の対象としては最適だね」
「そりゃそうだ。
普通、魔法少女の真実を知ったら、お前らを信用なんて出来んだろ」
「わけがわからないよ」
真実を求めるくせに、いざ真実を知ると激昂する。本当に、感情とは厄介なモノだね。
「いつか、オレがお前の敵になる可能性だってあるんだぜ?」
「そうなのかい?」
「可能性は……ゼロではないっ!」
「深夜は静かにするのが常識なんじゃないのかい?」
「うん、正論なんだけど、お前に言われると気ぃ悪いわぁ」
「わけがわからないよ」
織莉子にも困ったものだけど、ほむらにも困ったものだ。
そして琢磨は、別の方向で困らせる。
僕らには感情が無い。それを知った上で、ネタと呼ばれる行為に及ぶのだ。
「まあ、オレ達の事はそぉい!しといて。
明確な問題は二つ。
“美国織莉子”と“暁美ほむら”だ」
「僕らとしては、織莉子の方を優先してもらいたいね。
魔法少女狩りなんて、非生産的行動は謹んで貰えると助かる」
魔法少女が魔女になる。その感情エネルギーを回収。宇宙延命の為のエネルギーに変換する。
僕らが地球にいるのは、その為だ。
魔女になる前に“処理”されては、無駄骨になってしまう。
「暁美先輩を説得して、ナマモノを狩らないように……無理か」
「諦めが速いね。
理由は?」
「想像と妄想と仮定と過程な戯言でもいいか?」
「いつもの事だね。
それでも、僕らには考え付かない事だったりするし、無駄にはならないよ」
織莉子の方を優先してほしいと言った、次の瞬間にほむらの事か。流石だよ琢磨。
「お前を狩るって事から、暁美先輩は
ただ、お前らがウゼェってだけなら、巴先輩への対応は違ったものになるだろう。
魔法少女自体を快く思っていないなら、魔法少女狩りをしていても不思議じゃないから、容疑者の一人だったんだけど、実際は違った。
故に“美国先輩との共闘関係”も、オレは違うと仮定する」
「根拠はあるのかい?」
「美国先輩が“魔法少女を増やす行動をとっている事”だ。
お前に敵意を向けるって事は“魔法少女が魔女になる事が容認出来ないから”に、他ならない。
オレ? 見ず知らずの魔法少女なんざ、知ったこっちゃないよ」
「最後の一言は聞いてないし、解ってるよ」
「ノリが悪いなぁ、ナマモノ。
知ってるけど。
それはともかく、さっきの理由から“暁美先輩と美国先輩が共闘してる”ってのは考えにくい。
“魔女になる為に魔法少女になる”このシステムに反発するなら“魔法少女を増やす行為”なんて、容認出来るはずが無いからだ」
なるほど。確かに織莉子とほむらが目的を共にしていると考えるには、反論材料が明確だ。
「加えて、暁美先輩と美国先輩が共闘していたなら、巴先輩を狙うのが暁美先輩である可能性のほうが高い。
明確に巴先輩を敵としているなら“協力する振りをして不意打ちした方が、成功率が高い”からだ」
「そういうものなのかい?」
「ここで、オレが唐突にお前を殺そうとしたとして、対応できるか?」
「なるほど」
僕は、琢磨が無駄に殺しをしない事を知っている。僕に敵対していない事も知っている。
そんな状態での不意打ちに、戦闘能力の無い“
「美国先輩側の動き。
“魔法少女を狩りながらも、社会的に注目されていない”のが現状。
そこを加味すれば“魔女結界の速度低下という、不確実な手段”よりも“限りなく近い所からの不意打ち”の方を選ぶだろう。
しかし、現実は違った。
現実を把握している現状は“共闘関係を否定する材料ばかりで、肯定する要素は無い”わけだ」
言いながら、琢磨の表情が変化していく。真剣な表情。それでいて、口の端を持ち上げる。
「なるほど、そうか。
意外な所から、切っ掛けが見つかったな」
どうやら、何かに気付いたようだ。
「魔法少女を増やす事。
魔法少女を狩る事。
その両方を満たす“条件”がある」
ここで織莉子の方なあたり、流石だよ琢磨。頭の回転を早める事で“情報の処理”の精度が上がっている影響か。
「どちらも“真の目的ではない”って事だ」
次回予告
思いつかない事 思いついた事
想定していた事 想定外の事
あぁ、この夜は
オモイノホカ、ナガイラシイ
百二十七章 デコイ